ジャーマンアイリス特集
展示会などで冬咲きのジャーマンアイリスについてお話すると、園芸好きな方ほどびっくりされることがあります。ジャーマンアイリスはもともと、春から初夏に咲くのが一般的です。まれに秋に咲く品種があり、それらが品種改良の盛んなアメリカで育種され、二季咲きとして発表されてきました。
二季咲きに魅せられた私はその品種を導入し、日本の気候で育ててみたのです。すると二季咲きとなる株の割合は、数十株の成育株のうち数株の開花にとどまり、開花株の出現は非常に少ないのが実状でした。
ところがその中に、二季咲きであるはずなのに晩秋の11月下旬から翌年1月にかけて咲き続けるという、性質の異なる特性をもつ品種が出てきました。私が暮らしている広島県で、真冬に咲き続けてくれる品種に出会えたのです。年が明けても咲き続けるジャーマンアイリスは寒風の中、しっかり花びらを広げ、すばらしい芳香を放ち、まるで夢でも見ているかのような感動と驚きがありました。初めてその光景を見た時は、思わず「すご〜い!!」と声を上げていました。
その後、この10年ほどの間に冬咲きの品種を求めて交配を重ね、新たな品種を作出すべく育種に取り組んできました。冬咲き品種は、氷点下にさえならなければ少しの霜には耐え、当地広島の露地の畑で厳寒となる1月でも咲いてくれます。開花の特長としては大きく二つ、花もちがよいことと、香りのよい品種が多いことが挙げられます。
春咲き品種が5月に開花する時は、1輪の花では咲き始めからしぼむまで3日程度しかもたないのが普通ですが、冬咲き品種では5〜6日間咲くという、低温で咲く品種ならではのよさがあります。枝状に複数開花することで通常、春咲きでは1株で1週間から10日間くらいの開花期間ですが、冬咲きは2週間から時には1カ月近くも咲き続けてくれます。
冬咲き品種は確かに画期的なのですが、よいことばかりではなく弱点もあります。成育株の100%が冬に咲くわけではないことと、花や蕾が凍ると開花しないことです。気温が氷点下となる寒冷地での露地栽培には不向きで、室内で育てるなどの工夫も必要となります。
なぜ冬に開花するのかはまだ解明されていないため、植えた年の気候に左右されることが多いのが現状です。もし冬に咲かない場合、多くは翌年の早春に咲きます。気長に花が咲くのを待とうという心もちで栽培すると、開花した時に喜びが増すかもしれません。
こういった要素を踏まえても、冬咲きの品種には格別の香りをもつ品種もあり、一度その香りに出会うと、多くの方が魅了されることでしょう。花が少ない季節に咲き、花壇を華やかに演出してくれることも、おすすめしたいポイントです。
株分けや植え付けは、一般種では中間地以西では9月末から11月下旬の秋ですが、冬咲き種は晩秋や冬に花を見たいことから、春苗を春か、梅雨明けの7〜9月に植え付けるのが適期です。中間地以東で秋植えにすると開花は来年以降となるため、冬咲きには適しません。
畑地や花壇などの露地栽培では、植え付け時にもその後も水やりはいりません。病気の原因になりますので、毎日の水やりは絶対に禁物です。鉢(8号以上)やプランターでは、月に2〜3回が目安です。毎日の潅水はいけません。
畑地や花壇などの露地栽培では、元肥も追肥もまったくいりません。植える場所に1株につき軽く一握りの草木灰(苦土石灰は不可)だけを施します。
化成肥料や油かす、乾燥鶏ふん、牛ふん堆肥 、骨粉などを施すことは絶対に禁物です。一時は目を見張るような生育をするものの、突然軟腐病が発生し、緑の葉のまま倒れて、あっという間に枯死してしまうからです。
ジャーマンアイリスは畑地や花壇などの露地栽培が基本です。露地植えが最も生育がよく、駐車場の隅でも十分育ちます。日当たりのよい場所であれば、土質はこだわりません。
植え付ける場所を高畝にして、草木灰を施し、株の背中が出るようにごく浅植えにします。
鉢(8号以上)やプランターでは土量が限られているので、水はけのよい土に腐葉土と草木灰を軽く一握りずつ混ぜて植え付けます。花の土などの園芸用土では、プランター1個に一握りの草木灰を混ぜてください。元肥はいりません。植え付け後、土が乾燥している場合は水を与えます。
水やりは、秋から春にかけては土が完全に乾いてから月2〜3回を目安にして、株にかからないように潅水します。春から秋までは多量の水やりは避けて、潅水よりも雨のかかりすぎや水のやりすぎに注意します。
庭などの室外に置く場合は、水やりはしないで自然の雨だけで十分です。梅雨時期など雨が2日以上続く時は、軒下など雨のかからない所に退避させると安全です。
まれにアオムシに花蕾が食害されますが、肥料過多、水分過多にさえしなければ栽培中に問題はほとんど起きません。もし晩秋や早春にアブラムシが大量に発生したら、軍手をつけて左右の手で葉をはさみ、しごきとります。
軟腐病は基本的に肥料過多、水分過多にすることで発生します。草木灰の施用は発生を抑える効果があります。
●ほのかな香り
●ほのかな甘い香り
●ほのかな甘い香り
ジャーマンアイリス栽培を始めておよそ35年。現在1,000種以上を栽培し、品種、栽培の研究を行う。二季咲き品種をはじめとして、多くの人に愛される新品種を開発中。