もぎたて果樹園
見るだけでなく、食べておいしい果物作りを家庭で行う。しかも庭や畑がなくて露地栽培ができなくても、ベランダや庭先でできる鉢植え果樹の、植え付けから収穫までの方法を紹介していきます。さあ、ご一緒においしい完熟果物の収穫を目指しましょう!
鉢植え果樹栽培のすすめ 自宅で果樹を作ろう!
近年、家庭で野菜を作ることが、ずいぶんとポピュラーになりました。
昨年のような異常気象の年では、野菜は品不足、品質不良となり、市場では価格が高騰し、一般消費者には大変な影響です。そんな時に、庭やベランダで栽培した野菜が食料になれば、これは健康、栽培の楽しみのみならず、経済的にも非常に助かります。今後も家庭菜園の需要はますます増えることでしょう。
一方、果樹は…。野菜ではほとんどのものが1年以内に収穫されます。しかし「桃栗三年…」のことわざにもあるように、植えたその年に食べられるような果樹はありません。1年生の苗木から栽培を始めると、2年間の樹作りの期間を経て、3年目にやっと収穫できるようになります。ですが、果樹には必要な時間であり、おいしい実を育てるために必要な樹体を育て、また果実をならす充実した花を咲かせるための準備をしているのです。
果樹は年々生長し樹が大きくなるので、収穫できる果実の量も増えますが、その、分栽培には広いスペースを要します。そのほか、受粉のために他品種との混植が必要なことや、病虫害管理、摘果など結実量の調整などといった野菜にはない手間もかかります。こうして挙げると、少しハードルが高いように思えますが、これらの要素も1つずつ解決できるものです。
鉢植え果樹栽培のポイント
鉢植えでは、どのようにすれば食べておいしい果実ができるのか。そのための最大の要素は、いかによい根を育てるかです。果実が結実したら、養水分を蓄積させて太らせ、糖度を上げるために必要なのは「根と葉の量」なのです。
植え付けのポイント
根といってもさまざまで、ただ単に太い短いだけでなく、特に根の伸びる方向によって働きは区別されます。
鉢栽培で最も重要なのは、③の斜め下に伸びる根をいかに多く確保するかということ。これが十分に確保できれば、樹も育ち充実した花が咲き、果実も大きく育つのです。また、地上部に向かって上向きに伸びる④が「たこ根」と呼ばれますが、これは植え付けや植え替え時に、できるだけ基部から切除します。
鉢植えで必要な根の条件
果樹に限らず、鉢栽培する場合、一定時期が来ると植え替えや鉢増しをして生長を続けさせる必要があります。野菜や一年生草花では不要ですが、10年以上生長する果樹では必ず行いましょう。
しかし、根がいっぱいになったから植え替えしようと思っても、実は鉢底で渦を巻いて繁茂しているだけで、健全に根は広がっておらず、少し振ると土が落ちて根だけになるようなものが多いのです。
第2図は、鉢植えでよく見られる、よくない根の伸び方です。
①スリット鉢で健全に育てる
第2図のようになる原因は2つあり、1つは植え付けする鉢の大きさと形状です。そこで、植え付け時の鉢としておすすめなのが、スリット鉢といわれる縦長の切れ目の入ったもの。この鉢の底部分には、5mm程度の高さの羽が上向きについています。斜めに伸びた根は鉢端に届き、スリットから入る空気に触れることを嫌うためにまっすぐ下に伸びますが、底部に到達した根は羽に生長を止められます。自然条件で自ら生長を止めた根は、そこから先にはあまり伸びません。その性質を利用して、第3図のように、植え替え適期の健全苗を作ります。
②植え付け時の根の処理
2つ目は植え付け時の根の処理方法と植え付け時の苗木の深さです。入手した苗木の根量にあった大きさの鉢を選び、横に伸びている根は横に、まっすぐ伸びているものはまっすぐ、斜めに伸びているものは斜めに植え付けます。
鉢内の根作りがうまくできれば、地上部の生育も順調に進み、植え付け2年目で枝作りと同時に花芽分化が始まり、3年目の春にはおいしい果実を収穫するための立派な花を咲かせることができます。
植え付け後の管理
①水やりはしっかりと
鉢植えで最も大切なのが水やりです。春を迎えた生育期、雨が降ったとしても、少量であれば葉や枝に覆われて鉢の中にまで水が入っていないことがあるので、しっかり水やりする必要があります。
果樹は水切れしてもすぐには影響が現れにくく、種類によっては数週間も後に初めて気づくこともあります。鉢栽培では、植物を観察することも大事ですが、水やりのように欠かせない作業は、しっかり日常性をもって行うことが大切です。
●夏場の水やりは午前9時ごろまでに終えるようにします。どうしても日中に行う必要がある場合は、鉢底から水が勢いよく流れ出るくらいたっぷりの量をやれば、すぐに地温が上がることはないので大丈夫でしょう。夕方は落日後に補助的に行うようにします。
●冬は、1週間から10日に1度程度で十分ですが、置き場所によって乾燥が激しい場合などは少し多めに行います。
②肥料切れに注意
肥料切れも生育が極端に鈍化します。鉢栽培では少し多めにやっても、水を頻繁にやるため流亡するので、春と秋にしっかり玉肥を施用します。それでも足りない場合は、化成肥料を少量ずつ定期的に施しましょう。また、熱帯果樹やカンキツなどの常緑樹では、落葉樹の1・5倍くらいの量を施すようにします。
③病虫害対策も重要!
無農薬栽培は、永年樹の果樹においては不可能であると思うべきです。一度病虫害で受けた被害は、翌年の生育にも影響し、ひどい場合は樹自体が枯死することもあります。しかし、できるだけ控えたいとは思うものなので、省農薬に努めます。そのためにも、日々の管理で健全な生育を目指し、ストレスをできるだけ与えないことが大事です
大森直樹
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。