初めてでもデキル!タネから作る葉根菜
いろいろな料理に使えるダイコンやハクサイなどの葉根菜は、防虫ネットなど害虫対策をしっかりやれば、難しい作業や管理もなく、収穫を楽しめます。代表的な葉根菜類の育て方をご紹介します。
タネまきの前に知っておきたい知識
「温度と光」
夏から秋に作る葉根菜類は、葉や茎を大きく生長させたり、根を太らせて収穫する野菜です。春から夏に作るトマト、ナスなどの果菜類のように、整枝や剪定などの難しい管理はいりません。害虫対策を万全にやれば比較的栽培は楽です。
お盆を過ぎると、気温がどんどん下がっていきます。タネまきが1週間遅れると、収穫が2週間遅れますので、適期にタネをまきましょう。私は9月上旬にタネをまいています。
主な葉根菜類の発芽適温と生育適温、タネの発芽と光の関係などを知って、栽培に生かすようにしましょう。
服部流主な葉根菜類の発芽温度と生育温度
発芽温度 (℃) |
生育温度 (℃) |
|
---|---|---|
ダイコン | 15〜35 | 15〜20 |
カブ | 15〜20 | 15〜20 |
ハクサイ | 18〜22 | 15〜20 |
ホウレンソウ | 15〜20 | 15〜20 |
ニンジン | 15〜25 | 16〜20 |
コマツナ | 15〜35 | 15〜20 |
ミズナ | 20〜25 | 15〜20 |
シュンギク | 10〜20 | 15〜20 |
レタス | 15〜20 | 15〜20 |
タネの発芽と光の関係
発芽に光を必要とするもの (好光性種子) |
---|
ハクサイ、カブ、コマツナ、シュンギク、レタス、ニンジン |
発芽に光を必要としないもの (嫌光性種子) |
ダイコン |
発芽に光が関係しないもの |
ホウレンソウ |
「畑の準備」
真夏の暑い時期ですが、タネまきの1カ月前から2週間前までに、何回も耕うんして土づくりを済ませておきます。この時、1m2当たり苦土石灰100g程度を入れ、耕うんしておきましょう。
タネまきの1週間前までに、元肥として1m2当たり化成肥料(チッソ-リン酸-カリ=10-10-10程度のもの)150g程度を与えて、さらに耕うん、整地しておきます。
ダイコン、ハクサイの畝幅は90〜110cm程度とし、全面に黒マルチをかぶせ、タネをまく部分に、ビール缶の直径程度(約60mm)の穴をあけておきます。
ダイコン、ハクサイの畑に黒マルチを張る。
栽培カレンダー(生育地:滋賀県高島市今津町)
●土づくり!大根十耕
昔から「大根十耕」といわれているように、よく耕した畑ほどすらっとした長いダイコンが育ちます。深さ30cmくらいを何回も耕し、小石も取り除きましょう。
●タネまき
あまり早くタネをまくと気温が高く、害虫の発生が多くなり、逆に遅まきすると肥大時期に気温が低すぎて生育が遅れ、肥大不良の危険があります。
タネまきは9月上中旬に行いましょう。
ダイコンは必ず「直まき」にします。株間約30cm、1カ所に3〜5粒まきとしている本もありますが、タキイのタネは品質が優れていますので、1カ所に3粒まきで十分です。
発芽に光を必要としない(嫌光性種子)ので、2〜3cmきっちり覆土をし、たっぷり水をかけてやります。
●間引き
本葉2〜3枚のころに1回目の間引きをして、本葉4〜5枚のころに1本立ちにします。
本葉2〜3枚のころ葉が触れ合わない程度に間引く。
本葉4〜5枚のころ1本立ちにする。病害虫のないもの、全体の株が揃うものを1本残す。
●収穫
ダイコンの収穫は品種によって違いますが、'耐病総太り'や'三太郎'でタネまきから60日、'聖護院ダイコン'で75日から収穫できます。収穫間近になったら、地表に出ている部分の太さを見極めて、順次収穫していきます。
ここまで太っていれば収穫可能。
注意!
間引き菜の収穫について
ダイコンの間引き菜を食べたいという方もたくさんおられますが、殺虫剤「オルトラン粒剤」を施用した所は食べないようにしましょう。間引き菜が必要な場合は、別の場所に葉ダイコンの'ハットリくん'を作られるとよいでしょう。
やわらかな葉質の'ハットリくん'
●タネまき
ハクサイの発芽適温は18〜22℃。生育初期は低温を嫌い、結球期は高温を嫌う野菜で、結球する時の適温は10〜15℃です。このため、8月15日前後に9cmのポリポットにタネをまき、9月上旬に苗を植え付ける方法と、直まきする方法とがあります。ここでは直まきの方法をご紹介します。
株間約45cmの2条植えにします。タネは非常に細かいので、まきやすく調整されたペレット種子を使うと便利です。1カ所に3粒ずつまいて薄く覆土し(好光性種子)、寒冷紗をかぶせて水かけします。3日程度で発芽してきます。
発芽まで寒冷紗をかぶせる。
●間引き
1回目の間引きは本葉3枚のころに2本立ちとし、2回目は本葉4〜5枚で1本立ちにします。
●追肥
生育初期に肥料切れを起こすと葉の巻きが弱くなり、しまった球にならないので、元肥をしっかり与えると共に、葉が立ち上がる9月末と結球開始ごろの2回、化成肥料30g程度を株と株の間へ、マルチに穴をあけて与えます。
ハクサイの生育状況。
外葉が大切!
葉が立ち上がっても葉がお互いに抱合しあうだけの葉数、大きさ、形をもっていなければきっちり結球することはできません。防虫ネットでトンネルがけをして、害虫の被害を防ぎます。
外葉が十分できている様子。
●収穫
収穫はタネをまいて85日前後です。頭部を手で押さえてかたくしまっていれば収穫適期です。ハクサイは寒さに強いので、お正月から1月まで残っている場合は、頭部をひもで結束すると収穫期間を延ばすことができます。
関東ではシュンギク、関西ではキクナと呼ばれています。主に関東では株立ち型の品種を使い、摘み取って収穫しますが、関西では株張り型の品種を使い、根をつけたまま収穫します。
●タネまき
シュンギクのタネの発芽率は、気温15〜20℃で40〜60%と低いので、タネをまく時は厚まきにします。好光性種子ですので、覆土は薄くします。
なお、タネまき後、土が乾いていると発芽が悪くなりますので、十分水やりし、発芽後は本葉が展開するまで寒冷紗で遮光しておきましょう。
●収穫
株立ち型の品種は主枝が25cmくらいに伸びたころ、地際部から本葉4〜5枚を残して摘み取って収穫します。その後は側枝が25cm程度に伸びたころ、側枝の本葉2〜3枚残して順次収穫します。株張り型は草丈20cmくらいから、順次株ごと収穫します。
まき直しを始める目安 (発芽の日数)
うまく発芽できなくて、まき直しをすべきかどうか悩んだことはありませんか。私がまき直しの目安と考えているのは右の通りです。参考にしてください。
ハクサイ | 7日 |
---|---|
ホウレンソウ | 21日 |
レタス | 7日 |
シュンギク | 21日 |
ダイコン | 10日 |
カブ | 7日 |
ニンジン | 14日 |
溝に敷くだけ!「シーダーテープ」を利用して、楽ちんタネまき
水に溶ける自然に優しい素材でできたシーダーテープ。野菜の種類に合った、適当な株間で必要な粒数が均等に挟み込まれています。
私の学校の実習農園でこのテープを使ったところ、「株間を測らなくてもよい」「タネの数を計算しなくてもよい」「こんな便利なものがあったんですか」と大好評でした。
シーダーテープとは?
タネが入っているテープは水溶性で、土に埋めて水をかけると数十秒で溶ける仕組み。素材は自然や環境に優しい、P.V.Aフィルムを使用しています。
使い方の手順
1溝引き
作りたい野菜に合わせて畝をつくり、シーダーテープを敷く溝をつくります。
2シーダーテープまき
テープを伸ばし、テープの最後の所をハサミでカットします。軽く覆土をし、クワで押さえます。
3水やり
たっぷり水をかけます。発芽まで乾燥させないように注意します。
●タネまき
タネまき時期は7月下旬〜9月上旬です。
ニンジンはタネをまいてから収穫まで、110〜140日と長期間かかります。そのため、お正月に収穫したい場合、7月下旬にタネをまく必要がありますが、高温、乾燥の時期ですので、十分に気をつけます。
●水やり
タネをまく時期は非常に乾燥しますので、1日3回程度水やりして発芽を促します。より早く、一斉に発芽させるため、発芽までの5〜7日は毎日水やりを続けます。
また、ニンジンのタネは吸水力が弱く、土が乾燥すると発芽率が著しく低下します。しかも好光性種子ですので、覆土はせず、クワで押さえる程度にして、寒冷紗をかぶせます。
シーダーテープでタネをまいた後、たっぷり水やりしておく。
●間引き
ニンジンは「共育ち」といって、本葉4枚くらいまでは群生していた方がよく、葉が触れ合う程度の間引きをします。本葉2〜3枚のころに1回目の間引きを、本葉4〜5枚のころに株間8〜10cm程度の2回目の間引き、土寄せを行います。
本葉2〜3枚で隣の株と葉先が触れ合う程度に間引く。
本葉4〜5枚で、株間8〜10cmになるように間引く。株が小さい時期の間引きは葉がちぎれやすいので、ハサミを使って地上部を切り取るようにするとよい。
エボプライム処理前のタネ。
処理したタネは見た目は普通のタネと同じだが、果被をやわらかくし、吸水性を高めてあるため、発芽揃いがよい。
●タネまき
土壌pHは6〜7の、石灰が必要な野菜です。ほかの野菜は、1m2当たり100g程度ですが、ホウレンソウは1m2当たり200gの苦土石灰を与えます。
※シーダーテープを使わない場合
発芽が難しい野菜ですので、一昼夜水に浸した後、ぬれタオルで包んで暖かい場所に2日間程度おくなどの催芽処理(芽出し)をするか、事前に果被をやわらかくする「エボプライム処理」したタネを利用します。
点まき、条まき、バラまきの方法がありますが、後の収穫のことを考えて点まきするのが便利です。20cm間隔に浅い溝をつけ、株間3〜5cm、1カ所に3粒まきます。
●間引き
基本的には行いませんが、葉が重なった時や本葉2〜3枚のころに行います。この時、ほかの株を動かさないよう十分気をつけます。
●収穫
収穫時期はタネをまいてから40〜60日、収穫の適期は草丈が22〜25cmの時に行いますが、本葉6〜8枚、草丈15cmを超えるころから順次収穫を始めます。
覆土に注意!
地温と土壌水分が適している場合は1cm程度とし、地温が高く乾燥している場合は2cmほどとやや厚めにします。ただし、厚くても3cmを限度とします。
寒締めホウレンソウ
ホウレンソウの根は、地温が10℃以下になると生長が止まり、糖が増え始めます。冬の寒締めホウレンソウの糖度を9〜10に高めるには、地温5℃以下で5日以上必要です。
収穫の適期は草丈25pごろに行いますが、急がずに収穫しましょう。
●タネまき
最適な土壌pHは5.5〜7.0で、酸性が強くなると極端に生育が劣ります。9月上下旬にタネをまき、10〜12月に収穫できます。
適度な土壌水分の状態でタネをまき、一斉に発芽させることが大切です。タネが隠れる程度に薄く覆土し(好光性種子)、上から軽く押さえます。
※シーダーテープを使わない場合
10〜15cm間隔に浅い溝をつけ、1〜2cm間隔の条まきにします。覆土は浅く、手のひらで軽く押さえる程度とします。
●間引き
常に葉と葉が触れ合うくらいの密度を保てるよう、こまめに間引きします。
※シーダーテープを使わない場合
1回目の間引きは発芽が揃い、込み合って葉先が触れ合う程度のころ、2回目は本葉2〜4枚、3回目は本葉5〜6枚のころで、最終株間が10cmになる程度に間引きします。
●収穫
カブは5cmくらいになったころから収穫できますが、一番おいしい収穫適期は5〜7日間と短いので注意します。
小カブの収穫:秋まきで40〜50日/直径5〜6cm
大カブの収穫:秋まきで60〜80日/直径8〜10cm
●タネまき
タネは一度にまかないで、9〜10月の間に何回にも分けてまくようにします。発芽適温は15〜35℃、1〜3日で発芽します。
タネが見え隠れする程度の覆土で、クワで軽く押さえ、その後にはたっぷり水やりします。
9月初めにタネをまいた場合は温度が高く、乾燥しやすいので、寒冷紗を全面にかぶせ、発芽してきたら取り除きます。
※シーダーテープを使わない場合
コマツナは発芽率がよいので厚まきしないことです。15cm間隔に浅い溝をつけ、株間2〜3cm程度の条まきにし、覆土は1〜2cm程度とします。
タネまき後はたっぷり水やりをし、均一な発芽を促すようにします。タネまき直後から防虫ネットでトンネルがけをして害虫の発生を防ぎます。
●間引き
発芽後、本葉が出始めたころに4〜5cm間隔に間引きます。
※シーダーテープを使わない場合
本葉2〜3枚のころに3〜5cmに間引きします。
発芽が揃ったら1〜2cm間隔に、本葉が出始めたころに4〜5cm間隔に間引く。
葉色が悪ければ追肥をする。
●収穫
タネをまいてから30〜40日、本葉4〜5枚、草丈20〜25cmくらいから順次収穫します。
なお、厳寒期は不織布や寒冷紗などでトンネルがけをすると、風や霜などによる傷みが少なくなります。トンネルがけをした場合、少し葉の色が薄くなりますので、収穫の1週間前には被覆を取り除いておきます。
コマツナと同じように栽培する葉菜類
ハクサイ類 | 大阪シロナ、マナ、ヒロシマナ、タカナ |
---|---|
タイサイ類 | チンゲンサイ、パクチョイ、タアサイ |
カブ類 | ノザワナ、ヒノナ |
ミズナ類 | ミズナ、ミブナ |
コマツナ類 | コマツナ |
ミブナ
ミズナ
野菜を害虫から守ろう!
●被覆資材を使う
被覆資材を利用した防除対策は、コマツナ、大阪シロナ、ミズナなど葉物野菜など登録農薬の少ない野菜に有効です。また、生育促進効果を期待できます。
注意!
「スミチオン」の使用について
アオムシ、シンクイムシなどの害虫対策を万全にしましょう。タネまき時に殺虫剤「オルトラン粒剤」を1カ所に2g程度をまくほか、防虫ネットのトンネルがけ、不織布のベタがけも有効です。
家庭菜園でよく使われている「スミチオン」という便利な殺虫剤は、ダイコンなどアブラナ科野菜には使用できませんので注意しましょう。
服部 和雄(はっとり かずお)
大阪府摂津市在住。大阪府の農業技術者として40年勤務後、大阪府高齢者大学校などで野菜作りの講師を務める。自宅から約100q離れた滋賀県高島市に約500m2の農地を借り、日帰りで通いながら50種類以上の野菜を作っている。