大森 直樹 (おおもり なおき)
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。
果樹の中でも「堅果類」として分類される、アーモンドとクルミ。
果肉ではなく、タネの中の仁を食用とするのが特徴です。
風味豊かな味わいを、ぜひ自家栽培で楽しみましょう。
アーモンドは、モモ、スモモやアンズなどの仲間です。 その中でも、モモとは最も近縁な植物なので、栽培はモモとほとんど同じです。 ただ、利用はかたい核の中に含まれる仁を食用とするので、果樹としての分類は堅果類とされ、クルミ、ペカン、クリなどと同じ分類になります。 少々複雑な話のように思えるかもしれませんが、主に果肉を食用としているモモ、スモモやアンズなども、中国では古来より薬用として仁を利用しており、特にアンズは現在でもそうしていることから、アーモンドだけが堅果類に属するともいい難い理由があります。
モモとほぼ同じ植物ですが、中果皮に相当する果肉は非常に薄くかたく、外果皮とともに核を覆っているだけです。 その証拠に成熟期になると、果皮の縫合線に沿ってはじけたように裂け、核が露出します。 前述のように、アンズのうち特にモウコアンズはアーモンド同様、果肉を食用とする所はなく、仁以外に利用はできません。
結実した様子。果肉は薄くてかたい。
アーモンドは、大きく分類して2種類に分けられます。
核の皮がモモの核と同じように非常にかたく、仁の品質個体差が大きいので、果樹としての栽培には向かず、主に花木、またはモモのセンチュウ抵抗性台木としてヨーロッパで主に利用されています。
核皮が薄いのが特徴です。 この種はさらに仁の風味の違いにより、甘仁種と苦仁種に分けられています。 甘仁種はその名の通り仁に甘みがあり、苦仁種は苦みがあります。 一般的に食用されているのは、軟核種の甘仁種であり、苦仁種は主に薬用として用いられます。
アーモンドは、生育期間中に乾燥する温暖な気候条件が適地です。 海外では地中海沿岸諸島やアメリカのカリフォルニア州が主な産地です。 この地域はどこも欧州系ブドウ、オリーブ、レモンなどの果樹類が好む気候と同じだといえます。 したがって、国内での栽培に向く地域は限られることになりますが、露地栽培であれば瀬戸内海沿岸地域は適しているといえます。 この地域以外で栽培する場合は、特に梅雨期の病害虫対策を心掛け、できるだけ風通しのよい場所に植栽します。 または鉢植えで置き場を工夫することで、栽培は可能です。 また、アーモンドは果樹の中で最も耐乾性に富む一方で、耐寒性には弱く、開花期がモモよりは早いため、早春の低温による被害を受けないよう防寒対策が重要です。 春先は、過湿によって花芽や葉芽に病害虫の発生を招くこともあるので、注意しましょう。
アーモンドは両性花ですが、自家不和合性が強いので同じ品種であっても2本以上混植し、人工授粉すれば結実は安定します。 また、モモなどでは必須とされる摘蕾、摘果作業が不要で、隔年結果性もありません。
アーモンドの樹形。樹冠内部まで日光が入るように剪定し、管理する。
多くの品種をカリフォルニアから輸入し、私も栽培しましたが、そのほとんどが私の住んでいる地域ではまったく結実せず、残った品種はありませんでした。 しかし履歴は不明ですが、現在はアーモンド「ダベイ」という品種のみが安定的に開花結実を続けています。 この品種は自家結実性が強く、1本で結実します。
アーモンドの花の満開時は見応えがある。
植え付け後1年間に根が伸長するであろう範囲で植え穴を準備し、直径約1.5m、深さ約50cmを目安とします。 植え穴には完熟堆肥20~30L、熔リン200g、石灰資材200gを混合しておきます。
植え付けの際は苗を立てて、根を四方に広げて根の間にも土を入れ込み、苗を固定します。 そしてたっぷり水やりします。 この時、深植えしないように特に注意しましょう。 根を広げる部分が地上面からやや高めになるよう盛り土し、その上に根を広げて植え、接ぎ木部分は地上に出るようにしておくことが重要です。
直立に植え付けた苗木は、充実した部分(接ぎ木部位から40~50cmの高さ)で切り返し、新梢の発生を促します。 その後発生した新梢から主枝2本を選び、ほかの枝は剪除します。
2本の主枝分岐部は地面から約50cmとします。 第1亜主枝は地面から約80cmとし、主枝分岐部から約70cm離れた部分の横~斜め下向きの枝を利用します。 第2亜主枝は第1亜主枝の反対側の主枝よりに約1m離れた部分の枝となるようにします。
ゴールデンウィーク前後は好天が続き、土壌の乾燥が進むことがあります。 この期間は幼果の細胞分裂が盛んに行われている時期であるため、土壌乾燥には特に注意を払います。
不要な徒長枝の切除を中心に行いますが、これは結果部位への日照改善、そして翌年以降の結果枝の充実・確保などのためです。 主枝・亜主枝背面の直上枝となりうる枝は早めにかきとります。
果実の肥大にともなって枝が下垂し、樹形・受光体勢が乱れやすくなってくるので、日照条件を悪化させないために、摘芯、捻枝、枝吊り、支柱の設置を行います。
梅雨明け後、干ばつ傾向にある場合は渋みの発生軽減のために、定期的に水やりします。
省力化のため年間を通じて元肥のみの施肥体系とし、追肥は行いません。 根が活動している10~11月に施用し、全面中耕します。 1~3年目は200g、4~5年目は300g、5年目以降は500gが目安です。
3月初旬をめどに石灰硫黄合剤を散布します。 収穫後は、カイガラムシ、ハモグリガ、コスカシバの防除適期なので、収穫後の防除も徹底して行います。
木の先端や日当たりのよい所から順次成熟していくので、この付近を見回って収穫を始めます。
さまざまな種類がありますが、野生化していて全国どこでも見られるのはオニクルミとヒメクルミで、これらはほとんど結実せず、実際の栽培には不向きです。 栽培に向くのはカシクルミで、これは結実量も多く、国内外を問わず多くの地域で栽培されています。 また、国内で栽培されているカシクルミは、在来種と一般的にいわれているテウチクルミと欧米種の血を引いているシナノクルミに分類されます。 両者に大差はありませんが、シナノクルミの方が収量や品質が優れており、種苗としての販売も現在ではほとんどがこの系統の品種が扱われています。
クルミは耐寒性が非常に強く、マイナス30℃近くでも耐えますが、一方夏の暑さにはめっぽう弱く、38℃以上の高温が続くと、強い日差しによって幹や果実に日焼け障害を起こすことがあります。 土壌条件としては、地層が深く、水はけのよい土地を好み、その条件が確保できて、夏場高温が続かないようであれば栽培は可能です。 ただし、低温要求量がリンゴと同じ程度なので、暖地であれば結実不良が起こりやすいため、無霜地帯での栽培は可能でも、開花結実はあまり期待できません。 現在の産地は、長野県ほかごく一部の地域ですが、産地としての振興は無理としても、先に述べた立地条件を工夫すれば、北海道南部から九州北部では栽培が可能だと思われます。
クルミの花は同一の木に雌花と雄花が別々に咲き、どちらも花弁がありません。 特に雌花は非常に小さく目立たないので、開花に気づくことすら難しいといえます。 雌花は、前年枝の頂芽かそれに次ぐ2~3芽が、春の発芽伸長とともにできる新梢の先端に房状につきます。 それがさらに生長を続け、最後に柱頭ができて開花します。 開花後から約5日後にはこの柱頭がさらに伸びて、子房の先に白い羽毛が開いた形となり、その後は柱頭が色あせて開花が終了します。 雄花は、前年枝の葉腋から花穂が10cmくらいの長さで垂れ下がります。 1本の花穂には約1000個の花が咲き、開花開始から1週間程度は花粉が放出されます。 受粉するためには雌花の受精可能時期と雄花の花粉放出期が重なることが必要で、できるだけ違う品種と混植するか、実生木の場合は2本以上を植え付ければ、結実率は非常に高くなります。
頂部にある小さな雌花と、穂状になる雄花。
コンパクトな低樹高に仕立てるためには、植え付け後の3~5年程度は鉢栽培します。 開花を始めた後に露地に降ろせば、巨大木になることなく、家庭でも栽培が可能になります。
植え付けには、スリット鉢の6~8号を用います。 用土は、市販の園芸用培養土に赤玉土または真砂土を30%程度混ぜたものを使い、植え付けます。 秋植えの場合は、11月~12月中旬がよく、春は3月中が望ましいといえます。 クルミの場合は新根の発生が非常に早く旺盛なので、できれば寒地でも暖地でも秋植えをおすすめします。
植え付け後は、苗木の長さの3分の1程度まで切り返します。 土壌の凍結や降雪がある場所では、敷きわらや支柱を設置することを忘れず行いましょう。
樹形は、管理する場所の条件にあわせて、空間が広くとれる場合には開心自然形にし、そうでない場合には変則主幹形に仕立てます。 いずれの仕立て方にしても、樹冠には日光がよく当たり、枝が込まないように、間引きと摘芯をうまく組みあわせて行うことが大事です。
うまく育てれば、2年目の冬には2m近くまで伸長しますが、同時に根鉢も込んでくるので、できればこの時期に二回り程度大きな鉢に植え替えます。 さらに、枝作りを重ねていくと、早ければ4年目には開花結実します。 そのまま、鉢で管理することももちろん可能ですが、この時期に鉢から抜いて、露地に植え付けます。 すでに開花結実期に達しているので、木は無用に大きくはなりませんが、念のため植え付け時に掘る穴はあまり大きくしない方が、よりコンパクトに栽培できます。
年間3回に分けて、元肥、追肥、お礼肥を均等に施します。 施肥量は下表を参照してください。
クルミの収穫は、外果皮が開き始めたころに振り落とすか叩き落とすようにします。 落ちた状態で外果皮が開かず裂けないものは、日陰に置いて乾燥しないように毛布などをかけ、数日放置した後に手で皮をむきます。 自然落果でももちろん構いませんが、時間もかかり、また落下した殻が汚れやすいので、振り落とす方がよいでしょう。
収穫したものは乾燥させます。 乾燥後は殻を除いて仁を取り出し、酒類のつまみのほか、砂糖でからめたり塩味をつけたりして、おやつとして食します。 野菜と和えてもおいしく利用できます。
1果約40gの楕円形果。果肉が薄く、熟すと裂果する。アーモンドの中でも高温多湿で栽培しやすい特性をもつ。1本で結実する。
殻が薄くて食べやすい大実の優良品種。冷涼で乾燥した気候を好む。1本で結実するが、人工授粉させるとなお実つきがよくなる。
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。