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この秋、おすすめの宿根草

この秋、おすすめの宿根草
 一度植え付けると、環境があえば数年繰り返し花が楽しめる宿根草は、庭づくりのベースとなる植物です。
春からのガーデン計画は秋冬から考え、お気に入りの宿根草を確実に入手するのがおすすめです。
そこで、最近注目の品種や新登場の品種をピックアップ。その特性や上手な使い方をご紹介します。

宿根草を長く楽しむために適した土壌環境を整えよう

  多年草の中から、ラン類、球根類など特徴的な生育形態をもつグループを除いて、日本の場合は冬を越えて翌春に次の生長をするサイクルを数年以上続ける植物を宿根草といいます。宿根草には、冬に地上部が枯れるタイプ、冬も地上部が枯れないタイプ(ジギタリス、ダイアンサスなど)があります。ただし、気候や土壌などの環境に大きく影響を受けることもあり、本州では宿根草ですが、北海道では寒さに耐えきれずに一年草として扱う種もあります。
  北米では目安としての栽培可能エリアを「ハーディネス(耐寒)ゾーン」「ヒート(耐暑)ゾーン」などの数値で表示しています。日本でもこの方法に統一できればよいのですが、土壌(用土)の質(特に庭植えの場合)が地域により異なるので、なかなか難しいものがあります。例えば、関東の耕土の深い土壌では、少しの有機物を加えて軽く耕すだけでよいことが多いのですが、所によっては小石の混ざった山砂質のしまりやすい土質があり、そんな所ではもう少し土づくりに工夫が必要となります。まず、有機物と石灰分を植え付け株よりかなり広く、深く施し耕します。また、平地では植え付け位置を周囲より少し高く盛ります。これは宿根草が毎年すくすくと生長するために必要な根を育てる工夫です。
  土壌環境が整えば、庭植えは根付け2年目以降、1年に一度くらいの施肥でも十分に育ってくれますので、その点では省力的な植物といえると思います。

宿根草の大きな魅力を庭づくりに生かそう

  宿根草には一年草や花木にはない魅力があります。どんな魅力か、簡単にまとめてみました。

  • 一度植えると数年かそれ以上、毎年よく育つ。
  • 新芽の季節、花の季節など、季節感を味わうことができる。
  • 種類が多いのでさまざまな草姿に育ち、さまざまな土地条件にあう植物を選ぶことが可能。
  • 一年草、球根類、多肉類などほかの植物との組みあわせで、デザイン性豊かな庭やコンテナガーデンなどがつくれる。

  これらの大きな特長から、欧米では庭づくりのベースとなる植物として欠かせない存在となっています。近年の傾向として、切り花で楽しめる宿根草、日陰に強い宿根草、温暖化の影響からか暑さに負けずに花を楽しめる宿根草のニーズがより高まってきているように感じています。まずはご自分の庭の環境をしっかり把握し、それに応じた植物を選んでいただければ、庭で季節を感じる時間をより楽しめると思います。

メリティス メリソフィラム

  ヨーロッパ原産の1属1種の落葉性宿根草。春に株姿がよく整って伸びた茎の葉の付け根(葉腋)に、ウチョウランの花を大きくしたような印象的な花をつけます。
  株は春に萌芽し、春植えで高さ40〜50cm、株張り30〜40cmくらいに育ちます。通常、このサイズがほぼ最大値のようで、乱れの少ないまとまった株姿に育つので、花壇のポイントとして大変使いやすい植物です。
  耐陰性もあるので、暖地では夏季の葉焼け防止のためにも西日の当たらない半日陰で栽培するとよいでしょう。植え付け用土(土壌)は、有機質を含む肥沃で水はけのよいものが適し、3年に一度、10〜11月初め、または春の芽出し前に株分けし、株の若返りを図るとよいでしょう。

メリティス メリソフィラム
白と濃ピンクのツートーンの花が愛らしく、
葉に芳香がある。

ジギタリス「イルミネーション」

  イングリッシュガーデンで定番のジギタリスは、日本では短命な宿根草として知られ、多くの場合はタネから育てられています。
  今回ご紹介する「イルミネーション」はイギリスで育成されたもので、園芸種のジギタリスと、北アフリカの大西洋に浮かぶカナリー諸島の固有で、ジギタリスの近縁種「イソフィレクシス カナリエンス」との種間交雑により誕生したものです。花色がとても鮮やかで、筒状花の内と外で花色が異なり、そのコントラストの美しさが非常に魅力的です。花茎は60cmくらいの高さで草姿のまとまりもよく、分枝性があり側芽にもよく花をつけるので、観賞期間が長いなど優れた特長があります。それが評価され、「イルミネーション ピンク」が英国王立園芸協会(RHS)主催のチェルシーフラワーショーで2012年に「プラントオブザイヤー」を受賞しています。
  耐寒温度はマイナス7℃くらいで、南東北以西では庭植えが可能です。有機質を混和した適度に水もち・水はけがよい用土で、夏の強い西日を避けられる場所が理想的です。鉢植えでは根の回りが早いので、秋に植え替えするのがおすすめです。そのほかは一般のジギタリスに準じた栽培方法でかまいません。

  • イルミネーションラズベリー
    鮮やかなラズベリーピンクがしゃれた印象の
    「イルミネーションラズベリー」。
  • イルミネーションピンク
    サーモンピンク地に濃ピンク覆輪が新鮮な印象の
    「イルミネーションピンク」。

フィソステギア「秋祭り」

  「カクトラノオ」の和名でも知られ、適度に保水性があり、日当たりのよい環境を好みます。丈夫な性質で手間がかからないため、よく庭の隅や畑の角地などで元気に育っているのを見かけます。また、夏の切り花にもよく利用されます。
  この「秋祭り」は、秋咲きのコンパクトタイプに改良したもので、深いラベンダーピンクの花色が鮮やかで、花もちのよい品種です。高さは鉢で40〜45cm、庭で50cmくらいに生長します。高さが出る植物が少なくなる時期にコンテナや庭のポイントに使うと効果的でしょう。性質は強く、一度植えると毎年少しずつサッカー(吸枝)を伸ばして広がりながらよく花をつけます。耐寒性は強く、適度に保水性がある土壌では耐暑性も十分ありますので、ぜひ注目していただきたい品種です。

フィソステギア「秋祭り」
「秋祭り」は一般種に比べ、非常にコンパクトで扱いやすいのが特長。

ユーフォルビア

  「燈台草」の和名から想定できることは、燈台が建っているような切り立った海岸の崖ぎわに咲く姿。したがって開けて風通しよく、日なたで、水はけよく肥料成分が少ない、などの栽培管理方法が見えてきます。特にアミグタロイデスなどの木立ち性種ほどそんな特性が当てはまるようです。今回は2種の注目品種をご紹介します。

アミグタロイデス「フロステッドフレーム」

  クリームがかった白の覆輪斑入り葉が、日なたではブロンズ色を帯びます。さらに晩秋からは赤みを増し、異なった色調に発色する色の変化が非常に魅力的な品種です。耐寒性種で少雪地域から無雪地帯では年間を通してその変化を楽しめます。春には黄色の覆輪状にクリームの斑が入った盃状の苞が美しく咲き見事です。草丈は30〜50cm、株張りは30cmくらいです。

フロステッドフレーム
赤みを帯びた葉色が華やかなアミグタロイデス
「フロステッドフレーム」。

ポリクローマ「ボンファイヤー」

  落葉性のユーフォルビアで、春に芽吹くブロンズ色を帯びた茎葉と、その頂部につける黄色の苞が美しい耐寒性宿根草です。株姿の乱れが少なく、庭では行儀がよく扱いやすい植物です。また、茎葉のブロンズ色は花後(夏季)の新芽が赤みを帯びて美しく、カラーリーフプランツとして利用できます。草丈は40〜50cm、株張りは40〜50cmです。

ボンファイヤー
まぶしいほどに輝く黄色の苞が魅力的な
ポリクローマ「ボンファイヤー」。

ガウラ

  「白蝶草」の和名をもつガウラ リンドハイメリー(Gaura lindheimeri)ですが、欧米を中心にコンパクト化や、近年の覆輪花の発表など園芸種として確実な進化が見受けられます。これは10数年前にアメリカで初のピンク花「シスキューピンク」が発表されたことが大きなきっかけとなっています。私も幸いそのころから高さ1mほどにも伸びる花茎のコンパクト化と花色の幅を広げたいと考え、オランダのピーター・ローマス氏の育成選抜種である大輪白花種を「シスキューピンク」と交配することから始め、早々にコンパクトタイプの草分け的品種である「チェリーブランデー」を世に送り出すことができました。さらにバイカラー咲き種の「コロナ」を発表し、皆さまから好評をいただきました。
  最近の注目種は、コンパクト化と花色や茎葉の発色に違いがありながら、育ち方や草姿などがほぼ同一な「フェアリー」シリーズです。3色ある中で、特に白花種「イノセントフェアリー」は茎葉にまったく赤みがなく、春から初夏のころに葉の表面に出やすい褐色斑点もまったく出ない品種です。さらに現在、覆輪咲きやカラーリーフプランツとして草姿が美しい品種などの発表を考えていますので、楽しみにしていてください。

  • フェアリーズソング
    ピンク花の「フェアリーズソング」は、
    名前の通り妖精が歌うように可憐な印象。
  • イノセントフェアリー
    「イノセントフェアリー」は、草丈25〜40pと、
    白花のガウラの中で一番コンパクト。

コレオプシス

   アメリカでの品種改良が進み、原種系の選抜種中心だった園芸種が、ここ10年の間にさまざまな改良なども加わり、多くのハイブリッド種が誕生しています。初期のころは主に耐寒・耐暑性を有するヴァーティシラータ(verticillata)種などと、花色鮮やかな一年草との交雑から現在も流通しているバラエティーが生まれ、それらをベースとして次々と品種ができたのです。
  その中でも注目なのが「ライムロック」シリーズです。コレオプシスの今日の品種改良の草分け的品種である本種は、アメリカはニューヨーク州、ライムロックナーセリーの育種品種です。ブルームスブランドの宿根草ですが、当初3品種で発表され、日本では栽培生産している過程ですでに2品種が加わり、今後新たに3品種を品種登録する予定と、さらなる充実ぶりです。
  暑さに強い特性から夏花壇に適し、切り戻しすることで、夏季約3週間、秋季約4週間で再び花をつけ、降霜のころまで繰り返し楽しめます。切り戻すことで下部の芽の発芽を促す効果があり、冬越ししやすくなることも期待できます。ただし、耐寒性はマイナス5℃程度なので、寒冷地では防寒が必要となります。

  • コレオプシス
    鮮やかな花色が印象的な「ライムロック」シリーズは、夏の庭にエレガントな華やかさをもたらしてくれる。

アンテリナム

  アンテリナムとはキンギョソウのことで、中でも宿根キンギョソウの「シルバーストライプ」という品種が注目です。立性でシルバーを帯びる斑入り葉と、ピンクの大輪花が美しいアンテリナム マジャス(Antirrhinum majus)の選抜育成品種です。本種は2011年度RHS主催の家庭園芸ショーのプラント部門で、ゴールドメダルを受賞(ダービーナーセリー)し、欧米では「エターナル」の名前で出回り、特にイギリスでは人気の植物となっています。
  花茎50〜60cmくらい、株張り30〜40cmでまとまりよく育つことも特長で、庭植えでは日当たり・風通しがよい場所で、肥沃で水はけのよい土壌でよく育ちます。秋の開花終了後に株元の芽を残して切り戻すと、翌春に再び伸びだした茎にボリューム感ある花をつけてくれます。植物の性質上、短命な宿根草なので、2年に一度は挿し芽で更新を図るとよいでしょう。鮮やかな花色はインパクトがあるので、コンテナガーデンでは主役として利用できます。

シルバーストライプ
「シルバーストライプ」は、葉の美しさだけでなく、花色の鮮やかさも魅力。低温期は葉の白斑が桃色に染まる。

ベロニカ

  「トラノオ」の和名でも知られる長槍形穂状花で、青紫色、青色、桃色、赤色、白色の花があり、草丈の高い品種は切り花として古くから生産販売されてきました。うどんこ病やアオムシなどの食害を防げば特に大きな病害虫がなく、丈夫で栽培しやすいことが切り花生産に適していたためでしょう。
  今回はごく最近育成された注目の品種をご紹介します。ベロニカでは初と思われる房咲きタイプのシリーズから2シリーズを取り上げます。どちらも新しい特性をもつ新品種群なので、アイデア次第で、庭でも鉢植えでもさまざまな使い方が楽しめると思います。

「ブルーボム」「ピンクボム」

  房咲きタイプで、茎長35〜40cmくらいのコンパクトタイプです。株のまとまりがよく、鉢植え、庭植えどちらにも向き、花のボリューム感は特筆ものです。また、切 り戻しで2番花も期待でき、初夏から秋まで花をつける特性もあり、ぜひ栽培してみたい品種です。

  • ブルーボム
    青紫の房先きがボリューム感たっぷりの
    「ブルーボム」
  • ピンクボム
    「ピンクボム」は上品で涼やかな透明感ある
    ピンク色が魅力。

「エクスプロージョン」シリーズ

  庭植えで草丈50〜60cmに伸び、ボリュームある房咲きが楽しめます。花色はパープル、ブルー、ライトピンクの3色で、切り花としても注目したい品種です。このシ リーズでも2番花が期待でき、一度目に咲いた花を切りとると、夏から秋に再び花茎を伸ばし、花をつける特徴があります。

  • パープルエクスプロージョン
    「パープルエクスプロージョン」は、和の
    趣がある落ち着いた色あいが魅力。
  • ブルーエクスプロージョン
    ボリュームある房咲きが新鮮な印象の
    「ブルーエクスプロージョン」。
細貝 要平

細貝 要平
新潟県の園芸会社で取締役園芸部長を務める。ボケの品種改良のほか、現在は宿根草の品種改良を手掛け、そのいくつかは海外でも高い評価を得ている。また、新潟産の花木の育種にも着手。常に消費者のニーズに沿った育種を心掛け、産地の活性化のために奮闘中。