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おいしいカンキツ類を育てよう

おいしいカンキツ類を育てよう
ジューシーで甘酸っぱいおいしさがたまらないカンキツ類。
最近では品種も豊富に出回りますが、 その新鮮なおいしさを味わうなら、ぜひご自身での栽培を おすすめします。
カンキツ類は果樹栽培の中でも一番 手軽に挑戦できる果樹。
果樹栽培の初めの 一歩として、まずはお気に入りのカンキツ類を 育ててみましょう。
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苗木1本でも栽培可能!初めての果樹栽培に最適

 さわやかな香りと酸味が人気のカンキツ類は、種類が豊富で生で食べるのはもちろん、料理に利用することもできます。ハウスや輸入ものが増えたため、スーパーなどで果実は1年中手に入りますが、自分で育てた果実を収穫して、そのフレッシュさとジューシーさを楽しむ喜びは何事にも代えがたいものがあります。
果樹栽培は花や野菜に比べ、敷居が高いイメージをもたれている方が多いようですが、実際にはそのようなことはありません。鉢やプランターを用いてコンパクトに育てることもできます。中でもカンキツ類は、苗木1本だけでも育てることができるので、初めて果樹を育てる方にはぴったりの植物です。このように魅力たっぷりのカンキツ類は、世界で最も栽培されている果樹で、一説には木の総数が10億本以上ともいわれています。
栽培経験者の中には「果実がならない…」という体験をしたことがある方も多いかもしれませんが、栽培のポイントさえ押さえれば、毎年抱えきれないほどの収穫を楽しむことができます。本記事を参考にぜひチャレンジしてみてください。

種類が豊富でよりどりみどり! ただし、冬の寒さには注意が必要

 カンキツ類には数え切れないほどの種類があります。その筆頭は、やはり温州ミカンでしょう。それは「冬はこたつでミカン」というおなじみの風習にも象徴されています。また、果皮ごと味わえるキンカン、料理の香りづけに利用するレモンやスダチなどもあり、暖かい地域ならオレンジでも育てることができます。近年、利用する側のニーズにあわせて品種改良が行われており、果皮がむきやすいものやタネなしの品種も出回っています。
最近特に人気があるのは、タンゴール類といって、ミカン類のような果皮のむきやすさと、オレンジのような香りを兼ね備えた品種群です。「不知火」(商品名・デコポン)や「清見」などが代表的ですが、新しい品種で甘みが濃厚な「せとか」や甘くてジューシーな「西南のひかり」などもおすすめです。
苗木を購入する際の品種の選び方のポイントは、まずは食べてみたいものを選ぶということです。収穫に対する待ち遠しさや思い入れが強ければ、それだけ栽培管理もていねいになるでしょう。
気候に適した苗木を選ぶことも重要なポイントです。カンキツ類は寒さにやや弱く、越冬中に一定の気温を下回ると枝が枯れ始めます。種類によって耐えられる気温は異なるので、苗木を購入する際には下の表を参考にしながら、お住まいの地域の気温に応じた種類を選ぶ必要があります。ただし、寒冷地にお住まいの場合でも栽培をあきらめる必要はなく、鉢植えで育てれば、置き場を工夫することで冬の寒さから株を守ることができます。
なお、ほとんどのカンキツ類が1本で結実するので、手軽に栽培を始められます。

三輪さんおすすめ!コレ、作ってみよう
ブラッドオレンジ
ブラッドオレンジ
糖度が高く、コクのある赤い果肉が特徴。イタリアやスペインでは定番のカンキツ。市場に出回る果実の量が少ないので、ぜひとも家庭での栽培をおすすめしたい。果実が木についたままで冬を迎えるので、霜が降りない地域での栽培が向く。
紅甘夏
紅甘夏
夏ミカンの仲間で、ほかの甘夏に比べて果皮や果肉が少し赤く、甘くてやわらかい品種。11月ごろには色づいて甘みも強くなるが、酸味が強くしばらく抜けないので、4月まで収穫を待つか、年内に収穫して酸味が抜けるまで保存するとよい。
石地温州みかん
石地温州みかん
温州ミカンの中では甘みが特に強く、果皮の橙色が濃い品種。収穫後に果皮と果肉が離れにくく、傷みにくいので長く保存したい方にもおすすめ。収穫時期は11月中旬以降とやや遅め。温州ミカンなのでタネがなく、果皮もむきやすい。
レモン・ラフマイヤー
レモン・ラフマイヤー
マイヤーレモンの一種で、レモンとほかのカンキツ類との雑種。通常のレモンに比べて果皮が薄く、表面が滑らか。果汁が多く、ジューシーで完熟すると酸味がマイルドになる。ほかのレモンより寒さに強くてトゲが小さく、実つきがよいので人気がある。
せとか
せとか〈農水省登録品種〉
ミカン類とオレンジ類を祖先にもつため、温州ミカンのような果皮のむきやすさとオレンジのような香りがある人気種。中の小袋が薄く、タネが少ないので食べやすく、濃厚な甘みがある。若木はトゲが大きいので、ハサミでこまめにとるのがポイント。
タネなしきんかんぷちまる
タネなしきんかん
ぷちまる〈農水省登録品種〉

タネがほとんど入らない品種。果皮に苦みがなく、丸ごと食べてもおいしい。夏から秋にかけて咲く花の南国風の甘い香りも魅力。
※若木のころにタネが入ることがあります。

植え付けから収穫までカンキツ類の栽培マニュアル

栽培の基本

 庭植えなら、日当たりと水はけがよく、強風が吹きつけない場所に植えましょう。鉢植えの置き場も同様ですが、加えて雨が直接当たらない軒下などに置くとよいでしょう。冬は品種の耐寒性に応じて、鉢植えを暖かい場所に移動します。
ユズやレモンなど特定のカンキツ類には、葉の付け根に大きなトゲがあるので注意しましょう。トゲは切りとっても生育に支障はありませんので、ハサミでこまめに取り除きます。
カンキツ類の生育サイクル

苗木を植え付けよう!

適期:2月下旬〜4月上旬庭植えは収穫量が多く水やりの手間がかからない一方で、冬の寒さや病害虫の対策がとりにくいという一面もあります。一方、鉢植えは冬に移動できるので、寒冷地でも寒さに弱い品種が栽培でき、軒下で管理すれば雨に当たらず、病気が発生しにくいという利点があります。ただし、収穫量が少なく、水やりの手間がかかります。どちらも一長一短なので、お住まいの地域の気候や生活のスタイルにあわせて選ぶとよいでしょう。
苗木を植え付けよう!
植え込みの手順
  1. 古い根や土を取り除き、接ぎ木部より上に土がかぶらないように植え付ける。
  2. 植え付け後、庭植えは50cm、鉢植えは25cmの高さで枝を切り詰める。たくさん枝分かれしている苗木なら切り詰めなくてもよい。
  3. 支柱にしっかり固定する。
  4. たっぷり水やりする。

水やりと施肥

 庭植えでは基本的に水やりは不要ですが、7〜8月に10日以上雨が降らない場合、土を5cmほど掘り返して乾燥していれば、水やりをした方がよいでしょう。鉢植えの場合は鉢土の表面が乾いたら、たっぷりやります。
一般に「水を切ると果実が甘くなる」といわれますが、どのカンキツ類も果実が肥大する8月まではたっぷり水やりし、収穫の2カ月ほど前から水やりを控えます。
肥料は、萌芽前(2月)、開花直後(5月)、果実肥大期(7月)と収穫直後(種類によるがだいたい11月ごろ)の年4回を目安に施しますが、2月には有機質肥料(油かすなど)を、あとの3回は化成肥料を使用します。

病害虫を防ぐには

 最も発生しやすい病気は、かいよう病、そうか病、黒点病です。これらの病気は株に風雨が当たらなければ、ほぼ発生することはないので、鉢植えなら軒下など、風雨を避けられる場所に置くことが最も効果的です。庭植えでも、梅雨前の果実に市販の果実袋をかぶせることで、きれいな果実を収穫することができます。
害虫では、アゲハチョウの幼虫には特に注意します。短期間のうちに葉が食べられるので、こまめに観察して手で取り除くなどの対策をします。葉に白い線が入るのは、ミカンハモグリガの幼虫のしわざですが、完全に防ぐには薬剤散布しかありません。この害虫で木が枯れることはないので、あまり気にしすぎないというのも重要なポイントです。

剪定は3ステップで

適期:2〜3月 植え付け2年目以降の剪定の適期は、2〜3月です。剪定を行うことによって木が若返り、おいしい果実を毎年楽しむことができます。また、枝が混雑していない方が収穫などの作業がしやすく、病害虫の発生を抑えることもできます。
カンキツ類には春、夏、秋にそれぞれ伸びる春枝、夏枝、秋枝があり、厳密にいうとそれぞれの枝で切り方が異なります。しかし、上級者でなければ3月の剪定の時点で木についている枝が、それぞれ春枝〜秋枝のどれなのかを区別することは難しいものです。
そこで、下のイラストを参照しながら、3つのステップに分けて枝を切ることで、初心者でも失敗することなく、剪定ができるようになります。

STEP1
STEP1
木の広がりを抑える
まずは木の高さを低くしたり、横への広がりを抑えたい場合は、枝の分岐部の所でばっさり切ります。
STEP2
STEP2
枝を付け根から間引く
古い枝や込みあった枝など、不要な枝を付け根から切りとります。全体の1〜3割の枝を減らします。
STEP3
STEP3
長い枝だけ切り詰める
STEP2で残した枝のうち、30p以上の長い枝だけを選んで、3分の1程度の長さを切り詰めます。
Point
すべての枝を切り詰めたらダメ!
 剪定適期の3月には、葉の付け根の芽の中に2カ月後に咲くはずの小さな花の蕾ができています。この蕾をもつ芽を花芽、もたない芽を葉芽といいます。花芽は枝の先端付近につく傾向があるので、もし枝をすべて短く切り詰めると、同時にほとんどの蕾も切りとることになり、花が咲かず果実もなりません。剪定をした翌年にほとんど収穫できない人は、枝を切りすぎているのかもしれません。

夏の摘果で収穫を確実に!

適期:7月下旬〜8月 カンキツ類には、果実が多くなる年とあまりならない年を交互に繰り返す性質(隔年結果)があります。7〜8月ごろの幼果を間引き、数を減らすことでこの隔年結果を防ぐことができます。果実が甘く大きくなる効果もあるので、摘果は決してもったいない作業ではありません。摘果する際には、葉果比(果実と葉の割合) を目安にします。例えば、葉果比25の温州ミカンで葉が250枚ほどある木なら、10果ほどを残してほかの果実をすべて切りとります。

葉果比

いよいよ収穫!

適期:8月下旬〜翌年6月上旬 果皮が橙色に色づいた果実を順次収穫します。ただし、甘夏などの夏ミカンやオレンジ類は、橙色に色づいても3月ごろまでは酸味がかなり強いので、春まで木につけたままにするか、1月ごろに収穫して酸味が抜けるまで保存します。
果梗(軸)は太くてかたく、無理して引きちぎると果実や枝が傷むので、収穫には必ずハサミを用います。また、果梗を切り残すと、切りあとがほかの果実に当たって傷つくことがあるので、果梗は果実すれすれで切り直します。
枝からハサミで切りとり、再度果梗を果実すれすれで切り落とす。
枝からハサミで切りとり、再度果梗を果実すれすれで切り落とす。

長もちさせるには…

 収穫した無傷の果実を2週間程度で食べきるのであれば、室温で保存しても問題ありませんが、収穫量が多く、1カ月以上は日もちさせたいなら、保存条件を調節する必要があります。
ポイントは湿度と温度です。乾燥しすぎないように小さなポリ袋に果実を1個ずつ入れ、右の表の温度を参考に冷蔵します。保存中の温度が高すぎると腐り、低すぎると果皮が黒く変色します。なお、温州ミカンなどは、保存する前に屋内の日陰で10日ほど果皮を乾かすと、カビが生えにくくなります。
保存温度
植え付け後の仕立て方

1本の枝がまっすぐ伸びた棒苗(1年生接ぎ木苗)を植え付けた場合は、2年間は若木のため収穫できません。2年間で骨格となる枝をしっかり養成します。

植え付けた年の5〜7月
植え付けた年の5〜7月
枝を3本残して切りとる。
植え付け2年目の2〜3月
植え付け2年目の2〜3月
枝の先端を3分の1程度切り詰める。
植え付け3年目の2〜3月
植え付け3年目の2〜3月
長い枝の先端を3分の1程度切り詰める。
三輪 正幸さん

三輪 正幸

1981年岐阜県生まれ。千葉大学環境健康フィールド科学センター助教。専門は果樹園芸学。果樹栽培に関する研究のほか、最近では家庭果樹の普及にも携わる。著書・監修書に「NHK趣味の園芸よくわかる栽培12か月レモン」(NHK出版)、「暮らしの実用シリーズ 決定版はじめての果樹づくり」(学研パブリッシング)などがある。