秋の庭を彩るキュートな花木
秋に花が楽しめる木もありますが、秋の庭木の主役はやはり紅葉と果実でしょう。特に、四季の変化に富む日本の紅葉が美しいことは海外でも定評があります。
「紅葉狩り」という言葉は古く奈良時代からありますが、この場合の紅葉は、現代のモミジを指しているのではなく、多くの種類の木々の紅葉を総称する言葉でした。長い歳月の中で次第に、美しく紅葉するカエデの仲間をモミジと呼ぶようになったようです。冬には多くの木々が落葉し休眠期に入るので、さびしい風景となりますが、その前の季節をきらびやかに彩る景色を愛でることが、日本人独特の“侘び・寂び”に通じることだと思います。
また、冬を迎える前に果実が実る種類のなんと多いことでしょう。植物は動物や鳥に実を食べてもらい、タネを拡散してもらって生き続けるものです。そこで、動物や鳥にとって厳しい冬を乗り切るための食糧である果実を、木は秋に提供することで、食べてもらう可能性を高めようとしているのではないか、と私は考えています。考えすぎでしょうか。
さて、庭に花木を植える時に、植物を選ぶのは楽しいものですが、まず大切なのは自分の庭がどういう環境かを知ることです。
一番大切なのは日当たりです。なぜなら、日当たりによって紅葉の具合が変わります。多くの種類は日当たり(4月から11月上旬くらい)がよいと赤くなり、悪いと黄色になります。実をつける種類なら、日当たりがよいほど多くの実がつくのです。
もし、日陰の庭だけれども赤い紅葉を楽しみたいという方は、日陰でも赤くしかならない品種を選んでおく必要があります。また、よく「日陰に向く植物」といいますが、そんな植物の多くは“日陰が好き”なのではなく、“日陰に耐える力がある”という意味をもつことを知っておきましょう。
次に大事なことは、植えようとする花木の大きさも知っておくことです。購入時の苗は小さくても、将来どうなるかが重要なのです。大きくなった時の空間が庭に確保できるかどうかを考えます。また、大きく育っても管理の仕方で大きさを保てる種類と保てない種類があり、さらに、剪定には強くても、剪定の方法によって本来の特徴を消してしまうものもあります。
そして、ほとんどの種類が水はけのよい土壌を好みます。水はけが悪いなど、植えたい花木と条件があわない例は数多くあるので、選ぶ際にはよく注意します。
秋の日本を魅力的に彩るのは、なんといっても木々の紅葉です。きれいな紅葉を見るためには、3つの重要な条件があります。まずは、よく日光に当てること。次いで、ある程度の寒さにあうこと。そして土壌に肥料成分がないこと。寒さに関しては、暖地で寒さを求めても気候条件は変えようがないので、暖地でも紅葉する種を選ぶとよいでしょう。紅葉は、秋になり気温が下がると水分や養分の補給が減ることがきっかけで起こります。葉柄と茎の間に離層ができ、葉にたまったデンプンが紅葉のもとになるのです。土壌に肥料成分が残っていると、補給が減らず離層ができにくくなるため、よい紅葉は楽しめません。
実は、小鳥を呼ぶなど自然と触れ合う機会を与えてくれます。
多くの樹種は5月中旬〜6月が剪定に適しますが、果樹を含めて実を楽しむ木は、剪定の時期にはもう実をつける準備をしています。ですから、すべての枝を短く切り詰める(強剪定)と実は楽しめないのです。もちろん、小さな樹形にしたい場合でも、ある程度までにしないといけません。適度に、花後の花柄や小さな実がついた果柄を残しながら剪定をしてください。また、同じく剪定適期である落葉期には、次年の花の準備ができているので、こちらも極端には切れません。
これらは当然、雄株と雌株の両方がないと実がつきません(たまに、雌株だけの場合は数少ない実がついたり、数年に1度くらいタネのない実がついたりすることはあります)。雌雄異株種の代表的なキウイフルーツやイチョウは知られていますが、ケヤキやマユミ、ツクバネもハナイカダもそれに当たります。実をつけるには、雌だけではなく雄も必要です。ツクバネのポット苗には通常、雌雄どちらも含まれています。また、ハナイカダは雌木と雄木を共に育てます。
今回ご紹介する8種類はいずれも夏から秋に実が楽しめ、耐寒性が強い花木です。ナナカマドは高木となるため鉢植えでの栽培には向きませんが、ほかは中〜低木なので、鉢植えでも楽しむことができます。
●日なた〜半日陰向き ●開花期4〜5月 ●観賞期9〜11月 ●落葉中木 ●バラ科
サンザシは中国原産で、享保19年(1734年)に薬用植物として渡来し、その後、広く庭木として利用されています。赤い果実が特徴的で人気があります。近年では花を楽しむセイヨウサンザシも普及しています。
「西安」は果実が大きいことが最大の特長で、直径はなんと500円玉くらいにもなります。春の白い花も観賞価値があり、秋まで楽しめます。果実は薬用になるほか、生食や乾果、果実酒としても利用されています。
●日なた向き ●開花期3〜4月 ●観賞期7〜8月 ●落葉低木 ●バラ科
ニワウメはよくニワザクラと混同されます。どちらも中国原産で確かによく似ていますが、まったくの別種です。一番簡単な見分け方は、ニワウメの花がピンク色の一重咲きということで、ニワザクラの八重(白またはピンク色)と区別できます。この「チャイナチェリー」はニワウメの特徴をよく表している品種で、切り花にも向いています。結実した枝からは新しい枝が出にくいので、花の観賞を主体に楽しむ場合は、花が終わったら、1年枝の基部近くまで切り戻すと、来年の花がよくつきます。
●日なた〜半日陰向き ●開花期5〜7月
●観賞期9〜11月 ●落葉低木
●クマツヅラ科
ムラサキシキブは秋の実を観賞する植物で、名前の通り紫色の実をつけます。「デュエット」はコムラサキの白実種で、しかも葉に白斑が入る美しい品種です。この斑は初めのうちは白く、後にクリーム色になります。
●日なた〜半日陰向き ●開花期6〜7月
●観賞期10〜11月 ●落葉中木
●クマツヅラ科
ムラサキシキブのピンク実の品種です。真っすぐ伸びた枝に実がボール状につくため豪華に見えます。切り枝にして一輪挿しにしたり、秋の草花と組み合わせて生けてもよいでしょう。
ムラサキシキブとして流通しているのは、コムラサキとムラサキシキブで、多くはコムラサキだと思ってください。
ムラサキシキブは枝が真っすぐに伸び、コムラサキは枝が湾曲して垂れるので一目で見分けられることが多いです。どちらも丈夫に育ち栽培しやすいですが、そのままにしていると2〜3mの高さになるので剪定が必要です。
●半日陰向き ●開花期5〜6月 ●観賞期9〜11月 ●落葉低木 ●ビャクダン科
本州から九州の一部までの山地に自生しています。雌雄異株で雌株には“羽子突き”の羽根に似た実をつけ、切り花やドライフラワーでも楽しめます。花弁がない花を5〜6月に雄株には枝先に散房状に、雌株は1個つけます。他の植物に半寄生する種で、他の植物がない場所では生育できません。以前は寄生する種が限られていると考えられていましたが、今では多くの樹種に寄生することが知られています。実生5年ほどで開花しますが、じつはこの、宿主の根に種子を埋め込むという栽培法を考案したのは私の友人で、それまでは非常に栽培が難しい種の一つでした。
●半日陰〜日陰向き ●開花期5月 ●観賞期5〜10月 ●落葉低木 ●ミズキ科
北海道から九州の山地に普通に自生しています。雌雄異株で、5月に葉の表面の主脈の中央に淡緑色の4弁の花を咲かせます。最大の特徴はそこに6月ごろ黒い実をつけることです。かなり日陰にも耐えるので、半日陰の植栽にも利用できます。
●日なた向き ●開花期9〜12月 ●観賞期8〜11月 ●常緑低木 ●ツツジ科
常緑で、アセビに似た花を初秋〜晩秋にかけて咲かせ、その後に1年かけてヤマモモに似た赤い実をつけます。ヒメイチゴノキの基本種は白い花ですが、この品種はピンク色をしています。花の少ない時期に開花するので庭木や鉢植えとしても有望です。萌芽力もあるので管理もしやすい種です。
●日なた向き ●開花期6〜7月 ●観賞期10〜12月 ●落葉高木 ●バラ科
名前の由来は、材がかたく7回竃に入れても灰にならないからといわれています。日本では北海道から九州の山地に広く分布しており、紅葉の代表として知られています。5〜6月に白い花を咲かせ、秋には赤い実をつけます。またこの仲間の植物は、ヨーロッパでは実をジャムや果実酒としても利用されています。高地性なので耐寒性には非常に優れていますが、暑さにはあまり強くないので、剪定時期や方法を間違うと木が弱り、カミキリムシなどの害虫や病気にやられやすくなります。剪定時期は落葉期が好適でしょう。必ず枝の枝分かれしたすぐ上で切ることです。枝の途中の剪定は木が弱ります。
カミキリムシ対策としては、根元の周りを風通しよくあけておきます。
茨城県牛久市で大正6年創業の園芸店を運営。学芸員。(社)日本植木協会会員。自社の園内には1800種類5000品種の植物が見学できる『カワラダボタニカルガーデン』がある。「NHK趣味の園芸」にて執筆のほか、庭木・花木に関する著書多数。