野菜作りの上作テクニック ホウレンソウ
ホウレンソウの3カ条
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1
酸性土壌を嫌うので、苦土石灰をまいて土壌㏗を調整する。
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2
春夏まきではトウ立ちしにくい晩抽性(ばんちゅうせい)品種を選ぶ。
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3
タネをまく前に畝(うね)の表面を平らにならす。
川城英夫
千葉県農林総合研究センター育種研究所長などを経て現在、JA全農主席技術主管。農学博士。主な著書に「いまさら聞けない野菜づくりQ&A」、「野菜づくり畑の教科書」(家の光協会)、高等学校教科書「野菜」、「新野菜つくりの実際」(農文協)など多数。
ホウレンソウの基礎知識
発芽適温は15~20℃で、35℃を超えると発芽しません。タネは吸水を阻害する果皮に包まれていますが、吸水しやすく加工された「エボプライム種子」を使用すると発芽が安定します。
寒さに強く、0℃以上で生育し、マイナス10℃にも耐える一方、暑さには弱く、30℃以上になると発芽率が低下し、雨にあうと苗立枯病や株枯れが発生します。日長13時間以上になるとトウ立ち(写真1)が起きます。このため夏どりでは品種を選び、トンネルによる雨よけが必要です。土質は選びませんが、酸性土壌では生育が悪く、過湿を嫌うので水はけをよくすることが大切です。
(写真1)トウ立ちしたホウレンソウ。長日期にはトウ立ちしないように晩抽性品種を選ぶ。
品種の選び方
葉先が尖(とが)って株元が赤い「東洋種」と、葉の切れ込みが浅くトウ立ちしにくい「西洋種」、その「交雑種」に大別され、それぞれの特性をかけ合わせた多くのF1品種が市販されています。トウ立ちしやすい4~7月まきでは晩抽性品種、夏どりでは暑さや病気に強い品種、冬どりでは低温でも育ちがよい品種を選びます。
(写真1)トウ立ちしたホウレンソウ。長日期にはトウ立ちしないように晩抽性品種を選ぶ。
栽培のプロセス
1タネまき時期
作りやすいのは春と秋。タネまき適期は、関東平坦地(暖地・温暖地)で3~4月(春まき)、9月上旬~11月上旬(秋まき)です。
栽培カレンダー(中間地の場合)
2畑の準備
タネまきの1ヵ月前に1㎡当たり堆肥(たいひ)2㎏、苦土石灰100~150gを施して耕します。タネまきの前に、元肥として成分量でチッソ、リン酸、カリを春まきで各15g、秋まき年内どりで各20g、年明けどりで各25g施用します。耕うん後、畝幅約70㎝、高さ約10㎝の畝を立てます。水はけの悪い畑は畝をより高くします。
3タネまき
覆土(ふくど)の厚さが一定でないと発芽不良や不揃いになるので、タネまき前に畝の表面を平らにします(写真2)。条間15~20㎝で深さ1~2㎝のまき溝を作り(写真3)、1~2㎝間隔にタネをまき(写真4)、溝の両側から土を寄せて覆土し、鎮圧します(写真5)。乾いていれば水をやり、発芽まで乾かさないようにします。
(写真2)一定の深さにまき溝が作れるように、畝を平らにする。
(写真3)板切れなどで条間15~20㎝、深さ1~2㎝のまき溝を作る。
(写真4)1~2㎝間隔にタネをまく。
(写真5)両側の土を寄せて覆土し、鎮圧してタネと土を密着させる。
4間引きと追肥
本葉の出始めのころ、込み合っている所(写真6)を間引き、草丈7~8㎝で最終株間に間引きます。株間は、年内どりで約5㎝、年明けどりは3~4㎝、生育が早い春まきは5~7㎝にします。草丈が15㎝ほどになって葉色が淡い場合は、条間に速効性肥料を1㎡当たりチッソ、リン酸、カリを成分量で各3g施し、浅く中耕します。
(写真6)本葉が出始めたら込み合っている所を間引く。草丈7~8㎝で最終株間になるように間引く。
5収穫
草丈が25㎝ほどになったら地際から抜き取るか、刈り取って収穫します。秋まきは播種(はしゅ)後30日、冬は90日ほどで収穫できます。
こんな病害に注意!
平均気温15℃前後で、曇雨天が続くと「べと病」が発生しやすくなります。
適度な株間で風通しをよくし、チッソ過多にならないように。発生が見られたら薬剤を散布します。
上作のワザ!
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1
事前に土壌㏗を調整しよう
ホウレンソウは、土壌㏗が5.5以下になるとリン酸や鉄の吸収が阻害され、葉が黄化したり、生育が止まります(写真7)。これを防止するため、タネまき前に土壌㏗が6.0以上になるように石灰を施します。㏗試験紙や測定液などで計測しながら調整すると確実です。
(写真7)酸性土壌では葉が黄化したり、生育が止まる。
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2
大株どりにトライ!
通常、草丈25㎝くらいで収穫しますが、草丈30㎝以上にして収穫すると、より甘みや香りを感じられます(写真8)。これは葉身より葉柄(ようへい)部分の糖含量が多いためです。このように大きくして食べるのも家庭菜園の楽しみといえます。この場合の最終株間は6~8㎝と広めにします。
(写真8)草丈を大きくすると甘みが増す。
ミズナを作ろう!
1基礎知識
「キョウナ(京菜)」とも呼ばれる日本がルーツのツケナです。冷涼な気候を好み、寒さに強くて病害が少ないのが特徴。土質は選びませんが、ミズナ(水菜)といわれるように水を好むので、水分不足に注意します。収穫方法は、サラダやお浸しなどで食べる1株50gほどの小株どり、漬け物や鍋物用に1株1㎏ほどにする大株どりがあります。
2栽培のプロセス
① 畑の準備
関東平坦地の秋まきのタネまき時期は、小株どりで9月上旬~10月中旬、中株、大株どりは9月上旬~下旬です。
ホウレンソウ同様、堆肥と苦土石灰を施して耕します。タネまき前に元肥としてチッソ、リン酸、カリを1㎡当たり成分量で各15g施用して耕し、畝幅約70㎝、高さ約10㎝の畝を立てます。
② タネまきと管理作業
小株どりの場合、条間15~20㎝で深さ約1㎝のまき溝を作り、1~2㎝間隔にタネをまきます。コナガやアオムシ、ヨトウムシ類の被害を受けやすいので、タネまき直後には防虫ネットの被覆(ひふく)がおすすめです(写真9)。本葉2~3枚になれば株間6~8㎝に間引きます(写真10)。中株、大株どりの場合、条間30~40㎝で、株間は中株どりで約15㎝、大株どりで約30㎝とし、3粒ずつ点まきして本葉4~5枚で1本に間引きます。
タネまきの1ヵ月後と、大株どりの場合は12月中旬にもチッソとカリを1㎡当たり成分量で各3~5g、条間に追肥します。
(写真9)タネまき直後に防虫ネットをかける。
(図10)本葉2~3枚の間引き適期。
3収穫
秋まきの場合、タネまき後50~60日で草丈30㎝ほどになったら収穫します(小株どり)。トウ立ちしやすい春まきは小株で早めに収穫します。
上作のワザ!
間引き収穫で小株から大株まで長く楽しむ
間引き収穫をしながら株間を広げ、小株から大株まで長く収穫を楽しめます。条間15~20㎝でタネをまき、本葉4~5枚で株間6~8㎝に間引きます。草丈30㎝になるまでに間の1列を列ごと収穫し、残す列は1株おきに間引き収穫を繰り返しながら最終株間を30㎝に広げ、株張り30㎝程度の大株で収穫します。