内田 祐介 (うちだ ゆうすけ)
山口県生まれ。下関市園芸センターにて園内植物の展示栽培、種の保存、園芸相談などを担当。NHK「趣味の園芸」で「庭しごと花しごと」連載、「園芸collection」(栃の葉書房)で原種ペラルゴニウムについて連載するほか、テレビ出演、講演会も多数。
原種ペラルゴニウムはまだ広く知られてはいませんが、園芸種とはまた違った趣があります。同じ仲間とは思えないほどバラエティーに富んだ個性的な姿の種類ばかりで、見れば見るほど魅了されてしまいます。多彩な草姿と楚々としたかわいらしい花をお楽しみください。
ペラルゴニウムは、フウロソウ科ペラルゴニウム属の一年草もしくは多年草です。原種の数は約250種にのぼり、その約80%が南アフリカに自生しています。自生地は海岸の砂丘や岩場、山地の草原などで、年中雨が降る地域や、雨季と乾季がはっきりしている地域など、気候もさまざま。自生環境に適応した形態は驚くほどに多種多様で、手のひらサイズのものから、2mを超えるものまであります。
また、草姿を形状で分けると、草本タイプ、小低木タイプ、多肉植物タイプ、球根(塊茎)タイプがあり、地上部を枯らして休眠する種類や、一年中生育を続ける常緑種があります。分布域の広い種類では、産地が違えば草丈、葉の形、花の色形だけでなく花の香りや開花期に至るまで大きく変化し、同種とは思えないほど。さらにタネをまくと細かい違いが現れます。この限りない変異がコレクション性を高めています。
ペラルゴニウム属には、園芸種のゼラニュームやペラルゴニウムも含まれます。どちらも世界各地で栽培され、日本でも苗や鉢植えが年中店頭に並ぶほど大変メジャーな存在ですが、じつはいずれも数種の原種ペラルゴニウムをもとに作出されたものです。ただ原種については、まだほとんど知られていません。そのうえ、地味で観賞価値が低いとか、栽培が難しそうでガーデニングには使えそうにないといったイメージをお持ちの方が大多数ではないかと思います。
しかし、原種を使わないのは非常にもったいない!寄せ植えやハンギングなどに利用できるおしゃれな種類もたくさんありますし、栽培の難易度は一部の種類を除き、園芸種よりもやさしいくらいです。原種ペラルゴニウムは園芸種とは異なる、たくさんの魅力にあふれています。
原種ペラルゴニウムの本格的な花のシーズンは初春から初夏で、四季咲き性の種類もこの時期が最も花数が多くなります。少数ですが、夏咲きや秋〜冬咲きの種類もあります。1輪の花は2〜4cm程度のものが多く控えめですが、花数が多く、たくさん集まって咲くと見事なものです。園芸種にはない黄色系の花色があり、甘い香りを放つ種類もあります。
原種ペラルゴニウムの特徴は可憐な花もさることながら、むしろ葉の美しさや草姿にあります。'シドイデス'など、葉の美しい種類は花のない季節でも楽しめますし、小さい鉢で手軽に栽培できる塊茎種や、個性的な珍奇種は、これから人気が出そうです。ぜひ春から栽培を始めてみてはいかがでしょうか。
'シドイデス'とサルビア'ファリナセア(ブルーサルビア)'の寄せ植えの例。
数あるペラルゴニウムの原種の中でも、育てやすい9種をご紹介します。
葉に触れるとかんきつ系のさわやかな香りを放つ'クリスプム'、
おしゃれな山野草鉢で育てたい'バルクリー'など、いずれも多年草で、花がない時期も楽しめる種類です。
フリル状の葉が重なり美しい草姿に整う。葉に触れるとレモンに似た香りが広がることからレモンゼラニュームとも呼ばれる。小輪多花性でキリッとしたピンクの花色もさわやか。花期5月〜7月上旬。草丈50〜70cm。
奇抜な葉模様が印象的な小型種。原種としては珍しく模様の入らない純白花で、3cmほどの花をにぎやかに咲かせる。レモンイエローの蕾も愛らしい。夏季は地上部を枯らして休眠する塊茎種。花期4〜5月。草丈20〜30cm。
やわらかな葉に、きらきら輝くメタリックな花を咲かせる。花色は青く見えたり淡黄色にも見えたりと不思議な色合いで、季節によっても変化する。茎は下垂するのでハンギングにも向く。四季咲きで屋外冬越し株は3〜12月、室内冬越し株は厳寒期も開花する。草丈30〜60cm。
多肉質の細長い茎を縦横無尽に伸ばし、その先に6cmほどの大輪花を咲かせる。花数は少ないが、口を開けた爬虫類を思わせる大きな花は迫力満点!草姿が個性的な、原種一の珍奇種。花期5〜6月。草丈60〜100cm。
深い切れ込みの入った葉がシダを思わせる、ユニークな種類。低木状に生長する雄大な姿は、原種の中でも一際目立つ存在だが、それでいて繊細な模様が入った上品な桃色小輪花をたくさん咲かせる。花期4〜6月。草丈1.2〜1.8m。
ゼラニュームの誕生に重要な役割を果たした原種。花の基本色は目の覚めるような緋紅色で、桃色や白色もある。ビロード状の葉も特徴。長命なので、年月をかけて作り込むのも楽しい。四季咲きで屋外冬越し株は3〜12月、室内冬越し株は厳寒期も開花する。草丈60〜100cm。※花色には幅があります。
清楚な印象の白い花が咲き、2〜4cmの小ぶりな葉にチョコレート色の模様が入っておしゃれ。株全体に油を塗ったような光沢がある。最盛期の春は株が覆われるほど開花し、華やかになる。四季咲きで屋外冬越し株は3〜12月、室内冬越し株は厳寒期も開花する。草丈20〜50cm。
しなやかに伸びた花茎に、上品な紅紫色の花を咲かせる。シルバーグリーンの丸みを帯びた葉は美しく、寄せ植えにも大活躍する。暑さ寒さに強く、育てやすい原種。四季咲きで屋外冬越し株は3〜12月、室内冬越し株は厳寒期も開花する。草丈20〜40cm。
多花性で、ツユクサに似た美しい花をにぎやかに咲かせる。明るい葉色が、透明感のある純白花を引き立てる。葉にはショウガに似た香りも。分枝性がよくコンパクトにまとまる。花期4〜6月。草丈50〜70cm。
毎年植え替えを行い夏越しも工夫して、
美しい花を咲かせましょう!
用土の表面がよく乾いてから、鉢底から流れ出るほど与えます。乾燥ぎみに管理するものと思われることが多いですが、乾燥が続くと葉が黄変したり、落葉します。また、花がしおれてまともに咲かなくなることもあるので、旺盛に生育する春(特に開花中)は、しっかり与えましょう。
休眠する種類は春に葉が黄変したら水やりをやめ、1〜2週間に1回、涼しい時間帯に用土の表面が軽く湿る程度にさっと与えます。
休眠する種類は、葉が黄変してきたら水やりをやめ1〜2週間に1回、用土の表面が軽く湿る程度に与える。新芽が吹き始め、生育が始まったら通常の水やりに戻す。
日当たりと風通しがよく、雨の当たらない場所が理想です。多くの種類は涼しい環境を好みます。高温期の直射日光や多湿に弱いので、梅雨明けから8月は風通しのよい半日陰に移すか遮光ネットで日よけを施すと、うまく夏越しできます。比較的寒さには強くビニールなどで寒風よけをすれば、0℃以上の屋外で冬越しが可能です。ただし、思いもよらない冷え込みで傷むことがあり、最低5℃を確保できる、室内の日当たりのよい窓辺などで管理すると安心です。
切り戻しは、植え替え時に行います。草本性タイプや低木性タイプは切り戻しをすることで、草丈低くコンパクトに維持することができます。種類によっては、枝数が増え花数も増えます。
緑枝を切り戻すと必ず芽吹きますが、かたく木質化した古い茎を芽のない部分で切ると、枝枯れを起こす場合があります。一度浅めに切り戻し、下部の節から萌芽させた後に、芽が確認できる節の上で再び切り戻すようにしましょう。
'シドイデス'の古株を浅めに切り戻し、かたく木質化した茎から萌芽させた状態。芽のある位置で再び切り戻すと、さらに草丈を低くできる。
市販の培養土または赤玉土:腐葉土:パーライト=6:3:1を混合した用土などが適します。排水性と保水性のよい、やや重い用土がベストです。夏季に休眠する塊茎種も同じ用土で育ちますが、地下の塊茎が腐りやすく、赤玉土や鹿沼土、軽石、山砂の等量配合土など、より排水性がよく腐植質を含まない用土の方が安全です。
発生しやすい病気として、炭そ病や灰色かび病などがあります。発生の初期に適用のある殺菌剤を散布しましょう。風通しをよくし多湿を避けるなどの環境づくりや、黄変した葉や花がらをこまめに摘み取ることも大切です。注意すべき害虫は、アブラムシ、オンシツコナジラミ、ヨトウムシ、ヨコバイ類などです。適用のある殺虫剤を散布したり、捕殺したりして防除しましょう。
ヨコバイ類によって媒介される、天狗巣病の例。
茎が叢生する、葉が淡い葉色となり萎縮する、花が咲かなくなるなどの症状が現れ生育が衰える。
防除薬はなく、発病した部分を除去する。
一季咲き種、四季咲き種共にポット苗が届いたら、4〜5月に一回り大きな鉢に植え替えます。ただしこの時に、一季咲き種は根鉢を崩さないようにし、切り戻しも行わないよう気をつけましょう。
根がよく張るので翌年以降、植え替えは毎年行います。適期は9月〜10月中旬で、四季咲き種は4〜5月も可能です。大株に仕立てたい場合は、根鉢を軽く崩して一回り大きな鉢に植え替えます。
鉢を大きくしないで、コンパクトに維持する場合は、根鉢を半分程度崩し、地上部も半分程度切り戻して、同じ鉢に植え直します。毎年植え替えを行い、根をリフレッシュさせることで、低木種などは10年以上、6〜8号の同じ鉢で維持することができます。
'バルクリー'など夏季に休眠するタイプは、休眠から覚める直前の8月〜9月上旬に植え替えます。または落葉後でも可能です。
地上部を切り戻す。
鉢から株を取り出し、根鉢を半分ほど崩す。
同じ鉢に新しい用土で植え直す。
ほとんど肥料を与えなくても育ちますが、生育が盛んになる春と秋に緩効性化成肥料を与えるか、春と秋の1〜2週間に1回、液体肥料を施すことで、葉色や花つきがよくなります。ただし、チッソ成分が多いと株が軟弱になり病気に感染しやすくなったり、葉ばかりが茂り花つきが悪くなったりするので、与えすぎには注意します。
原種ペラルゴニウムは、全般に高温多湿が大の苦手です。休眠しない常緑の種類も、厳暑期はほとんど生長しません。夏季は特に風通しをよくして、蒸れに注意しましょう。根が傷みやすい季節でもあるので、多湿には十分注意します。一見、用土が乾いているように見えても葉がしおれていなければ、水やりはまだ不要です。夏季は乾燥しすぎない程度に水やりをしましょう。
また、一季咲きの種類の多くは花芽形成に低温が必要です。室内で冬越しさせる場合は、日中は20℃以下、夜間は8℃以下となる場所に置きます。
山口県生まれ。下関市園芸センターにて園内植物の展示栽培、種の保存、園芸相談などを担当。NHK「趣味の園芸」で「庭しごと花しごと」連載、「園芸collection」(栃の葉書房)で原種ペラルゴニウムについて連載するほか、テレビ出演、講演会も多数。