アジサイの美しき世界
その風情ある姿に心ひかれると同時に落ち着きも感じるのは、多くのアジサイが日本原産で、親しみやすいからでしょうか。
最近では育ててみたい品種も豊富に揃い、さらに魅力を増したアジサイの世界をご紹介します。
アジサイは魅力的な品種がこんなに豊富!
日本には14種、海外には10種が自生しているといわれていますが、そのうち一般的によく利用されているのが、[1]ガクアジサイ(アジサイ)、[2]ヤマアジサイ、[3]セイヨウアジサイ、[4]外国種のアジサイの4系統です。[1]は実はガクアジサイが正式名称で、アジサイは品種名になります。暑さ寒さに強く、日当たりを好み、大形になるものが多く見られます。[2]はやや日陰を好み、小形のものが多く見られます。[3]はあとで詳しく説明しすが、実は日本のアジサイをただ海外で改良しただけで、性質などはまったく同じです。[4]はカシワバアジサイ、アメリカアジサイ、ノリウツギ(自生地は日本)が高い人気でよく利用されています。
アジサイとガクアジサイ。一般には異なる種類だというイメージがありますが、実は基本種がガクアジサイで、両性花が装飾花に変化したものをアジサイ(てまりアジサイ)といいます。同じものが少し変化したものという関係といえます。改良されたアジサイのほかに自生種の中にすでに両性花が装飾花になっているものが見つかったという説もあり、これを「ホンアジサイ」と呼ぶこともあります。シーボルトが命名したことで知られる「オタクサ」もこれに該当します。
他種との大きな違いは葉に光沢があることで、花や葉が大形です。自生地からみても、潮風、乾燥、寒さ(北海道南部まで植栽可能)に強く、日当たりを好みます。pHによる花色の変化も大きく、アジサイ属の際立つ特徴を強く持っています。花色の変化から「七変化」「七変草」とも呼ばれます。
- 四季咲き姫アジサイ
- 大株に育つと梅雨時だけでなく、7~11月にも控えめな花が咲く「四季咲き姫アジサイ」。
- 花火
- ガクアジサイの人気品種「花火」は花びらの先が細く、まさに花火のような花姿。
関東南部から九州までの山地の林床や沢筋に広く分布します。ガクアジサイに比べると、花、葉、樹形が小形ですが、花の色は多様で侘び寂びを感じさせ、ガクアジサイと二分するファンがいます。一番の違いは葉に光沢がないことと葉が薄いことです。「ベニガク」、「ベニテマリ」など、江戸時代から栽培されていた品種もあります。シーボルトが著した『フローラ・ヤポニカ』に記載されたものの、長く絶種と思われていた「七段花」は幻のアジサイといわれていましたが、1959年に神戸市の六甲の谷筋で発見され、今では広く普及しています。
またエゾアジサイは北海道南部から日本海側の山地に分布しますが、ヤマアジサイの亜種になります。大形で瑠璃色の花に特徴があります。
雪国に自生するため冬の乾燥に弱いとされ、特に関東では乾寒風のため花つきが悪いともいわれますが、品種による差もあり、ほとんどの品種は問題ありません。また、近年多くの品種が発見・命名されていますが、多くが外見上はヤマアジサイとほとんど区別がつきません。
さらにこのところ人気が高まっている「アマチャ」は、ヤマアジサイの中で葉に甘味をもつ品種になります。10品種ほど確認されており、特に葉を乾燥させると甘味が出たり、増したりします。お釈迦様の灌仏会の甘茶はこれを煎じたものです。「オオアマチャ」はヤマアジサイの変種で、甘茶の多くはこれを使用しています。ただし、ヤマアジサイ以外のアジサイの葉には毒性が確認されており、食用にはできません。
ヤマアジサイは小形の品種も多いので、狭い空間や、鉢植えとしても楽しまれています。ヤマアジサイのみでもいいですし、他の植物との寄せ植えでも風情ある姿が楽しめます。
- 七変化
- 青がとても濃く鮮明なヤマアジサイ「七変化」。
- アマチャ
- ヤマアジサイの「アマチャ」は、葉に甘味があり甘茶として愛飲されている。
- 七段花
- 幻のアジサイといわれていたヤマアジサイの「七段花」は六甲山中で自生している1株が奇跡的に発見された。
幕末に来日した医学者であり、植物学者でもあったケンペル、ツンベリー、シーボルトらは皆、アジサイに興味を示していますが、実はさらに100年ほど前、イギリスの博物学者、ジョセフ・バンクスが中国から(元は日本から渡ったもの)ロンドンのキューガーデンに送ったのがアジサイがヨーロッパに伝えられた最初で、この美しさは当時「東洋のバラ」と呼ばれ、非常に人気を博しました。その後すぐにアメリカ、フランス、ロシアにも導入されています。セイヨウアジサイはその結果として育種が開始するのですが、1900年代になってフランスで作出されたのが始まりです。そのころにはアジサイのみではなく、ヤマアジサイやエゾアジサイ、タマアジサイなども導入されており、それらが交配親となって育種が進みました。
セイヨウアジサイは一般のイメージでは、樹高が低く、耐寒性にやや欠けると思われていますが、日本のアジサイと性質はまったく同じで、単に海外で作出されたアジサイなのです。そのため、近年日本で作出されるアジサイとは品種が違うだけと考えたほうがよいでしょう。
- コメット
- セイヨウアジサイ「コメット」は濃桃色で剣弁のてまり咲き。
- ナイチンゲール
- セイヨウアジサイでもガクアジサイタイプの「ナイチンゲール」。
- ジャパーニュ ミカコ
- 濃桃色の縁取りが愛らしいセイヨウアジサイの「ジャパーニュ ミカコ」は夏から秋には花びら全体が赤く染まる。
近年人気が高いのはアメリカ原産のアメリカアジサイとカシワバアジサイで、特に前者では「アナベル」、後者では「スノー・クイーン」が広く普及しています。
アメリカアジサイは暑さ寒さに強く、ほかのアジサイとまったく異なる性質を持っています。それは植物外部に花芽をつくらないことで、冬に地上部が枯れたり、強剪定をしても開花にまったく問題がないため、管理がしやすいのが特長です。花色は基本が白なので、pHによる花色の変化もありません。最近ではピンクの品種も導入され、注目を集めています。
カシワバアジサイはアジサイには珍しく乾燥と日当たりを好み、日当たりのよい環境では秋の紅葉も楽しめます。葉がカシワに似た形なことからこの名前がつきました。よい芳香を放つ品種もあるので今後のさらなる普及が楽しみです。
日本の自生種であるノリウツギは寒さに非常に強いためか、欧米での人気が高く、近年いくつかの品種が導入されています。海外ではスタンダード仕立てなど、庭のオーナメントとしてもうまく利用されており、日本でもそういう利用法が増えたら楽しいと期待しています。
- アナベル
- 緑色の蕾が開くにつれて純白に変わるアメリカアジサイ「アナベル」。ボリューム感ある花姿が人気。
- バーガンディー
- カシワバアジサイの矮性種「バーガンディー」は秋の紅葉も楽しめる。
- シルバーダラー
- ノリウツギの中でも花穂が大きいことで人気の「シルバーダラー」。