果樹のお悩みQ&A
ここ数年、家庭でもぎたてのフルーツを味わうことができる果樹栽培が大人気です。 でも、「うまく育たない、実がつかない」などの声もよく聞かれます。 そこで今回は、人気品目の中からサクランボ、ブドウ、ミカン、ブルーベリー、イチジクと、一般的な果樹栽培についてのよくあるお悩みにお答えします。
‘佐藤錦’や‘ナポレオン’の栽培適地は、一般に長野県、山梨県を南限としています。
これらの品種は、比較的夏が冷涼で、生育期間中に雨の少ない地域に適しており、暖地でこれらの品種を栽培すると、芽が休眠から覚めるために必要な冬の低温量が少ないため、花は咲いても実がならないことがあります。
ですから、暖地でサクランボを栽培する場合は、適する品種を選ぶ必要があります。
暖地に適した品種としては‘高砂’がよいでしょう。
そのほか、暖地では実がなっても収穫間際に落果しやすくなるので、‘香夏錦’のような落果しにくい品種も適しています。
品種名ではないのですが「暖地桜桃(シナミザクラ)」の名前で売られているものは、暖地でもよく実をつけます。
‘佐藤錦’や‘ナポレオン’に比べると小果ですが、病気に強く、また自家受粉で実をつけるので、これは1本だけの栽培でも大丈夫です。
初めての方は、‘デラウェア’‘キャンベルアーリー’‘マスカットベリーA’など、樹勢の落ち着いた品種がおすすめです。
ブドウは秋になると、あんどん仕立てや棒仕立てで販売されている実つきの鉢植えをよく見かけます。
鉢栽培の場合、‘巨峰’のような樹勢の強い品種よりも、樹勢の落ち着いた品種のほうが栽培しやすいです。
‘巨峰’や‘ピオーネ’などの大粒系品種では若木のころ、受精しても幼果が落果して果房に実がまばらにしかつかない「花ぶるい」という現象が起こることがあります。
4〜5年栽培した木で枝葉と果実の生長のバランスがとれると実つきは安定しますが、庭植えにするよりも鉢植えにしたほうが実つきの安定は早くなります。
また、肥料のチッソ成分を控えめにし、弱い剪定を心掛けて、房作り・摘房を適正にすればよいでしょう。
摘房は、大粒系品種は1枝に1〜2果房、‘デラウェア’では1枝に2〜3果房にするのが目安です。
原因は2つ考えられます。
1つは栽培環境によるもので、梅雨明けに果実がしぼんで黒くなることがあります。
これは、梅雨明けの強い日差しや乾燥などで急な高温乾燥条件にあい、葉が近くにある果実から多くの水分を奪うためです。
梅雨の間に土が過湿状態になり、根の給水能力が低下したところに急な高温乾燥になるため、根からの給水が間に合わず、葉がしおれ、果実がしぼんで、強い日差しにより果実が黒くなるのです。
また、袋掛け栽培の場合は、強い日差しの下では袋内が異常な高温乾燥状態となり、果実が煮えたようになって黒くなります。
梅雨明けは環境状態が大きく変わる時期なので、「強い西日に当てない」「水やりを忘れない」などの注意が必要です。
もう1つは黒とう病という5〜6月に葉、枝、果実に発生する病気です。
被害にあった果実はしぼんで黒ずんでしまいます。
品種でいうと、‘ネオマスカット’‘マスカットベリーA’‘甲州’‘巨峰’などで被害が大きく、‘デラウェア’‘キャンベルアーリー’などは被害が少ないです。
防除には、ベンレート水和剤2000倍液などを7〜10日おきに2〜3回散布すると、ほぼ防ぐことができます。
また、前年の被害が大きかった場合は、薬剤散布も大事ですが、剪定時の、罹病枝や巻きひげの除去も行う必要があります。
ミカン類は、前年の秋遅くまで実をつけながら、その間に翌年の実をつけるために花芽の形成を行います。
そのため、前年に実をつけすぎると養分不足となり、翌年の花芽が少なくなって実つきが悪くなります(隔年結果)。
温州ミカンでは熟期が遅い‘青島温州’などの品種でその傾向が強いです。
そのため、ミカン類の中でも特に温州ミカンは、隔年結果を防いで毎年大きな実をつけるために摘果の作業が必要です。
摘果の目安は品種によって多少異なりますが、生理落果の終わる7月下旬〜8月中旬に、葉25〜30枚当たり1果になるように摘果します。
1枝ごとに小さい果実や傷のある果実から摘みとります。
上向きの枝についた果実は果皮が厚くて浮皮になりやすく、大味になるので摘果します。
下向きの枝についた果実はあまり大きくなりませんが、果皮が薄くおいしくなるので残すようにします。
鉢植えで育てられます。
果樹の中でもイチジクは、モモ、ブドウ並みに早く実をつける仲間に入ります。
順調に育てば、植え付け2年目には結実します。
イチジクは、水はけの良好な有機質の多い土を好むので、用土には赤玉土と腐葉土を1:1で混合したものを使います。
春から夏は、暖かく日当たりのよい所に鉢を置いてやります。
また、乾燥や地温の高くなるのを嫌いますので、真夏は強い西日に当たらないような場所に置いて、朝夕2回の水やりを行います。
鉢植えでも根の活動をよくするために、腐葉土などで鉢土の表面を覆う「マルチング」を行うと、より生育がよくなります。
仕立て方は、ひもなどで幹から出る枝(主枝)を斜めか水平近くまで横倒しに誘引して樹高を低くし、花つきがよくなるようにします。
イチジクは枝がやわらかいので容易に誘引できます。
剪定は、2〜3月に行います。
ただし、切り口の*癒合が悪く枯れこみやすいので、枝を切る時は節と節の中間で切るようにしてください。
前年にたくさん実がついた場合は、「なり疲れ」による生理落果が原因です。 1枝に2果くらいを残すよう摘果を行います。 また、肥料の与え方にも気をつけてください。 イチジクの実が育つには、特にカリが欠かせません。 例えば、有機質肥料でカリの少ない油かすと鶏ふんのみを与え続けると、チッソが多くてカリ不足の状態になり、実がうまく育ちません。 また、チッソの多い土で育てると、樹勢が強すぎて、ある程度育った幼果が途中で落ちることがあります。 ですから、チッソを控えてカリの多い肥料を与えましょう。 チッソ、リン酸、カリの配合バランスのよい化成肥料を併用するか、油かすと鶏ふんにカリの多い草木灰を加えるとよいでしょう。
販売されている主な系統には、ハイブッシュ系とラビットアイ系の2つがあります。
ハイブッシュ系は一般に大果で品質良好ですが、栽培地の土壌条件(pH4.0〜5.2)が限られるため、適地、不適地での生育の差が大きいようです。
ラビットアイ系は、生食の場合で品種により果実の品質がハイブッシュ系に比べて多少劣るものもありますが、土壌の適応性が広く(pH4.2〜5.5)、樹勢が旺盛で、たくさん実がとれます。
育てやすく収量の多いラビットアイ系はハイブッシュ系よりも庭植えのスペースが必要ですが、生食用にもジャムなどの加工用にもと幅広く利用したい方にはおすすめです。
また、「ラビットアイ系は2品種ないと実つきがよくないけれど、ハイブッシュ系は1品種でも大丈夫」といった声を聞きますが、同じ系統の品種間での受粉のほうが実つきがよいので、おいしい実をたくさんつけさせたい方は、ハイブッシュ系でもラビットアイ系でも、それぞれ同系統の2品種を揃えるのがよいでしょう。
1年枝の先端と、その下の数節に花芽がついて結果枝となり、翌年の春に花芽1つ当たり5〜10数個の花を咲かせます。
ブルーベリーでは、結果枝をつける枝を「主軸枝」と呼びます。
樹形は、1株当たり4〜5本の主軸枝を出させて、5〜6年目を目安に更新する株仕立てにします(*更新剪定)。
この主軸枝の更新が剪定のポイントになります。
更新には、株元から伸びる「シュート」と呼ばれる長い枝や、切り戻し剪定をした6年以上の古い主軸枝から発生する枝を使います。
冬剪定は12月〜3月上旬に行います。
株元から多くのシュートが伸びるので、50〜60cm以上のものは先端3分の1を切り戻して、シュートのわき芽から結果枝を発生させて新しい主軸枝とします。
主軸枝上の新梢は、30cm以上の新梢の先端を切り戻します。
翌年にはその枝から発生する結果枝に多くの花芽がつき、果実の数が多くなります。
また、3〜4年目の主軸枝によい果実をつけるので、花芽を多くつけた枝を残し、込み合う枝や弱い枝を間引くようにします。
果樹は通常、1〜2年生の幼木を植え付けてから数年間は、枝葉や根が生長するだけで開花結実しません。
苗木に初めて実をつける時の年齢を「結果樹齢」と呼び、その時期は果樹の種類、品種によって決まっています。
一般に、枝葉の伸びは根の伸びに応じて大きくなります。
庭植えの場合、どうしても根の伸びる範囲は広くなるため、地上部の枝葉の生長が落ち着くまでに年数がかかります。
それに対して、鉢で果樹を育てると、根の伸びを制限することになりますので、庭植えよりも早く枝葉の生長を抑制することになり、結果樹齢を早めることができるのです。
リンゴの場合、庭植えでは5〜7年かかりますが、鉢植えでは3〜4年で花を咲かせます。
カンキツ類は結果樹齢に達するまで5〜6年くらいかかりますので、鉢植え栽培することで、早く開花結実させることができます。
しかし、庭植えの場合でも、ブロックやレンガを土中に埋め込んで囲いを作ると、根域を制限することができます。
また、不織布の丈夫な紙製のポット(通気性・透水性があります)に植えて、そのまま庭に植える方法も同様の効果があります。
苗がうまく根づかない原因は、いくつか考えられます。 以下のどれに該当するかで対処法が異なります。
- ●土壌水分が足りなかった場合
モモ、ブドウ、ブルーベリーなどの浅根性の果樹は土壌乾燥に弱いので、植え付け後すぐに有機物によるマルチングを行います。 また、乾燥が続くような時は水やりを適宜行い、苗木がしおれることのないようにします。 - ●苗の状態があまりよくなかった場合
植え付け苗の状態があまりよくない場合は、生育も悪くなります。 例えば2〜3年生の苗木で根量が多いものほど、植え付け後の生育はよくなります。 - ●植え付けた年に果実をつけてしまった場合
果実が生長するためには多くのエネルギーを必要とするので、若木のうちに実をつけてしまうと、根づきが悪くなります。 着果しているものは早めに取り除きましょう。 - ●住宅地の庭の場合
土を掘り上げると20〜30cmくらいの深さで、水はけの悪い粘質土に当たることがよくあります。 この場合、さらに掘り上げて40cm以上の深さにします。 そして、小石を植え穴の底へ10cmくらいの厚さになるように敷き詰めて、排水条件をよくしてやることが必要です。
- 神奈川県横浜市生まれ。 東京農工大学大学院農学研究科修了。 果樹園芸学が専門で、特にブルーベリー、ラズベリーなどベリー類に造詣が深い。 著書に「家庭で楽しむ果樹栽培」(共著)、「初めての果樹ガーデニング」(監修)、「失敗しない果樹の育て方」(監修)などがある。