もぎたて果樹園 モモ
赤ちゃんのほっぺのように、ふっくらと丸く愛らしい、モモ。 皮ごと食すことで摂れる栄養もアップ。 やわらかく、こぼれるほどにジューシーな甘い完熟果を目指して、ご家庭で育ててみませんか? 今回はおいしい果実を収穫するための、こだわりの栽培方法をご紹介します。
体にうれしい栄養成分もたっぷり・モモ
性質を活かした樹形作りで成功を目指す
ほとんどの果樹は、地面に対して直角に近い角度で上に伸びる枝の方が、平行に近い角度や下垂した枝よりも発芽の時期が早く、生育する新梢も強い伸びを示す「頂芽優勢性」を持つといわれます。
この性質はしかも、同じ直角に近い角度で発生する枝の中でも、樹体の最長(最高)部の枝の方が、それより低い部位よりも発芽の時期が早いのです。
そうすると主幹形の樹形を目指しがちですが、モモは他の果樹に比べると、頂芽優勢性に比較的左右されない性質を示します。
また、鉢植えの場合、露地植えよりも樹勢は劣るので、モモの場合に主幹形のように1本でまっすぐ伸ばそうとした場合、樹勢がさらに劣り、枝葉の伸びが著しく悪くなる傾向があります。
そのため特にモモの鉢栽培においては、主幹形にこだわらず、苗木を植え付ける時にしっかりと切り戻しましょう。 発生する枝は、比較的均一な伸びをしながら、順調に生育します。
たいていの果樹栽培をご紹介する時、鉢植え、露地植えのどちらの場合でも、いつも最初の2~3年は主幹形を目指して樹作りしましょうと言っていますが、モモに限ってはそうではなく、3本主枝の開心型の樹作りをおすすめします(恥ずかしながら、実はわたくしもこのことになかなか気がつかず、丸々2年間ほどは失敗の連続でした)。
植え付け
鉢は直径30cm以上のものを用いれば、少なくとも3年間は植え替えの心配は無用です。
用土は粘土質のものを用いると、果実は太りますが甘みの少ないものしかできません。
栽培によいとされる黒ぼこ(※)や火山灰土などにも、植え付けには川砂や鹿沼土を3割以上混ぜ、それに完熟堆肥を同じく3割ほど混ぜたものに植え付けると、おいしい果実を収穫することができます。
植え付け時に切り戻し、1年目にしっかりと枝を伸ばしてやると、2年目には1枝に1個くらいであれば果実をつけることも可能です。 そのため苗木は年内に入手し、植え付けは12月中旬までには終えるようにします。
肥料は、鶏ふんはできるだけ使わず、油かすと骨粉を混ぜた玉肥を用います。 植え付け1年目は20g程度、2年目以降は30g、50gと増やすようにします。 施肥の時期は、1月下旬と収穫後の2回に分けます。
化成肥料も施用不可能ではありませんが、玉肥の方が味に深みがあり、甘さも強く感じられますので、ぜひ、ここでは玉肥を用いて栽培してみましょう。
(※)黒ぼこ:黒ぼく。腐植に富み、軽く粘りの少ない黒色の土壌。
おいしく作るための栽培ポイント
①やってはならない剪定
モモの樹の剪定が必要になるのは植え付け1年目の落葉期ですが、この時最も気をつけなければならないのが、摘芯(切り戻し)する位置です。
モモの枝は、新梢に多くの側枝を発生させながら伸びます。 したがって、先端を軽く摘芯するのであれば、発生した側枝を数本残すことになり、その後の生育に支障をきたすことはありません。
しかし、深く切り戻してしまうと側枝がまったく残らず、1本の主枝(元枝)だけになった場合には、その枝は春になっても生長せずに枯れてしまうか、枯れなくてもまったく伸びません。
モモの摘芯は、枝の先端部分を軽く切り戻し、翌年発生する新梢の枝数を増やして、コンパクトに仕立てることに重点を置いた剪定を心掛けます。
②必須!開花前の摘蕾、開花時の摘花、幼果の摘果
モモは苗木の段階で多くの花を咲かせます。 理論上でいえば、花が咲けば実をつける可能性はあるのですが、もったいないからといってそれらの花をすべて結実させることは不可能です。
モモ1個の果実をちゃんと収穫できるまで育てるには、最低でも1果に対し葉数30枚が必要となります(露地の場合は20枚でもよい)。
小さな蕾の段階で摘蕾するという作業が面倒であれば、花が咲き3週間ほど経った時に、枝の下か横の部分に結実している形のよいものを残し、葉数を数えながら摘果するのでもかまいません。
しかし、できれば花の咲いた時、慣れてくれば花が咲く前の蕾の段階で間引くことで、より大きくおいしい果実を収穫することができます。
しかも、葉の数との比率(葉果比という)を守ることで、樹に負担なく、毎年充実した花を咲かせ、おいしい果実を収穫することができるのです。
③減農薬にするための袋かけ
モモは、アブラムシは無論のこと、シンクイ虫、モモハモグリガ、コスカシバやハダニなどのような害虫と、縮葉病、炭そ病、灰星病や線香細菌病といった病気も含め、多くの敵と戦わなければなりません。 防除を主体とした殺菌剤の散布は必須ですが、樹体はともかく、生食するための果実にはできれば農薬はかけたくないものです。 そこで、夏の日焼け防止の目的も兼ねて、摘果を終えたら、面倒でも1個1個の果実に袋かけをすることをおすすめします。
④待望の収穫
袋かけをしてから約2カ月で袋を外し、紅色が濃くなり香り高くなれば、ようやく収穫です。 細かな作業や面倒なことが多いように思えますが、おいしい完熟果実を収穫するために、ぜひチャレンジしてみてください。
大森直樹
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。
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