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夏植え秋咲き球根で秋の庭を彩る

夏植え秋咲き球根で秋の庭を彩る夏植え秋咲き球根で秋の庭を彩る

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夏の暑さに疲れて、花数が少なくなる端境期に重宝するのが、夏植え秋咲き球根。
性質を理解して育てれば失敗も少なく、豊かに庭を彩ります。
今回は、上手な管理の仕方とほかの植物との組みあわせ方をご紹介します。

リコリス・キツネノカミソリの群生。花茎を長く伸ばした先に鮮やかなオレンジの花が咲く。

リコリス・キツネノカミソリの群生。花茎を長く伸ばした先に鮮やかなオレンジの花が咲く。

真っ赤な花が目をひくヒガンバナが、秋の訪れを告げる。

真っ赤な花が目をひくヒガンバナが、秋の訪れを告げる。

まだまだ残暑が厳しい初秋。多くの植物が暑さでくたびれ、花の数も少なく寂しくなった花壇に真新しい花を咲かせて、リフレッシュさせてくれる植物があります。植栽適期が夏ということもあり、一般に夏植え球根と呼ばれて流通する球根の仲間です。一年草のように株全体に花が広がって咲くような派手さはありませんが、独特の趣があり、鮮やかな花色は、緑の中のアクセントとして庭を彩ってくれます。

冬生育型と夏生育型

最も暑い季節が植栽適期という、通常の植物とは少し違った生育特性をもっているので、栽培管理においても日頃の園芸的な常識から、少し考えを変えてみる必要があります。一般的に夏植え球根として出回る植物は、リコリスを除いて地中海性気候の気候帯を中心に分布しています。地中海性気候は、夏は降雨がほとんどなく乾燥し、気温が下がってくる秋以降に雨が降るという特徴があります。雨が夏に多く、冬は少なく乾燥している日本の気候(温暖湿潤気候)とは、正反対の環境です。地中海性気候に育つ植物の多くは夏に休眠期に入り、秋以降に生育を始め、また翌年の初夏までには葉を落として再び休眠するというライフサイクルをもっています(冬生育型)。春に暖かくなると芽吹いてくるという私たちの周りに生えている植物(夏生育型)とは大きな違いがあります。

失敗を少なくするには

植物の生育サイクルの中で最も水と肥料を要求するのは生育期、つまり葉を青々と伸ばして光合成を盛んに行っている時です。休眠期には、肥料はもちろん水分もあまり必要としません。春から生育する、例えばバラのような植物とは違う管理をする必要があります。夏植え球根は、秋以降に生育を開始し、夏は休眠するということを念頭に管理すると失敗が少なくなります。

植え付け場所がポイント

そうはいっても、雨が夏に一番降る日本では、自然な状態でも天から水がどんどん落ちてきます。この余分な水をためずに、少しでも早く排水させるには、水はけのよい用土であることが大切です。さらには植栽場所のレベルを上げてレイズドベッド※にするほか、土を盛って少し傾斜をつけるだけでも大変効果的です。
※石やレンガで土留めの縁をつくり、かさ上げした花壇。

清楚な雰囲気をもたらすシロバナヒガンバナ。

清楚な雰囲気をもたらすシロバナヒガンバナ。

秋の庭を鮮やかに彩るおすすめの夏植え球根

リコリス Lycoris spp. & cvs.

●ヒガンバナ科 ●原産地:日本、中国

古く中国から渡来し、日本の農耕文化にも深く関わってきたヒガンバナの仲間です。主に日本や中国など東アジアに分布するため、気候によくあい、植えっ放しでもよく育つものが多いのが特徴です。また、交配も盛んに行われ、数多くの園芸品種が作出されています。花期も早いものでは7月から開花し、10月ごろまで入れ替わりさまざまな品種の花を楽しむことができます。葉は、すぐに伸びてくる秋出葉型と、春になってから伸びてくる春出葉型があります。一般に後者の方が、寒さに強いとされています。いずれも夏までに葉は枯れて半休眠状態になります。植え付け時はどうしても根が傷むので、本格的な生長は翌年からです。

インカルナータ

インカルナータL.incarnata

●花期:9月 ●高さ:40〜60p ●広がり:約40p

中国原産。白色の花びらの外と内側にそれぞれ桃色の線が入るのが特徴的。寒さに強い。春出葉型。

ジャクソニアナ

ジャクソニアナL.×jacksoniana

●花期:9月 ●高さ:40〜60p ●広がり:約40p

50年以上前にコヒガンバナとスプレンゲリ種の交配で選抜された古い園芸品種。鮮やかな赤桃色の花弁の先がうっすらと青みを帯びる。秋出葉型。

キツネノカミソリ

キツネノカミソリL.sanguinea

●花期:7〜9月 ●高さ:30〜50p ●広がり:約30p

日本の野山に自生し、しばしば大きな群生をつくる。リコリスの仲間では早咲きで7月中旬ぐらいから橙色の花を楽しめる。ほかの種類と違い、一日中カンカン照りの日当たりよりも、明るい木もれ日が差すような日陰を好む。春出葉型。

ナツズイセン

ナツズイセンL.squamigera

●花期:7〜8月 ●高さ:50〜70p ●広がり:約50p

中国原産で日本でも一部野生化している。学名のスクアミゲラでも流通する。大きな漏斗状の桃色の花が目を引く。リコリスでは、一番耐寒性のある種類。

ネリネ Nerine spp. & cvs.

●ヒガンバナ科 ●原産地:南アフリカ

英名はダイヤモンドリリー。花弁が光に反射してきらきら輝くことからこの名がつけられました。南アフリカを中心に24種が知られています。日本では、ボーデニー種とサルニエンシス種の2種がよく流通しています。前者は夏雨地帯に分布し夏生育型で春咲き球根として扱われるのに対し、後者は冬雨地帯に分布しており冬生育型の秋咲き球根として扱われます。今回紹介するサルニエンシス種は、地植えでは夏の過湿により球根が腐ってしまうので、鉢やテラコッタなどに植え付けて夏の雨を避けられる場所で栽培します。蕾が見えてきたら徐々に水やりを増やし、初夏に葉が黄変し始めたら水を切ります。数年植えっ放しにして球根が込みあってきてからの方が、花つきがよいようです。

サルニエンシス N.sarniensis

●花期:11月 ●高さ:40〜50p ●広がり:約40p

交配が繰り返され、赤、桃、白をベースにさまざまな花色がある。また、甘い香りが楽しめる芳香性の品種も選抜されている。花もちがよく、長い期間にわたって切り花としても楽しむことができる。耐寒性はあまり強くないので、冬は凍らない場所で管理する。

サルニエンシス レッド

サルニエンシス レッド

サルニエンシス ピンク

サルニエンシス ピンク

サルニエンシス ホワイト

サルニエンシス ホワイト

コルチカム Colchicum spp. & cvs.

●ユリ科(イヌサフラン科) 
●原産地:ヨーロッパ、中東、北アフリカ、中央アジア ●花期:9〜10月●高さ:10〜20p(開花時) 
●広がり:15〜20p(開花時)

地中海沿岸地方からヨーロッパ北部まで広い地域にまたがって分布しています。最新の分類の見直しにより、現在100種以上が確認されていますが、すべて冬生育型です。また、一部を除いてそのほとんどが秋咲き種です。ユニークな形をした大きな球茎が特徴で、土や水がなくても開花します。その後、年が明けて忘れたころに葉が伸び始めます。初夏に黄変するまで盛んに光合成を行って球根を肥大させ、秋の開花に備えるので、大切に管理します。地植えで栽培できますが、夏の過湿を嫌うのでできるだけ水はけのよい用土で、なだらかな斜面地などに植栽するとよいでしょう。全草有毒なので、野菜などと間違えて口にしないように注意してください。

「ザ ジャイアント」

「ザ ジャイアント」C.‘The Giant’

古くからある丈夫で花つきがよく栽培しやすい品種。球根が充実すると大輪の紫桃色の花が10輪ほど固まって咲き、見事。

「ウォーター リリー」

「ウォーター リリー」C.‘Waterlily’

こちらも長い間庭で楽しまれている園芸品種。完全に八重化して、庭を華やかに彩る。

ベラドンナリリー Amaryllis belladonna

●ヒガンバナ科 ●原産地:南アフリカ西部 ●広がり:約50p

もともと南アメリカ原産で春に開花するアマリリスと同じ仲間でしたが、アマリリスが別属(Hippeastrum spp.)に分類されることになり、それとは区別するためにホンアマリリスという和名がつけられています。現在は学名由来のベラドンナリリーの名前の方でよく知られています。初秋に太い花茎だけを地上に伸ばし、その先に芳香性の大きな漏斗状の花をいくつも咲かせます。葉は、花後(11月ごろ)に伸びて、初夏には黄変して枯れます。土が凍らない地域では地植えも可能ですが、基本的には地中海性気候に自生する種で夏の過湿を嫌うため、できるだけ日当たりがよく排水のよい環境で育てます。鉢植えの場合は、球根が地上部に出ていると分球して花が咲きにくくなるので、先まですっぽり埋もれるように大きな鉢で栽培しましょう。

葉が出る前に一斉に花が咲くベラドンナリリー。

葉が出る前に一斉に花が咲くベラドンナリリー。

「ピンクシェード」

「ピンクシェード」A.‘Pink shade’

草丈25〜40pで、すがすがしい香りをもつ。花期は8月下旬〜10月上旬。

「ホワイトシェード」

「ホワイトシェード」A.‘White shade’

可憐な白花。花期は8月下旬〜9月で、草丈は50〜80p。

夏植え球根と組みあわせたい植物

サルビア・アズレア

サルビア・アズレアSalvia azurea

●シソ科 ●原産地:アメリカ南東部 ●花期:9〜11月 
●高さ:120〜150p ●広がり:60〜120p

夏植え球根と同時期に開花し、上品な淡青色であわせやすい花色。途中で1回茎を切り戻さないと必ず倒れるので、6月下旬ぐらいをめどに地際から数節残して切り戻す。

ネペタ(ブルーキャットミント)

ネペタ(ブルーキャットミント)Nepeta cvs.

●シソ科 ●原産地:——(園芸品種)
●花期:6〜9月 ●高さ:30〜90p ●広がり:45〜120p

乾燥に強く、育てやすい多年草。初夏にさわやかな淡青色の小さな花を多数咲かせる。夏植え球根が開花するころは花は少なくなっているが、銀白色の葉とリコリスやベラドンナリリーの花とうまく調和する。

エピメディウム・ペラルデリアヌム

エピメディウム・ペラルデリアヌムEpimedium perralderianum

●メギ科 ●原産地:北アフリカ ●花期:4月 
●高さ:15〜30p ●広がり:20〜45p

イカリソウの仲間で、常緑で光沢のある葉を1年を通して楽しめる。春にユニークな形をした鮮黄色の花が咲き、厳冬期には紅葉も楽しめる。緑の葉を背景に、夏植え球根の花が一層映え、さらに球根の休眠期も花壇が寂しくならない。

フッキソウ

フッキソウPachysandra terminalis

●ツゲ科 ●原産地:日本、中国 ●花期:3〜4月 
●高さ:15〜40p ●広がり:30〜45p

1年を通して常緑で光沢のある美しい葉が魅力で、丈の低いグラウンドカバーとしてしばしば植栽される。株間にコルチカムやリコリスなどを植え付ければ、開花期は花茎だけを伸ばす夏植え球根の足元をバランスよく彩る。

夏植え球根の庭での上手な使い方

夏植え球根は、一つの球根に対してあまり花数は多くないので、1球よりは複数まとめて植栽した方が、開花時により迫力が出て存在感が増します。また、頻繁に植え替えるよりは、数年間植えっ放しにして球根を充実させた方が花つきがよくなります。ただし、3年経っても花が少ない、以前よりも徐々に花数が少なくなってきたなどの傾向が出てきた時は、場所を変えたり、株分けした方がよいこともあります。
夏植え球根に共通する大きな特徴として、開花時には葉がなく、地際から花だけを咲かせたり、花茎のみ伸びて開花したり、ということがあります。そのため、ほかの花との色あわせはもちろん大切なのですが、緑の葉が美しい樹木などを背景に植栽することで、より調和し、花の美しさも一層引き立ちます。
夏の休眠期や、葉がない季節の長いものは、花壇に穴があいたようになります。こうした時期の植栽のバランスも考えながら、組みあわせを考えることも大切です。おすすめは、フッキソウやイカリソウの仲間(常緑種)など常緑のグラウンドカバーとの組みあわせです。グラウンドカバーの株間に植えれば、開花時は緑で花色を引き立てます。花期以外はグラウンドカバーの美しい葉が地面を覆うので庭が寂しい印象にならずにすみます。また、出葉期はグラウンドカバーの草丈が低いので、日を遮らず生育の邪魔をしません。

夏植え球根と庭木・草花との組みあわせ術

夏植え球根と庭木・草花との組みあわせ術
ネリネ・サルニエンシスは、夏の降雨が避けられるようコンテナに植栽するとよい。

ネリネ・サルニエンシスは、夏の降雨が避けられるようコンテナに植栽するとよい。

リコリス・ナツズイセンは日当たりのよい場所に植えてOK。

リコリス・ナツズイセンは日当たりのよい場所に植えてOK。

リコリス・キツネノカミソリを植えたい場合は、明るい日陰を好むので落葉樹下の環境が理想。同様の環境を好み、5月に開花するツルハナシノブとの組みあわせがおすすめ。

リコリス・キツネノカミソリを植えたい場合は、明るい日陰を好むので落葉樹下の環境が理想。同様の環境を好み、5月に開花するツルハナシノブとの組みあわせがおすすめ。

濃ピンク地の花弁に青紫色がのるリコリス・ジャクソニアナ。

濃ピンク地の花弁に青紫色がのるリコリス・ジャクソニアナ。

這うように広がるティムス・ロンギカウリス。

這うように広がるティムス・ロンギカウリス。

ネペタはナチュラルな雰囲気が魅力。

ネペタはナチュラルな雰囲気が魅力。

コルチカムを植えたい場合は、フッキソウ、エピメディウム・ペラルデリアヌム(イカリソウの仲間)、ティムス・ロンギカウリス(タイムの仲間)など、草丈の低いグラウンドカバーの株間に。上記紹介のフッキソウとも相性がよい。サルビア・アズレアはコルチカムと開花期が同じで、花色もパステル調であわせやすい。

コルチカムを植えたい場合は、フッキソウ、エピメディウム・ペラルデリアヌム(イカリソウの仲間)、ティムス・ロンギカウリス(タイムの仲間)など、草丈の低いグラウンドカバーの株間に。上記紹介のフッキソウとも相性がよい。サルビア・アズレアはコルチカムと開花期が同じで、花色もパステル調であわせやすい。

ベラドンナリリーは、南に面した陽だまりのような場所に植栽する。ビブルナム(ビバーナム)・ティヌスなど低木を後方に配置して、緑の背景をつくるとよい。

ベラドンナリリーは、南に面した陽だまりのような場所に植栽する。ビブルナム(ビバーナム)・ティヌスなど低木を後方に配置して、緑の背景をつくるとよい。

●植物リスト

  1. ヤマボウシ
  2. ヘレボルス(クリスマスローズ)
  3. ツルハナシノブ
  4. リコリス・ジャクソニアナ
  5. ティムス・ロンギカウリス
  6. ネペタ
  7. リコリス・ナツズイセン
  8. アジサイ「アナベル」
  9. サルビア・アズレア
  10. エピメディウム・ペラルデリアヌム
  11. アガパンサス
  12. ジャーマンダーセージ
  13. ガウラ
  14. ベラドンナリリー
  15. ビブルナム(ビバーナム)・ティヌス
  16. ネリネが植わっている鉢

※イラストは9月上旬ごろの開花状況に設定しています。年ごとの天候、地域差により、開花時期が前後することがあります。

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月江 つきえ 成人 しげと

ホルティカルチャリスト。(株)プランタス代表。緑を生かした “植物が主役の庭づくり” を提案。2007年より移り住んだ小さな農村で、理想の庭、住まいづくりに汗する日々。
http://plantas.jp/

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