大森 直樹 (おおもり なおき)
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。
小さな赤い実のラズベリーは、完熟してから生食すると、甘酸っぱく濃厚な味わいを楽しめるのが魅力です。香りがよく、愛らしい姿は、ケーキやムースなどの飾り付けにも活躍します。
ラズベリーは、バラ科のキイチゴ属に属する低木性果樹です。本種に属する植物は大変多く、400種以上に及ぶといわれていますが、このほかの有名な栽培種としてはブラックベリー、デューベリーがあります。
ラズベリーの原生種はヨーロッパと北アメリカに自生しており、ヨーロッパの原生種は古くから知られています。日本にもキイチゴとしては70種以上の野生種が自生しており、その中でモミジイチゴ、エゾクマイチゴ、エビガライチゴなどがラズベリーの仲間です。
日本では1873(明治6)年に、北海道開拓使がアメリカからラズベリー14品種、同じくブラックベリー5品種を導入しました。
しかし、当時の食文化の違いから受け入れられにくかったことや、栽培技術が確立されていなかったことなどの理由により、広く栽培されるまでには至らなかったとされています。
果実の最も一般的な使い方は、ジャムなどの加工品が挙げられます。完熟したラズベリーを使ったジャムは、甘みと酸味が濃厚で、香りも大変強いので、ぜひ自家栽培のマイジャムを作ってみたいものです。そのほかの加工品としては、リキュール、シロップ煮、ジュース、ゼリーなどが挙げられます。
ラズベリーは地下茎を伸ばし、春から夏にかけて地下茎から次々に吸枝を発生させます。その吸枝が夏と秋に収穫できる2季成りの品種では、秋果の結果枝となり、さらには翌年の夏果の結果母枝となります。
夏果の結果枝の発芽期は、場所によって異なりますが、3月上旬〜4月下旬で、その展葉期は3月中旬〜5月上旬です。
展葉後に夏果の結果枝は開花期ごろまで伸長を続け、長さは10〜70cmになります(品種によっても異なる)。地面からは秋果の結果枝である吸枝が4月上旬〜9月下旬に発生します。その新梢長は短いもので約50cm、長いもので約2mにもなります。
夏果の結果母枝、結果枝にはトゲがありますが、品種や樹勢によって密度や大きさが異なります。夏果の結果枝に着生した芽はほとんどが花芽です。花は白く、開花は先端から基部に向かって進みます。開花時期は2季成り品種の場合、1季目が5月中旬〜6月中旬、2季目が8月下旬からです。自家結実性なので他品種を混植しなくても結実しますが、開花期に訪花昆虫が少ない年には、花粉が花全体に行き渡らず、奇形果の発生が多くなります。夏果の結果枝は、収穫終了後、自然に枯死します。
品種によって異なるが、新梢長は短いもので50p、長ければ2mにも及ぶ。
ラズベリーは赤い実に限らず、黄色い実をつける品種もある。
完熟した実をたっぷり収穫。ジャムにしてもおいしく、長く楽しめる。
植え付けは、落葉後の晩秋から春の発芽前までに行います。植栽間隔は、垣根仕立てでは通常列間2m、株間2mですが、若い年から収穫を多くしたいのであれば、株間を半分の1mとしてもかまいません。株仕立てにする場合は列間4m、株間2mとします。株仕立ては垣根仕立てと比較して、支柱や番線を必要としないので管理は楽ですが、収穫時の作業労力などを考えると、垣根仕立ての方がよいでしょう。垣根仕立てにする場合は植え穴の深さを50cm、幅を40cmとし、掘り上げた土の2割程度(やせ地では4割)の堆肥を土とよく混ぜます。土を戻したら、あらかじめ水につけておいた苗を植え付けます。この時、苗の根を広げて植え付け、苗木は充実した茎の太い部分(地際から40cm程度の高さ)まで必ず切り詰めます。
植え付け後は十分に水やりし、その後も定期的に水やりします。株元には乾燥防止・雑草防止のために、ピートモスや堆肥でマルチをします。
垣根仕立てでは5m間隔に支柱を立てます。高さ30cm、60cm、120cm、180cmの4カ所に番線を張り、冬の剪定後に結果母枝を番線に誘引します。
剪定には冬季剪定と夏季剪定があります。冬季剪定は、春の発芽前までに行います。弱い結果母枝や込みあっている結果母枝を株元から切除しますが、1株当たりの結果母枝を8〜10本、結果母枝の長さが約1.5mとなるように先端を切り戻し、番線に垂直に誘引します。
夏季剪定では、夏果の結果母枝は収穫終了後自然に枯れるので、収穫が終わり次第根元から切りとります。また、夏果の結果枝の生育が旺盛で込みあっていると、花や果実に灰色かび病が発生しやすいので、梅雨前までに結果枝を間引きます。
発芽前には新根が発生しているので、2月下旬までには施肥します。基本的にはぼかし肥料を施しますが、やせ地では生育途中で葉色が淡くなるなど、肥料切れの症状を示すことがあるので、その場合は様子を見て化成肥料の追肥をします。また、ラズベリーは肥沃な土壌で栽培すると生育がよくなるので、施肥とは別に、1株当たり40Lの堆肥を2年に1度すき込みます。堆肥を施す時期は、落葉後から12月中旬までが適しています。
雑草が茂ると、アザミウマ類やハダニ、アブラムシの発生が多くなります。通路には防草シートを敷き、株の間にもバークチップやもみ殻などの有機物のマルチを敷いて、草の生えにくい環境をつくるようにします。
収穫は、夏果では開花後約1カ月の6月中旬から始まります。7月下旬までの約1カ月間、次々に成熟してくるので、その間は収穫し続けます。
秋果は9月上旬〜11月中旬まで収穫できます。夏果と比べて一回り大きく、酸味が強いのが特徴です。
ラズベリーは、完熟すると果実がやわらかくなり、傷みやすくて日もちしません。果実の用途によって収穫時期を変える必要がありますが、ジャムやジュースにする場合は、完熟してから収穫すると、香りのよいものができます。
シロップ漬けやケーキなどに用いる場合は完熟の少し手前で収穫すると、傷みが少なく日もちします。
ラズベリーを含むすべてのキイチゴ類はほかの果樹と比較して、病害虫はほとんど問題ありません。害虫としてはハダニやケムシ、ハマキムシなどの幼虫やコガネムシの発生が見られるものの、数は多くありません。見つけ次第早めに農薬を散布します。
病害は灰色かび病が発生しやすいので、6月〜7月下旬に枝葉の整理をして通気性をよくすれば、かなり改善されます。
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。