暑い時期のタネまきポイント
主な秋冬どり野菜のタネまき適期は、7〜8月の暑い時期に集中しています。しかしながらここ数年、猛暑や小雨のために発芽や育苗で失敗する人が少なくありません。
ここでは、よくある失敗例四つと、それぞれの原因や対策を解説します。
- 1発芽不良
- タネが発芽をするためには、適度な水分と温度、そして酸素が必要です。しかし夏のタネまきでは、高温と水不足、強雨などで土の表面が固まることによる発芽不良が多く見られます。発芽適温(表1)に近づけるべく適度な遮光を行い、水やりや覆土なども適切に行うことが大切です。
- 2水切れ
- 夏のタネまきでは、高温と強い日射で苗や土から水分の蒸発散が多いため、発芽した苗が水不足でしおれてしまうことがあります。特にセルトレイ育苗は、1株当たりの培養土量が少ないので乾きやすく、水不足にならないような注意が必要です。
- 3苗の徒長
- 夏季は夜温も高く、夜間に水分や肥料分が多いと苗が徒長してしまいます。夕方には土の表面が乾くような水分管理が大切です。間引きが遅れても徒長するので、適期に間引きを行うことが大切です。
- 4害虫の被害
- 高温期にはアオムシやハイマダラノメイガ(シンクイムシ)などによる食害が多発します。直まきするものではむやみに早まきをしないこと、育苗では防虫ネットの被覆などによる対策が必要です。
秋冬どりの定番野菜であるキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ハクサイの育苗のポイントをご紹介します。
- 1主な育苗方法
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写真1 必要な株数が少ない場合は、同じトレイで 数種類の野菜を同時に育苗するのもおすすめ。キャベツやハクサイなどの葉菜類の育苗は、主に地床、ポット、セルトレイで行います(表2)。ここでは、狭い面積でたくさんの苗を育てることができるセルトレイを使った育苗法を紹介します。セルトレイは、定植する時の持ち運びが楽で、培養土が少量でよいなどのメリットがあり、トレイ1枚で128〜200株を育てることができます。用土は、通気性や保水性がよく、肥料分が入った市販のタネまき用培養土を使用すると便利です。
- 2タネまき適期と品種選び
- 早くまくほど病虫害や生理障害が発生しやすく、遅すぎると作物が十分な大きさに育ちません。タネまき適期は短いので、お住まいの地域ごとの適期にあわせてタネをまいてください(表3)。早めにタネをまく場合は、病気に強くて生理障害が出にくい早生や中生種を、遅い時期にまく時は晩生種や耐寒性の強いものを選びます。
- 3タネまきとその後の管理
- 写真2 発芽までは軒下など涼しい場所で管理する。セルトレイに培養土を詰めた後、指などで深さ1cmほどの穴をあけ、各穴に1〜2粒タネをまいて覆土をします。その後たっぷり水やりします。ピートモスの多い培養土は水をはじきやすいので、トレイの底から水が出るくらいまで十分散水します。気温が30℃以上の場合は、発芽まで家の北側や軒下などに置いておく(写真2)、遮光ネットを被覆する、などにより発芽適温に近づける工夫をします。発芽後は雨の当たらないハウスなどに移動します。根が土の中に伸びたり、隣の株と絡まないように、すのこなどの台の上に置き、地面から浮かせて管理します(写真3)。
写真3 トレイは地面に直接置かず、台などの上に置いて管理。類の野菜を同時に育苗するのもおすすめ。
水やりは朝に行います。晴天で気温が上がった日には昼ごろにも水やりしますが、夕方には土の表面が乾く程度とします。曇天や雨天の日は、乾いた部分のみ行います。生育が遅い所や乾きやすいトレイの外側は多めに水をかけ、全体の生育を揃えます。
- 4間引き・追肥
- 5定植
- 子葉が開いたら1穴1本に間引きます。その際、子葉がハート形のものを選びます。間引き時期が遅れると徒長の原因になるので、遅くても本葉1枚までに間引きを終わらせます。二葉期ごろになり、子葉の色が淡くなってきたら水で薄めた液体肥料を水やり代わりに与えます。定植する当日もしくは前日に液体肥料を与えておくと、定植後の活着が早まり、その後の生育もよくなります。
- 写真4 根鉢が回った定植適期のハクサイ苗。根鉢ができ、株元を持って引き抜いても土が崩れなくなったら定植します。128穴のセルトレイであれば、3〜4葉期になれば根鉢ができます(写真4)。定植前には苗に十分に水をやり、定植後は子葉の下まで埋まるくらい深植えにして土を寄せておくと、風で胚軸が折れるのを防ぎ、スムーズに活着します。
直まきをする主な秋冬どり野菜のニンジン、ダイコン、カブのタネまきのポイントをご紹介します。
- 1タネまき時期と品種選び
- ダイコンやカブは、早まきするとハイマダラノメイガやキスジノミハムシの被害が多発します。ニンジンでは黒葉枯病やネコブセンチュウの被害を受けやすく、変形根が多くなります。これらの失敗を防ぐには、タネまき適期を守ることが肝心です(表4)。ちなみに適期の後半にタネをまくことによって害虫も減り、無農薬栽培も容易になります。
品種は、早めにタネをまく場合は病気に強くて生理障害が出にくいものを選び、遅い時期にまく場合は耐寒性の強いものを選ぶとよいでしょう。
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写真6 タネまき後の地面を切りわらで覆うのも 効果的。写真5 もみがらで水分保持を図り、発芽を促進。
- 2タネまき
- ダイコンやカブは、土壌水分が少なめでも発芽しますが、ニンジンは吸水力が弱いため、土壌水分が発芽を大きく左右します。土を手で握って開いた時に崩れない程度の土壌水分であれば、そのままタネをまきます。土が乾いていれば、水やりが必要です。タネまき後に大量に水をやると土が固まって発芽しにくくなるので、タネまき前に1m2当たり30〜40L水をやり、土の表面が少し乾いてから軽く表面を耕します。ダイコンは点まき、カブとニンジンは点まきと条まきが行われます。覆土の厚さは、カブが0.5〜1cm、ダイコンは1〜1.5cm、ニンジン(ペレットタイプ)は、粘質土では0.5cm火山灰土や砂質土ではやや深めの1cmを基準とし、土が乾きぎみであまり畑に行けないようなら2cmほどにして、タネを多めにまきます。覆土後、タネと土が密着するように手や板、クワなどで鎮圧します。もみがらや切りわら、不織布のベタがけなどをすれば土壌水分が保たれ、発芽しやすくなります(写真5・6)。
- 3発芽までの管理
- ダイコンやカブは、土壌水分が適度であれば3〜5日で発芽します。ニンジンの場合、高温が続くようなら発芽まで2〜3日おきに1m2当たり10〜20Lほど水やりします。ペレット種子は、いったん吸水した後に乾くと殻がかたくなって発芽しにくくなるので、乾かさないように注意してください。土壌水分が適度であれば、5〜7日で発芽が揃います。タネまき後、強い雨にたたかれて土の表面がカチカチに固まってしまった場合は、タネの近くの土を棒などで砕いてやります。カブは、タネまき後に防虫ネットをトンネル被覆しておけば虫害を防止できます。
- 4発芽後の管理
- カブは本葉1〜2枚時に、ダイコンとニンジンは4〜5枚時に間引きをします。葉の形がいびつなもの、
病気の兆候や虫食いの穴のあるもの、生育が劣っているものから間引いて、適正な株間にします。
暑い時期のタネまきを成功させるためのおすすめアイテムをご紹介。どれも失敗を防ぐために役立つ資材ばかりなので、ぜひ活用してみてください。
- 「遮光資材」で日よけ
- タネまき後の畝に遮光資材をベタがけしたり、トンネル被覆すると発芽が安定。近年の猛暑下では、発芽したニンジンが高温で枯れてしまうこともあるが、本葉が出るころまで遮光資材を被覆しておくと高温による立ち枯れ防止にも役立つ。
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土壌の乾燥を防ぐほか、強い雨にたたかれて 土が固まるのを防げる。発芽適温に近づけるために、遮光資材で日光を 遮ると発芽が安定。
- 「防虫ネット」で虫害を防ぐ
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ネットは害虫が入らないように、裾をしっかり留めて おくのがポイント。キャベツなどアブラナ科の野菜はハイマダラノメイガやアオムシなどの大好物だが、防虫ネットを被覆しておけば被害を防げる。カブでは、タネまき後に0.4mm目合の防虫ネットを被覆して、ハイマダラノメイガやキスジノミハムシなどの侵入を予防する。
- 「ポリマルチ」で病気を防止
- 光を反射するシルバーマルチは、病気を媒介する アブラムシよけに効果的。ダイコン栽培ではしばしばアブラムシが媒介するモザイク病が問題になる。そこで地温が高い9月5日ごろまではシルバーマルチ、その後は黒ポリにシルバーのストライプマルチを使うと、反射光を嫌うアブラムシよけに効果がある。