トップブランドの動向に注目!宿根草 世界の最新品種
宿根草は年々、新たな品種が発表され進化を続けていますが、宿根草のブランドにもさまざまな動きが起こっています。欧米のガーデナーから厚い支持を集めるブランドの最新事情と共に、日本でも手に入るようになった最新品種をご紹介しましょう。
ブランド化が進む北米の宿根草事情
1980年代より日本で知られるイギリス生まれの「ブルームス」は、クオリティーの高い宿根草と創業者アラン・ブルームス氏の特徴的なキャラクターから、世界的に最も知られた宿根草ブランドです。今では拠点が北米に移り、すでに20年になります。昨年、このブランドに大きな動きがありました。それは、さらなる進化のために「ブルームス」から「マストハブペレニアルズ」にブランド名を変えると決定されたことです。日本では急激な変化は望まれないこともあり、日本においての変更は段階的に行うことを申し出て了承いただいたところです。
「ブルームス」よりさらに遡る1970年代に、アメリカで「ウォルターズガーデンズ」が家族経営の宿根草ビジネスを今日的なスタイルに大きく拡張しました。それは業界初の組織培養施設の建設や、販売形態の多様化を図ることでした。現在では600haの農地と温室をもち、約250人のスタッフが働き北米で年間1900万株以上を販売する企業になり、世界的な宿根草のブランドとなっているのです。
これまで「ウォルターズガーデンズ」の品種は日本に入る機会が少なく、時にオランダなどから紹介される程度でした。とはいえ年間約100種の新しいバラエティーに富むアイテムをカタログに掲載する、注目すべきブランドといえるでしょう。
ダーウィンペレニアルズ
ハイブリッドジギタリス‘プラムゴールド’
ウォルターズガーデンズ
モナルダ‘シュガーバズ ブルームーン’
マストハブペレニアルズ
ヘリクリサム‘ルビークラスター’
よりグローバル化が進み多様な品種がますます登場
北米やEU(欧州連合)では今、栽培の分業化がより進んでいます。挿し芽で繁殖できる宿根草は、年間を通して採穂が可能な中南米やアフリカの農場から挿し穂が出荷されています。
次に紹介する「ダーウィンペレニアルズ」は、その採穂農場を南米のコロンビアにもつ「ボールホーティカルチュラルカンパニー」における、宿根草部門のブランド名です。近年自社オリジナル品種の開発はもとより、前述の「マストハブペレニアルズ」や「ウォルターズガーデンズ」、さらにグループ傘下に加えた「スターロージズ」の宿根草など600品種以上の挿し穂を北米やEU、日本にも供給しているのです。
オランダなど欧米のプラグ苗生産は近年集約化が図られ、年間で1000万プラグの生産が1社で行われ、しかもその全量の挿し穂が「ダーウィンペレニアルズ」などからの導入と聞いています。それだけ高品質な挿し穂を確保できる仕組みが整っているのでしょう。
より大規模に、グローバル化する流れは、ほかの業界と同様に宿根草においてもますます進むことでしょう。これにより世界中のブリーダー(育種者)から、これまで以上に魅力的な新しい品種が提供されることが期待されます。
次に、日本の気候でも栽培しやすい各社の今年度おすすめ品種をいくつかご紹介します。
アメリカ・ミシガン州にある、広大な「ウォルターズガーデンズ」の圃場。
マストハブペレニアルズ Must Have Perennials
前身の「ブルームス」は、1926年にイギリスで宿根性植物の育成者アラン・ブルームスが創業した園芸会社です。ブルームス氏は200種類もの園芸品種を発表し、英国王立園芸協会主催の「チェルシーフラワーショー」での金賞や、イギリスの園芸界で最も権威があるとされる「ビクトリア賞」を受賞するなど園芸の発展に大きく貢献。さらに、ほかの育種家たちが作出した新品種を収集し、世界に広く紹介しました。
試験栽培を重ね、厳しい審査に通過したものだけを販売するという創業者の姿勢は現在の「マストハブペレニアルズ」にも受け継がれ、世界の多様な気候条件で試験栽培を続け、新品種を作出しています。
アキレア(キク科)
‘リトルムーンシャイン’
銀灰色を帯びたグリーンのシダ状の葉をもち、ゴールデンイエローの花房をコンパクトに伸びた茎頂部につけます。鉢植え、コンテナなどにもよいでしょう。株元でよく分枝するので、ボリュームあるまとまりのよい姿に育ちます。花にさわやかな香りがあることも特徴です。花期6〜9月。草丈30〜40p。
ヘリクリサム(キク科)
1994年にイギリスのクリス・ボウヤー氏の育種品種である‘ルビークラスター’が発表され24年がたちますが、生産性の問題から長年ニーズに対応できませんでした。最近になってようやくメリクロンの技術が確立し、世界的に安定供給が可能になったのです。
その間もボウヤー氏の育種は進み‘エンバーグロー’‘イエローダイヤモンド(アンバークラスター)’‘レッドジュエル’が加わり、よりカラフルになりました。シルバーグレーの茎葉に、春先につける1pほどの貝細工のような蕾と、開花するにつれて変化する花色は観賞期間1カ月程度と長く、さらにドライフラワーとしての用途も注目されています。
茎葉は細かく毛羽立っているので、水分を吸収しやすく梅雨時など蒸れやすいのですが、明るく排水のよい所で十分に根を張ると、涼しくなる秋に再び芽吹き、美しい銀灰色で冬越しします。庭植えでもマイナス7〜8℃は普通に耐えられます。‘イエローダイヤモンド’は冬季の温度が特に低い場合、蕾の色がアプリコット色になることがあります。
ウォルターズガーデンズWalters Gardens, Inc
アメリカで1942年から続く、老舗の園芸会社です。家族経営の小さな規模で始まりましたが、このブランドが大きく飛躍するきっかけになったのは、1970年代に組織培養などを行うための研究施設を設けたことです。これは、当時としては画期的なことでした。栽培技術の近代化を推進することにより、アメリカにおける宿根草のリーディング・カンパニーとなったのです。
40年以上にわたり栽培技術の研究を続ける中、親と同じ形質を受け継ぐメリクロンの生産を自社で行うことを実現し、安定して優れた品種を作出しています。毎年約100種の新品種が発表され、日本にも安定して入るようになってきました。今後、より広まっていくことでしょう。
モナルダ(シソ科)
‘シュガーバズ’シリーズ
‘シュガーバズ’シリーズの大きな魅力は、花の大きさが揃うところです。開花時期や開花期間なども同様です。これは庭づくりやコンテナ栽培で計画を立てるうえで、理想的な特性といえるでしょう。いずれも美しい花色で、40〜60pの草丈で分枝性に優れ、それぞれがこんもりした繁みを作ります。いくつもの品種を植えて、花色のグラデーションを楽しむのもおすすめです。うどんこ病やかびに対する抵抗性があるというのも、庭に取り入れやすい特徴です。
花径はいずれも4〜5p程度です。高さはそれぞれ紫がかったピンクの‘ライラックロリポップ’が45〜50p、濃いピンクの‘バブルガムブラスト’が約60p、紫がかった濃いピンクの‘グレープガムボール’が50〜60p、淡いピンクの‘ピンクフロスティング’が45〜55p、淡い紫の‘ブルームーン’が45〜55p程度です。
モナルダ5種 セット
上記5種各1株 計5株1組
ダーウィンペレニアルズDarwin Perennials
「ダーウィンペレニアルズ」の親会社である「ボールホーティカルチュラルカンパニー」は、世界十数カ国に拠点をもち、園芸における世界有数の企業です。本社のあるアメリカ・イリノイ州シカゴに研究農場をもち、さらにコロンビアに巨大な農場が近年新たに作られました。とにかく圧倒的なボリュームを誇る規模で、世界中から集めた優れた品種の育成を行っています。画期的な新品種が今後続々と発表されることでしょう。
こちらも「ウォルターズガーデンズ」と同様、日本ではまだあまり知られていません。しかし、このブランドから世界中に向けて宿根草のトレンドが発信されているともいえるでしょう。
ハイブリッドジギタリス(ゴマノハグサ科)
‘フォックスライト’シリーズ
2016年にオランダで権威のあるフラワーショー「プランタリウム」でシルバーメダルを獲得したシリーズです。コンパクトな草丈で、よく分枝し花つきがよいことなどが受賞の理由でしょう。
深いルビー色の‘ルビーグロウ’、赤紫がかったピンクの‘プラムゴールド’、優しい色みの‘ローズアイボリー’。いずれも、これまでのジギタリスに少ない澄んだ赤色系の発色がよく、内側のスポットも目立たず、クリアな黄色系に特徴があります。花は外側を向いて開くので、庭植えでも鉢植えでも見栄えがよく、初年度から多くの花をつけるうれしい品種です。
ハイブリッドジギタリス3種 セット
上記3種各1株 計3株1組
サルビア(シソ科)
2016年の「プランタリウム」でゴールドメダルを受賞したコンパクトな宿根サルビアが‘ブルーマーベル’です。初年度からの開花性に優れ、ボリューム感あるブルーと白のバイカラーの花を、非常にコンパクトによくまとまってつけることや、草姿の美しさが評価されたのでしょう。
‘ピンクマーベル’も同様に、非常にコンパクトでありながらボリューム感のある花をつけ、分枝性に優れます。どちらも最初の花を楽しんだ後に切り戻すと、短期間でより多くの2番花が咲くという優れた特性があります。丈夫な性質で、ぜひ育てていただきたい品種です。
細貝 要平(ほそがい ようへい)
新潟県の園芸会社(株)日園顧問。ボケの品種改良のほか、現在は宿根草の品種改良を手掛け、そのいくつかは海外でも高い評価を得ている。また、新潟産の花木の育種にも着手。常に消費者のニーズに沿った育種を心掛け、産地の活性化のために奮闘中。