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アンズ(杏子)を育てよう

庭先で育てるおいしい果樹

アンズ(杏子)を育てよう

完熟したアンズは独特の甘い香りが立ち、ほおばるとジューシーな果汁が口に広がります。早春には、ウメに似た花が満開になる様子も見応えがあります。

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日進月歩で品種改良が進み
家庭で栽培しやすい品種が登場

アンズの来歴と二つのグループ

アンズは、ウメやスモモと近縁で同じバラ科の落葉果樹です。プラムコットのように、スモモとアンズの交雑種などもありますが、果樹として栽培されているのはアンズだけで、その野生種のモウコアンズとマンシュウアンズは薬用などに使われています。アンズの原生地は中国北部の山東・山西・河北省の山岳地帯や東北部の南部に至る地域です。それが中央アジアやヨーロッパで品種改良され、アプリコットと呼ばれるグループになりました。中国や日本で改良されたものはアンズグループとして分類されます。アンズが比較的寒冷な地域に適しているのに対して、アプリコットは温暖な夏乾燥地域に適応します。

日本へは弥生時代に中国より渡来したとされ、日本海沿岸の北陸や東北地方、甲信地域などで主に薬用として栽培されてきました。明治以降、欧米から多くの品種が導入され、在来種とともに果実としての栽培が盛んになりました。

アンズ(杏子)の品種

新潟大実新潟大実70~120gの大果。ほどよい酸味があり、生食、加工の両方に向く。耐暑性があり栽培しやすい。晩生種。

ティルトンティルトン欧米から日本に導入されたアプリコットで、古くから栽培されている。果実は小ぶりで、生食にも向く。

信州大実信州大実「新潟大実」と欧州系の「アーリーオレンジ」のかけあわせ。甘みが強く、酸味が少ないので生食に向く。

ゴールドコットゴールドコットアメリカから導入された品種で、果実は約50g。生食向きで、甘みが強く、酸味が少ない。病気に強く、裂果も少ない。

おひさまコットおひさまコット110~120gの大実。肉質が密で果汁が多く、甘みも強くて生食に向く。受粉樹なしで1本で結実する。

ニコニコットニコニコット果重は90gほど。酸味が少なく、糖度が高いので生食に向いている。受粉樹なしで1本で結実する。

アンズ(杏子)の品種「おひさまコット」「ニコニコット」の登場

大正末期から昭和にかけて「平和」「新潟大実」「山形3号」などが選抜されましたが、生食というよりは加工に向く品種が主でした。その後「ティルトン」「モアパーク」などのアプリコット系が欧米から導入され、それらとアンズを交雑したものから「信州大実」という生食用、加工用のどちらにも向く品種も生まれました。また、近年ではアメリカから「ゴールドコット」、カナダから「ハーコット」といった雨に強く裂果の少ない品種も導入されています。

最も新しく作られた品種に、酸味が少なく食味も優れ、豊産性の「おひさまコット」「ニコニコット」があります。両品種とも自家結実性があり、受粉樹との混植は不要です。

開花時期は3月下旬ですが、「おひさまコット」の方が「ニコニコット」より数日早く咲きます。また、収穫期は6月下旬で、「おひさまコット」は、「ニコニコット」よりも数日後に収穫されます。果重は100g前後ですが、「おひさまコット」の方が、若干大きめです。ただし、「ニコニコット」の方が、酸味は少なく、甘みが若干強いのが特徴です。

苗木から育てると3~4年で結実し始める。果実の収穫期は6~7月。

アンズ(杏子)の生育過程から栽培のコツをつかもう

アンズ(杏子)の生育に適当な条件

アンズは気温よりも降水量に大きく影響を受ける特性があります。開花期の3~4月と成熟期の6~7月に雨量が少ないことが、健全な育成のためには大変重要です。また、晩霜や寒風のため花芽や幼果が障害を受けたり、訪花昆虫の活動が低下することで結実が不良になったりすることもあります。土質はあまり選びませんが、モモなどと比べると、乾燥には強い一方で排水不良には弱いので、粘質土で水はけのよい土壌が適しています。

アンズ(杏子)の花芽分化

アンズの花芽は8月に分化を開始します。花芽には新梢の葉腋に花芽を1個つけるものと、葉芽とともにつけるものがあります。結果枝は長果枝、中果枝、花束状短果枝に分けられますが、長果枝、中果枝の花芽は生理落果しやすく、頂芽は必ず葉芽となります。それに対し、花束状短果枝の腋芽はほとんど花芽で、頂芽に葉芽のないものもあります。

アンズ(杏子)の花

アンズはウメより少し遅く開花します。しかし、結実や新梢の管理、整枝、剪定、施肥などはウメとほぼ同じように行います。ニホンアンズはウメより耐寒性が強く、3~4月に淡桃色の花を咲かせます。一方、アプリコットは耐寒性が少し低く、開花もアンズよりは少し遅れて、4月になってからウメと同じような白い花を咲かせます。

アンズの開花期は3~4月で、花つきがよい。

生理的落果を減らす方法

アンズが生理的落果する率は高く、「平和」や「信州大実」では80%以上を超えるほどです。その原因は、木の栄養障害や低温障害によるものだと考えられています。生理的落果の率を抑えるためには、木の栄養状態を良好に保つことと、早春の低温から防風ネットなどで守り、開花期に訪花昆虫の活動を活発にすることが効果的です。

また、「おひさまコット」や「ニコニコット」以外の品種を栽培する場合は、必ず2品種以上を混植し、受粉をしっかり行わせることが特に大切です。「ニコニコット」や「山形3号」「新潟大実」などの豊産性品種では、1花束状短果枝に1果(20~30葉に1果)となるように、摘果します。摘果は5月中に行いましょう。残す果実は、形が整っていて発育のよいものを選びます。

新梢管理

春から夏にかけて、生長している主枝延長枝には支柱を添えて誘引し、そこから発生するほかの新梢は適当に間引き、残りの枝も摘芯やねん枝により、生育を抑えて、主枝延長枝が太く伸びるようにします。

果実の収穫

果実の成熟は6~7月です。生食用のものは果面全体が着色し、果肉がやわらかくなってから収穫しますが、加工用の場合は果面全体が着色し、果肉がやわらかくなる前に収穫します。また、収穫はできるだけ午前10時までに行うようにします

栽培のポイント

●植え付け植栽の好適条件は、土壌の水はけがよく、寒暖の差があまりなく、夏の夜温ができれば30℃以下におさまる所です。植え穴には、堆肥を土によく混ぜて入れ、少なくとも植え付けの20日前には準備をしておきます。植え穴の大きさは、深さ50㎝以上、直径1m程度の大きさに掘ります。苗木の植え付け後は、接ぎ木部位から高さ50㎝程度の所で切り、支柱を立てて固定します。寒冷地を除き、できるだけ初冬に植え付けをします。

ただし、寒冷地では厳寒期を過ぎてから植え付けします。年内に植え付けした場合は、根元に盛り土をして乾燥と凍害を防ぎます。翌春3月ごろに盛り土を取り除いて地温を高めるようにしましょう。

●施肥果実の収穫後、9月には秋肥(お礼肥)として速効性肥料を施し、樹勢を回復させ、花芽を充実させます。また、アンズは根の活動開始時期がウメ同様に早いので、堆肥を入れた元肥を年内に施します。

●剪定アンズは一般的に開心自然形に仕立てますが、変則主幹形に仕立てることもできます。植え付け場所に余裕があれば開心自然形にし、比較的日当たりはよいもののスペースが狭い場合は、変則主幹形がよいでしょう。

剪定は花束状短果枝を多くつけることを目標に休眠期に行います。長果枝、中果枝は先端から4分の1くらいを切り返すと、春に数芽がわずかに伸びて、さらにその翌春の花芽をつけた短果枝となります。また、短果枝も放置しておくと数年で衰弱してくるので、3~4年ごとに間引き、新しい1~2年枝に更新します。加えて、残った結果枝に日光が十分当たり、風通しもよくなるように間引き、剪定を行います。

●病害主な病害は黒星病、黒粒紋枯病です。黒星病は果実では梅雨期から発病し、濃い緑色で円形の小さな斑点が次第に広がって褐色となり、黒いすす状の胞子になります。新梢でも黒褐色の斑点が密生し、葉でも褐色の斑点を生じ丸い穴があくこともあります。黒粒紋枯病は、病斑の現れた芽が発芽せずに枯死するので、開花期には枯れ枝となります。これらの被害にあった枝はすべて切りとり、焼却します。

●虫害主な害虫はアブラムシ類、コスカシバなどです。幹や太い枝がコスカシバに食害された場合は、春にできるだけ早く虫糞と樹脂の出ている所を削り、幼虫を捕殺します。

植え付け

植え付け

目指す樹形-開心自然形

目指す樹形-変則主幹形

剪定-長果枝、中果枝

剪定-花束状短果枝

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大森 直樹

大森おおもり 直樹なおき
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。