ポポーの植え付け・受粉・収穫時期をプロセス別に解説
「カスタードアップル」が別名のポポーは、濃厚な香りをもつ甘い果実が魅力。あまり青果店などには出回らないため、希少性もあって家庭園芸におすすめです。独特な開花の仕方をするポポーの特性を理解して、ひと手間掛けてあげれば収穫量がぐんとアップします。
ポポーはバンレイシ科の果樹で、シャカトウ(バンレイシ)を始め、その仲間はすべて熱帯果樹ですが、ポポーのみが北米原産で耐寒性の強い温帯果樹です。果実はバンレイシ科特有の強い芳香があり、クリーミーで甘いのが特徴。近年、テレビや新聞雑誌などで取り上げられ、注目を集めている果樹です。長手の大きな葉は秋の黄葉が美しく、病害虫の防除も必要なく、作りやすい家庭向きの果樹といえます。
果実はバナナとパイナップルをミックスさせたような、濃厚な香りと甘みをもつ。
ポポーの果実。品種によって異なるが、果実のサイズは200〜400gくらい。
じつは決して新しい果樹ではなく、すでに昭和30年前後にさまざまな種苗会社で「バナナとパイナップルをミックスしたような美味な果実」として紹介されており、その後も苗木は流通してきました。ただ当時は品種名がなく実生苗で、品種名のついた苗木が流通するようになったのはかなり後のことです。いろいろな品種が出回っていますが、実つきをよくするためにもどれか好みの品種を2品種以上選ぶことをおすすめします。
ポポーの育て方
植え付け
適期は12月〜翌年3月です。本数を植えてポポー園をつくりたい場合は4〜5mの間隔とし、庭で育てる場合はスペースがなければ1.5〜2m間隔で2本並べて植え付けます。大きくなれば樹冠は共有してもかまいません。苗木は高い位置に接ぎ木していることが多いので、台木の芽を育てないよう注意します。
よく腐熟した堆肥などと化成肥料(チッソーリン酸ーカリ=8ー8ー8)50〜100gを土とよく混ぜて植え付ける。根が巻いていれば、よくほどいて根を広げてから植える。
整枝と剪定
「主幹形仕立て」とし、真っすぐ1本に仕立てます。樹高を抑えたい場合は途中で切ります。ポポーの花芽は、前年枝の基部に着生するのが特徴です。したがって、枝先を切り詰めることができ、木をコンパクトに仕立てるのに都合のよい性質だといえます。なお、ポポーは大きく成長すると、根からも芽が伸びてくるので、早めに切り取りましょう。
前年枝の基部に咲いたポポーの花。
施肥
植え付けから3〜4年は、年に3〜4回施肥して生育を促進します。1回の量は、幹を中心に半径50〜60p内に50〜100g程度の化成肥料(チッソーリン酸ーカリ=8ー8ー8)をばらまきます。これ以降は年に1回、寒肥を与えるくらいでよいでしょう。量は樹冠下の面積1u当たり約100gを目安にします。
病害虫対策
通常問題になることはありません。
摘果
結実が多い場合は摘果をします。ポポーは雌しべの数が多いので、結実がよい場合は1個の花から4〜5果着果します。このような場合は摘果して、多くても1花につき2〜3果にします。
ポポーは、1花に対して4〜5果がつく。摘果して2〜3果にすると充実した果実になる。
収穫と追熟
成熟期は環境や品種にもよりますが、9月下旬〜10月半ばです。成熟期になれば熟した果実は落果します。気温にもよりますが、2〜3日おけば食べ頃になります。たくさん収穫できる場合は落果の少し前、果皮の緑が抜けてきた時点で収穫して冷蔵庫で保存し、食べたい時に室温で追熟してからいただきます。こうすれば長く楽しむことができます。
ポポーの花の特性を把握すると分かる!結実をよくするコツ
不結実の理由
果樹の結実関連用語でおなじみなのは、自家受粉では受精しない自家不和合性、そのために結実が悪いことを自家不結実性といいますが、ほかにも雌雄異熟という現象があります。ポポーの花は雌しべ先熟で、1個の花の中に雌しべと雄しべがありますが、雌しべが先に熟し(花粉を受け入れる体制になる)、雄しべが熟す(花粉が出てくる)ころには雌しべの受精能力はなくなっています。したがって、1個の花の中ではほかの花から花粉が運ばれて来ない限り受精できないわけです。この雌雄異熟がポポーの結実が悪い理由に挙げられています。私が以前に実生苗を植えた庭のポポー10本余りについて調査した結果では、自家不結実性の株もあることが分かりました。また、ほかの場所で目立って結実のよい株を観察したところ、雌雄異熟ではなく同熟に近い株も発見しました。
左から右へ向かって、ポポーが開花していく様子を分かりやすく並べた。左から2〜3番目が授粉適期。
実つきをよくする対策
もし入手した品種に自家不結実性があっても、2品種を1本ずつ2本並べて植えておけば問題ないと思われます。それでも結実が悪い場合は人工授粉をすれば確実です。特に幼木や若木の時は、樹勢旺盛で花数が少なく、生理落果も多いので人工授粉の効果は高くなります。
人工授粉
難しいことではなく、ただ花粉の出ている花から筆などを使って花粉をとり、授粉適期の花の雌しべにつけるだけです。花の構造は雌しべの付け根に雄しべの群れがあり、その先端に雌しべが数本突き出ています。花は上の写真のように発育過程で花弁の色が緑から黒褐色に変化します。授粉適期の花は左から2〜3番目の花です。授粉適期の花は雌しべの先端から粘液が出てみずみずしく輝いています。一方、花粉が出ている花は右から1〜2番目の花で、雌しべにみずみずしさはなく黒ずんでいます。なお、花粉は花粉塊といって塊になっています。したがって、人工授粉する場合、筆の先にさらっとは付着しないので、ていねいに行いましょう。
ポポーの花から花粉が出ている時の様子。
収穫後、2〜3日追熟させてから食べるとおいしい!
ポポーの花の断面図
大坪 孝之(おおつぼ たかゆき)
1939年生まれ。東京農大卒、農学博士。元東京農大助教授、元東京農大グリーンアカデミー講師。ウメ、リンゴ、柑橘類を始め、果樹全般にわたり栽培研究の指導を行う。日本梅の会会長。