ブドウ栽培には広いスペースが必要だろうとイメージされがちですが、家庭用のパーゴラに仕立てても十分に収穫を楽しめますし、鉢栽培も可能です。今回は1房が充実していて、おいしいブドウを収穫するための栽培テクニックを詳しく解説していきます。
棚やオベリスクに仕立てて
コンパクトに楽しむ!
ブドウは広大な畑の大きな棚で育てるイメージが強いですが、家庭では2~4畳程度の棚を設置してコンパクトに育てることも可能です。庭や畑がない場合でも、鉢に植えてオベリスクなどに仕立てれば、ベランダなどでも育てることができます。
育て方に注目すると、整房や摘粒、ジベレリン処理などブドウ独自の作業が多数あり、トップクラスに手間がかかる果樹といえます。しかし、手間をかければかけるほど応えてくれ、市販のブドウよりもおいしくて美しい状態で収穫することも可能です。また、手間をかけなくてもそれなりに育つので、管理作業を段階的に覚えて高品質な果実の収穫を目指すとよいでしょう。失敗しやすいのが、黒とう病などの病気です。枝の伸びが旺盛で、樹がジャングル状態になることも多いので、剪定も重要です。

日常の管理
置き場所
ブドウの生育を脅かす黒とう病やべと病などの病気は、枝葉や果実に雨が当たらなければほとんど発生しません。雨を防ぐことで果粒の裂果も大幅に減少します。そのため、春から秋の鉢植えはなるべく雨が当たらない軒下に置くことがポイントです。日当たりも重要なので、軒下でかつ、直射日光がなるべく長い時間当たる場所が最適です。軒下と日当たりが両立できない場合は、梅雨の間だけでも多少日当たりが悪くても軒下に移動させるとよいでしょう。
冬はマイナス15℃程度の低温まで耐えるので、屋外で冬越しさせます。
水やり
庭植えでの水やりは、基本的には不要です。ただし、根が過度に乾燥した状態で雨が降ると、果粒が急激に吸水して割れることもあるので、猛暑の7~8月に2週間ほど降雨がなければ水やりした方が無難です。
鉢植えの場合は、表土が乾いたらたっぷり水やりします。春と秋は2~3日に1回、夏は毎日、冬は1週間に1回が目安です。収穫前に水分ストレスをかけると甘い果実が収穫できますが、家庭では過度な乾燥で枯れる場合も多いので注意しましょう。果粒に水がかかると皮から吸水して裂果する恐れもあるので、株元の鉢土に向かって水やりします。
肥料
2月(油かすなど)、6月(化成肥料など)、9月(化成肥料など)の年間3回に分けて施すとよいでしょう。9月の肥料は、結実で弱った樹体を回復させるために施しますが、時期が遅れると十分な効果が期待できないので注意します。
植え付け(11月~翌年3月)
植え付けの適期は11月~翌年3月です。夏に根が傷つくと株が弱る恐れもあるので、夏に苗木を購入した場合は、植え付け適期の11月以降まで購入した鉢のままで育てるか、根が傷つかないように慎重に作業しましょう。
ブドウの枝はつる状に伸びるので、棚やオベリスクなどの支柱を設置する必要があります。
庭植え
植え付け前にまずは棚やフェンスなどの支柱を設置します。フェンスに仕立てると地際付近の枝を維持するのが難しいので、初心者には難しいでしょう。おすすめは下(右)のイラストのように格子状の棚(パーゴラ)を用い、苗木を支柱沿いに植え付ける方法です。棚の下が広く活用でき、机や椅子を置いて憩いの場や駐車場にすることも可能です。
次に植え穴を掘ります。ブドウの根は浅く広範囲に広がる傾向にあるので、最低でも直径70㎝、深さ50㎝程度の植え穴は確保しましょう。掘り上げた土には16~18ℓの腐葉土を混ぜ込んで、ふかふかにします。
鉢植え
8~10号(直径24~30㎝)程度の鉢を用意して苗木を植え付けます。用土は果樹用の培養土が入手できれば用います。設置する支柱はバラやクレマチスなどで利用されるオベリスクがおすすめです。苗木が1本の棒状の場合は、地際から30㎝程度で切り詰めてらせん状に誘引することで、株元付近からも新梢を発生させることができます。
年間の管理・作業
誘引(4月下旬~8月)
4月以降に伸びた新しい枝(新梢)を固定する誘引は重要です。4月以降に新梢が四方に伸びると外観や日当たり、風通しが悪くなるので、棚にバランスよく配置して誘引しましょう。巻きづるが巻き付いている場合は切り取ります。

整房(4月下旬~5月)
整房とは開花前の蕾の状態の房を切り詰めることです。収穫時の房の形を整える効果があるほか、実つきも改善します。‘シャインマスカット’や‘クイーンニーナ’などの大粒品種では、写真のように4㎝程度まで切り詰めます。‘デラウェア’や‘甲州’などの小(中)粒品種では岐肩だけを切り取ります。

ジベレリン処理(5~ 6月)
開花期前後の房に、市販のジベレリン(STジベラ錠5など)を処理するとタネなしになるほか、実つきが格段によくなります。処理時期や処理濃度は品種によって異なり、例えば‘シャインマスカット’や‘クイーンニーナ’では、25ppmに希釈した処理液に満開時~満開3日後と満開10~15日後の2回、房をつけます。

摘粒(6月)
摘粒とは肥大前の果粒を間引くことです。大きくて甘い果粒になり、果粒が込み合って潰れるのを防ぐことができます。‘シャインマスカット’などのような大粒品種では、1房当たり30~35粒程度まで間引きます。‘デラウェア’のような小粒品種では基本的には不要です。

摘房・袋掛け(6月)
房をたくさん実らせすぎると、収穫時のサイズや食味に悪影響を及ぼすことがあります。‘シャインマスカット’や、‘クイーンニーナ’などの大粒品種では1新梢当たり1房、‘デラウェア’や‘甲州’のような小(中)粒品種では2房を目安に房を間引きます。

摘房後の房には、市販の果実袋をかぶせると病害虫などから房を守れます。

収穫(8月~10月上旬)
果実袋の中の房の様子を確認し、全体が色づいたものから順次、収穫します。温暖化の影響で皮が黒色や赤色の品種は色づきが悪いことが多いので、外観だけでなく試食して味を確かめるとよいでしょう。
気をつけたい病害虫

黒とう病

べと病

コガネムシ類

アザミウマ類
(スリップス)
3ステップで覚える
ブドウの剪定
庭植え
ステップ3では枝の延長線上に伸びるように仕立てると、樹液が効率的に流れる。
鉢植え
らせん状に誘引していた剪定前の枝。
3本の枝を残して5~9芽で切り戻し、仕立て直した。
付け根の枝を残して切り取る
毎年のように樹が拡大するので、付け根にある長い枝を1~4本程度残して、その先はバッサリと切り取ります。棚では1㎡当たり2本程度の枝を残すのが目安で、下のイラストのように3.2 ㎡の棚なら6~7本の枝を残します。オベリスク仕立てなら下の
イラストのように株元に近くて長い枝を2~4本残します。枝が少なくなってスカスカになり心配になりますが、翌春には1本の枝から2~6本程度の新梢が発生するので大丈夫です。
枝先を5~9芽で切り詰める
ステップ1で残した枝の先端はすべて5~9芽残して切り詰めます。5~9芽の範囲で細い枝は短く、太い枝は長く残すのがポイントです。枝を切り詰めることで充実した新梢が発生しやすくなるほか、付け根付近からも新梢が発生して樹をコンパクトに維持しやすくなります。
残した枝を誘引する
ステップ1~2で残した枝をひもなどを使って棚などの支柱に誘引します。前年の誘引で使用したひもが残っている場合はすべて切り取り、新しく誘引し直します。棚では樹液が効率的に流れるように、枝は延長線上に真っすぐ伸びるように方向を修正してから固定するとよいでしょう。
Q実つきが悪くてスカスカの房になります。
A整房やジベレリン処理などをしましょう。
実つきが悪い原因はさまざまですが、ジベレリン処理をすると改善することが多いです。ジベレリンは植物ホルモンの一種でタネをなくすほかにも、実つきをよくする効果があるので、ぜひとも開花期の前後に処理してみましょう。整房をすることでも実つきが多少改善します。ほかにも、5月上旬に房の先に葉を5枚残して切り詰める摘芯を行うと効果的です。
実つきが悪く、スカスカの房。
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