状態別 土壌改良法
野菜をいきいきと育てるには、土から空気(酸素)と水、養分を野菜の根に適切に供給することが必要です。それらが過不足になると、野菜の生育に悪影響をもたらします。
水が不足している場合は、土の表面や野菜のしおれ具合ですぐに気づくもの。しかし、湿りすぎの場合には根が酸欠となり、徐々にダメージを受けるので意外と見逃しがちです。雨の後や潅水後の土の乾き具合を観察し、水はけのよしあしをチェックすることが大切です。
どんなに水はけのよい畑でも大雨が降れば、ぬかるんでしまいます。理想的な水はけとは、雨が降りやんで24時間後には畑で作業ができることです。数日も畑に入れないようであれば水はけ不良で、その原因の多くは、「下層の緻密(ちみつ)化」です。
次に、野菜の生育不良の原因として考えられることは、土のpHと養分の過不足です。そのほかには、土の中の病原菌やセンチュウが根に感染して発症する土壌病害で、畑に同じ野菜を連作すると病原菌やセンチュウの数が増えるので、発症しやすくなります。
畑の水はけ不良の原因としては、下層の緻密化が考えられます。畑の中で水はけの悪そうな所にショベルで穴を掘ってみましょう。表面15〜20cm程度の作土は耕しているので簡単に掘れますが、問題はその下です。かたくて掘り進めないような状態では水はけだけではなく、野菜の根も伸びることができません。そのような場合には、下層土の水はけ改善を行いましょう。まず、@畑に溝を掘り、作土を掘り上げます。A溝の中に入って、ショベルの肩に足を掛け、力を込めてショベルをかたい下層の中に押し込み、土を少し持ち上げます。後ずさりしながらそれを繰り返します。B下層を改良した溝の隣に新たな溝を掘り、Aを繰り返します(図1)。最後に全体をならします。
土が乾燥しやすいのは、砂を多く含む土であるためと思われます。畑が小面積であれば、保水性を改善する土壌改良資材であるパーライトや木炭を施用する手もありますが、根本的には団粒構造を発達させて保水性を高めることが最善です。そのためには、緑肥の栽培とそのすき込みが有効です。
野菜の生理障害は、土中の養分や水分の過不足により発生します。
土壌水分が適切で、元肥を適正に施せば、リン酸やカリ欠乏に起因する生理障害は起こりにくいのですが、露地栽培においてはチッソ欠乏に注意する必要があります。なぜなら、元肥を施しても、大雨が降ればチッソが下層に流れやすいからです。
人の健康状態は顔色を見れば大方わかります。野菜でも人と同じです。
正常な野菜の葉色は通常緑色ですが、土の中にチッソが少なくなると写真1のように下葉から葉全体に黄色くなり、徐々に上の葉に移っていきます。このような葉の黄化が見られたら、まず土壌診断を行い、チッソ(硝酸態チッソ)が少なければ、すぐに尿素を5〜10g/u、あるいは硫酸アンモニウム(硫安)を10〜20g/u施用します。緊急時の追肥では、肥効が遅い有機質肥料は適しません。
野菜栽培でよく見られるそのほかの生理障害として、写真2のように下葉の葉脈の間が黄化する(クロロシスという現象)事例があります。原因としてはマグネシウム欠乏が考えられます。
なお、野菜のマグネシウム欠乏は土の中に十分量のマグネシウムがあっても土のpHが高かったり、リン酸が過剰だったりしても発症します。野菜の生理障害対策には、土壌診断が欠かせないのです。
野菜の施肥ではチッソの適正管理が最も重要です。欠乏すると葉が黄化して生育に大きな支障を生じますが、多すぎてもよくありません。そのよい例がエダマメやイモ類です。チッソ肥料を施しすぎると、葉と茎が育ちすぎて肝心のマメやイモのつきが悪くなります。そのような現象を青立ちといいます。コマツナなどの葉菜類では、チッソをやり過ぎると大きく育って収量は増えますが、ビタミンCや糖含有量が減ってしまいます。
肥料には化学肥料と有機質肥料があり、それぞれ特性が違います。化学肥料は播種や定植直前でも使えますが、有機質肥料は土の中で土壌微生物により分解されて、二酸化炭素が発生します。そのため、施用後1週間程度経過してから播種や定植を行うことが原則です。
春先に油かすや発酵鶏ふんなど使ってエダマメやスイートコーンを栽培する際にはタネバエの幼虫(写真3)に気をつけましょう。肥料が分解する際に発生する臭いにタネバエが誘引されて産卵し、ウジ虫が種子を食害するため発芽不良となります。
また、化学肥料では、使う際の組みあわせに注意しましょう。硫安などのチッソ肥料と石灰資材を混ぜると、両者が化学反応を起こして、チッソ成分がアンモニアガスとして揮散してしまいます。
野菜の病害には、地上部の茎や葉に病原菌が感染して障害を受けるケースと、土の中の病原菌が根に感染して根が腐り、それが原因で地上部に障害を受けるケースがあります。
前者の場合には、土の中の養分や水分の過不足が間接的に原因となり発病することもありますが、直接影響するのは後者の土壌病害です。
土壌病害は病原菌の感染による病害と、センチュウ(線虫)という土壌動物が根に寄生してこぶをつくったり、根を腐らせたりするセンチュウ害(写真4)に大別されます。
共通するのは、畑に同じあるいは同じ科の野菜を連作すればするほどかかりやすくなるということです。これらの病原菌やセンチュウは、ある特定の植物(宿主)の根に寄生して、根そのものあるいは根から分泌される物質を「えさ」とするからです。
家庭菜園で出やすい土壌病害として、アブラナ科野菜の根こぶ病(写真5)、じゃがいもそうか病(写真6)があります。根こぶ病は土壌が酸性になるほど発病しやすく、pHを7程度以上に高めると抑制できます。逆に、そうか病はpHが高いほど発病しやすく、抑制するにはpHを5程度以下にする必要があります。また、土壌病害の出方が土壌の種類により異なることも知られていて、黒土(黒ぼく土)は根こぶ病が最も出やすい土なのですが、そうか病は逆に出にくい土です。ただし、リン酸肥料を施しすぎて、土の中にリン酸が蓄積されると土の種類にかかわらず土壌病害が出やすくなります。
土壌病害を出さないようにするには、連作を避けること、土に肥料を過不足なく施し、土の健康を維持することが最大の対策となります。
土の健康診断(土壌診断)は人の健康診断と同じ。
土の水はけや団粒構造の有無などは目で確かめることができますが、土の中の養分は目に見えません。
土壌診断を行えば、土だけではなく、菜園でできる野菜を健康にすることもできます。
土壌診断キット「みどりくん」は、たった5分で土のpHと肥料の三要素であるチッソ・リン酸・カリを簡単に測定する道具です。
野菜栽培に適する土のpHは6・0〜6・5です。6・0より低ければ、石灰資材を施用して酸性を改良します。石灰資材にはさまざまな種類がありますが、石灰(カルシウム)と苦土(マグネシウム)のバランスがよい苦土石灰がおすすめです。pHが6・5より高い場合には、石灰資材を施す必要はありません。
三要素の最適量は、チッソ(NO3−N)10s/10a、リン酸(P2O5)5s/10a、カリ(K2O)10s/10a程度です。三要素がともに欠乏している場合には、各成分を均等に含む化成肥料や有機配合肥料などを園芸書に記載されている程度施します。三要素のうち、どれかが欠乏している場合、あるいはどれかが過剰な場合には、単一成分のみを含む化学肥料(単肥)の利用が合理的です。代表的なチッソ肥料としては、硫酸アンモニウム(硫安)・尿素、リン酸肥料としては、過リン酸石灰(過石)・熔成リン肥(熔リン)、カリ肥料としては、塩化カリ(塩加)・硫酸カリ(硫加)などがあります。
東京農業大学応用生物科学部生物応用化学科教授。専門分野は農業生産現場密着型の土壌肥料学。野菜・花卉生産地での土壌診断と土壌病害対策のほか、東日本大震災被災地での農業復興支援を実践中。著書に「土と施肥の新知識」(農文協)などほか多数。 |