切り花菊をかわいく咲かせよう
日本では、菊は植物というだけでなく伝統文化ともいえる花。中国から入ってきた菊は江戸時代、町人たちに広まって各地で独特の花が作出されました。その名残が、「嵯峨菊」「伊勢菊」「肥後菊」「江戸菊」「美濃菊」といった、品種名に地名のついた菊です。昭和に入り、ヨーロッパに渡った菊は西欧風に改良されてスプレーマムとなり、オランダから逆輸入の形で帰ってきました。“スプレー”とは、分枝・放射状の意味で、花は上部から咲き始めます。スプレーマムは品種改良が重ねられて、デルフィマム、ニュージニア咲き、アネモネスプレー咲きといったさまざまな花形が登場。花色も豊富で、次々と新しい品種が出てきています。
菊は本来、秋に咲く短日植物ですが、品種開発が進んだ現在、生態的な特性によって大きく3つのタイプの品種群に分けられます。それは、積算温度が要因で咲く「夏菊」、積算温度と日長時間の両方が要因となる「夏秋菊」、日長時間のみが要因の「秋菊」、「寒菊」です。多種多様なスプレー菊は秋咲きが多く、日長時間が13時間以下になると花芽分化を始めます。
菊は仕立てる楽しみもあります。同じ品種でも一輪花、多輪花と仕立て方を変えれば趣きが変わります。一輪花にする場合は、頂点(生長点)についた蕾を残してわきについた蕾はすべて摘み取り(摘蕾)、頂点の花を大きく育てます。逆に多輪花にしたいなら、わき芽も伸ばして花を咲かせます。
菊は苗から育てますが、栽培方法は大きく分けて二つあります。
一つめは、届いた苗を親株として挿し芽で殖やしてから植え付けする方法です。この場合、4月上中旬に到着した苗を親株として用います。挿し芽が可能な最終時期は6月中下旬です。
二つめは、届いた苗をそのまま植え付けて育てる方法です。挿し芽に自信がない方は、そのまま植え付けて花を咲かせるのが無難です。
- 苗が届いたら、挿し芽をして株を殖やす方法で育てる場合は、挿し床やセルトレイで増殖し、その苗を植え付けます。
- 挿し芽に自信がない場合は、届いた苗をそのまま植え付けて育てます。
日当たりがよく水はけのよい場所を選びましょう。土壌は、適度に保水性があり、通気と水はけがよく、肥料もちのよい条件が適しています。
- 露地
- 植え付けの2〜3週間前に、腐葉土・堆肥・肥料を適宜施して耕し、よく土となじませておきます。もみ殻くん炭を全量の1割ほど加えると、さらによい用土になります。
- 鉢植え
- 市販の用土(「花と野菜の土」など)を使用するとよいでしょう。あるいは、赤玉土:腐葉土:田畑の土=5:3:2の割合で配合するか、堆肥を使う場合は、赤玉土:腐葉土:堆肥:田畑の土=3:4:2:1の割合で配合します。もみ殻くん炭を全量の1割ほど加えるとよいでしょう。
- 露地
- 畝は10〜15pの高さに、株間は約10pとし、植え付け後は十分潅水します。
- 鉢植え
- 5〜7号鉢では1本、8〜10号鉢では2〜3本植え付けます。小菊やスプレー菊では植え替える必要がないので、最初から8〜10号鉢に植えます。
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苗の植え付け後、根が動き出し肥料を吸い上げ始めた14日目ごろからがちょうどよい時期になります。ただし必ず根づいたことを確認してから行います。頂点にある未展開葉のやわらかい先端の部分を指先で転がすようにして摘みとります。このように確実に芯を止めることが大切です。
摘芯後1カ月ほどでわき芽が出てくるので、それを伸ばして、その先端に花を咲かせます。菊苗の栄養状態にもよりますが、1本の苗からちょうどよい太さ、長さの花を3〜5本とることができます。 -
- 露地
- 元肥として1坪当たり300gの乾燥肥料を、植え付けの2〜3週間前に腐葉土や堆肥とともに混入し、肥料がなじんでから植え付けます。追肥は生育状況によりますが、生育が悪い場合に開花の2カ月前までを限度に化成肥料を施し、土寄せをします。液肥でも可能です。
- 鉢植え
- 根がしっかりしてきたら置き肥を施します。菊専用肥料がおすすめですが、野菜などに使用する有機入り化成肥料でもかまいません。施肥後は土を軽くかぶせます。
4月初旬の苗を親株として、露地・鉢などで植え付けた後、約2週間で根が落ち着いたら摘芯を行い、わき芽を出させます。
1カ月ほどで芽が伸びてきたら、挿し芽します。培土はパーライト:ピートモス=3:7の培土か、市販の育苗培土を用います。伸びたわき芽の先端から約7〜8pの、手で簡単に折れるやわらかい部分から折りとり(切りとり)、2〜3時間水につけて水揚げしておいてから挿します。挿し芽の最終時期は6月中下旬ごろまでです。それまでに伸びた部分をとっては挿し、繰り返して殖やすことが可能です。
草丈が20〜30pくらいになると、伸びてきた芽の中からよく揃ったものを4〜5本残して切りとります。これは「芽の整理」といって、揃ったよい花に育てるため、不要な芽を取り除く作業です。さらに、伸びてくると倒れやすいので支柱を立てます。
鉢やコンテナの場合は、1株に1本の支柱を立てる。
株元近くに立てたら、ビニールひもで輪をつくり、茎を中に入れて1〜2カ所ほど固定しておく。
- 露地
- 乾燥が続く時以外は毎日の水やりは必要ありません。葉がしおれていれば適宜水やりをしてください。また、マルチや稲わらなどで畝を覆っておくと、乾燥を防ぎ、雑草の繁茂を防ぐことができます。
- 鉢植え
- 土の表面が乾き、気温が下がる時間になっても葉が垂れている状態であれば、たっぷりと与えてください。ただし水のやりすぎは根腐れの原因となります。真夏でも1日1回とし、早朝か夕方以降に気温が下がってから行いましょう。日中の高温期に行うと根が傷むことがあるので要注意。
暖かい時期は、アブラムシやスリップスなどの害虫が多く発生します。また、梅雨や湿度の高くなる時期には白さび病にかかりやすく、5月ごろや梅雨明けの乾燥期になると葉ダニも発生し、適切な防除が必要となります。
害虫に対しては、7〜10日に1回の定期的な薬剤散布を行いますが、殺虫剤と相性のよい殺菌剤を混用します。株元にまくタイプの殺虫剤はアブラムシをつきにくくする効果があり、殺虫剤散布の回数を減らすことができます。ただし、殺ダニ剤は混用せず、個別に散布すること。ダニは葉の裏につくので、葉の裏面を重点的に散布します。
散布は気温の高い日中は避け、早朝や夕方など葉が乾くまで気温が上がらないうちに行います。高温期に散布すると薬害を起こし、葉や花が傷むことがあるので注意しましょう。
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キクスイカミキリ(4〜5月)
新芽の先端が突然しおれて枯れてしまう症状が出る。産卵期にのみ発生し特効薬はない。茎のやわらかい部分に産卵するので、草丈が短い場合は防虫ネットで覆うことにより防除効果が期待できる。
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スリップス(発蕾時)
蕾が開き始めるころからスリップス(アザミウマ)用の殺虫剤を散布して予防する。スリップスに侵されると花の色があせて、かすり状になる。
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白さび病
菊が一番かかりやすい病気。葉に白い斑点ができて徐々に大きく広がっていく。伝播するので、発見次第、葉を取り除く。湿度が高く、気温が15℃前後で発生しやすいので、梅雨時と秋に特に注意が必要。
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アブラムシ(年間)
やわらかい新芽の部分からつき始める。年中発生するので、耐性がつかないように3種類ほどの薬剤をローテーションを組んで散布。
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ハダニ(7〜9月の高温期)
地面に近い葉の裏から徐々に上部に侵食。ダニは水に弱いので、専用の殺ダニ剤を葉裏を主体に散布。
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立枯病
茎や葉が黄色くなり枯れたり腐ったりする。土壌細菌が原因なので、植え付け後に殺菌剤を水に溶かしてジョウロで散布。
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灰色かび病
蕾・花に染みができ、茶色になってかびが生える。発見次第、蕾や花を取り除いて伝播を防ぐ。殺菌剤を散布。
- 露地
- 開花後、地際より10〜15p残して上部を切り揃え、寒肥として緩効性肥料を与えます。降霜時はビニールや寒冷紗で霜よけや寒さよけをします。
- 鉢植え
- 鉢植えはそのまま越冬します。日中はしっかり日光に当て、降霜時は軒下など霜が直接当たらない所へ移動します。地上部はやがて枯れますが、新しい芽が地下から伸びてくるので、芽が枯れない程度に水やりします。
植えたまま毎年同じ場所で開花させると連作障害を起こし、葉が下から枯れたり、花が小さくなったりします。暖かくなってから別の場所へ株分けして植え替えるか、挿し芽をして新しく苗を作って植え替えます。株を更新することで毎年よい花が咲くようになります。
一輪仕立ては摘蕾を!
9月上旬より蕾が見え始め、頂点にもたくさん蕾がつきますが、5oくらいになったら、芯の蕾を残してすべて摘みとります。
- 挿し芽をした場合としなかった場合、仕上がりに違いはありますか?
- 挿し芽をしなくても花を咲かせることはできますが、そのままでは草丈が大きくなってしまいます。これを回避するためには、お買い求めの菊苗の開花期にあわせて摘芯をしてください。例えば、10月咲きを購入した苗が4月に到着したら、5月上旬・6月上旬・6月末に摘芯をしてください。高く伸ばさないで低く管理しておくことがポイントです。
- 花の切り時はどんな状態ですか?
- 小菊やスプレー菊の場合、一番上の花が6〜7分咲きで、周りの花が3〜5分咲きのころがよいでしょう。
- 寒菊栽培はどの地域まで可能ですか?雪が積もるような地域でも可能でしょうか?
- 露地栽培・鉢栽培では12月以降に氷点下になる、あるいは雪が積もるような地域では、菊も凍ってしまいますので咲かせる事は不可能です。このような地域ではハウス内で栽培する必要があります。
- 花が早く咲いたり、遅く咲いたりするのですが、なぜですか?
- 菊が開花するには気温や日照時間が大きく関わってきます。夏菊は積算温度、夏秋菊は積算温度と日照時間、秋菊は日照時間が要因です。秋咲スプレー菊の場合、お盆を過ぎる頃から急に涼しくなった場合、早く咲く傾向にあります。また、その逆もあり、8月咲きで猛暑の場合は、高温障害で花が咲かなくなることもあります。
- 菊の育種販売会社で、通販事業の生産・販売企画を担当。海外苗生産拠点に訪問して栽培指導にも従事している。また、フラワーデザインの講師でもあり、その観点からも身近な花として新しいマム(菊)を開拓している。