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国営昭和記念公園の「渓流広場」につくられるチューリップガーデン。一斉に開花するシーンはダイナミックで見応えがある。
国営昭和記念公園の人気スポットとなっているのが、チューリップガーデン。
デザインセンスが抜群として評判を呼んでいる植栽にはどんな工夫が込められているのか、またどのように管理しているのか、
チューリップガーデンの担当者に詳しく解説していただきました。
海外の庭園を彷彿とさせる華やかなチューリップガーデン
東京都の国営昭和記念公園(以下、昭和記念公園)は、昭和天皇御在位50年記念事業の一環として整備され、昭和58年(1983年)に開園しました。サクラやイチョウ並木の名所として知られるほか、早春から季節の花々が開花リレーし、いつ訪れても何かしらの花の景色を楽しめる緑豊かな公園です。
今回スポットを当てるのは、3月下旬~4月中旬に見頃を迎えるチューリップガーデン。約260品種25万球のチューリップ、約8万球のムスカリが植栽され、カラフルかつダイナミックなシーンを楽しむことができます。このエリアは、チューリップの植栽で知られるキューケンホフ公園(オランダ)の元園長であるヘンクN・T・コスター氏監修のもと、2004年にリニューアルされたものです。もともとチューリップガーデンは「こどもの森」にあった整形式花壇につくる予定でした。しかし、視察に訪れたコスター氏が水辺に樹木が映り込む渓流の景色を見て、とても気に入られたことから現在の「渓流広場」にもつくられることになりました。その後、何年か「こどもの森」と「渓流広場」の2カ所にチューリップを植栽していましたが、整形式花壇の「こどもの森」に比べ、水面に映る花が華やかな景色が昭和記念公園ならではのチューリップガーデンとなる「渓流広場」のみに力を注ぐことになりました。

目を引く鮮やかな赤を
ポイントにして視線を引き寄せる
「欧米人は赤い花を好み、日本人はパステルカラーの花を好むが、視認性が高いのは赤い花」というコスター氏の言葉から、2025年は赤をテーマカラーに展開し、アクセントの効いたデザインにした。特に水辺近くには草丈が高く大きな花を咲かせる品種を厳選している。


アペルドーン
ふっくらとした咲き姿で、つややかな花弁が魅力。

ダーウィオレンジ
朱色がかった大きな花を咲かせ、存在感がある。

ファーストスター
細長のスレンダーな花姿で、やや落ち着いたトーン。

水面に花が映り、
一層華やかに見える演出
渓流の水位を調整し、水際に植栽スペースを展開して水面に花が映るように見せている。遠目からも目立つように、水際にも赤いチューリップを多用。写真では、渓流を挟んで手前と奥の花壇がつながっているようにも見える。


早生と中生のコンビを
組み合わせて開花を長く楽しむ
チューリップは早いものでは1週間ほどで開花が終わってしまうが、開花期の異なる早生と中生を組み合わせれば、開花リレーをして長く楽しめる。花色を揃えたり、相性のよい2色を組み合わせたりと、場所によって演出を変えている。後に咲くものは草丈が高いものを選ぶのがポイント。

公園ならではの広さを生かしたダイナミックな植栽デザイン術
現在はコスター氏監修のデザインを生かしながら、昭和記念公園のオリジナルの景色づくりをしています。コスター氏がデザインした植栽図面をベースに、新しい品種や写真スポットを加えるなどしました。コスター氏によれば、赤は「花が咲いている」と特に認識されやすいため、デザインにおいて重要な色とのこと。そこで2025年は水辺の際や目につきやすい角などに赤いチューリップを配してアクセントにしました。おかげで「海外の庭のよう」と好評を得ました。
チューリップの植栽で特に注意すべきは、開花期を合わせることです。品種には早生、中生、晩生がありますが、晩生は品種が少ないため、主に早生・中生を選んでいます。早く咲くものと遅く咲くものを組み合わせて同じ場所に植え、長く開花を楽しめるように工夫しながら、早く咲くものは草丈が低いものを、後から咲くものは草丈が高いものを選び、咲きつなぐ時期も見映えがよくなるように植栽しています。
デザインの面では、複数のラインを形成して迫力を出したり、円と円の植栽エリアを流線の植栽エリアでつないで動きを出したりと、コーナーごとに見応えのあるシーンをつくりました。また、公園ならではの広い敷地を生かして、色の組み合わせによるインパクトを出すことにも配慮しています。

列植してカラーボーダーを作り、
迫力のある景色をつくり出す
鮮やかな赤×黄色のコンビを中央に配し、白とパステルピンクで挟んで、彩度の差によるコントラストをつけた植栽エリア。広い面積を使った演出は、公園ならではのダイナミズムを堪能できる。


流れるようなラインを作り、
動きをつける
半円形の植栽の間をつなぐようにして流線形のラインを作り、水が流れるような動きのある印象をもたせている。目立たせたい半円形には明るい色を選び、流動形には沈む色を入れて引き立たせた。


目を引く八重咲き品種を
揃えてアクセントに
花弁を多数重ねる八重咲きの品種はもこもことした姿が個性的で、「これもチューリップなの?」と人々が足を止
めるスポットに。八重咲きは弱いといわれることもあったが、近年は群植して美しい咲き姿を楽しめる品種が多数登場している。


ムンバイ
発色のよいピンク色。ふわりと花弁を重ねる姿が優美。

アイスクリームバナナ
黄色い花弁が出る姿は器に盛ったアイスクリームのよう。

チャーミングレディ
黄色からピンクに咲き進み華やか。

花色でコントラストをつけて
インパクトを与える
紫と黄色は補色の関係にあり、お互いを引き立て合って遠くからでもよく目立つ。その間をつなぐようにパステルピンクの花色を入れて調和させているのもポイント。

2025年は赤をテーマカラーにしたので、それぞれの区割りごとにまずは赤の配置を決めてから、合わせる色を選んでいきました。赤に白や黄色を組み合わせてメリハリをつけたり、ブルーや深い紫色など沈む色を配してさらに目立たせたりしています。色以外にも、八重咲きやフリンジ咲き、新品種を集めた植栽エリアなど、目新しさによってインパクトを与えるコーナーもつくりました。
もう一つ、注目してほしいのは背景の美しさです。じつはチューリップを引き立たせるために、冬芝を播種してグリーンによる余白をつくっています。渓流広場に点在するケヤキはちょうど新芽を出すころで、視線を上にも誘導して空までつなげます。花壇のみならず広い背景まで計算したシーンづくりも、デザインでこだわっている部分です。
今回、2004年のリニューアル当時に見映えのよかった品種もいくつか入れたのですが、思っていたより花が小さくイメージと違う結果になった品種もありました。業者の方から「古い品種は段々と弱ってくることもある」と教わり、目からウロコの思いです。また、年々開花時期が早まってきているとも感じており、品種の知識をアップデートしていくことが大切だと気づきました。今後も毎年咲き具合をチェックし、結果がよかったものを翌年のデザインに反映しつつ、散策しながら風景だけでなくデザインの妙やチューリップのよさを感じられるガーデンをつくっていきたいと考えています。

冬芝を背景に生やし、
花色をより際立たせる
ビロードのように密に生えた冬芝は背景として重要な役割を果たしている。茶色い地面がむき出しになっていたら、ここまでチューリップの花色は目立ってこない。点在するケヤキも縦方向の背景となり、視線を上へ導いて空間をより大きく見せる効果がある。


派手な色は手前や角に配して
アイキャッチに
赤やオレンジ色などの目立つ花色は、園路の手前や角などに配している。「花が咲いている」と瞬時に認識できる強い色は、より華やかに感じさせる効果がある。


比較的新しい品種を配してポイントに
人気の高いチューリップは毎年新しい園 芸品種が生まれ、進化を感じさせる植物の一つ。比較的新しい品種を取り入れれば、目新しさを感じさせるのに一役買ってくれる。

ピンクインプレッション
華やかなローズピンクで、整った大輪の花が咲く。

イエロープライド
黄色い花弁の縁へわずかにオレンジ色がのる。

レッドインプレッション
花色の発色がすばらしく、強い茎が大きな花を支える。
球根の植え付けは11~12月ごろ! チューリップガーデン制作の現場
チューリップガーデンは前年の5月にはデザインを決めて品種をセレクトし、球根を発注します。25万球にも及ぶので早く手配しないと確保できなくなってしまうため、スタートが早いのです。 球根の植え付けは、11~12月ごろに行います。膨大な数なので適期に植え終わるか気が急きますが、病気の発生を防ぐために球根を消毒する手間は惜しみません。1㎡当たり55球を目安に10~15㎝間隔で球根3個分くらいの深さに植え付けていきます。「球根植物は植え付けた後は放任しても咲く」というイメージをもたれがちですが、乾燥が続く場合は水やりをすることもあります。水が足りないと花が小さくなり、花茎が伸びずに地面付近で咲いてしまうため、1~3月の降水量は大切です。また、花後は適宜花がらを摘み、常にきれいに見えるよう手入れをします。

発注した球根がオランダから届いたら保管場所を確保し、仕分けに取り掛かる。

デザイン通りに、球根の向きを揃えて植え付けていく。25万球にも及ぶので、適期の期間内に終えるには時間との戦い!

冬芝を播種して、早春もみずみずしいグリーンを保つためのメンテナンスも大事な作業。

開花が終わったら抜き取り作業。この頃には来年のためのデザインが決まっている。
国営昭和記念公園
総面積180haにも及ぶ国営公園で、花や樹木が織りなす景色を楽しめるほか、スポーツ施設やドッグラン、バーベキューガーデンなどが整備され、さまざまなアクティビティーを楽しめる。
| ▪住所 | 東京都立川市緑町3173 |
|---|---|
| ▪アクセス | JR立川駅・西立川駅・東中神駅、多摩モノレール立川北駅よりそれぞれ徒歩5~10分圏内 |
| ▪HPアドレス | https://www.showakinen-koen.jp(花の見頃など情報満載) |
































