ヘッドガーデナーの庭仕事ダイアリー チューリップ
「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」の見どころの一つといえるのが、チューリップが主役の春の景色です。チューリップといえばオランダのキューケンホフ公園が有名ですが、ムスカリやヒヤシンスなどと一緒に地面を色彩で埋め尽くすキューケンホフの花壇とは異なり、「A&Wボタニックガーデン」ではチューリップが咲くナチュラルな景色づくりをコンセプトにしています。毎年4万球もの球根を植え付けますが、ちょうど花期を迎えた花木や春の草花と美しく融合するようなレイアウト、品種選びを心掛けています。
では、いつ、次の春に咲かせる品種を決めるのか?じつはその春に咲いている景色を毎日眺めながら、すでに頭の中では来春のことを考えているのです。「ここはもう少しボリュームを増やそう」「こっちはボリュームダウンだな」など球根の球数について考えたり、「ここにはもう少し花が大きな品種が欲しい」「花色がもう少し鮮やかな方がいい」と具体的に品種の検討をしたり、また開花時期についても見直したり。それを書き留めたメモを見つつ、球根のカタログをチェック。8月にはすでに品種を決めてオーダー済みという具合です。
チューリップの品種選びで一番大切なのは、庭のコンセプトにあうものを選ぶこと。「かわいい」「元気」「エレガント」「シック」など、庭のコンセプトに合致するものを選び、さらにいつ咲かせたいのかを考えて開花時期を選びます。カタログを見ながら「これかわいい!」とその場の気分で選ぶと、庭全体を見た時に統一感がなくなることも多いので気をつけてください。
まずは植物の組みあわせをちゃんと考えること。春に咲く花木と組みあわせれば、視線が高くなって視野が広がるので、よりスケールの大きな景色を楽しむことができます。また、チューリップの開花初期には葉がまだ小さく、どうしても地面が見えがちです。美しい花色の中に土色が交じると、景色の美しさにとってはマイナス要因。カラーリーフや小花をグラウンドカバーに利用すれば、土色を消し去り、同時に花色とのコーディネートからより個性的な景色をつくることができます。
ナチュラルに見せたいなら、球根のレイアウトにも工夫が必要です。ポイントは同じ品種をグルーピングして植えること。小さな庭でも25〜30球程度のグループにして植えるのがおすすめです。塊で咲かせることで、より花色や花形を際立たせることができ、庭での存在感も大きくなります。
そしてどこにどの品種を配置していけばいいか。これは少し難しいのですが、一つルールを覚えておくとよいでしょう。キーワードは「関係性」です。隣あう品種には、花色が同じ、もしくは花色の一部に同じ色がある、または一重、八重、ユリ咲きなど花形が同じ、という関係性をもたせること。このルールで並べていけば、それぞれのグループにつながりが生まれ、流れるような景色が生み出せます。
チューリップは宿根草などと違い、毎年リセットできるのも魅力です。気に入った品種は定番とし、それに新たな品種を加えることで、新鮮な印象に庭を変えて楽しんでみてください。カタログで選んだ品種が、実際に咲いたら予想以上にすてきだったりすると本当にうれしいものです。
- 千葉県生まれ。北海道のガーデンで修行後、2002年より14年間「アンディ&ウィリアムス ボタニックガーデン」のヘッドガーデナーを務める。現在は新たな庭づくりに挑戦中。