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美しく強いバラを育てる

特集 美しく強いバラを育てる ハークネス社 ロバート・ハークネス

栽培しやすさを求めて作出された日本の環境に最適なハークネスローズ

バラの本場であるイギリスは冷涼で乾燥しており、そのため暑さでバラが弱ることもなく、病害虫の発生もあまり見られません。一方、日本においてはその逆で、高温多湿下で株は弱まり、数々の病害虫の脅威があります。
また敷地面でも、イギリスでは一般に広い庭が多く、大きく広がる品種でも問題なく育てることができますが、狭い庭の多い日本ではそうもいきません。このような日本の環境下では、それに適応できる品種選びが非常に重要になりますが、このことを想定して作出されたかのような、まさに「日本のためのバラ」とも言うべきシリーズが存在ます。それが「ハークネスローズ」です。ハークネス社の歴史と育種ポリシーに併せて、ハークネスローズの強健さ、コンパクトさ、美しさについてご紹介いたします。

バラの名門・ハークネス社

ハークネスのバラ園は、1897年にイギリスのヨークシャーで創立され、当時、良質のバラ苗の生産農家として広く知られました。その創立から65年後の1962年に、私の父ジャック・ハークネスが兵役後、本格的にバラの育種を始めました。

強健さを取り入れるため、野生種との交配を進め、初期はハイブリッド・ティー系、後にフロリバンダ系を中心とした数々の銘花を生み出しました。それらは美しい花が安定して咲き、コンパクトに樹形がまとまり、さらに病気に強く育てやすい品種群として知られています。ジャックは、1994年6月に他界するまで、30年以上にわたり200余りの世界中のローズコンテストでの入賞品種を作出し、品種数、苗の品質を兼ね備えたローズナーサリーとして、今日100年以上にわたるハークネスローズ社の歴史の礎を築きました。

ジャックの死後も、2人の息子である私(ロバート)とフィリップが父の遺志と育種素材を受け継ぎ、ジャックが残した歴史的銘花を上回るすばらしいバラを作出するよう、日々努力を続けています。

(上)今やバラの名門として世界的に知られるハークネス社。 (下)チェルシーフラワーショウにて展示されたハークネスローズ。

(上)育種を行うジャック・ハークネス。1962年より本格的に育種に取り組みだす。 (中央)ジャックは野生種との交配を繰り返し、H・Tやフロリバンダの銘花を数々作出した。 (下)ハークネス夫妻。

ロバート・ハークネス(Robert Harkness)

1951年、イギリスのヒッチンでジャックとベティの息子として生まれる。8歳の時に初めて農場での経験を積み、夏休みは週に10シリングをもらいながらバラの穂木の準備を行う。1970年にはオランダのボスコープで園芸の研修を受け、園芸家の精神や実技を学び、その翌年からヒッチンで大規模なバラ農場を設立・運営、地元で名をとどろかせる。1980年、家族のバラ農場(R.ハークネス会社)に参入。兄弟のフィリップとともにガーデンセンターを設立し、ハークネス農場の新しい部門の園芸用植物開発のため農場を設立。1997年にはガーデンセンターを売却し、新しいバラの品種開発に専念。現在は南フランスのライセンス事務所とヒッチンのバラ農場を行き来する生活を送る。余暇に楽しむのはガーデニングやヨット、スキー、旅行、クリケット観戦など。

ロバート・ハークネス

ハークネス社が行う育種

ハークネス社は、「最小限の管理で最高のパフォーマンスを発揮するガーデンローズの作出」を育種のポリシーとしております。この育種方針に基づき、高い品質を追い求め、花の美しさ、香りのよさ、多花性、コンパクトな草姿、そして何より病気の強さ(栽培のしやすさ)のポイントをクリアして選抜された品種が世に出されています。このようなポリシーで選抜された品種は、世界中のバラの専門家、造園業者だけでなく、広くアマチュアのバラ愛好家からも、長期間楽しむことのできる価値ある品種としての評価をいただいています。

この育種ポリシーを実現するための育種プロセスは、後代に優良形質を遺伝する可能性を持った、自社育成の親系統間の交配計画を練るところから始まります。そして何世代にもわたってこの交配作業を続けることで、優れた品質を兼ね備えた品種を誕生させます。

ハークネス社では、毎年、強健な親系統を選んで交配された400〜500系統の約4万粒の試交品種のタネをまきます。そのうち次の育種ステップに進むのは50系統以下の900種ほどで、まいた中での2%ほどしか残らず、残りの約98%は廃棄されます。さらに次のステップとして、残された約2%の株を接ぎ木によって各5株ずつに増殖され、露地圃場で栽培され、ガーデンローズとしての評価が行われます。つまり、年間900種4500株ほどが、初年度の圃場栽培調査の対象となるのです。

初年度の圃場調査の対象は900種4500株。最終的に毎年6〜10品種ほどの選び抜かれた優秀な品種が販売対象となる。

農場での栽培は、基本的に一般の生産農家と同じ条件で行われますが、病気に強い品種を選抜するため、農薬は使用せずに栽培されます。

このような栽培条件下で約6年間テストされ、年ごとに特性と開花状態が観察されます。その結果、よかったものは毎年増殖され、よくなかったものは廃棄されます。そのため、6年目が終わるころに残るのはごく少数となり、多くの場合は6〜10品種で、それは初めにまいた4万粒の種子の約0.0025%にあたります。こうして選ばれた品種が、将来、世に出される新品種となるのです。

育種には数々のチェックポイントがあるが、何よりも栽培のしやすさ、病害虫への抵抗性に力点をおいた育種を心掛けている。

日本におけるハークネスローズ

前述のように、我々の育種ポリシーは「最小限の管理で最高のパフォーマンスを発揮するガーデンローズの作出」です。前項の育種プロセスで選抜された品種は、夏は高温多湿、冬には厳寒となる厳しい日本の環境条件でこそ、その能力を発揮してくれると確信しています。毎年、各地で権威ある国際バラコンテストが開催されますが、それらは日本以上に過酷な環境を含む世界中の試験圃場で栽培試験を行った結果、高い優秀性を認められた品種に入賞が認められるものです。ハークネスローズは日本より涼しく乾燥したイギリスで育種されていますが、弊社品種には‘アンバークイーン’や‘コンパッション’など国際バラコンテストで入賞した品種が多数あり、苛酷な環境への適応性が証明されています。

また株がコンパクトにまとまる点も、ハークネスローズを日本での栽培におすすめするポイントです。日本の庭の多くは広さに制限がありますが、ハークネス品種が持つコンパクトさにより、限られた空間でも楽しむことができ、露地植えはもちろん、鉢植えにして育てても問題ありません。コンパクトだからといって見た目に豪華さがないかといえば決してそのようなことはなく、開花時の花つきのすばらしさは見事の一言で、四季咲き性にも優れます。

このように、日本の栽培環境に適合した強健さ、コンパクトさを併せ持ち、その上に品種幅や花色のバリエーションに富んだシリーズとして、ハークネスローズは非常におすすめできます。

過酷な日本の栽培条件下でバラを育てられた方なら多くの方が、やっと手に入れたお気に入りのバラの栽培を失敗された経験を一度ならずお持ちかと思いますが、そのような過去の失敗に躊躇することなく、次回はぜひハークネスローズをお試しください。今度こそバラ栽培の楽しみを身近に感じていただけるチャンスになると信じています。

草姿がコンパクトなため、鉢植えにしても楽しめる。

多彩なハークネス品種たち

本格的に日本市場に参入した1998年に、タキイを通じて「第1回国際バラとガーデニングショウ」を飾った‘プリンセス オブ ウェールズ’以降、数々の新品種を発表してきました。ハークネス社が行う栽培試験に加えてタキイが行う試作により、日本での適応性はより厳しく確認され、安心してご使用いただける環境が整っております。今後ますます増えていくハークネスローズのコレクションをお楽しみください。

  • ‘ウェルビーイン’FL 2003

    ‘ウェルビーイン’FL 2003

    濃淡あるアプリコット色のディープカップ咲き。季節により花弁がフリルのように波打ち、類を見ない美麗な品種。樹高約0.8mとコンパクトで鉢でもよく育つ。芳醇な柑橘系の香り。

  • ‘オクタビア ヒル’FL 1995

    ‘オクタビア ヒル’FL 1995

    オールドローズを思わせる丸弁クオーター咲きの四季咲き種。樹高1.2m。19世紀、住宅環境の改善を行い、困窮者の救済という点でナイチンゲールと並ぶ業績を挙げ、民間人の手で自然や歴史的史跡を残す活動(ナショナルトラスト)を始めたオクタビア・ヒル女氏に捧げられたバラ。

  • ‘プリンセス オブ ウエールズ’FL 1997

    ‘プリンセス オブ ウエールズ’FL 1997

    故ダイアナ元妃に捧げられた白からクリーム色のフロリバンダローズ。コンパクトな草姿で多花性早生種。切り花にも向く。第1回国際バラとガーデニングショウのメインローズとして会場を飾った。樹高約0.9m。

  • ‘ラマー’FL 1994

    ‘ラマー’FL 1994

    美しい桃色丸弁平咲き大輪花で早生種。強い香りが魅力のオールドタイプで切り花にも最適な品種。樹高0.8〜1m。

  • ‘パトリシアケント’FL 2004

    ‘パトリシアケント’FL 2004

    咲き初めの外弁はアイボリーイエローで、開くにつれまばゆいレモンイエローが現れるさわやかな美花。たっぷりとした蕾を枝いっぱいにつけ満開時はすばらしい。他品種とも相性のよい色彩で活躍する。樹高0.8〜1m。フルーツとティーの甘い香り。

  • ‘レメンブランス’FL 1992

    ‘レメンブランス’FL 1992

    寒さ、乾燥に強く育てやすい強健種。フロリバンダでは珍しい鮮やかなスカーレット花が次々と咲く。中輪丸弁平咲き早生種。樹高0.8〜1m。

  • ‘アンバークイーン’FL 1984

    ‘アンバークイーン’FL 1984

    アプリコット色の盃状咲き中輪花で、花弁の外側に軽くウェーブがかかり優美な印象。花もちよい房咲き。咲き進むと黄色みを帯び、花色の変化も楽しめる。樹高0.8〜1m。ムスク系でスパイシーかつ甘い香り。

  • ‘インターナショナルヘラルドトリビューン’FL 1985

    ‘インターナショナルヘラルドトリビューン’FL 1985

    別名「バイオレッタ」。バイオレット花の中心が白くなりコントラストが美しい。花つきよく連続開花性に優れる。樹高約0.6mで密に茂り、トゲはほとんどなく鉢や花壇に向く。

  •  ‘ミセスアイリスクロウ’FL 1994

    ‘ミセスアイリスクロウ’FL 1994

    アプリコットピンクの中輪花は、ひらひらと蝶が舞うような花形。しっかりとした直立性で狭い場所にも向く。樹高1.2〜1.5m。花もちよく、鉢植えにも好適。初心者にもおすすめ。

  • ‘マーガレットメリル’FL 1978

    ‘マーガレットメリル’FL 1978

    優雅な美しいアイボリー色の大輪花をつけ、白系のフロリバンダとしては珍しく、甘く、かつスパイシーな強い香りを持ち、トゲも少なく扱いやすい。ハークネスの品種の中でも全世界で最も愛されている品種の1つ。甘く豊かな香りは、英国にて3年連続で香りの賞を獲得。非常に強健でトゲも少なく、初心者にもおすすめ。樹高約1.5m。

  • ‘コンパッション’CL 1973

    ‘コンパッション’CL 1973

    サーモンピンク色の剣弁高芯咲きから八重咲きに変化する大輪花。弁底はアプリコット色を呈す。強健でアーチやフェンスに最適。繰り返し咲き。樹高2〜2.5m。黒点病に強く、半日陰にも向く。つるバラでは珍しい強香も魅力。

故ダイアナ元妃のバラ

1997年4月、ハークネス兄弟は華麗な白いバラをダイアナ元妃に捧げました。その際、この苗木の売上の一部を、彼女が長年熱心に貢献していた英国肺病基金に寄付することを提案し、この白いバラは‘プリンセス オブ ウェールズ’と名づけられて世に出回ることになりました。同年8月、不慮の事故により彼女はこの世を去ることになりましたが、彼女の遺志はこのバラとともに生き続けており、彼女亡き今も病で苦しむ方々のもとにその思いが届けられています。以下は、彼女がハークネス兄弟に直筆で送った手紙の内容です。
「このようなすてきなバラに私の名前をつけてくださり、非常に光栄に感じます。このバラの販売により基金の資金が増し、懸命に病気と闘っておられる方々や、その研究に生かされることを心より願っております」。

故ダイアナ元妃