デリシャスコンテナ菜園 果菜類の育苗方法
園芸家の深町貴子さんが、自宅のベランダで野菜作りに挑戦。
今回は、トマトやナスなどの果菜類の育苗方法をご紹介。
タネから苗を育てれば、愛着もひとしお。夏の大収穫を目指して早速始めましょう。
「夏野菜のタネまきは早春からスタート」
トマトやナスなどの果菜類の植え付け時期は、5月中下旬。育苗には70日前後かかるので、逆算すると、2月下旬〜3月初旬がタネまきのシーズン。タネからの栽培では、自分で管理できることはもちろん、珍しい品種も育てられるといったメリットがあります。
育苗を成功させる最大のポイントは、温度管理。寒さが苦手な果菜類は、タネをまいただけでは発芽しないので、加温や保温をして暖かい環境を確保します。しっかりした苗に育てるには、日光にしっかり当て、発芽後は徐々に温度を低めにして管理するなどのポイントがあります。今回は加温設備や育苗器がなくても手軽に育てられる方法を紹介しているので、ぜひ試してみてください。
タネから育苗したトマトの苗(右)とナスの苗(左)。低温に弱いので、気温が低い時期は加温して育てるのがコツ。
ミニトマトの苗の育ち方を知ろう
これからまける果菜類 深町さんのおすすめ品種はコレ!
千果
おいしくて作りやすい大人気のミニトマト
甘さ、おいしさに定評のある人気品種。下の段から次々に実がつき、果揃いがよいのも特長。たくさん収穫できるので、プランター栽培にもぴったりです。
オレンジ千果
病気に強くおいしいオレンジ色のミニトマト
従来のミニトマトより、カロテン含有量が約3倍。甘みが強く、濃厚なうまみを感じられる品種。生育旺盛で病気にも強く、栽培初心者も安心して育てられます。
SL紫水
浅漬けにするとおいしい!トゲが出にくい水ナス
やわらかくて甘みのある、長めの丸形水ナス。トゲがほとんどないので、収穫作業や料理でも扱いやすいのが特長。浅漬けにするとおいしさが際立ちます。
とげなし千両二号
いろいろな料理に使える!人気のとげなし品種!
とげなし品種なので収穫や管理作業がしやすく、栽培初心者も安心。やわらかい果皮は、濃黒紫色で色ツヤがよく見映えがします。
果菜類の育苗の手順
温度をしっかり確保して茎が太く、がっちりした苗にする!
■準備するもの
- □果菜類のタネ
- □キッチンペーパー
- □食品保存用袋
- □使い捨てカイロ
- □タオル
- □ペットボトルホルダー
- □温度計
- □タネまき用培土
- □ポリポット(直径9p)
- □ペットボトルのふた
- □つま楊枝
- □霧吹き
- □保温用容器(飼育ケースなど)
タネまき前の準備
タネを水につけて催芽処理をする
発芽を揃えるため、水で湿らせたキッチンペーパーでタネを包み3〜5日おきます。
キッチンペーパーを水で湿らせ、タネを置く。ペーパーを畳んでタネを包み、食品保存用袋に入れて密閉する。
使い捨てカイロをタオルで包んでおく。
1と2を保温効果のあるペットボトルホルダーに入れる。温度計で内部の温度を確認しながら、発芽適温になるように管理する。
この状態で、トマトは3〜4日、ナスは4〜5日おく。内部の温度が発芽適温を下回ったら、カイロを取り替える。
タネまき
加温して管理する
タネまき後は、発芽適温の20〜30℃になるように保温をし、室内の暖かい場所で管理します。
ポリポットに、水で湿らせたタネまき用の土(タキイの「たねまき培土」など)を入れる。ペットボトルのふたなどで、深さ1p程度のまき穴をあける。
1穴に3粒ずつタネをまく。タネの間隔をあける時は、つま楊枝などを使うとよい。土をかぶせて軽く押さえ、霧吹きで水を与える。
飼育ケースなどに入れ、室内の暖かい場所に置く。発芽するまでは霧吹きなどで水やりし、発芽適温を維持しながら育てる。光がなくてもよい。
温度計を活用しよう
丈夫な苗を育てるポイントの一つが、適切な温度管理。発芽までは土の温度が発芽適温になるように、温度計を土に差してチェックします。発芽後は育苗に適した温度(気温)になるよう、ケース内の温度を確認しましょう。
↑温度計は目盛りが見やすい園芸用のものを用意しよう。
発芽後の管理
間引きをして1株にする
発芽したら日当たりのよい窓際などに置き、植え付け適期の大きさまで育てます。
双葉が開いたら生育のよい株を残して1株を間引き、2株にする。本葉2〜3枚までに、成長の遅い株や徒長した株を間引き、1株にする。
保温用の飼育ケースにポリポットを戻し、引き続き日当たりのよい場所で管理する。適温の場所を探して移動し、土の表面が乾いたら水やりをする。
植え付け前に外気にさらす
本葉7〜8枚になったら、植え付けの適期。徒長を防ぐため、少しずつ水やりの回数と量を減らします。日中の暖かい時間に屋外に出し、徐々に外の気温に慣らし(順化)、1週間後、プランターに植え付けます。
とびきりおいしい果菜類を作る!デリシャス★ポイント
- Q発芽率を高めるには?
- あらかじめタネを水で浸して、発根させる「催芽処理」を行うと発芽率が高まります。その後も発芽や生育に適した温度になるよう管理します。
- Q徒長させないコツは?
- 発芽時とその後に日当たりのよい場所に置くこと。日中は直射日光にしっかり当てることがポイントです。また、本葉4〜5枚くらいになったら、夜温を低めにして昼夜の温度差をつけると、がっちりとした苗に育ちます。
- Q丈夫に生育させるには?
- 保温用の飼育ケースから出した直後は苗が軟弱なことから、徐々に寒さに慣らす「順化」を行います。最初は日中の暖かい時間に外気にさらして直射日光の下に置き、水分を控えて管理します。こうすることで、植え付け後、低温下でも苗が弱りにくく、しっかり育ちます。
栽培後の土を
リサイクルしよう!
■準備するもの
- □厚手の大きいポリ袋(2枚)
□熱湯 □土の再生材
使い終えた土は、捨てずにリサイクルしましょう。ここでは、熱湯で消毒し、再利用する方法をご紹介します。
栽培し終えたプランターは、枝がついた状態で土をカラカラに乾燥させる。
2枚重ねにしたポリ袋の中に土を入れ、鉢底石を取り除く。かたくなった土は支柱などでほぐしながら、古い根やゴミ、害虫などを取り除く。ふるいなどを使ってもよい。
ポリ袋に土を広げ、熱湯を全体がしっとり湿るくらい注ぎ入れる。
※やけどをしないよう、十分に注意してください。ポリ袋は高温で溶けることもあるので、熱湯の注ぎすぎに注意します。
すぐに袋の口を閉めて、手で転がしたり押したりして、全体を蒸らす。
そのまま放置して、土の温度が冷めたら土の再生材を加え、よく混ぜる。肥料を加え、再利用する。
いつもそばに
「いつもタネのそばにいたいって、おかしいでしょ!」と言われてしまうのが、腹巻の中でスイカのタネを温め、発芽させている時のこと。そこで最近は、使い捨てカイロと共にエプロンのポケットで温めることにしていますが、数日後にはちゃんと発芽しています。
私の母は自然が好きな人で、幼少時、母のポケットの中で昼寝をしているシマリスの姿を見てうらやましく思ったものです。数十年たち、私のポケットには植物が入っています。家には昆虫用飼育ケースや水槽がたくさんありますが、入っているのはやはり植物。タネから発根する姿、土の上に発芽する姿、双葉が開く姿をいつもそばで見ていたいのです。
どんな植物も私にとってはいつもそばにいる存在。いないと不安になります。20年以上、地面から離れたアパートやマンションで暮らしていたため、土をそばに置くにはプランターしかありませんでした。プランター栽培は植物が地面から離れている分、難しさもあります。でも、植物の育ち方を理解していれば、どんな育て方をしても何とかなります。皆さんにも自分らしい植物とのつきあい方、栽培方法などを見つけ、楽しさを誰かと共有いただけたら…と思います。タネに触れたものの使命として、園芸の輪を広げていってください。
透明ケースの中で、すくすく育つベカナ。室内に置けば、成長の様子を間近で楽しむことができる。
深町 貴子(ふかまち たかこ)
園芸家。有限会社タカ・グリーンフィールズ専務取締役。テレビ出演やセミナー、講演会などで、野菜作りの楽しさを分かりやすく伝えている。