大森 直樹 (おおもり なおき)
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。
亜熱帯果樹のパッションフルーツは、香りや風味がすばらしく、絞ってジュースにするのが一番のおすすめ。それはたくさん収穫できる自家栽培だからこそ実現できる、贅沢な味わい方です。
パッションフルーツはブラジル南部の原産で、現在では世界各地の熱帯から亜熱帯地方に広く分布しています。日本へは、明治中期にハワイより導入されたといわれています。近年、消費者嗜好の多様化によりジュースが輸入されるようになり、国内でも多くの地域で増植されています。果実の市販価格が高い印象がありますが、生食よりもジュースとしての利用に優れるため、家庭園芸で多くの果実を収穫し、たっぷりの果汁で本来の味わいを存分に楽しんでもらいたいと思います。
パッションフルーツはトケイソウ科トケイソウ属で、主な栽培種は在来系のパッションフルーツ(紫色系統)とキイロトケイソウ(黄色系統)、ならびに両者の交雑系があります。日本で一般に栽培されているのは紫色系の種類で、黄色系より耐寒性は強いものの、果実が小さいのが欠点です。
果実は紫色系統と黄色系統がある。
果実重が35〜50gになり耐寒性があって弱い霜には耐え、自家受粉します。ウイルス病、フザリウム菌による立枯病が発生しやすく、耐暑性が弱く熱帯低地では栽培できません。
パッションフルーツとキイロトケイソウの交雑系、交雑1代の成熟果は紅色で美しく、果重は80〜100g。うまく受粉できないと果実の肥大が悪いうえに、糖度が低くて酸度が高くなるものの、他家受粉すれば結実率は高まります。亜熱帯および温暖帯で栽培されます。
パッションフルーツは亜熱帯果樹です。軽度の霜には耐えられますが、最低気温をマイナス2℃以上必要とします。特に翌年の結果母枝となる秋梢は霜害を受けやすいので注意。木質化した幹や主枝にはかなり耐寒性がありますが、マイナス4℃以下になると亀裂が生じて枯死します。したがってマイナス2℃以下にならない地帯で、冬季の寒風や、台風など強風に当たらない場所の確保が必要です。また、黄色系は一般に紫色系より耐寒性が弱いので、さらに温度の高い条件が求められます。土壌は極端な重粘土や砂地以外で、水はけのよい壌土か砂質壌土、または埴壌土がよいでしょう。
パッションフルーツはつる性の多年生木質草本です。つるには各節に巻きひげがあり、生長が進むとともに木質化し、中心が空洞化します。新梢は3月下旬〜4月上旬に発芽した後、5節目くらいから各葉腋に蕾がつきます。それが開花しながら収穫始めの7月下旬まで緩やかに伸び続け、その後再び旺盛に伸長します。収穫後は結果枝から発生する副梢が伸長し、場合によっては第2、第3副梢も発生します。これは霜が降りるまで続きます。
根の伸長は4月上旬から始まり、5月下旬〜9月上旬に地温20〜27℃で旺盛に伸長します。それ以後は、12月下旬まで緩慢になります。細根は非常に細く、密に分布しますが、白色から後に褐色に変わります。
最低温度マイナス2℃で冬季の管理を行った場合、新梢の生長は3月中旬に始まり、葉の原基となる突起の形成が認められます。このころが花芽分化期です。花弁の発育過程で、その内側基部に雄ずい、さらに内側に雌ずいの初生突起が形成されます。花芽は分化後約60日で開花、結実に至ります。
着果は新梢の基部から5〜24節目くらいまでの各節に見られ、最も安定するのは11〜20節目くらいです。そのため結果母枝となる新梢は20節以上に伸ばして管理しましょう。収穫後に伸びた副梢にも、11月ごろからわずかに開花結実しますが、管理温度が低い場合は成熟しません。
蕾は4月上旬〜5月上旬に、新梢が伸びるにしたがって24節目くらいまでの葉腋に着生します。出蕾してから開花までは18〜
27日で、出蕾時期が遅くなるほど短くなります。そのため開花時期は4月下旬〜5月下旬となります。蕾は日の出と同時に開き始めます。花柱は開花後外側へ水平に開き、葯の方へ湾曲し、柱頭が葯に接するのが正常な花の形です。
自家受粉による結果率は正常花では高くなります。しかし、花柱が湾曲せずまっすぐに立つような直立型の花は自家受粉で結果しないばかりか、花粉を受粉しても結果しません。結果率は棚下の日照と開花期の天候によっても異なるため、日当たりをよくすることが大切です。
ユニークな花姿は観賞価値も高い。
果実は開花後約45日で成熟果重に達し、その後、開花後60〜70日の収穫時までわずかに増加します。果皮色は最初は緑で、開花後65日ごろから紫色を帯び、成熟期に鮮やかな赤紫色になります。
果汁は仮種皮内に生成され、タネは開花後7〜21日ごろまでに生長し成熟時の大きさになります。仮種皮は開花後14〜28日で急激に生長し、その後緩やかに成熟するにつれて、色が白から黄色に変わります。収穫期は7月中旬〜8月中旬です。
成熟果は直径約5pの球〜楕円形で果重は平均約40g。果汁は橙黄色で糖と酸を多く含み、芳香があります。
水はけのよい土壌を選びます。粘質土より砂質壌土が適しています。株間は150〜200pとします。
定植苗が伸び始めてから支柱を立てて、伸びるにしたがって誘引していきます。新梢が棚面に達した後、整枝をします。一文字整枝の時は摘芯し、その後に発生した副梢で主枝を2本作り、ブドウのように一文字に誘引していきます。
また、主幹形整枝ならば、摘芯せずに棚面にまっすぐに誘引します。主幹から発生する副梢は早めに摘除し、約2年間で主枝の形成を終了します。早ければ1年目から、主枝の基部から副梢が発生しますが、この枝は摘芯程度にとどめ、後に側枝として活用します。
結果枝は、前年の収穫後に発生した副梢(秋梢)のほぼ中央部から先の節位に発生します。前年にできるだけ多くの結果母枝を確保し、しかも棚面の過繁茂を防ぐには、収穫後早いうちの剪定が望ましく、遅くとも10月上旬には終えるように徹底します。11月になると新梢の発生が少なくなり、伸長量も短くなります。
※仕立て方を分かりやすくするため、葉の描写を省略しています。
収穫後、10月上旬までに今年実をつけた枝を元から切りとる。
収穫後に発生した副梢(秋梢)には翌年実がなるので残しておく。
発芽後は新梢が伸びながら5節目くらいから葉腋に順次開花して結実するので、結果枝が込みあわないよう適当な間隔で棚面に誘引しましょう。
開花は24節目くらいまで続きますが、棚下が薄暗いと落蕾が多く、開花しても不受精による落花が多くなります。また、開花期に雨天が続くと着果率が低下するので、人工授粉が必要となります。できれば曇天でも人工授粉を行いましょう。
人工授粉は、柱頭3本のうち1〜2本のみに行えば十分です。人工授粉した柱頭数(1〜3本)と果実当たりの種子数・種子重、果汁の糖度・酸度・pH値・比重などとの間に差はないので、人工授粉の作業を省力できます。
果実の肥大は開花後約45日間でほとんど終わります。その後、果汁の増加と果汁中の減酸、増糖が成熟期まで続きますが、その間の根の伸長は著しいため、肥料を少量ずつ分施します。
枝梢が繁茂しすぎて棚面の枝葉が厚くなると、棚下への日光の透過が悪くなり、極端に結果率が低くなります。パッションフルーツは生長が早いので、定植後2年目くらいからかなり結果しますが、枝葉の過繁茂が続くと、4年生ごろより収量の低下が始まり、盛果期間が短くなります。したがって、適切な整枝・剪定が必要です。整枝法は、平棚での一文字整枝か、主幹形整枝がよいでしょう。
収穫後、放任すると棚面の新梢が伸びて過繁茂となるので、10月上旬までには枝の整理を含めて整枝・剪定します。
施肥は、油かすや牛ふんなど有機質肥料を主体に分施します。適期は枝梢と根群の伸長時期、果実の肥大と収穫期、収穫後の剪定と秋梢発生、伸長の必要性などを考慮すれば、3月、6月、9月となります。なお、年間の施肥量は樹勢にあわせて調整する必要があり、特に肥沃地ではほかの果樹類より施肥量が少なくてもよく伸びますが、過繁茂による悪影響もあるので、注意が必要です。
パッションフルーツは乾燥には比較的強いのですが、枝葉の萎凋が著しい場合はしっかりと水やりをします。
時として気温が氷点下になる場所では、枝幹の凍結と霜害の防止対策は必須です。特に露地の場合は、主幹部と地際部を保護しましょう。主幹を地際部から棚下まで稲わらで10p程度の厚さに巻き、その上からビニールで包みます。また、棚面に上からこもをかけ、風雨に飛ばされないように棚に結びつけておきます。
遅くても霜が降りる前には作業を終えるようにし、春先の除去は晩霜の心配がなくなってからにします。
病害では立枯病、ウイルス病、疫病、炭疽病、灰色かび病、細菌性褐斑病、葉の斑点性障害などが見られます。虫害では細根にネコブセンチュウが寄生しやすく、ほかにハダニ、ハナアザミウマ、ネマトーダの被害が主です。
果皮が紫色になって自然落果する時、または落果直前に収穫します。果実の成熟が高温期に当たるため、成熟果を落果後放置すると4〜5日で萎凋し、果汁が減少して香りが変わります。
果実の貯蔵温度は7〜10℃ですが、果実の果柄を切り、切り口をテープで塞ぐと、常温でも5〜10日以上鮮度を保てます。また、ポリ袋に入れて5℃内外の場所に置けば、約1カ月は変質を防げます。
果実は生食でき、二つ割りにしてスプーンですくって食べます。とりわけおいしい利用法は、何といってもトロピカルフルーツジュースで、さらにアイスクリームを載せてフロートにするのがおすすめです。ほかにシャーベット、ゼリー、菓子に加工ができます。果汁を焼酎に添加すると、臭い消しとしての効果もあります。
酸味が少なく、風味、香りともに最高級。品種の中では比較的寒さに強い。収穫期は7月中旬〜11月。1本で結実する。果重は約60g。
オレンジ色の果肉がたくさん詰まっており、甘酸っぱい。収穫期は7月上旬〜8月下旬、11月中旬〜翌年4月中旬。1本で結実する。果重は60〜80g。
黄色系統の代表的な品種。収穫期は6月下旬〜8月中旬、11月下旬〜12月中旬。自家結実しないので、異品種との受粉をする。果重は80〜100g。
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。