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柿(カキ)の植え付け〜収穫までをプロセス別に解説!

柿(カキ)の植え付け〜収穫までをプロセス別に解説!柿(カキ)の植え付け〜収穫までをプロセス別に解説!

秋の味覚といえるカキは、日本で特に親しまれている果物。前編では、カキの魅力や品種についてご紹介します。近年は、加工してより深みのある味わいが楽しめる、渋ガキが人気です。

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古くから日本人に愛されてきたカキの品種は160以上にも上る

古くから日本人に愛されてきたカキの品種は160以上にも上るカキには実に多くの品種があります。その理由は日本人に古くから愛され、1000年以上前から脈々と育てられてきた果樹だからでしょうか。今回は、そんな古い歴史のあるカキの品種について詳しく紹介したいと思います。

カキのおいしさの理由

「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」 
大和、現在の奈良県の名産「御所」の皮を剥いている様子が、正岡子規によってうまく描写されています。鐘の音とカキの味はどちらもしみじみとしていて、興趣が深いものです。「御所」には酸味はなく、いってみればただ甘いだけですが、それでも何ともいえぬ複雑なうまさが潜んでいるような味わいがします。甘さの中にもどこか残る渋み、それが知らず知らずの間に感じられているからで、真のカキの味わいは渋さにあるといえるのではないかと思います。
このカキの渋みですが、いろいろな方法で渋みを抜いて甘いカキとしておいしく食べられていますが、学問的にいうと渋みが抜けたのではなく、渋みが固まって唾液では溶けなくなったために、渋さを感じなくなったまでのことです。渋みは舌の上を素通りして、そのまま胃に納まっているのです。しかし、渋みは100%感じられなくなったわけではなく、いくらか感じられるからこそ「御所」のような濃厚な味覚が湧き出てくるのだと思います。

渋みの正体と渋抜きの方法

カキの実を切ると、中に黒いゴマのような斑点が混じっているのをよく見ます。これが渋みの正体、タンニン細胞が硬化して黒くなったもので、唾液では溶けないように変化した最終形です。タンニンがゴマ状となり舌がゴマかされて渋みを感じなくなったものなのです(笑うところですよ!)。 
カキの渋みを抜くことを醂すといいますが、これにはいろいろな方法があります。最もおいしいとされるのは、日本酒の空樽にカキを詰めて酒を吹きかけ、ふたをして密閉した後に、数日置く方法です。酒の風味がカキに染み込んで、えもいわれぬ味になり、世界一のカキを味わえること間違いなしです。特にふたの開けたては、酒好きでなくてもたまらないことでしょう。

渋ガキを利用した干し柿づくりは、晩秋の風物詩。

渋ガキを利用した干し柿づくりは、晩秋の風物詩。

私が暮らす岡山では、最も晩生の渋ガキ品種として古くから知られる、「愛宕」があります。昔は木箱に新聞紙を幾重にも敷いて、焼酎を吹き込んでふたをする方法をとっていました。一方で、近年は少し大きめのビニール袋を段ボール箱の内側に入れ込み、その中にカキをていねいに2〜3段程度敷き詰めて、その上から焼酎を吹きかける方法がとられています。このほか、ドライアイスを焼酎の代わりに使う方法があります。ただし「西条」のような早生品種には有効ですが、晩生品種では舌を刺すような刺激が残るので、あまりおすすめしません。時間はかかるものの、焼酎の方がまろやかで深い味わいを楽しむことができ、しかもカキの日もちが大変よくなります。地方によっては風呂からあがった後の残り湯にカキを放り込んで、一晩おいて渋みを抜く方法をとっている所もあります。しかしなにぶんにも残り湯であるため、きれい好きには抵抗があるかもしれません。

カキの色と日本人

カキの果皮の色もまた、日本人の心にはたまらなく響く色調でしょう。というよりは、カキの色を1000年もの昔から眺め続けてきたことで、逆に日本人の趣向を育てたのではないかと、私は思っています。派手ながらも落ち着きのある色は大変得難く、特に秋空の下で熟したカキの輝く美しさは、名工・柿右衛門ならずとも、日本人であるなら誰もが郷愁を誘われることでしょう。
昔から「渋好み」とか「渋いね」をほめ言葉として用いるのも、日本人がカキを好きだからではないでしょうか。

日本中どころか世界中カキだらけ

国花は菊ですが、さしずめ国果はカキでは?といえるほど、北海道を除き、どこを訪ねてもカキの実らない所はありません。カキのタネから芽が出て、育った木からタネがとれ、それがまた芽生えて、それからそれへと集落伝いに広まって分布してきたのでしょう。その品種の多いことには驚かされます。私の持つ資料だけでも、渋ガキ80数種、甘ガキ80数種などと全部で200種に近いだけの品種が存在しています。果樹の実生は、それが芽生えても、親と同じ形質をもった果実がつかない、形も色も、味もすべて親とは変わったものができるという性質から、村から村へ移る間に新しい品種を生み出していったからだと想像できます。この中で、優れたものは栽培が続けられ、品質の劣るものは栽培が継続されずに淘汰されていくといった繰り返しの中で、残った品種が200種とは、すごいものです。
また、最近では日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカ大陸、オセアニアと世界中で栽培が行われています。海外ではほとんどが渋ガキですが、ニュージーランドやオーストラリアでは甘ガキが主に栽培されています。20年前にはカキは海外ではまだ珍しく、パーシモン(Persimmon)という英名で呼ばれていましたが、今では世界中どこでもKaki(カキ)で通用するようになりました。

カキを愛でる楽しみとその他の利用法

カキの紅葉は、これもまた趣があって黄葉〜薄いオレンジのほか、最近育種された「朱雀錦」「紅葉隠」といった品種は真紅の葉を楽しむことができます。 
また”柿の葉寿司”に代表されるように、カキのもつ抗菌作用と観賞価値を利用したものもあります。加えて、近年のご当地ワインブームに乗って”カキのワイン”もあるようです。

昔からの品種

「御所」

「御所」

甘ガキの宗家といわれる品種。地方にも「◯◯御所」なるものがあるが、すべてこのカキの血を受け継いだもの。「富有」が出るまでは、これが主流だった。しかし、味覚においては昔よりも味が濃くなり、今でも「富有」に負けず劣らずの品種。肉質に粘りがあり、かじると歯の跡が残るように見え、濃厚な味わいを楽しめる。ただ、外見的に平べったく山形で頭がわずかに低く、上から見ると四角張っているものや、片側に膨れ出すだらしのない形のものが出るのが残念。果皮の色も薄くてつやも輝きもないので美しいとはいいづらい。そのため市場にはほとんど出回らず、奈良県あたりでしか販売されない。入手が難しくておいしい品種として希少価値大。

「富有」

「富有」

岐阜県が原産地。一昔前まで、都会で売られているカキのほとんどが「富有」だった。ただし、あまり暖地には適しているとはいえない。形がよく、ふっくらとして、ツヤツヤしている外観で人気が出たともいえ、とにかく美しい。以前は甘ガキといっても渋みの残るものがほとんどだったが、この品種のまったく渋みを感じない味わいが知られると、一層人気が出た。今でも国内で栽培される品種の50%以上を占める。

「甘百目」

「甘百目」

丸々として大きく、昔の計りでいう百匁=約375gもあるような大玉の品種のため、この名がつけられた。別名「江戸一」といわれるくらい関東では最も優れた甘ガキ品種。果頂部には渦を巻いたような黒いシミ(条紋)が現れ、熟すにつれてこれがどんどん大きくなるのが外見上のマイナス点として、市場では敬遠される要因になっている。しかし甘みは多く、水分も十分あり、肉質は中程度。さっぱりとした味わいで、若木のうちは渋みが残るが、徐々になくなる。これもまた、市場には出回っていないので、家庭園芸におすすめ。

「花御所」

「花御所」

宝珠のように果頂部がちょっと尖り、中玉で色は鮮やかではないが、果肉が美しく、肉質が緻密で水分も甘みもたっぷり。ただし渋みの残るものもあるのが若干残念だが、摘果をしっかり行い、充実した花芽をつけるようにすれば、問題はない。鳥取県の人が奈良県で「御所」を食べておいしかったのでその枝を持ち帰り、自分の木に接ぎ木してできた品種。「御所」よりは形がよい。

最近の品種

「太秋」

「太秋」

すでに世に出て20年以上が経過したが、いまだに最も人気がある。何といっても大玉で、中生、肉質が粗くサクサクした食感がほかの品種とは大きく違う。果汁も大変多く、糖度も高い。早どりしても渋みが抜けているので、最近は青いまま収穫し、サラダ用の材料としても利用される。ただし本当のおいしさを味わうには、果皮に生じる条紋が現れてから収穫するのが最良。

「早秋」

「早秋」

「太秋」よりは若干遅く登場した品種だが、それまで早生の代表とされた「西村早生」とは比較にならないくらいに食味に優れるのが特長。果皮の色が赤く、味は「富有」によく似ているが、完熟果はそれよりもすばらしい味わい。生理落果がやや多いので、ほかの品種と比較して摘蕾を早めに行い、葉果比20枚を目安とする。

渋ガキのおすすめ品種

昔からの品種

「蜂屋(堂上蜂屋)」

「蜂屋(堂上蜂屋)」

乾燥させた「枯露柿」を作るのに最適の品種。重さが200g以上ある、釣鐘形の大玉種。甘みが強くて水分は少なく、タネも少ないので干し柿にするにはもってこい。ただし、渋みが強く上手に渋抜きをしないと、あまりおいしいとはいえない。原産地は岐阜県加茂郡蜂屋村で、昔から宮廷に献上されていることから「堂上蜂屋」とも呼ばれている。

「会津身不知」

会津身不知 あいづみしらず

東京には大量に出荷され、安価でよく親しまれている品種。甘みがあり、水分も多く、舌触りがよい。丸形だが果頂部は平らで少しくぼみがあり、それを中心に4条の筋がある。小玉〜中玉。あまりにたくさん実をつけすぎて、その重みで自らの枝を折ってしまうことから、「身知らず」の名前がつけられたといわれている。東北、北陸方面での栽培が多く、特に会津地方では大量に栽培されている。

「八珍」

八珍 はっちん

別名の「平核無」の方が有名な品種。渋ガキでは最優秀とされ、最も栽培面積が多い品種。また味も絶品で、しかもタネが1個も入らないのが最も特徴的。越後地方が原産地。越後には七不思議というものが昔からあるが、この品種にタネが入らないのが不思議なことから8番目の不思議=八珍と名づけられたといわれている。形は平たく、四角張って中玉(この選抜種には、約2倍の大きさの大核無がある)。粘りがあり舌触りもやわらかく、水分、甘みともに十分で優秀な品種。元来庄内地方で多く栽培されていたが、全国の至る所で栽培されるようになった。中でも、佐渡島で栽培されるものが特に品質がよいので「おけさ柿」の名でブランド化もされている。

「西条」

「西条」

小型の釣鐘形で、形はよいが色は美しいとはいえない。緻密でやわらかく、甘みが強く、脱渋すれば高級品種となる。産地の周りには日本酒の酒蔵が多く、酒樽で渋抜きをすれば上等の味わいが出せる。岡山県の県北ではカキといえば100%といっていいくらい「西条」を指す。筆者は子どものころから食べ慣れているせいか、今でも「蜂屋」のような干し柿には見向きもせず、干し柿=「西条」のマインドは崩れることがない。地元ではいろいろな系統があり、「早生西条」「無核西条」「大西条」など、それぞれ違った品種として扱われている。

「甲州百目」

「甲州百目」

別名「富士」。円に近い釣鐘形で、外見の美しさはすばらしい品種。つやもあり大玉で、褐色の小さな星が果頂部の尖った所から肩にかけて現れるのが特徴。1週間密封すると焼酎なしでも渋みが抜けるので、これを皿に載せて果頂部を少し刃物でむき、スプーンですくって食べると最高の味わい。アメリカでも熟柿として栽培されており、大変ポピュラー。渋みが早く抜けるので、干し柿、やわらかいアンポ柿を作るには最適の品種。寒い気候を好むので、北関東以北が適地。

「愛宕」

愛宕 あたご

釣鐘型の大玉種。全国的には評価が低い品種だが、岡山県、愛媛県では多く栽培されている。成熟期が11月後半と晩生で、渋抜きに時間がかかり、果実の出回る時期が歳暮近くになることから、高級品種として栽培が続けられてきた。最近ではドライアイスで渋抜きしたものを真空パックに詰めた販売が常識となったため、本来の味や舌触りを感じられず、市場では敬遠されつつある。しかし焼酎でじっくり渋みを抜いたものは、味も絶品で、日もちもよいので別格扱いで販売されている。最もおすすめする渋ガキ品種だが、暖地での栽培に限られるのが難点。

「祇園坊」

「祇園坊」

広島県で多く栽培される釣鐘形の大玉種。頭の方が急に細くなり高さが約10pもある。4つの筋があり、多少のくびれがあるが外見は見事。渋みは強いが十分熟させればやわらかくて果汁の多い、甘みたっぷりの味わいを楽しめる。広島県安佐郡祇園村の住職がたくさんのカキの中から選抜して作ったので、この名がついた。

最近の品種

「太天」

「太天」

晩生で、11月中旬に収穫される品種。果実の大きさも500g程度で非常に大きくなり、「富有」と比較すると2.5倍程度にもなる。果皮の色は橙黄色で「八珍」と同程度。

「太月」

「太月」

「太天」同様の晩生で大玉種。「太天」よりは若干小さめだが、それでも450g程度にはなる。渋抜きは「太天」よりは容易で、果汁も少し多め。

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大森 直樹 (おおもり なおき)

大森 直樹 (おおもり なおき)

1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。

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