まず、秋植え球根のメカニズムを知ろう!
地中海沿岸地域、南アフリカ、チリなど「夏高温少雨」、「冬温暖多雨」が特徴的な地中海性気候の土地は、多くの球根植物の原産地として知られています。これらの球根植物の生育サイクルは、比較的温暖で雨が降る冬季に生育を始め、その時期の低温が引き金となって地下部の器官に養分を蓄え始めます(球形成)。その後の比較的温暖な気象条件下で地上部は急速に生長し、開花に至ります。展葉した葉は光合成で得た養分を球根に送り、球根肥大も進みます。球根形成後、地上部が枯れて休眠期に入りますが、休眠中は球根に貯蔵されている養水分のみで夏の不良環境(高温・降雨が少ない)を乗り切ります。
このような生育サイクルをもつ球根植物を日本で栽培する場合、「秋に植え付け、冬季は穏やかに生長、春から初夏にかけて急激に生育して開花、その後地上部が枯れ上がり、球根の形で夏休眠」という作型になります。このような球根植物を「秋植え球根」と呼んでいます。なお、熱帯地方が原産の球根植物は耐寒性が弱いため、日本で育てる場合には「春に植え付け、夏から秋に開花させる」作型が多く、これを「春植え球根」と呼んでいます。
ところで、日本の夏は高温多雨で、原産地の少雨とは環境が異なります。日本で栽培した場合、夏の高温多湿が休眠中の球根に悪影響を及ぼすような植物は掘り上げ、雨(水)のかからない風通しのよい場所で保管しなければなりません。適期に掘り上げられないと、過湿によって腐ってしまう場合があります。その一方、ムスカリやクロッカス、スイセンなど、夏季の高温多湿に耐えうる球根植物は、掘り上げずに夏越しさせることも可能です。また東アジアに産するユリ類は、地上部がない時期でも根が生きているため、基本的には掘り上げて保管する必要はありません。
秋植え球根の生長サイクル
原産地の地中海性気候では球根は植えっぱなしだが、日本では梅雨があり、夏が高温多湿なため、球根が土中で腐ってしまう恐れがあるので掘り上げるのが基本。ムスカリやスイセン類など植えっぱなしでも大丈夫な球根もある。
秋植え球根の植え付け適期は?
一般的に、秋植え球根の植え付け適期は10月上旬から11月上旬といわれますが、実際の植え付け限界時期は、積雪や凍土で物理的に植え付けができなくなるまで、ともいえます。チューリップを例にとると、京都で2月に植え付けても春にはちゃんと開花したという実例もあります。しかし、それではその球根がもつポテンシャル(潜在能力)を十分に引き出すことができません。球根も長期の貯蔵で体力を消耗し、花茎の伸長は十分でなく、さらに本来、翌シーズンに開花能力を有する球根になるべき芽が生長を始めてしまったりします。また根原基(将来根になる組織)が長期貯蔵中に傷み、発根不良になる恐れもあります。根の伸長は養水分の吸収のほかに、植物体を支えるという役割があります。十分な根の伸長がないと、花茎が伸長してもわずかな風で倒れやすくなったりもします。
植え付けの適期は、その球根植物の耐寒性によるところが大きいです。スイセンなど耐寒性のあるものは早めに植え付けて寒くなるまでにしっかりと根を張らせた方が、翌春の育ちが明らかに違います。一方、フリージアは耐寒性がやや弱いので、早くに植え付けると秋のうちに葉が出てしまい、冬になって寒さで葉が傷む恐れがあるので、遅めに植え付けて、翌春から葉を出させる方がよいでしょう。
ラナンキュラスやアネモネは気温15℃以下が植え付けの目安です。植え付けが早いと花つきが悪くなったり、生育不良になったりします。逆にスイセン類は植え付けが遅れると開花不良になったりします。ユリの球根は乾燥に弱いので、10月以降、入手後すぐに植え付けるとよいのですが、その前に入手した場合は、少し湿らせたおがくずやバーミキュライトと一緒に袋に詰め、乾かさないように保存する配慮が必要です。
上記以外の場所のデータは気象庁ホームページより検索できます。
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
●植え付け適期/
10月以降、入手したらすぐ。
●花期/6〜8月
●植え付け適期/
10月〜11月上旬。
遅くても降霜前までに。
●花期/3月下旬〜5月上旬
●植え付け適期/
9月下旬〜10月。
早めに植え付ける。
●花期/3〜4月
●植え付け適期/
9月下旬〜10月。
●花期/4月ごろ
●植え付け適期/
11月。早く植え付けると葉ばかりが伸びてしまうので少し遅めでよい。
●花期/3〜4月
●植え付け適期/
9月下旬〜10月。花期が早いので植え付けが遅くならないように注意。
●花期/2〜3月
ラナンキュラス
●植え付け適期/
気温が15℃以下になったら。
●花期/4〜5月
フリージア
●植え付け適期/
11月。寒い時期に茎葉が長く伸びると、寒害を受けやすいので、少し遅めに植え付ける。
●花期/4〜5月
球根はどれくらいの深さに植え付ける?
球根を植え付ける時に気をつけたいのが、どれくらいの深さに植えたらよいかです。植え付けの深さは、球根の高さの2〜3倍を目安にしますが、寒冷地や乾燥地ではやや深めにします。鉢植えの場合は、根の生育空間を確保するために、地植えよりはやや浅めに植え付けます。浅鉢を用いる場合でも、球根そのものが地上に顔を出さないようにしましょう。
ユリ類は乾燥や地面の高温に弱いため、浅植えは苦手です。また球根の下部からは「下根」が出て植物体を支え、根圏にある茎から生じる「上根」は養水分を吸収するため、どちらも発根させて根を張らせる必要があります。地植え、鉢植えともに十分な深さをとって植え付けるのがおすすめです。鉢植えでは懸崖鉢などの深さがあるタイプを選ぶとよいでしょう。スイセンは浅植えにすると分球ばかりして小球ばかりになり、花立ちが悪くなる恐れがあります。
球根を並べる間隔は?
将来の草姿をイメージして植栽間隔を決めます。最も密な間隔でも、地上部が出てきた時、隣の個体と葉が触れあわないようにするのが基本です。テッポウユリを例にとると葉が横に広がったその株張りは20pほどになります。つまりテッポウユリの球根の植え付け間隔は少なくとも20〜25pを確保しなければなりません。これ以上狭く植え付けると、葉が触れあって風通しが悪くなり、病虫害発生の温床になる恐れがあります。チューリップの場合は、球根の向きを揃えると葉の向きも揃う傾向があるので、球根の向きを揃えて密に植え付け、葉が触れあわないように栽培することも可能です。
[鉢植えの場合]
チューリップとムスカリのハイデッカー
チューリップを中心に、ムスカリを外側に植え、同時に開花を楽しむコンテナは、彩りも美しく、花形の違いによる対比からインパクトが強くなるので、ぜひ庭のアクセントとして試してみてください。まずチューリップの球根を深めに植え込み、球根の先端が隠れる程度に覆土したら、その上にムスカリの球根を並べます。二階建てのように球根を植えるので、「ハイデッカー」と呼ばれています。
適した用土、施肥は?
地植えの場合、一般的な作物が栽培できるような土質ならば問題ありません。水はけよく、日当たりのよい風通しのよい場所を好みます。できれば西向き、北向きは避けた方がよいでしょう。植え付ける1週間ほど前に有機質と苦土石灰を加えてよく耕しておき、植え付け時に緩効性化成肥料を規定量混和します。大型のアリュームやユリ類は植物体を支えるために支柱を添える必要があるので、地植えをおすすめします。
鉢植えの培養土は、市販の草花用培養土を利用するとよいでしょう。自分で混和する場合には、赤玉土(小粒)7:腐葉土(またはpH調整済みピートモス)3の割合を基本にします。原種チューリップやスノードロップなど過湿を嫌う一部の小球根やスカシユリ系統のユリの場合は、日向土(小粒)5:硬質赤玉土(小粒)3:川砂1で混和し、水はけをよくするのがおすすめです。いずれの場合も鉢底にごろ土を敷き、余剰水がたまらないようにします。秋植え球根でもフリージアやラケナリアなど耐寒性がやや弱い種類を栽培する場合は、鉢植えにして冬は軒下や暖房のない屋内で管理するとよいでしょう。
植え付け後、鉢植えの場合は土が乾燥していたら水やりをします。また、地植えの場合でも風が強く乾燥しやすい環境の場合は、暖かい日を選んで水やりをした方がよいでしょう。追肥は2月中下旬から3月にかけての芽が動くころと花後に与えてください。
一足早く開花が楽しめる
冷蔵チューリップ
秋植え球根の中には冬の寒さに当たって初めてきれいな花を咲かせられるものがあります。その性質を利用して、早く開花を楽しめるようにしたのが冷蔵チューリップです。冷蔵処理した球根、つまり人為的に寒さに当てた球根を11月下旬に植え付けると、2月ごろから花が咲き始め、約1カ月花が楽しめます。まだ寒いうちからチューリップの花が咲くので、早春の庭がぐっと華やかに!品種もいろいろあり、冷蔵チューリップだけで華やかな色あわせが楽しめます。
冷蔵グレイ
冷蔵バレリーナ