国内では最大規模のガーデニングの祭典「第18回 国際バラとガーデニングショウ」が5月13日〜18日の間、埼玉県所沢市の西武プリンスドームで開催されました。期間中の来場者数は18万人を超え、今年も多くの園芸愛好家が熱い視線で庭や植物、ガーデニング資材などをチェックしていました。「国際バラとガーデニングショウ」では毎年、新しい植物の展示やその年のテーマにあわせた新感覚のガーデンデザインが披露され、それは翌年からのガーデニングのトレンドに大きな影響を与えることでも注目されています。今年のメインテーマは「Paris パリ」。華やかさとセンスのよさで世界でも有数の人気都市をテーマにしたショウは、そこここにパリのエッセンスを感じさせる工夫がされていました。
また、ここ数年の傾向として「バラを取り入れた庭づくり」が広まる中、バラ以外の草花のボリュームがさらに増し、来場者も宿根草やカラーリーフなど自分の庭に加えたい植物を、お手本となる植栽のデザインとともに見つけ出すことを目的としている方が増えているようです。
力作揃いのショウガーデンや展示の中から、2つのメインガーデンのほか、注目の庭や展示を詳しくご紹介します。
ナポレオンの妻、ジョゼフィーヌ皇妃は植物をこよなく愛したことでもよく知られています。パリ郊外の住居、マルメゾン城に世界各地から集めたバラは250種を超すといわれ、そのコレクションがのちの品種改良に大いに役立ったことから「近代バラの母」とも呼ばれています。そのジョゼフィーヌに捧げる庭をデザインしたのがガーデンデザイナーの吉谷桂子さん。タキイ種苗の月刊誌「はなとやさい」で昨年の1月から今年5月まで「ひと目惚れ花図鑑」の連載を担当してくださった吉谷さんですが、ほかにもたくさんの仕事を抱える中、「自分の中の感覚をもっと磨く必要がある」と昨夏、パリに長期滞在されました。日々、美術館を訪ね、建築を見、またジョゼフィーヌのバラを集めた「ライレローズ」(ヴァル・ドゥ・マルヌバラ園の通称)などの庭を訪ね、英気を養って帰国。今回のショウのテーマは、じつは帰国後に知らされたのだそうです。ガーデンデザインのベースは、ナポレオンが統率したフランス第一帝政時代に生まれたアンピール(帝政)様式。直線的でシンプルなデザインの中に、ギリシャ・ローマ時代の装飾がプラスされています。パリで過ごした充実した時間、さらに磨かれた感覚が見事に表現され、デザイン的にも色彩的にも、また植物の組みあわせにおいてもすばらしい庭に仕上がっていました。
オートクチュールの全盛期に活躍したファッションデザイナー、クリスチャン・ディオール。その優雅で繊細なデザインは時間(とき)を経た現在でも世界中の女性に愛され続けています。彼の最初の作品がドレスではなく、ガーデンのパーゴラやチェアであったこと、ご存じでしょうか。自然を愛し、庭づくりに情熱を傾けた母の影響で、ディオール氏は幼いころから庭に親しみ、自身でも植物の植え付けなどをしていたそうです。フランス北西部、ノルマンディーにあるその庭は現在でも残されています。ディオール氏の美的感覚はその庭で培われ、彼のデザインするドレスも花の形や質感からインスピレーションを得たものが多くあります。今回、その庭をショウガーデンとして表現したのがイギリス人ガーデナーのマーク・チャップマンさん。ディオール氏がその庭で暮らした時期が、アールヌーボーからアールデコへの移行期だったため、この庭も直線的なデザインをベースに、窓枠のデザインやインテリア小物に曲線のシルエットを加えるようにしたそうです。「調べれば調べるほど、ディオール氏と庭との関係の深さがわかり驚きました。その庭をそっくり再現するのではなく、私自身の感覚やガーデナーとしてのこだわりをバランスよく融合させることが難しかったですね」とマークさん。ディオール氏がこよなく愛したスズランの花も咲く庭は、ディオール氏のデザインする服や香水同様、女性の心を掴むエレガントさにあふれていました。
ガーデン部門では今年は89作品の応募がありました。その中から大賞に選ばれたのが、埼玉県飯能市のエクステリア&ガーデン設計事務所「atelier nana(アトリエ・ナナ)」制作の「小屋とにわとりと青い空」。法的に決められているわけではないのですが、フランスでは雄鶏がシンボルとして愛されています。そういえばサッカーのフランス代表チームのユニフォームの胸にも鶏が…。飛べない鳥である鶏を私たち人間に置き換え、青空を羽ばたくように自由で、あたたかい気持ちでいられる空間、というのがこの庭のコンセプト。小屋の壁を這い上がるピンクのバラの勢いのよさ、手前の花壇にあふれる色彩…。何度も受賞経験のある実力派のつくる庭には、一瞬で目を釘付けにするパワーがあります。この庭でもジギタリス「イルミネーション」が大活躍。個性的な花色ゆえか、プロからの人気は絶大のようです。
ガーデン部門で最優秀賞を受賞した作品の一つで(最優秀賞は2点)、群馬県高崎市の造園設計施工会社(有)群峰園(ぐんぽうえん)制作の「フランス人がつくった茶庭」。植物が盛りだくさんのガーデンが多い中、引き算することで植物一つずつの美しさを際立たせていた点で、非常に目を引いた作品です。パサージュ(雨よけ)や灯籠、手水鉢のデザインは現代フランス風にし、フランスと日本をほどよくミックスさせたバランス感が魅力。待合の窓から見えるシャクヤク「火祭」と赤紫のバラ「ミステリューズ」が美しい掛け軸のようです。
「フランス人がつくった茶庭」の1シーン。宿根サルビアのスペルバ メルロー(ピンク、ブルー)、黄色いボール状の花が個性的なクラスペディア・グロボーサ、マツムシソウやタイムなど、高低差を上手に生かして組みあわせると、株数が少なくても表情豊かな植栽に。
毎年、世界各地のバラの育種・生産会社の新品種、人気品種が展示されるコーナーですが、今年はこちらもバラ以外の植物とコーディネートした展示となっていました。バラと調和する植物、バラを引き立てる花色などがよくわかり、すてきなバラ庭づくりのよいお手本になります。展示の中から特に魅力的なバラをピックアップしてみました。
年々クオリティーがアップするハンギングバスケット部門。吊り玉部門で大賞を受賞したのが「地球のうた」。ブルー×黄緑色のコントラストが非常に美しく、まさに水と緑にあふれる地球を連想させる作品です。ショウの開催期間にあわせ、花の開花調整、植物の状態をキープする作業はなかなか難しく、この作品のように丈夫なリーフプランツをミックスさせるのは、美しさを維持するためには有効な手段です。
タキイ種苗の月刊誌でボタンの記事を執筆してくださった島根県の日本庭園 由志園のブース。バラとはまた異なる華やかさ、あでやかさをもつボタンの美しい展示に多くの方が足を止めていました。今年はバラの開花が早めでしたが、通常はチューリップのあと、バラの季節まで間があきます。ちょうどその間に花咲くボタンをもっと庭に取り入れてほしい、というのがアピールポイント。ちなみにディスプレイの天井の市松模様は、ボタンを飾る時の伝統的な装飾方法なのだそう。濃淡の和紙で市松模様を描き、そこを透過する光に濃淡の差をつけることで、ボタンがよりドラマチックに見えるというわけです。
資材メーカーのブースで、タキイの通販でも取り扱っている「ベジトラグ」の展示を見つけました。ナチュラルな木製の足付きコンテナですが、実際にそばに立ってみると、その高さが作業するのにとても快適なことが実感できます。しゃがんでの作業は長時間になると膝への負担が大きいものです。たっぷり土が入るので野菜栽培にも最適。庭でも土壌が悪い場合などは、このような大型コンテナを利用して、快適な土壌をつくり出すのもおすすめです。このサイズよりさらに大きなサイズもありますが、奥行きが浅くコンパクトなサイズも新発売。それならベランダに置いて家庭菜園を楽しむことも可能です。