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「新感覚」の生け垣づくりのすすめ♪

エコでおしゃれ、今注目を浴びている!「新感覚」の生け垣づくりのすすめ♪

家と外界を仕切るための壁として、古くから利用されている生け垣。最近、この生け垣が注目されているのをご存じですか。住宅を緑化することで町全体に緑が増えたり、また震災時の被害を少なくできるという安全面において、塀ではなく生け垣を選択する人が増えています。そこで今回は現代風の住宅にもよく合うおしゃれな「新感覚」の生け垣をご紹介します。

スモーキーピンクの外壁に、‘レッドロビン’の赤い葉がよく似合う。神戸出身の家主は、阪神淡路大震災の折りに多くのブロック塀が倒壊した様子を見て、安全性の観点もあって生け垣を選んだそう。春には生け垣全体が新芽の赤に染まる。/トキワマンサクとヒノキを交互に植えた生け垣は、ナチュラルでやさしい印象。根本部分に加えたミズヒキソウがアクセントになっている。

おしゃれで多彩な欧米のヘッジ感覚を取り入れて

生け垣はもともと家の境界を明確にし、外からの侵入を防ぐために植物を列植してつくった垣根のことですが、近年そのよさが再認識されています。
最近の住宅は洋風が多くなり、外構も道との境界をつくらないオープンなタイプが増えています。そこに生け垣をつくることで、外とのつながりをソフトに保ちながら、侵入防止や目隠しにも利用でき、内外の両側から美しい植物を観賞することができます。住宅街の一軒一軒で樹種や形が変わった生け垣があれば、葉の緑、新芽や花、紅葉を楽しむことができ、町全体の魅力もアップするでしょう。
でも、今までの生け垣だとなんだか古めかしくて、和風家屋でないと合わないのではと思われる方も多いでしょう。しかし、英語でヘッジ(hedge)といえばどうでしょうか。西洋の建築や庭の境界をつくるヘッジはおしゃれで実に多彩です。これまでの生け垣のように同じ高さで刈り込んで壁状にするだけではなく、道に面した場所は低く、次は中間的な高さ、奥はある程度の高さと変化を出しても楽しいですし、上部をちょっと丸く刈り込めば、柔らかな雰囲気を演出できます。道側に花や木を植えるだけでも、単調になりがちな生け垣に変化を出すことができます。このようにアイデア次第で、それぞれの住宅に適した魅力的な生け垣をつくることができるのです。

魅力的な新品種の登場でさまざまな印象を楽しめる

もうひとつ生け垣をつくる時に考えなければならないのが樹種です。これまでの生け垣は、ツゲや針葉樹などが利用されてきましたが、近年は魅力的な新品種が数多く導入されています。特に葉色が黄や赤色などのカラーリーフや斑入り、美しい花の咲く種類は洋風の家屋ともよくマッチするのでぜひ取り入れたいものです。また、日本で混ぜ垣といわれるさまざまな樹種を植えるミックスドヘッジも魅力的です。樹種を変えるだけではなく、同じ種類でも花色の違う品種を混ぜて植えると変化に富んだ生け垣ができあがります。
地震や台風などの災害時には、石垣やブロック塀が倒壊した映像が報道されましたが、万一の場合でも生け垣であれば被害を少なく抑えることができます。これもまた、最近生け垣が注目されている大きな理由でしょう。
さらに、生け垣によって住宅を緑化することにより町全体の景観を向上させることができます。このため、生け垣をつくる時に助成金を出している自治体もあるので、条件などについての詳細をお住まいの自治体に問い合わせて、ぜひ利用しましょう。

生け垣に適した樹種を選ぼう

生け垣に向く樹種の条件は?

白っぽい斑入り葉のシルバープリペットはとても明るく軽快な印象で人気が高い。

目隠しや境界、防風や防火、観賞などの目的によって、適した樹種は異なります。常緑樹、落葉樹、針葉樹、つる性植物など、さまざまな種類を生け垣に利用することができますが、それらの中から生け垣に適した樹種を選ぶには、いくつかのポイントがあります。
まず第1に、生け垣では樹木を列植しますので密植しても育つことや、枝がある程度密に出て、遮蔽性が高いことが条件となります。特定の形に仕立てる場合は特に刈り込みに耐えて、よく萌芽することが必要です。内部の枝が枯れて、生け垣に穴が開いた場合にも、枝の出がよければ、穴を防ぐことができます。生育の遅い樹種は低めの生け垣、生長の早い樹種は高めの生け垣と、つくりたい生け垣の大きさによって樹種を選ぶことも必要です。また、生け垣の中は風通しが悪くなり、病虫害が発生しやすくなりますので、病虫害の被害を受けにくい樹種であることも条件となります。

白い外壁の家にも似合う明るい葉色の樹種

プリペットプリペット

シルバープリペットシルバープリペット

近年人気の高い生け垣用の樹種にプリペットや葉に斑の入るシルバープリぺットがあります。プリペットは、イボタノキやネズミモチが含まれるモクセイ科イボタノキ属の植物の英名です。近年、プリペットと呼ばれる種類は、中国原産のシネンセ種(Ligustrum sinense)で、落葉種の中では最も花つきがよく、香りのよい白色の花を咲かせます。正式な英名はプリベット(Privet)ですが、市場ではプリペットとして出回ることが多いようです。シルバープリペットは、葉の縁に白色の斑が入る園芸品種バリエガツム(Variegatum)で、周囲を明るく演出します。両種とも土質を選ばず、生育も早く、芽吹きもよいので、剪定して好みの樹形に仕立てることができます。1m以上の比較的高い生け垣に適しています。

セイヨウツゲ‘エレガンテッシマ’セイヨウツゲ
‘エレガンテッシマ’

ナワシログミ‘ギルトエッジ’ナワシログミ
‘ギルトエッジ’

セイヨウツゲ(Buxus sempervirens)の園芸品種エレガンテッシマ(Elegantissima)は濃い緑色に白色の斑が映える園芸品種です。芽吹きもよく、刈り込みに耐えますので、低い生け垣から高いものまで、またさまざまな形に仕立てることができます。
また、その他にもヒイラギとギンモクセイの雑種であるヒイラギモクセイの白色や黄色の斑入り品種、ナワシログミの交配種エビンゲイ(x ebbingei)の葉に黄色の斑が入る園芸品種ギルトエッジ(Gilt Edge)も育てやすく、明るさで目を引く生け垣をつくることができます。

刈り込んできりりとした印象に整形しやすい樹種

スクエアに整形したセイヨウツゲの根本にアイビーを加えて。モダンなガラスブロックによく似合う。

イヌツゲイヌツゲ

欧米の生け垣によく使われ、きりりとしまった印象を与えるのがツゲ科のセイヨウツゲ(Buxus sempervirens)です。英名をボックスウッド(箱の材料にする木)といわれるように、材はかたく緻密で狂いが少ないために、櫛や工芸品、楽器に使われます。本来は6mほどと大きくなりますが、枝が密に出て葉も細かいため、トピアリーやさまざまな形の生け垣として仕立てることができます。
また、ツゲの仲間と混同されますが、モチノキ科のイヌツゲも整形しやすい種類です。葉はツゲは対生、イヌツゲは互生しますので、簡単に見分けることができます。生長も早く、非常によく萌芽し、排気ガス等にも強いので、好みの樹形に仕立てることができます。イヌツゲには園芸品種も多く、小さく丸い葉をつけるマメツゲ、新芽が黄色のキンメツゲなども利用されます。
整形しやすい樹種は、こまめに剪定を行って、新芽を多く出させることが重要です。

モダンな生け垣に仕上がるカラーリーフの樹種

斑入りの品種は明るい印象を演出しますが、葉色全体が変化したカラーリーフを使うことで、カラフルで個性的な生け垣をつくることができます。
ベニバナトキワマンサクは、トキワマンサクの赤花の変種で、芽出しが赤く、夏には緑色に戻るものと、通年赤く、冬には赤褐色になる園芸品種があります。どちらも剪定に耐え、よく萌芽しますので生け垣に適しています。寒さには多少弱いので、関東南部以西の地域で栽培するのに適しています。
また、新芽が赤く美しいことから、とても人気が高いのがニュージーランドで作出されたセイヨウカナメ‘レッドロビン’(Red Robin)です。春に伸びた新芽が緑色に変わる5〜6月に一度、9月にもう一度刈り込むことによって、冬季も赤い葉を楽しむことができます。

夏から秋の‘レッドロビン’。全体が真っ赤に染まる春の様子も魅力的。

レッドロビンレッドロビン

花の季節は道行く人をも和ませる花が楽しめる樹種

生け垣は葉を楽しむだけではありません。生け垣は壁面に花を咲かせることができますので、普段とは違う花のディスプレイを演出することができます。
アベリアは、5〜10月まで枝を伸ばしながら次々に花芽をつくり、長期間開花する半常緑の低木です。栽培容易で、生育も旺盛であるため、さまざまな形の生け垣にすることができます。春の開花後に一度刈り込み、夏から秋にかけては伸びすぎた枝を切り、樹形を整えます。
初夏に白い花を咲かせるクチナシは、香りを楽しむ花木の代表ですが、生け垣にも利用することができます。盛夏を挟んで7月と9月の2回花芽を分化し、翌年の6月に開花しますので、花を咲かせるためには開花後のなるべく早い時期に剪定します。寒さに多少弱いため、関東南部以西の温暖な地域での栽培に適しています。

アベリアとツツジを交互に並べたミックスドヘッジ。春にはツツジのピンクの花も加わりとても華やかになる。

アベリアアベリア

外からの視線をソフトに遮断 目隠し効果の高い樹種

生け垣は目を楽しませるだけではなく、葉が大きい樹種や枝が密に出る常緑樹を選ぶことによって、外からの視線を遮る目隠しの効果もあります。
常緑針葉樹のイチイと小型の変種キャラボクは、生長は遅いのですが、刈り込みに耐え、さまざまな樹形に仕立てることができます。秋になる赤い果実は、濃い緑色の葉によく映えて美しいものです。
また、ヤツデなどと同じウコギ科のカクレミノは、先端が3つに割れたモミジの様な形の葉が楽しい常緑樹です。枝数は少ないのですが、大きな葉が目隠しに適しています。このほかにも、花が美しく、ツバキよりも枝が密に出て生け垣に適しているサザンカ、常緑のカシ類の中では備長炭の材料として有名なウバメガシや防風の効果が高いアラカシは目隠し効果の高いおすすめ品種です。

目隠し効果の高いウバメガシとヒイラギモクセイのミックスドヘッジ。

ウバメガシウバメガシ

サザンカ(カンツバキ)サザンカ(カンツバキ)

アラカシアラカシ

デザインを変えるだけでぐっと新鮮に!

普通の生け垣でも組み合わせやデザインをちょっと工夫するだけで、まったく違った印象になるものです。
今植わっている生け垣の前に多少でもスペースがあれば、道路側に樹高が低い生け垣をつくって2段、3段垣にするだけで形の変化が楽しめます。花の観賞価値の高い樹種やカラーリーフなどを組み合わせれば、見違えるように明るい雰囲気になります。また、樹高の高い生け垣では、株元の枝がまばらになり、下部が透いてしまうことがありますので段垣は効果的です。

オリーブ、イボタノキ、ヒイラギナンテンのミックスドヘッジは、葉色に変化がありリズミカルな雰囲気。

ヒイラギナンテンヒイラギナンテン

生け垣は普通1種類の樹種から構成されますが、数種類を混植することで、おしゃれでナチュラルな雰囲気のミックスドヘッジ(混植垣・交ぜ垣)をつくることができます。
長い生け垣の場合は、刈り込みの時に、高い、低い、高いと場所によって樹高を変化させるだけでも、ぐっとモダンな印象になります。またエントランスの両側にカラーリーフや玉刈り、円錐形の樹形の樹種を添えるだけでも、今までの生け垣がぐっと引き立ちます。

整形した‘レッドロビン’とコニファーを交互に並べた生け垣は、道行く人に楽しげな雰囲気を与える。

奥に'レッドロビン'、手前にツツジとヘデラ・カナリエンシスを合わせた3段垣。

何本の樹が必要?植え付けと剪定

〜生け垣の仕立て方〜

植え付ける前にひもを張って、曲がらないように線に沿って2m前後の間隔で杭を打ち込みます。30cmの間隔で植え付ける場合は1.8mごとに杭を打ち込み、杭の両側15cmに苗を植え、次は30cm離して45cmの所に植え、杭の間に6本の苗を植え付けます。50cm間隔の場合は、2m間隔で杭を打ち、杭から25cm、75cmと4本の苗を植え付けます。杭の高さは生け垣の最終的な高さより低くし、横に竹を2〜3本渡して、支柱に固定します。必ず竹の外側(道路側)に苗を植え付け、横に渡した竹に固定して根がぐらつかないようにします。

樹種や株の大きさによって異なりますが、生け垣をつくるためには、樹高50cm程度の苗木で、通常30〜50cmの間隔で植え付けます。ツゲなどの生長の遅い樹種では30cm、プリペット、トキワマンサクなど生長の早い種類は50cmを目安にします。ミックスドヘッジをつくる場合は、生長の早い樹種が他の樹の生長を阻害しないように、通常よりも広めに間隔を取るとよいでしょう。
植え付け前には、腐食質や元肥を入れて十分に土壌改良をしておきます。植え付けは落葉樹の場合は厳冬期を除く落葉期、常緑樹の場合は芽が動き出す前の3月または梅雨時期が適しています。
生け垣の形を保っていくためには、最低年2回の剪定が必要となります。ほとんどの種類で花芽は前年の夏にできますので、花を咲かせる場合は、花後のなるべく早い時期に行います。また、葉を観賞する場合は、新芽の生長が止まる梅雨時期と晩秋に剪定を行いましょう。

倉重 祐二(くらしげ ゆうじ)
倉重くらしげ 祐二ゆうじ
1961年、神奈川県生まれ。千葉大学大学院園芸学研究科修士課程修了。赤城自然園(群馬県)を経て、現在は新潟県立植物園副園長。専門はツツジ属の栽培保全や系統進化、花卉園芸文化史。環境省生息域外保全計画植物分科会検討委員、日本植物園協会植物多様性保全委員のほかNHK「趣味の園芸」講師も務める。「よくわかる栽培12か月 シャクナゲ」「原色日本産ツツジ・シャクナゲ大図譜」(誠文堂新光社)など著書多数。