ピンク色のかわいらしい花を年に数回楽しめる
ピンク(二季咲き)
青空に映える鮮やかな花色が美しいイペーは、南米原産の落葉亜高木〜高木です。少し耳慣れない名前かもしれませんが、”ブラジルで愛される花“や、”ウッドデッキに用いる『イペ材』“と聞けば、思い当たる方も多いのではないでしょうか。国内では主に沖縄や九州のほか、本州でも西南の暖かい地域に植栽されています。寒さに弱い樹木ですが、管理次第では寒冷地でも生育が可能です。イペーの系統・品種育成を手掛ける小林泰生さんのアドバイスを参考に、華やかな花で庭を彩ってみませんか?
「イペー」はノウゼンカズラ科タベブイア属に含まれる顕花植物の一つです。庭先でよく見かけるノウゼンカズラのようなつる性ではなく落葉亜高木〜高木で、露地植えでは春から秋、ハウス栽培ではクリスマスのころまで見事なラッパ状の花を咲かせます。花色は、主に黄色やピンク、紫色などで、満開時はとても華やかな印象です。
そんなイペーの原産地はブラジル、アルゼンチンなどの南米地域です。その種類は非常に多く、原産地でも分類は複雑で不確実な部分があるようです。その花色から黄色系イペーと紅紫色系イペーの大きく二つに分けられます。黄色系は一季咲きで、紅紫色系は二季咲きです。原産地域では、街路樹や公園などでの植え込み材料として利用されており、観賞用の鉢物園芸としての利用は少ないようです。
日本では黄色系や紅紫色系の数種類が栽培されています。暖地の沖縄県、九州では、鹿児島県を始め、熊本県や福岡県、山口県などで、街路樹や公園、道の駅などに植栽されています。東日本では、主にブラジルからの労働者が多く居住する茨城県や、千葉県、神奈川県、静岡県などの比較的温暖な地域に見られるようです。
イペーの特徴として、黄色系、紅紫色系いずれも亜高木〜高木である点が挙げられます。原産地では樹高が5〜10数mに達するものもあるほどです。また、温暖な地域が原産のため、その多くの種類が耐寒性に欠けるという性質があります。寒さに強い北半球原産の植物が芽鱗で保護された冬芽を形成するのに対して、南半球原産のイペーの花芽は丸裸であるため、耐寒性が劣ります。イペーを育てる際には、こうした特徴に留意しながら管理するとよいでしょう。
小花が多数集まったクス玉状の豪華な花房(玉咲き)を樹冠全体に咲かせるものなど、イペーにはさまざまな色や形をもつ株が確認されている。さらに、開花期間が2カ月近い株なども確認されており、今後さまざまな特徴をもつ品種の登場が期待できる。
先に述べたように、イペーは黄色系や紅紫色系とも多くの種類がありますが、日本で種苗登録された園芸品種はないようです。しかし、現在当社では、‘イエロー‘と‘ピンク‘を含む4種のイペーの品種登録の準備をしています。
これは、@挿し木をして1〜2年の苗で開花するA二季咲き性を示し、年に数回開花するB高木にならなくても開花するC花色の変異幅が広い、などの特徴をもった品種です。このような品種の登場によって、イペーは日本でも栽培しやすくなっていくでしょう。
また、イペーはさまざまな種類があり、多様な特徴が確認されていることから、耐寒性が強く、より育てやすく、より花を楽しめるように育成された系統、品種の登場も予想されます。どの種類も華やかで美しい花ですので、今後もぜひイペーにご注目ください。
イペーは12℃くらいで生育・開花するため、東北地方以北は鉢植えでの栽培がおすすめです。暖地においては、ハウス内温度が高くなる3月中下旬、露地では4月下旬ごろから生育を開始し、4月中旬〜5月上旬にかけて開花します。その後、開花部位から二分枝させ、3〜5節に5枚小葉を生やし、8〜9月に伸長した枝の先端に花芽をつけます。そして花芽をつけた状態で越冬します。
側枝が旺盛に成長する6月以降は、日当たりのよい場所が好適な環境条件といえます。夏季に涼しくするために樹体を遮光したり、日の当たらない場所で育成すると、十分に花芽がつかなかったり発育を阻害することになります。庭の木陰部分など日当たりの悪い場所での植え付けや管理は避けましょう。
イペーは寒さに弱いため、露地植えでは気温が12℃を下回るまでに植え付けましょう。関東以北では、10月中下旬までには行いましょう。11月以降に苗を入手した場合は、3月下旬ごろまで待ち、気温が12℃以上になってから植え付けるとよいでしょう。
水やりは日常の管理の中で最も重要です。露地植えの場合は特に問題はないのですが、深植えしたり、水やりが多すぎると滞水して根傷み・根腐れがおき、根が褐色になります。
また夏場の高温期に水不足が続くと枝の肥りが悪くなるので、新梢の伸びを観察しながら水量を調整してください。鉢植えの場合には、時々鉢から株を抜いて根が健康な白根かどうか確認しながら水やりの程度を加減してください。
イペーは肥料を好むタイプです。たくさん花をつけさせたいのなら9月いっぱいで肥料が切れるようにしましょう。気温が高ければ植え付け後、1週間で根が活着するので、固形の緩効性肥料や有機質肥料を置き肥して、土とよく混和しましょう。一般的な固形の緩効性肥料(IB化成など)では、3.3u当たり250〜300g、有機質肥料では、400g程度を施用します。また、鉢植えで楽しむ時は新芽が出始める前や剪定、切り戻し直後に、大粒の緩効性肥料であれば4〜5号ポットに対して3〜5粒施用するとよいでしょう。
購入した苗が挿し木後の発根苗の場合、2年目からの摘芯や剪定作業が重要です。通常、剪定は花が終わった直後に行います。早すぎると基部から側枝が伸びすぎて、株のバランスが崩れてきます。反対に遅れると側枝数が少なくなり、花蕾のつく位置が高くなります。そのため側枝は2〜3節つけて摘芯や剪定をするとよいでしょう。種類や株の栄養状態によって、片方の枝が徒長してバランスが悪くなる場合があります。よくしまった樹型にするためには、苗を植え付けてから3年程度は大胆な切り戻しは控え、花蕾がつくまでは細枝を間引き、開花する太茎を残すように株全体を整えましょう。
気温が高くなる春先から新芽が伸び始めます。新芽がやわらかい時期や、梅雨期にはアブラムシやハダニ類が多くなります。厄介な害虫ではありませんので、登録のある市販の有機リン剤やアセタミプリド剤を散布して防除してください。
幼木で花蕾のついた枝は、春に開花するので残し、先端中心部が枯れ枝になったものは基部から除去する。
開花後に出現する太い新梢は、秋に花芽がつくので残し、細枝は整理する。旺盛に生育する枝は、早めに刈り込めば新梢の発生が促される。
花蕾のついていない先端中心部の枯れ枝、内側の細枝や陽光が当たりにくい枝はしっかり剪定、刈り込みをし、樹体全体をバランスよく整える。花蕾のついた枝は残し、徒長した枝は節部分の上で切り戻すようにする。
剪定後に新梢が伸びてきた黄色系イペー。
耐寒性の弱い紅紫色系イペーについては、暖かい屋内に入れたり、鉢植え基部をもみ殻やおがくずなどで覆ってやったりして、寒さによる障害を回避しましょう。暖冬の場合は安心ですが、冬の冷え込みが厳しい時にはぜひともこの方法にチャレンジしてください。春になって暖かくなれば、枯れ込んだ基部から新芽が出てきます。
福岡県農業総合試験場(現:福岡県農林業総合試験場)を経て、九州日観植物鞄烽ナホルティック梶iHTK:Horticultural Technology in Kyushu)を立ち上げる。主にノウゼンカズラ科のイペー、ジャカランダ、テコマのほか、マメ科のカッシア、宿根性ササゲ(グリーンカーテン)、宿根アサガオなどについて、従来にない新規性に富んだ系統・品種育成に取り組む。