山菜・薬味野菜の栽培方法・育て方を解説
すがすがしい香り、独特の苦みや甘みが料理を引き立ててくれる山菜や薬味野菜は、
おいしさとともに季節の細やかな旬を食卓に届けてくれます。
山菜も薬味野菜もとれたての新鮮なものほど風味が強くおいしいもの。
自分で栽培して、市販のものでは味わえない格別のおいしさをぜひ堪能してください。
今回は人気の高い7種について栽培方法を詳しくご紹介します。
ショウガ科の多年草で、日本では全国各地で古くから栽培されています。花ミョウガとミョウガタケの栽培に分けられ、花ミョウガは地下茎の先端に形成された花序(花蕾)を食用とし、ミョウガタケは地下茎から出た幼茎を軟化したものです。花ミョウガは薬味や汁の実、漬け物、甘酢漬け、ナスや菜類とのみそ和えなど幅広く利用されます。ミョウガタケは刺身のつまなどに利用されます。
東日本では群馬県の東吾妻町と高崎市倉渕町、西日本では高知県安芸郡と須崎市、奈良県五條市が有名で、露地栽培を中心にハウスによる半促成や促成栽培も行われています。夏に花蕾が出る早生種と秋に花蕾が出る中生種・晩生種があり、群馬県の「陣田早生」の系統選抜による品種がよく利用されています。
花蕾がふっくらして紅色に色づいたら収穫適期。
写真は9月中旬から11月上旬に収穫できる秋ミョウガ。
植え付け
地下茎を利用する場合と、間引き茎を利用する場合があります。前者の場合は植え付け後4年目ごろから茎数が増加して込みあい、品質と収量が低下するので、土の凍結層が溶ける3月下旬〜4月下旬に畝間の間引き(幅40cm)を行い、その地下茎を新たに植え付けます。
植え付けの方法は、1m2当たり150〜200gの地下茎を準備し、畝幅120cm、地下茎の頂芽間隔15cm程度の2条植えとします。夏の高温・乾燥に弱いので、根株の乾燥を防ぐために、5cmほど覆土をしますが、乾燥しやすい畑ではやや多めに覆土するとよいでしょう。
植え付け後の管理と収穫
冬季に落ち葉を畝全面に薄く敷き込んで防寒します。
花ミョウガの収穫は早生の夏ミョウガで6〜9月、秋ミョウガで9月上旬〜11月上旬です。どちらも紅色に着色し、よくふくらんできたら収穫適期です。なお、4〜5月に若芽を収穫してもおいしく食べられます。
サンショウはミカン科の落葉低木で、花、実、樹皮、幹などが食用や漢方などに幅広く利用でき、捨てる部分はありません(表1)。
イチョウのように雌雄異株で実のなる雌木と実のつかない花だけの雄木に分かれており、虫や風を媒介とした受粉が期待できない都市部では、結実させるには雌雄を混植させる必要があります。雄木1本に対し、雌木は10本くらいまで殖やせます。また忌地性があり、連作を嫌い、突然変異や枝変わりという変異性をもっています。実を目的とする場合は実サンショウ、花を目的とする場合は花サンショウを栽培します。
傾斜畑や台地、山麓などで栽培されるのが一般的ですが、家庭菜園では鉢植え栽培が管理しやすくおすすめです。今回は鉢植え栽培の方法をご紹介します。
突然変異で生じた枝のトゲがない「朝倉山椒」は、香りが強く人気が高く生果利用におすすめ。
実がブドウのようにたわわにつく「ぶどう山椒」。主に乾果として利用される。
[表1]サンショウの部分別用途
植え付け
鉢は直径45cmくらいの大きな素焼き鉢がおすすめですが、古材などを利用してプランターをつくっても、おもしろいと思います。用土は植え付けの2週間前に準備しておきます(図1)。その時、肥料はよく混合し、植え付けまでに3〜5回切り返しを行って土とよくならしておきます。鉢に用土を入れて苗木を植え付けますが、深植えにならないよう、接ぎ木部が見え隠れする程度に植え付けることが大切です。
図1 植え付け方法
植え付け後の管理
夏から秋は屋外で管理しますが、冬から春にかけては室内で管理するとよいでしょう。冬季の水やりは午前10時ごろまでに行うようにします。表土を水ゴケや敷きわらで覆い、土壌を保護するとよいでしょう。
植え付け後、毎年12月上旬に冬季剪定を行います。まず整枝を決定し、それによって年次計画を進めていきます。樹形は盃状矮化仕立てなどがよいでしょう。
図2 整枝・剪定(盃状矮化仕立て)
収穫
サンショウの鉢植え栽培では植え付け3年目には収穫期に入りますが、少し実がなる程度で収量はまだわずかです。むしろもう1年辛抱して3年目は摘花しておくと、木の生長が旺盛となり、4年目には1〜2kgとれるようになります。花サンショウでも4〜5年すれば1kgくらいとれるようになります。
実サンショウの貯蔵
実サンショウの貯蔵には冷凍、塩漬け、みりん漬け、酒・焼酎漬け、佃煮などがあります。塩分濃度を調整することで保存期間を調節できます。貯蔵した実サンショウはさまざまな料理に利用できますが、佃煮にする場合は、子房が乳白色の状態(完熟期に80%近づいたころ)が収穫適期で、この期間は5〜7日ほどです。褐色や黒色になってからでは遅いので注意してください。
フキはキク科の多年生植物で、早春の味覚として知られるフキノトウはフキの花芽のことで、葉柄をフキと呼んでいます。雌雄異株で、野生のものは雌株と雄株がほぼ1対1の割合にあります。最近人気が高い「山フキ」は野菜の中でも数少ない日本原産の伝統野菜で、独特の芳香と風味があり、日本料理の代表的な素材として古くから利用されています。本州北部に自生する「アキタフキ(秋田水フキ)」や選抜系統の「愛知早生フキ」などもあります。
フキは収穫初期のものは豊かな香りを生かして薄味で煮るのがおすすめです。また、収穫盛期のものは塩蔵にしたり、佃煮やみそ煮などにして保存食として利用できます。まんべんなく栄養素を含むことから健康野菜としても珍重されています。
愛知県で選抜された系統の「愛知早生フキ」は生育旺盛で収穫量も多い。
植え付け
入手したポット苗を植え付けますが、フキは地下茎とともに年々殖えていきます。2年目以降は、先端に芽のある地下茎を2〜3節に切って畝幅120cm、株間15cmで植え付けます。冬に元肥を施し、土とよく混合しておきます。良質の堆肥を確保し土づくりをしておくことが大切です。肥料の三要素量は1m2当たりチッソ12g、リン酸13g、カリ11gのバランスで施用します。15cm間隔に芽が上を向くよう苗を配置し、芽の先端が少し土から出るくらい浅く覆土します。その後、乾燥防止のために、落ち葉や敷わらで覆っておきます。
植え付け後の管理と収穫
落ち葉や敷わらの被覆を十分にすれば雑草の防除の手間が省けます。白絹病、灰色かび病、フキノメイガ、ヨトウムシが発生することがありますので登録農薬を散布します。
フキの収穫は、「山フキ」と「愛知早生」は5〜6月、大型種の秋田フキは6〜8月です。上手に育てると山フキで1m2当たり0.8〜1kgの収穫ができます。
ワラビはコバノイシカグマ科の多年生シダ植物で、ヨーロッパ、北アメリカ、東アジア、ロシアなど世界中に広く分布しています。日本国内でも小笠原以外の全国至る所に生息し、亜寒帯、温帯、亜熱帯と広く分布しています。全国の平坦地から高冷地にかけての山野や草地に群生し、日当たりのよい場所に多く見られます。春から初夏にまだ葉の開いていない若芽を収穫して食します。生のままではアクが非常に強いので、必ず木灰などを入れた熱湯でアク抜きしてから食べます。アクが少なく食べやすい「あくなしわらび」という品種もあります。
紫ワラビの系統でおいしさが人気の「くろわらび」。
アクが少ない希少種の「あくなしわらび」。
植え付け
地掘苗を入手し、1年目は収穫せずに養生して太い活力のある苗にし、2年目以降から収穫します。日照時間が長く、水はけのよい肥沃地が適し、保水力のある埴質壌土が適し、酸性土壌を好みます。植え付けの1週間前までに良質の推肥を混ぜて土づくりをし、幅60〜90cmの畝をつくり、深さ10cmの植え溝を掘って根株を1列に並べ、5〜10cmほど覆土します。
植え付け後の管理と収穫
植え付け後、畝の上に2〜3cmの敷きわらをし、除草も行います。夏場には5〜7日ごとに水やりします。
2年目以降は、3月下旬〜4月上旬に堆肥や敷きわらを2〜3cmの厚さに敷きます。収穫は1年目はせず、2年目に70%程度、3年目から1m2当たり600〜800gの収穫を目指します。
ウドはウコギ科の多年草で山野に自生します。すがすがしい芳香は昔から人気が高く、春を代表する山菜の一つで、江戸時代にはすでに畑での栽培が始まっていたといわれています。また、軟化栽培も研究され、普及するようになっています。北海道、本州、四国、九州に分布し、平地や山間部をはじめ、時にはかなり高い山にも生えます。春に萌芽して夏までには2m余りの高さになりますが、冬には枯れて木材として役に立たないことから「ウドの大木」などといわれています。ウドの生命はその芳香と歯触りなので、生で食べるのが最もおすすめです。またウドとワカメの酢の物も春らしい旬を感じる料理です。
緑の若芽や茎に豊かな香りと風味がある山ウド。
植え付け
ウドは基本的に土質を選びませんが、良質のものを作るには有機質に富んだ肥沃な土壌で、耕土の深い砂壌土〜壌土が適しています。土づくりは1m2当たり堆肥0.5〜1kgを耕うん前に入れます。充実した根株を1芽ずつに分割し、芽を上に向けて深植えにならないように植え付けます。ウドの栽培では充実した株張りのよい根株を育てることが重要なので、植え付けて1年目は収穫せず、2年目の春から収穫します。萌芽した後、5〜6月に草丈が30〜40cmになったら根元から掘り取って収穫します。
菌核病など土壌伝染病が多発した場合には3〜5年間休栽したほうがよいでしょう。
ウコギ科の落葉低木で、北海道、本州、四国、九州に広く分布し、平地から山地の野原や藪などの荒れた所に群生します。幹はあまり枝分かれしないで直立し、4mほどの高さになります。食用にするのは春に伸びた若芽で、独特のコクとほのかな苦みが非常においしいことから「山菜の王様」とも称されます。別名「トゲウド」ともいわれるようにやたらにトゲが多いのが特長で、若芽を折り取る時は、ゴム手袋が必要です。トゲの多い幹を正月行事で鬼を追い払うのに用いる地方もあります。中にはトゲがなく作業しやすい「静岡緑」という品種もあります。
青芽系のトゲなしタラの優良選抜種「静岡緑」。若芽はとてもやわらかで風味も豊か。
若芽の収穫は5〜6月に。
植え付け
生長がとても早く、芽株を入手して庭に植えておけば3年ほどで成木になります。1年目で1mほどまで大きく育てることが大切で、そのためには肥料を切らさないことが必要です。肥沃な土壌を選び、植え込み時に堆肥を混ぜ込みます。
植え付け後の管理と収穫
あまり肥沃でない土壌に植えた場合は、定期的に緩効性肥料を与えて肥料切れしないように気をつけます。
収穫は5〜6月くらいで、5〜15cmに伸びた若い芽を摘みます。その時、摘むのは2番芽までとします。さっと揚げた天ぷらは香りがとてもよく、また、和え物やみそ焼きなどもおすすめです。
アブラナ科の多年草で、深山の渓谷に自生しているものが本ワサビで、この根株を利用して畑で栽培したものが畑ワサビです。どちらも同じ種類で数少ない日本原産の植物です。水辺で栽培する本ワサビは家庭園芸では栽培が困難ですが、畑ワサビなら手軽に栽培できます。本ワサビに比べ、辛みも風味もまろやかで、葉や蕾をさっとゆでて和食に利用するほか、根は西洋ワサビ(ホースラディッシュ)のようにすりおろしてローストビーフやステーキに添えると相性がよく、またドレッシングに加えるとおいしいアクセントになります。
畑ワサビの葉は明るい緑色でかわいいハート型。ワサビ漬けの材料によく利用される。
根は晩秋に収穫。すりおろして肉料理にあわせると抜群のおいしさ。
植え付け
夏の直射日光を嫌うので、半日陰で風通しがよく涼しい場所が適しています。畝幅120cm、畝の高さ15cm、長さは適宜とし、株間25cmくらいに根株を植え付けます。用土にはあらかじめ有機質肥料を混ぜ込んでおきます。植え付けは深植えにならないように注意します。
植え付け後の管理と収穫
除草、中耕、土寄せ、施肥などを定期的に行います。植え付けから1年目は収穫せずに生育し、2年目の春に葉や蕾を収穫、晩秋に根を収穫します。葉や蕾は軽く塩もみして熱湯でさっとゆで、お浸しや酢の物にすると香りがよく美味です。根の収穫は風味が乏しくなる春から夏の間は避けたほうがよいでしょう。
京都府の第1回農業改良普及員として40年間勤務。野菜栽培、山菜栽培全般に詳しい。特にサンショウについて造詣が深く、退職後はサンショウ研究家として全国各地で講演や指導を行っている。サンショウに関する著書も多数ある。