シャクヤクを育てよう
花色が多彩に揃うほか、咲き方もバラエティーに富んでいます。
ここでは系統別にシャクヤクの品種をご紹介するとともに、育て方を詳しく解説します。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」といえば美人を形容する例えですが、花茎を立て、りりしく咲く姿はまさに美人の表現にぴったりです。大きくふくよかな花を咲かせるシャクヤクは、古くから美しさを象徴する植物であり、さまざまな工芸品や絵画の意匠としても用いられてきました。シャクヤクはボタン科ボタン属の植物で、冬季に地上部が枯れてしまう多年草です。日本ではヤマシャクヤクとベニバナヤマシャクヤクの2種が分布していますが、現在栽培されるシャクヤクのもととなったものは、平安時代に中国から渡来した、中国からシベリアに分布するシャクヤク(Paeonia lactiflora)とされています。
古くはもっぱら薬用植物として栽培されましたが、江戸初期になると観賞用として改良されるようになりました。明治以降は、日本独自の品種に欧米から導入された西洋シャクヤクが加わっています。花形や花色が多彩で、花壇用にも、切り花としても楽しめることから、近年人気が高まり、数多くの品種が販売されています。
【倉重先生がタイプ別にセレクト】おすすめのシャクヤク品種
7つのタイプに分類されるシャクヤクの品種
シャクヤクは、花の少ない時期の庭を彩る貴重な存在です。まばゆいばかりの鮮やかさ、微妙に変化するやわらかい花色は、花壇でも一際目を引き、切り花にも利用できます。開花期に庭の主役となるシャクヤクは、雄しべの花弁化の程度や形などから園芸的に7つに分類されます。
●一重咲き
- 一重咲き
- 花弁が8枚程度の一重咲き。
- 金しべ咲き
- 一重咲きながら、雄しべが太くなり、金色に盛り上がって見えます。
●雄しべが花弁とは別の色と形に花弁化
- 翁咲き
- 一重咲きで、雄しべが葯(やく)と花糸が区別できないまでに花弁化(内弁)して、花の中心部に集まります。
- 冠咲き
- 内弁の花弁化がさらに進み、幅が広くなります。外側の雄しべは花弁化せずに残ります。
- 手まり咲き
- 雄しべは完全に花弁化して、外側の花弁と同じようになります。
●雄しべが花弁と同じ色と形に花弁化
- 半八重咲き
- 中心部に雄しべはあるものの、外側は花弁化します。
- バラ咲き
- 雄しべは完全に花弁化し、バラのようになります。
近年特に注目されている交配種〔ハイブリッドシャクヤク〕
ハイブリッドシャクヤクは、ボタンとシャクヤクの交配種で、黄色のシャクヤクを作出するために日本で交配され、現在は海外を中心に品種改良が進められています。作出に成功した伊藤東一氏を記念して、海外では「伊藤ハイブリッド」と呼ばれます。花もちがよく、普通シャクヤクにはない黄色など多彩な花色が魅力です。受け咲きで、茎も丈夫で倒れにくく、庭植え以外にも切り花として楽しめます。
- オリエンタルゴールド
- 伊藤東一氏により作出されたシャクヤクとボタンの交配種は米国に渡り、5品種がスミルノウ氏によって発表された。これはそのうちの一つで、大輪黄花の代表。
- 綿帽子
- 新潟県の吉沢武夫氏による交配で、完全に開かない抱え咲きの白い花が愛らしい小輪の品種。ころっとした花姿を楽しめる。
- レッドチャーム
- 花弁化した雄しべが盛り上がって咲く大輪花。赤の発色が美しく、存在感をアピールする。切り花としてもよい。
- 楊貴妃(ようきひ)
- 中国で作出された品種で、黄色花の中では最も美しいといわれる。開花時は日よけをした方が美しい花色を保てる。中輪だが、花茎が弱いので支柱が必要。
- 1961年、神奈川県生まれ。新潟県立植物園副園長。専門はツツジ属の系統進化や栽培保全。近年は石川県能登地方のキリシマツツジ古木群や新潟を中心とした花卉(かき)園芸史の調査にも力を注いでいる。