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リンゴの栽培方法・育て方

リンゴの栽培方法・育て方

筆者自宅(神奈川県)の庭先で たわわに実る「つがる」。収穫期の8月中旬の様子。

もし庭に植えたリンゴの木が大きな実をたわわにつけたなら…!
「いやいや、うちは中間地の住宅地。それは夢の話」とあきらめている方も多いのでは?
リンゴの産地は一般的に冷涼地ですが、中間地、暖地でもリンゴを栽培することは可能。
ただし、うまく育てるにはちょっとしたコツと努力が必要になります。
そのコツと努力の詳細をご紹介しますので、ぜひ夢を実現させてみてください。

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矮性台木も開発され、コンパクトに栽培することも可能に

趣味としての園芸では、一般には「育てやすい種類」を選ぶのが基本です。しかし、趣味も奥が深くなると、「一般的」ではない種類を育ててみたくなってきます。リンゴもその一つ。「アルプス乙女」などのミニリンゴを庭で見かけることはあっても、一般的な大きさのリンゴが実っている様子は、住宅地ではほとんど見かけません。ところが、前向きに努力すれば、都会でも暖地でも、家庭園芸では無理と思われているリンゴがたわわに実る景色を実現できるのです。もし、そんな景色を周囲の人が見たら、きっと驚くに違いありません。その驚きや称賛は、きっと困難に負けずに育てた大きな喜びとなるはずです。
最近では矮性台木が開発され、これに接ぎ木した苗木を植え付ければ、木を小さくコンパクトに仕立てることができ、住宅街の庭でも場所をとらずに楽しむことが可能になっています。ただし、リンゴには斑点落葉病、キンモンホソガといった病害虫が多く、ただ植えただけではうまく育てることはできません。夏場に雨の少ない冷涼な気候を好む果樹なので、暖地ほど防除の回数は多くなります。その苦労を厭わず、努力を重ねれば、大きく、おいしいリンゴをたくさん収穫することができます。

撮影前日に収穫した「つがる」。

上の写真の撮影前日に収穫した「つがる」。
暖地でもこんなに収穫できる。ただし、暖地では真っ赤にならず、赤みがさす程度での収穫になる。味は美味。

庭で楽しむための最大のポイントは品種選びにあり!

リンゴは自家不和合性なので、開花期がほぼ同じ異品種をそばに植える必要があります。また、交配不和合性の組みあわせ(「ぐんま名月」と「秋映」)や、3倍体で花粉の不完全な品種(「ジョナゴールド」「陸奥」)もあるので、注意が必要です。このことを考え、家庭用には1本の台木に2品種を接いだ苗木まで流通しています。
冷涼地と中間地~暖地での栽培の大きな違いは、収穫時期です。暖地ではリンゴの主産地より早く熟し、収穫期間も短くなります。「つがる」などの早生種は2週間くらい早まります。中生、晩生とその差は縮まり、「ふじ」などの晩生品種は逆に産地よりいくらか遅くなります。熟してからの日もちも暖地になるほど短いので、過熟にならないように適熟果を収穫します。
なお、リンゴには「つがる」を筆頭に「ふじ」など、ごく一部の品種を除き、完熟少し前に実が落下する「収穫前落下」があり、農家では落下防止剤を使用しています。落下した果実もおいしいのですが、防止剤を使う方が無難です。ストッポール液剤、ヒオモン水溶剤などの落下防止剤が市販されています。
また、暖地では成熟期に気温が高いため、赤色系の品種は鮮やかな赤色にはなりません。ただし味はおいしいので、赤くならなくても十分にリンゴの魅力を楽しめます。
育てやすさを考えると斑点落葉病に強い品種を選ぶことが大切で、「ぐんま名月」を筆頭に「つがる」「ジョナゴールド」「紅玉」「陽光」などがおすすめ品種です。初めて栽培する方なら、早生の「つがる」「ぐんま名月」「ふじ」を選ぶとよいでしょう。なお、中間地や暖地で遅くまでリンゴがなっている景色を楽しみたい場合は、晩生の「ふじ」を加えるのがおすすめです。

暖地栽培におすすめの組み合わせ

「ぐんま名月」の中心花が開花する時期に、 つがる系の「つがる姫」がちょうど花を咲かすので受粉しやすく、結実がしやすくなる組みあわせ。初心者にもおすすめ。

「ぐんま名月」

「ぐんま名月」

黄色~橙紅色の果皮で甘い。10月中下旬に成熟。1果300~350g、結実良好。
筆者自宅の庭先で実る様子(8月中旬)。

「つがる姫」

「つがる姫」

「つがる」よりややしっかりした肉質で糖度が高い。8月下旬~9月上旬に成熟。1果250から350g。

開花期の「ぐんま名月」。

開花期の「ぐんま名月」。リンゴは花が咲く姿も美しく、春の花木として庭に彩りを添えてくれるのも魅力。

スペースに適した仕立て方で楽しもう!

苗木の植え付け時期は11月~翌年2月。樹勢の強い果樹なので、家庭では大きな植え穴を準備しなくても、根を広げられる程度の穴で大丈夫です。しっかりした支柱を1本添えます。
矮性台木に接いでいるリンゴの一般的な樹形は、スリムな主幹形(スピンドルブッシュ)です。ほかにスタンダード仕立て、コンドル仕立て、棚仕立て、垣根仕立てなど、いろいろな樹形を楽しむことができます。スペースにあわせて、仕立て方をいろいろ楽しめるのもリンゴ栽培の魅力です。なお、コンドル仕立ての場合は、短果枝が出やすい品種を選ぶとよいでしょう。

スタンダード仕立て、コンドル仕立てスタンダード仕立てコンドル仕立て

棚づくりにすれば、夏は実のなる緑陰に!

玄関までのアプローチにリンゴを棚づくり。これは8月中旬の様子で、すでに大きな実がたくさん実っている。

玄関までのアプローチにリンゴを棚づくり。これは8月中旬の様子で、すでに大きな実がたくさん実っている。

スリムな主幹形の仕立て方スリムな主幹形の仕立て方
リンゴの栽培ポイント

結果の習性と剪定

主に春から伸長した枝の頂芽が花芽(頂花芽)になります。また、わき芽にもいくらかつきますが、これに着果した果実は小さくなります。花芽は混合花芽で花房と葉枝をともない、一度着果するとそのわきから出た枝に花芽がつきやすくなります。
冬季の剪定は、落葉後から春の発芽までの間に行います。まず、日当たりのよい樹形を考え、不要な枝を間引いたり、側枝が長くなりすぎないように切り詰めて整枝をします。

結果の習性と剪定結果の習性と剪定

夏の枝管理

リンゴは生長が旺盛なので、夏場に摘芯や捻枝を含め、適度に新梢を切り詰めて生長を抑え、花芽をつけるようにします。捻枝は茎をつぶして折れないようにしながら曲げる方法で、こうすることで葉でつくられた養分が根に送られず、実に送られるようになります。
リンゴは非常に樹勢が強く、伸びる、切るの繰り返しでは、花もつかないことになります。伸長生長を抑えることが非常に大切です。生長を抑えるには、枝の分岐角度を広くとり、枝を下向きに誘引します。それでも枝が強く伸長する時は、適度な夏季剪定により生長を抑えると花芽をつけます。

夏の枝管理夏の枝管理

人工授粉

異品種をそばに植えておけば、自然受粉でも比較的結実しますが、人工授粉をして種子の多い果実をならすほど、形のよい大きい果実を収穫できます。人工授粉というと難しく感じますが、慣れれば簡単です。
側花より早く咲く中心花が一番大きな実をつけるので、必ず中心花に授粉します。若い花の雌しべは、雄しべの葯に囲まれ中心にまとまっているので、細い筆に採取した花粉を含ませ、ワンタッチで雌しべに先端を当てます。授粉する花の数は、短果花、中果花、長果花の先端についた花房の中心花のみでよく、結実しても4分の3は摘果するので、中心花の授粉も、遅れ花や花房の密集している部分は省いてもかまいません。なお、雨で花が濡れている時には授粉は避けてください。

人工授粉
リンゴの花の構造
中心でまっ先に咲く中心花に授粉する。

中心でまっ先に咲く中心花に授粉する。

リンゴの花の構造

摘果

開花後2~3週間目くらいから数回に分けて行います。1回目は早めに行い、中心果を残して側果はすべて除きます。全体的にたくさん結果している場合は主に短果枝上の果実を残し、中~長果枝を含め4本の短果枝に1果の割合で、葉と果実の割合では、果実の大きさにもよりますが、木全体で40~60枚に1果程度を摘果します。
摘果では小果や傷果、病害虫被害果などを除き、大きくて形のよいものを残します。なお、果実の日焼けのことを考え、上向き果や横向き果なども除きます。

袋かけ

本来はシンクイムシの予防が第一の目的ですが、農家では果実の着色や外観を美しくするのが大きな目的です。冷涼地では収穫2~3週間前に袋を外すと美しく着色します。暖地では鮮やかに着色しませんが、それでも「ふじ」や「ジョナゴールド」は美しい赤色が楽しめます。
袋は防菌袋などいろいろな製品がつくられていますが、家庭用なら新聞紙などでつくっても使えます。袋かけはしなくても、害虫防除さえきちっと行えば無袋栽培も可能です。

収穫と貯蔵

リンゴは完熟する前から食べられるので、家庭では少しずつ早めに収穫するのがよいでしょう。「ふじ」など保存の利く品種では、箱に入れて冷たい物置などに置けば、遅くまで食べられます。もちろん冷蔵庫が利用できる場合は、保存のあまり利かない品種でもゆっくり楽しめます。

施肥

リンゴは生長の旺盛な果樹で、植え付け3~4年くらいまでは夏場の生長期にも肥料を与えますが、その後の施肥は11月~翌年2月に年間施肥量の8割くらいを、秋肥として9~10月(暖地では遅めに)に2割を与えます。それも樹勢や葉色を見ながら、ごく控えめに施肥します。日頃から堆肥を十分に与えていれば、化成肥料(8:8:8)だけで十分です。そばに野菜や草花などを植え、それらに施肥しているような場合はリンゴにはほとんど施肥の必要はありません。

病害虫防除

病気では斑点落葉病、黒星病、輪紋病、赤星病、うどんこ病、モリニア病に注意が必要です。中でも斑点落葉病は、病気が進行するとほとんど落葉するので致命的です。
害虫ではシンクイムシ類、キンモンホソガ、ハマキムシ類、ダニ類、アブラムシ類、カイガラムシ類、カミキリムシ類などが重要です。
特に気をつけたいのが、斑点落葉病、輪紋病、キンモンホンガによる被害です。中間地や暖地では、気温、湿度の高い時期が長い分、発症期間も長くなるため、防除の回数も冷涼地より増やす必要があります。また、落葉の処理、休眠期防除などを基本に忠実に行うことも大切です。

キンモンホソガによる被害。

キンモンホソガによる被害。

輪紋病

輪紋病

斑点落葉病

斑点落葉病

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大坪 孝之

大坪 おおつぼ 孝之 たかゆき

1939年生まれ。東京農大卒、農学博士。東京農大グリーンアカデミー講師。ウメ、リンゴ、柑橘類をはじめ、果樹全般にわたり栽培研究の指導を行う。日本梅の会会長。