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タキイの栽培コンテンツ
原種シクラメンとは?育て方も解説
身近な植物を、自生地の環境も含めてご紹介。海外や国内で自生する様子とともに、家庭で栽培する際の管理方法もお伝えします。
久山敦
英国キュー王立植物園への1年の留学を経て、那須高原南ヶ丘牧場にてロックガーデン築造協力、淡路ファームパークの大温室やロックガーデンの設計管理などを行う。大阪市の植物園「咲くやこの花館」では高山植物室などの立ち上げからかかわり、2007年より同館館長。山野草を訪ねて51カ国を巡る。
原種の性質は丈夫
原種シクラメンは、地中海に近いヨーロッパ~イラン、アフリカ北部に20種以上が分布しています。シクラメンといえば、鉢植えでよく出回っているシクラメン・ペルシクム(以降は学名のシクラメンをC.で表記)の園芸品種や小型のガーデンシクラメンを想像される方が多いことでしょう。さまざまな品種があり、長期間花を咲かせますが、夏に塊茎(園芸的には広義で球根と呼ばれていますが、植物学的には地下茎)を腐らせたり、冬の寒さで傷めたりと、ポピュラーな鉢物にしては作りにくい印象をもつ方が多いのではないでしょうか。
しかし、原種シクラメンを栽培されると、そのイメージが払拭されます。アキザキシクラメンと呼ばれるC.ヘデリフォリウムや、関東以西の温暖地では冬に咲くC.コウムなどは、条件が合えばマイナス15℃に耐え、40℃の暑さでも平気なほど丈夫で、おすすめです。
原種シクラメン
- 学 名
- Cyclamen
- 分 類
- サクラソウ科
- 分 布
- 地中海に近いヨーロッパ~イラン、アフリカ北部
- 開花期
- 種類により異なる。多くの種類は秋~翌春
- 草 丈
- 10cm前後が多い
環境が合えば長寿に
トルコの山中では、C.コウムの群生が見られます。ギリシャのクレタ島では、固有種のC.クレティクムが石灰岩の隙間などに見られ、アテネ近郊の山では、C.グラエクムがイチゴノキの下などに、カンアオイと見間違うようなハート形の葉を広げて自生しています。
自生地では古い塊茎が地中の深さ20~30cmに見られ、中でもC.グラエクムは塊茎の太い根(牽引根)に特徴があり、時間をかけ塊茎を上下させ、乾燥や高温を避けられる適所に移動します。
種類にもよりますが、原種シクラメンは長寿であることも魅力の一つであり、100年超えの個体も英国で栽培されています。日本でも水はけよく栽培すると、長く生き続けます。C.ヘデリフォリウムやC.コウムは、ロックガーデンや樹木の下での群生もできます。また、ベランダなど乾燥ぎみの環境でも楽しめます。
この魅力いっぱいのシクラメン、実生も容易で発芽後、塊茎が徐々に大きくなるのを見ると、赤ちゃんが育つようでワクワクします。タネには脂肪酸、アミノ酸、糖からなる化学物質を含むエライオソームがついており、収穫アリが巣に運ぼうとします。私の庭から道路際へアリに連れ出され、発芽した個体もありました。また、栽培棚のタネが、下に敷かれた水はけのよい砂利に落下して育つのを、2カ所の植物園で経験しました。いずれも大事にしている鉢植えより立派に育ち、仕事仲間と思わず笑ってしまいました。
丈夫な種類以外も、少し気にかけて育てれば毎年のように花を咲かせることができ、多種を栽培すれば、季節ごとに違う種類の花を観賞できます。多くの自生地が晩春~夏は乾燥し、冬は雨が多い地域なので、同様な環境が適します。花とともに変化に富んだ葉も楽しめ、愛好家もおられます。原種シクラメンはワシントン条約で海外から苗やタネの導入が制限されており、日本では原種と葉の変異品種15種類余りが実生株で入手できます。
管理のポイント
原種シクラメンの管理は、長年品種改良が続けられてきた園芸品種とは異なります。過湿には特に気をつけましょう。
適する環境
冬~春は日当たりのよい場所または半日陰、夏~秋は半日陰の落葉樹下やベランダ、および類似した場所が適します。
植え付け方法(地植え、鉢植え)
鉢植えでの栽培が基本です。雨よけの下で育てるドライタイプ(D)、耐寒性がない種類、小型で地植えでは観賞しにくいものは鉢植えになります。鉢植えの用土は、日向土約5mm粒:硬質赤玉土約5mm粒=8:2の混合や、類似した水はけのよい用土を使います。
地植えが可能なウエットタイプ(W)は、もとの土を10~15cm程度掘り取り、前記の用土と入れ替えます。水はけが悪い場所では、前記の用土を盛り土にします。鹿沼土など、崩れやすい用土は避けましょう。塊茎の縁から根を出す種類もあり、塊茎は露出させないで1cmほど覆土します。
水やり
葉のある間は、表土が乾いたらたっぷりと水を与えます。葉のない休眠期にはドライタイプは乾燥ぎみに、用土が乾いたら少量の水を与えます。ウエットタイプは休眠期でも用土が乾いたら、たっぷり水を与えます。
病害虫防除
ハダニがつく場合は葉裏に水をスプレーするか、殺ダニ剤を使用します。軟腐病を予防するため、過湿にしないよう気をつけましょう。
植え替え
水やりの時に水がはけにくい場合は、休眠期に植え替えをします。新しい用土と入れ替えるか、水やりを控えて乾燥ぎみにした元の用土を、2mmくらいのふるいで微塵を取り除いて再利用するとよいでしょう。鉢は小さめの方が、花つきがよくなる傾向があります。種類によっては開花前に植え替えると葉、茎の姿が乱れてしまうので休眠期に行います。
施肥
休眠期の植え替え時に、元肥としてチッソーリン酸ーカリ=6-40-6などの緩効性化成肥料を施します。多肥にしない方が長生きする傾向があります。