シャリッとした歯応えの果実を頬張れば、甘くてジューシーな味わいが口いっぱいに広がるニホンナシ。家庭栽培では管理が難しいとされていますが、手塩にかけて育てた暁に収穫できた時の喜びは格別です。ぜひニホンナシの栽培にチャレンジしてみましょう。
独特な食感とジューシーさが人気
人工授粉と摘果が成功の秘訣
シャリシャリとした食感とみずみずしさが人気のニホンナシ。国内でもトップ5に入るほどたくさん生産されている果樹ですが、病害虫の発生が比較的多く、受粉樹が必要で、棚栽培が基本のため、手軽に栽培できるとはいえず、家庭での栽培はあまり普及していないようです。しかし、鉢に植えて育てれば、棚が不要で家庭でも気軽にスタートでき、病害虫にも対応しやすくなります。完熟果を収穫する感動を味わいたい方はぜひともチャレンジしてみてください。
実つきをよくするポイントは三つ。まずは受粉樹を用意することが重要です。相性にも注意して苗木を選びましょう。二つ目のポイントは人工授粉で、異なる品種の花を摘んで授粉するのがおすすめ。三つ目は摘果です。5〜6月ごろに小さな果実を間引き、高品質な果実を収穫しましょう。
日常の管理
置き場所
春〜秋はなるべく直射日光が当たる場所に置いて、しっかりと光合成させた方が実つきや果実品質が向上します。加えて、黒星病や赤星病などの病気が多発する場合は、雨が株に直接当たらないような軒下などに置くことが重要です。特に梅雨の時期は、多少日当たりが悪くなっても雨の当たらない場所に移動させるとよいでしょう。
冬はマイナス20℃程度の低温に耐えるので、寒冷地以外では屋外で越冬させます。
水やり
庭植えでは基本的に水やりは不要ですが、7〜8月に2週間ほど降雨がなければ、樹の様子を見ながら水をたっぷりと与えましょう。
鉢植えでは、春と秋は2〜3日に1回、夏は毎日、冬は1週間に1回を目安とします。
水やりは株元の土に与えるのが基本です。枝葉や果実に水がかかると病気を助長する可能性があるからです。一方、すぐに乾く晴天時であれば枝葉などに水をかけてもかまいません。汚れや害虫などを洗い流したり、葉の温度を下げたりするのに効果的です。
肥料
肥料は、2月(油かすなど)、5月(化成肥料など)、9月(化成肥料など)の年間3回に分けて与えるのが一般的です。与える量は樹の大きさや肥料の種類によって異なります。
植え付け(11月~翌年3月)
1本の枝が棒状に伸びた苗木を購入した場合は、枝先を接ぎ木部から25〜50㎝の長さで切り詰めると充実した枝が発生します。棚栽培する場合は棚を設置します。


受粉樹の相性に注意
ニホンナシは自身の花粉では実つきが悪い性質(自家不和合性)が強い品種が大半です。そのため、実つきをよくするには受粉樹が必要で、異なる2品種以上の苗木を入手して近くに植えるのが基本です。ただし、異なる品種であればどんな品種でもよいわけではなく、2品種の相性が重要です。例えば、左表でいうと‘幸水’と‘王秋’、‘幸水’と‘なるみ’、‘王秋’と‘なるみ’、‘あきづき’と‘秋麗’の相性は悪く、これらを植えても実つきが改善する効果はありません。加えて、開花期が大きく異なる品種の組み合わせも避ける必要があります。


年間の管理・作業
人工授粉(4月)
ニホンナシは基本的には苗木1本では実つきが悪く、受粉樹としてほかの品種を植える必要があります。
自然界ではミツバチなどが異なる品種間で訪花して受粉を促し、結実するので人工授粉は必須ではありません。しかし毎年のように実つきが悪い場合は、これらの昆虫がうまく働いていないかもしれないので、人工授粉をしましょう。
家庭で人工授粉をする場合は、片方の品種の花を摘んで、もう片方の品種の雌しべにこすりつけると効果的です。片方の品種の授粉が終わったら、花粉を授ける品種と授けられる品種を交代して、再度授粉します。


摘果(5〜6月)
受粉がうまくいった果実は、着果・肥大してたくさんの果実がつきます。すべて残すと果実のサイズや品質が悪くなるので、5〜6月ごろに果実を間引く摘果を行います。
摘果は2段階で行います。1カ所(1果そう)に複数の果実がつくので、まずは1果そう1果に間引く予備摘果を行います。予備摘果では傷がなくて形が均一な果実を優先的に残します。5月のなるべく早い時期に終わらせます。
次に仕上げ摘果を行います。仕上げ摘果では、3果そうにつき1果になるように、さらに間引きます。葉25枚当たり1果というのも目安となります。6月末ごろまでに完了させるのが理想的です。


袋掛け(6〜7月)
摘果が終わった果実には、市販の果実袋をかぶせて病害虫などから守ります。

収穫(7〜11月)
収穫期が近くなったら、果実袋を一時的に外して果実の色を確認します。赤ナシは果実全体が赤みを帯びた色になれば、青ナシは果皮の緑色が半分以上抜けて黄色っぽくなったら収穫適期です。果実を上に持ち上げると収穫できます。

果実に残った果こうは、ハサミで切り取る。
気をつけたい病害虫

シンクイムシ類

カメムシ類

赤星病

黒星病
3ステップで覚える
ニホンナシの剪定
12月〜翌年2月が剪定の適期です。ニホンナシは棚を設置し、発生した枝を横向きに寝かせて育てるのが一般的です。1年でも剪定しないと手がつけられない樹形になってしまうので注意しましょう。また、短果枝と呼ばれる短い枝に果実がつきやすいので、短果枝が多く発生するような剪定を心掛けます。
長い枝を横向きに誘引する
垂直に伸びる枝には果実がつきにくいので、ひもなどを使って横向きになるように誘引します。鉢植えでは鉢の縁に巻いたひもと枝に引っ掛けたひもを用いて誘引します(Q&Aを参照)。庭植えは棚のほか、地面に設置した杭や太い枝に引っ掛けたひもを用います。横向きになった枝には短果枝がたくさんついて、収穫量が増加します。


不要な枝を間引く
次に不要な枝を切り取ります。不要な枝とは、横向きに誘引できない長い枝、同じ場所で何本も枝分かれしている枝、交差している枝、枯れ枝などです。切る際には不要な枝を切り残すことなく、付け根で切り取ることを心掛けます。ステップ2で全体の5割程度の枝を切り取るのが目安です。

残った枝の先端を切り詰める
最後にステップ1〜2で残った枝のうち、20㎝以上の長い枝だけを選んで、先端を5分の1程度切り詰めます。枝を切り詰めることで適度な長さの枝が複数発生して、樹を若返らせることができます。


短い枝を確保する
長い枝のうち、横向きになったものからは、その翌年に多くの短い枝(短果枝)が発生して果実がつきやすくなります。剪定時に長い枝を写真のように横向きに誘引する(ステップ1)ことで、短果枝を確保できます。

Q棚を設置しないで育てる方法はありますか?
Aひもなどを使って枝を横向きにすれば可能です。
ニホンナシの枝を棚に固定するのは、風などによる落果を防ぐ目的があります。ほかにも重要なのが、剪定時に枝を水平方向に寝かせることで短果枝と呼ばれる短い枝を発生させ、実つきをよくするという目的です。つまり、棚栽培しないと収穫前の果実が落果したり、実つきが悪くなったりする恐れがあるのです。そのため、棚を設置しないでニホンナシを栽培する場合には、ひもなどを使って長い枝を横向きに固定し、落果防止や実つきの向上を目指すとよいでしょう。鉢植えでは鉢の縁にひもを巻き、庭植えでは地面に設置した杭や周囲の太い枝にひもを引っ掛けて、枝が水平になるまで下方向に引っ張って誘引します。

ニホンナシの販売