夏の果菜作りに向けた土づくり
「同じ畑で年中野菜を作り続けると、畑の土がかわいそうだから、たまには何も作らずに土を休ませてやろう」と思っている人が、結構いらっしゃいます。野菜作りのプロである農家でさえ、そう思う人は少なくありません。確かに、土を人にたとえて考えるとそうなるのかもしれませんが、土と人とは違います。休耕は決して土のためにはなりません!
なぜでしょう?
まず、裸地では、土の表面に直接雨が当たり、つぶつぶの土(団粒)が壊されてしまいます。それに、土がむきだしでは見た目にもよくありませんね。
また、雨が土の中に染み込むとせっかくの養分が雨水に溶けて下層に流れてしまいます。雨で流される養分とは、チッソ(硝酸)・カリウム(カリ)・カルシウム(石灰)・マグネシウム(苦土)などです。それらの養分が流れるともったいないだけではなく、土が徐々に酸性になってしまいます。
10月下旬まで葉根菜類を収穫した菜園では、地域にもよりますが、春の果菜類の定植までにもう一作、葉菜類を作付けすることをおすすめします。
じつは、私の唯一の趣味がガーデニングで、川崎市の家庭菜園で野菜を作っています。毎年5月下旬〜6月上旬にニガウリを定植し、10月まで収穫します。その後、11月上旬にコマツナやホウレンソウなどを播種すると、3月上〜下旬に収穫できます。この時期の葉物は厳冬期の霜に当たっているため、糖度が高くビタミンC含有量の多い、いわゆる「寒締め野菜」です。それに農薬も不要です。4月から再びニガウリを定植するまでが、春一番の土づくり作業となります。
関東以西では11月に葉菜を播種しても春先までに収穫できますが、寒冷な地域では困難ですので、その場合は秋野菜の収穫をできるだけ遅くして畑を裸地にする時間を少なくした方がよいでしょう。
また、低温期には土壌微生物も活動が鈍くなるので、本格的な土づくりは地温の高まる春先からになります。
「土づくり」とは、肥料や堆肥をたっぷり施すことと思っている人が多いようですが、これも誤りです。土づくりとは「土を健康にする」あるいは「健康な土をつくる」ことで、具体的には土の「物理性」「化学性」「生物性」を整えることです。これを「土の三位一体」といいます。詳しくお話ししましょう。
土壌物理性のよい土とは、水はけと水もちのよい土で、具体的には土の粒子が図1のような団粒構造になっていることです。団粒内部の小さなすき間には水が蓄えられ、団粒間の大きなすき間には水が貯まらず地下に流れるため、地表から新鮮な空気が入り込みます。団粒構造が発達していれば、根が伸びやすく水と酸素を十分に吸収することができます。
また、土壌化学性のよい土とは、土の酸性度合を示すpHと、チッソ(N)・リン酸(P)・カリ(K)などの養分量が適切な土です。一般に野菜の生育に適したpHは6.0〜6.5です。養分量は土の種類や栽培する野菜により異なります。元来、日本の土は痩せて養分が少ないのですが、長年野菜栽培を続けると徐々にリン酸やカリなどの養分が貯まり続けて、やがてメタボな土になってしまいます。土壌物理性のよしあしは目で判断できますが、残念ながら土壌化学性を目で判断することはできません。
土壌生物性のよい土とは、多種多様な動物や微生物が生存できる土です。土壌動物や微生物が土の中で活発に働くためには、まず快適な居住環境が必要です。土壌微生物には空気を好む好気性微生物と、嫌う嫌気性微生物がいます。土が団粒構造になっていれば、図1のように団粒の内側に嫌気性微生物、外側に好気性微生物が繁殖して、性質の異なる微生物が同居(すみ分け)できます。また、土壌pHは中性付近であることが最適です。
次に、必要なものが「えさ」です。有機質肥料や堆肥などの有機物を適切に施せば、それらがおいしい「えさ」になります。有機物の補給は団粒形成にも役立ちます。
結局、土の三位一体を保つには、土壌の物理性と化学性を整え、適切な有機物を補給することが大切で、それが「土づくり」の基本なのです。
目には見えない土の化学性のよしあしを判断するには、土の健康診断(土壌診断)が必要です。
春の果菜類を定植する1カ月前くらいまでには土壌診断を行いましょう。そのためには、誰でも、いつでも、どこでもできる土壌診断キット「みどりくん」をおすすめします。2種類の試験紙を使って、わずか5分あれば、土のpHとチッソ(硝酸態チッソ)・リン酸・カリの分析を行うことができます。
診断の結果によって、土のpHが6.0より低い場合には、石灰資材を施用して酸性を改良します。市販されている石灰資材には、苦土石灰(苦土カル)、消石灰、有機石灰(かき殻)などがありますが、カルシウム(石灰)とマグネシウム(苦土)がバランスよく含まれている苦土石灰をおすすめします。
苦土石灰の施用量の目安は、土のpHが6.0の場合には100g/m2、5.5の場合には250g/m2、5.0の場合には500g/m2です。菜園の表面に均一に散布して、よく耕してください。また、苦土石灰は水に溶けない石灰資材ですので、必ず混和しましょう。
このような土の酸性改良は、秋野菜収穫後から春果菜定植の1カ月前までの間に行います。
次に、チッソ・リン酸・カリの分析値から果菜の元肥量を決めます。3要素がすべて欠乏していれば、園芸書などに書かれている元肥量を基本として足りない量を施しますが、長年野菜栽培を続けている菜園では、リン酸やカリが過剰になっていることがあります。
そのような場合には、チッソだけを含む硫酸アンモニウム(硫安)や尿素のような化学肥料が合理的ですが、有機栽培にこだわるのであれば、チッソに比べてリン酸とカリが少ない油かすを施すのがよいでしょう。具体的な、施肥量の決め方については表1を参考にしてください。
園芸愛好者には有機栽培にこだわるあまり、化学肥料を使わないという人が多いのですが、収穫物の収量や品質の向上を考える場合、それは間違いです。化学肥料を上手に使ってこそ、土の「化学性」を整えることができます。しかし、「物理性」と「生物性」を整えるには有機物の補給が不可欠です。
具体的な有機物の補給方法としては、有機質肥料や堆肥、あるいは腐葉土などが一般的ですが、有機質肥料と牛ふん堆肥や発酵鶏糞などは肥料でもあるので、施しすぎるとリン酸やカリが過剰になり「メタボな土」になってしまいます。その点、肥料成分が少ない腐葉土は「メタボな土」にも適する有機物です。
私の自宅では、ニガウリ収穫後の11月にコマツナを播種して翌年の3月前後に収穫しますが、間引き収穫をして株の半分くらいは残します。その後、花芽が出ますのでそれも半分くらい収穫します。その後はナノハナ畑になります。
黄色い花を楽しんだ後に鎌などで細断してから「緑肥」として菜園にすき込みます。その際、菜園全体にすき込んでもよいのですが、野菜を作付けるまでに3〜4週間放置しなければなりません。そこで、図2のような溝施用をすると、野菜の作付けまでの期間が短縮できます。
このような緑肥は土壌微生物のおいしいえさとなります。その分解生成物の働きで土をやわらかくする効果、あるいは抜群の団粒促進効果が発揮されます。なお、アブラナ科植物にはグルコシノレートという成分が含まれています。これが土の中で殺虫・殺菌効果をもつイソチアシアネートという物質に変化します。最近ではカラシナの仲間であるキカラシやシロカラシを栽培し、緑肥としてすき込むことにより土壌中の病原菌やセンチュウを防除する土壌くん蒸剤の代替物として注目されています。
おいしい野菜は健康な土づくりから。さあ菜園の土を自らの手で健康にして、春からの野菜づくりに備えましょう。