富山産チューリップの多彩な魅力

富山県は、じつは球根生産にぴったりの自然環境です。立山連峰や緑豊かな森、ダムと水田から象徴される「水の王国」といわれ、いつでもおいしい水が豊富にあります。じつは、この水が、チューリップの球根生産にとってなくてはならないもので、土壌の病害を減らしたり、冬から春にかけての畑の地温や土壌水分を安定させ、良質な球根を育てます。
また、球根の品質にとっては夏の貯蔵条件も大切です。この時期、球根の中には、翌年咲く花と新しく肥大する球根の原基がつくられ、貯蔵時の換気や温度条件によってその品質が左右されます。ですから、日本の気候に順応してつくられた球根は、消費者の皆さんのもとでも無理なく生育し、品種本来の美しさを発揮します。
富山の球根生産は、1918年、10球の球根から始まりました。育ての親である水野豊造氏は、日本最初の品種「天女の舞」を作出。現在までに、園芸研究所や生産者が作出した富山オリジナルの品種は100品種を超え、豊富な花色やバリエーションが毎年発表されています。来年の春は、富山のオリジナルチューリップで花壇を彩ってみませんか?
チューリップの最大の魅力は、豊富な花色バリエーションです。チューリップの本場であるオランダでは原色系のビビッドな色あいが好まれますが、日本人はサクラに代表されるような淡い色を好むようです。花形としては、一重咲き、ゆり咲き、フリンジ咲き、八重咲き、パーロット咲き、ビリデ咲きといろいろありますが、2013年春の品種嗜好調査ではスタンダードな一重咲きに人気がありました。近年における私たちの花に対する嗜好は、普通の形に回帰しているのかもしれません。
とはいえ、少し個性的なものや、こだわりの色というのも必要とされているようです。下の写真のような、花弁が少し尖った形の優しい色あいの品種にも人気がありました。いずれも、後ろにある宿根草やホスタの葉の緑色や、ワスレナグサの青色に溶け込んで、品種本来の色あいが生かされています。
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パステル系で優しい雰囲気に | 同系色のコントラストをつける | 植えっぱなしでも咲く原種系 |
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「夕月」(SL・晩生)、 「ミストレス」(T・晩生) |
「夢の紫」(L・晩生)、 「ブラックヒーロー」(DL・晩生) |
「バタリニー ブロンズチャーム」(S・晩生) |
下の写真は、いろいろな草花とチューリップの組みあわせです。チューリップのみの植栽は足元の土色が見え、単調で花の見た目が暗くなりがちです。そこで、チューリップの開花時期にあった草花で土色を隠すことによって、チューリップの花色が生きてきます。チューリップが咲き終わった後も花がら摘みをきちんと行えば、葉が生き生きとして見栄えのいい花壇となります。また草花との混植は、見た目がいいだけでなく土の焼け込みを防ぎ、土中の保温性・保水性も高めてくれます。このことがチューリップの生育を安定させ、花もちや新しい球根の肥大にもいい影響をもたらします。
今年のトレンドは、球根と草花の混植!混植で元気に生育したチューリップは、さらにきれいな花色を見せてくれるでしょう。
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ワスレナグサと 晩生系チューリップ |
パンジーと早生系チューリップ | アネモネと中生系チューリップ |
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「ハウステンボス」(FR・晩生)と 「サキサテリス」(S・中生) |
「パープルプリンス」(SE・早生) | 「初桜」(DH・早生)、「由子」(T・中生) |
チューリップの特徴を生かした花壇作りでぜひチャレンジしていただきたいのが、特性の違う2品種を混植してコンビネーションを楽しむ「コンビ・ミックスガーデン」です。手軽にチャレンジできる品種の組みあわせ方をご紹介しましょう。 例えば、右の写真のように、早生・短茎の「キャンディプリンス」と中生・中茎の「ジュディスレスター」を組みあわせると、「キャンディプリンス」の見頃の時期に「ジュディスレスター」は同じくらいの背丈でほんのり着色します。その後、日を追うごとに「ジュディスレスター」の色が濃くなり、草丈も次第に大きくなります。
このように動きのあるコンビ・ミックスガーデンを作るには、開花期と草丈のバランスをほんの少しだけずらすのがポイントです。目安として、開花期は1週間、草丈は10cm程度異なる品種を選んでください。自然な変化を楽しめ、今までとは違ったすてきな雰囲気になるでしょう。下の表の開花期と草丈の目安を参考に、いろいろな品種で「時間・色・高さ」の動きのあるコンビ・ミックスガーデンにチャレンジしてみてください。
開花期は、早生〜中生〜晩生と1週間ずつ程度異なる。系統略号でおよその時期が分かる。草丈は、極短茎〜短茎〜中茎〜長茎と10cmずつ程度異なる。
※品種によっては開花期と草丈が目安通りにならない場合があります。
あくまで目安としての参考にしてください。

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早生・長茎(インプレッション系) DH |
中生・中茎(ジュディ系)T | 早生・短茎(プリンス系)SE |
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「アプリコットインプレッション」(橙)、 「サーモンインプレッション」(淡桃)、 「レッドインプレッション」(赤)、 「ピンクインプレッション」(桃) |
「プリンスクラウス」(赤黄)、 「ジュディスレスター」(桃白)、 「アルカディア」(赤)、「ペイズバス」(白) |
「サニープリンス」(黄)、 「パープルプリンス」(紫)、 「キャンディプリンス」(桃) |
植え付け時期は10〜11月が一般的ですが、この時期、北海道と九州では10℃以上の気温差があります。じつは、球根の根が伸びる最適温度は12〜15℃くらい、20℃以上の暖かい気温では根がうまく育ちません。でも、温度計で気温を測るのは面倒ですね。
そこで私のご提案は、「紅葉が見頃の時期から植えること」。これなら、日本全国どこでも通用します。球根は、秋の涼しさを感じて発根する部分が生長して膨らみます。季節の変化を感じて根を伸ばす準備をしているのです。
もう一つ、大事なのは水やりのタイミングです。植え付け後2週間は根が伸びる大事な時期なので、たっぷりと水やりをすること。また、冬場の水やりを怠ると根が乾燥してしまい、その後いくら水をあげても吸収する力がなくなって、葉は育つけれど花が咲かない原因になります。
そこでおすすめなのが、花苗と混植すること!これなら、芽の出ていない球根の水やりも忘れません。また、軒下の雨水の当たらない場所は避けましょう。
球根はもともと栄養分のかたまり。肥料なしでもきちんと花を咲かせてくれます。しかし、もっと立派に育てたい、新しい球根を大きくしたいという方は、「元肥(もとごえ)なしの冬場の施肥」を行ってください。養分は葉を大きくするためのものなので、春の芽が伸びる前に土の表面に粒状化成肥料(NPK等量)を球根10球当たり小さじ1杯分(5g)くらい散布してください。
病害虫で気をつけたいのは、かびの一種で「褐色斑点病」という病気です。花が終わるころに、花粉や花弁が葉に落ちてしまうとかびの栄養となり、胞子が繁殖して周りのチューリップに広がることもあります。「花粉や花弁が落ちる前にていねいに摘みとってあげる」のがポイントです。
チューリップの足元にボリューム感を出し、球根の冬場の水やりを忘れないためにも、パンジーなどの春咲きの花苗を一緒に寄せ植えするのがおすすめ。花苗と球根が重ならないようにするのがポイントです。花苗の最終の高さにあわせて培養土を入れた後、鉢の四隅に花苗を並べてからチューリップ球根を並べます。覆土は花苗にあわせます。
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![]() 富山大学大学院細胞生物学修了後、薬品会社にてチューリップのバイオ研究を経て、富山県花卉球根農業協同組合へ。 現在、業務部長として販売と生産に携わる。 |