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「高糖度トマト」作りに挑戦!

「高糖度トマト」作りに挑戦!「高糖度トマト」作りに挑戦!

最近市場で大人気の「高糖度トマト」、いわゆるフルーツトマトを自分でも作ってみたいという方がきっと多いはずです。
でも、家庭菜園では高糖度トマト作りはなかなか難しい!
露地栽培でトマトを高糖度にするためのノウハウを詳しくご紹介しますので、今年はその「激ムズ!」に挑戦してみませんか。
どこまでトマトの甘みが増すか。目指すは糖度8以上!

甘いトマトが好まれる日本は世界的には珍しい存在

甘いトマトが好まれる日本は世界的には珍しい存在

トマトを用途別に分類すると、サラダなどで食べる「生食用トマト」とジュースやケチャップなどの原料となる「加工用(ジュース用・調理用)トマト」に分けられ、さらに生食用トマトは、果実の大きさの違いから、大玉、中玉、ミニトマトの三つに分類されます。その中でも、ミニトマトは、果実の形状や色、大きさが多様で、用途が豊富であるなどの利点があり、大玉トマトに比べて花数が多く、着果性に優れ、果実糖度が比較的高いといった特徴があります。また、リコピンなどの機能性成分を多く含み、日もち性もよく、食味が優れることから需要が増えています。2013年のデータでは、ミニトマトはトマト生産の約1割を占め、食生活の多様化に伴い、生産量と栽培面積が著しく増加した野菜の一つです。
ところで、日本では生食用トマトは人気があるものの、加工用トマトの消費量は、トマトの消費が調理主体であるヨーロッパやアメリカなどに比べて低いのが現状です。2013年における世界のトマト生産量は1億5902万tであり、中国が5055万t(世界全体の約32%)で最も多く、次いでインド(1823万t、約11%)、アメリカ(1257万t、約8%)の順です(FAOSTAT、2013)。一方、日本のトマト生産量は約75万t(約0.5%、世界第27位)であり、世界最大のトマト生産国である中国の1.5%にも達しません。日本のトマトの年間消費量は世界平均(約20s)に遠く及ばず、わずか9s程度です。その理由としては、地中海沿岸を中心とする地域ではトマトを加熱調理して食べるのに対し、日本ではトマトを主に生食することが考えられます。日本のトマト文化は、世界的にも珍しい、甘いトマトを好む生食主体の文化なのです。

高糖度という付加価値があるとトマトは高値で売れる

日本では'桃太郎'トマトに代表される完熟系品種の育成と、きめ細かな栽培技術の確立により、「おいしさ」に着目した生食主体のトマト文化が形成されてきました。その中でも、フルーツトマトの名で知られる果実のような甘さの「高糖度トマト」は消費者に大人気です。最近では、色や大きさ、形がさまざまな品種が育成され、多くの種類のカラフルトマトが店頭に並ぶようになってきました。「高糖度トマト」は、フルーツ感覚で食べられることから、高付加価値なトマトとして消費者に認知されるようになりました。消費者の多くは、食味がよいトマトを好み、量販店などは、消費者が好む「高糖度トマト」を売れ筋として捉えています。
「高糖度トマト」は通常の大玉トマトに比べて高価格で販売されるため、以前から栽培技術に関する試験研究が行われてきました。トマトの生産者も、高価格の取引が期待できる点に着目し、「高糖度トマト」を栽培する生産者は独自のノウハウをもって栽培に取り組んできました。トマトは高糖度系品種の人気が根強く、「高糖度トマト」の消費拡大には、年間通じて安定生産できる栽培技術の確立が望まれます。しかし、「高糖度トマト」は生長スピードが早い夏秋栽培では難しく、安定供給するには栽培法や品種、施肥管理、作付体系、環境制御などの課題を総合的に解決していく必要があります。

甘みはトマトのおいしさを左右する最も大きな要因

'桃太郎'トマトに代表される完熟系品種の果実糖度(Brix値)は通常5〜6%程度です。トマトのおいしさは甘み(糖)、酸味(有機酸)、およびうまみ(グルタミン酸)のバランスですが、中でも糖はトマトのおいしさを左右する最も大きな要因の一つで、糖含量が高いことがおいしいトマトの前提となります。一般的に栽培されているトマトに含まれる糖成分は、ブドウ糖(グルコース)と果糖(フラクトース)です。トマトの糖含量を高めるには、水分ストレスなどによって果実への水の流入を抑える(濃縮効果)と共に、果実から水の流出を防ぐため糖や塩類などの成分を積極的に蓄える機能を発揮させる(浸透調節)必要があります。果実糖度がどのくらい以上から「高糖度トマト」と呼ぶかは正式には決まっていませんが、8%程度以上のトマトを「高糖度トマト」と呼ぶことが多いようです。

甘くなるほど小さくなる甘みとサイズは反比例

市販されているフルーツトマトはどれもサイズが小さく、「高糖度トマト」は中玉トマトやミニトマトと認識している方も多いと思います。しかし、実際に栽培されている「高糖度トマト」は大玉トマトを利用していることが多いのです。じつは、果実の大きさと糖含量の間には負の相関関係が認められ、果重を小さくするような栽培をすれば、「高糖度トマト」を作ることができます。節水栽培によってトマトの糖度が上がるのは、果実が小さくなった結果であると考えられ、「高糖度トマト」の果実1果当たりの糖は通常の大玉トマトとほとんど変わらないそうです(図1参照)。
ところで、トマトの栽培中に水分ストレスなどをかけると、糖度の上昇に伴ってカルシウムの欠乏症である尻腐れ果や、収穫直前の果実へ水が流入することによって起こる裂果の発生が増えます。また、茎葉の繁茂が少なくなってリーフカバーが劣り、日焼け果が発生しやすくなります。「高糖度トマト」の栽培では、障害果の発生にも注意が必要です。

甘くなるほど小さくなる甘みとサイズは反比例

灌水制御を厳しくすると25%くらいまで果重を少なくすることもできる。200gの大玉トマトなら50gまで果重が少なくなる。そして、感じる甘さもさらにアップ!

(図1)灌水量の増減による糖度と果重の関係性

(長野県中信農業試験場によるデータ ※‘桃太郎’シリーズの品種を使用)

(図1)灌水量の増減による糖度と果重の関係性

灌水の量を少なくするほど糖度が上がる。ただし、1株当たりの収穫量は減少。糖度が高くなるほど、1果当たりの果重は軽くなるため、全体の収穫量も減少する。

収穫直前に起こりやすい裂果。

収穫直前に起こりやすい裂果。

カルシウムの欠乏から起こる尻腐れ果。

カルシウムの欠乏から起こる尻腐れ果。

実践「高糖度トマト」作り、ここがポイント

ポイント1「高糖度トマト」を作りやすい品種を選ぶ

「高糖度トマト」作りには通常の大玉トマトの品種を利用しますが、灌水を極限まで控えるなど、栽培法が異なります。「高糖度トマト」として収穫されるトマトは、通常の大玉トマトに比べて一回り以上小ぶりになりますが、現状では‘桃太郎’などと同程度の果重(約200g)で、高糖度になる品種はなかなか見つかりません。そのため、「高糖度トマト」として栽培しやすい品種を選ぶことが大切です。その条件は、まず、生食用でもとから甘みが強い品種であること。そして、尻腐れ果や裂果などの障害果が発生しにくいこと、節水栽培しても小ぶりになりにくいことなどです。現在販売されている品種の中では、‘桃太郎ファイト’や葉かび耐病性のある‘CF桃太郎ファイト’が「高糖度トマト」を作りやすいと思います。
 また、中玉トマトやミニトマトは「高糖度トマト」を作りやすいので、初めて挑戦するなら、中玉、ミニトマトの中から甘みが強く、耐病性のある品種を選ぶとよいでしょう。大玉、中玉、ミニのいずれのサイズも栽培してみて、どれが一番甘くなるかを試してみるのも楽しいと思います。

こんな品種で糖度アップ
を試してみよう!

大玉トマト
‘CF桃太郎ファイト’
‘CF桃太郎ファイト’

葉かび病耐性品種で、減農薬栽培におすすめ。'桃太郎ファイト'同様甘くておいしい。

‘桃太郎ファイト’
‘桃太郎ファイト’

糖度が高くおいしさ抜群の完熟品種。病気にも強く、高品質で作りやすい。

ミニトマト
‘CF千果’
‘CF千果’

糖度が高く、食味がよい'千果'タイプで、葉かび病や斑点病の耐性がある。

中玉トマト
‘フルティカ’
‘フルティカ’

中玉トマトの中では特に糖度が高く、酸味が少なく滑らかな食感。裂果が少なく、露地栽培でも作りやすい。

ポイント2果実肥大期に灌水をできるだけ少なくする

「高糖度トマト」を作るには、果実肥大期に灌水量をできるだけ少なくし、水分ストレスを与えるのが一般的です。トマトが枯れない極限まで水分量を抑える栽培技術はプロでもなかなか難しく、ここが家庭菜園で「高糖度トマト」を作る一番のポイントとなります。灌水は定植後活着するまでは通常量を、その後は第1果房第1果がピンポン玉大になるまで控えめにします。灌水制御は、果実の生育ステージが進んだトマトでは効果が小さく、開花後は灌水制御の開始時期が早いほど高糖度になるという報告もあります。その後の灌水量の設定が難しいのですが、それは土壌や気象環境などの栽培条件により大きく異なるからです。確実に灌水量を見極めるためには、テンションメーター(土壌水分測定器)を利用するのがおすすめです。テンションメーターの数値がpF2以上になるように灌水量を調整して栽培すると、糖度が8%以上の「高糖度トマト」を栽培できる可能性が高くなります。
参考までに具体的な灌水量をご紹介しておきます。ハウス雨よけ栽培夏秋栽培の場合で、梅雨明けまでが1株に対して1日に水250t程度、梅雨明け以降は500t程度とし、晴天日には行い、曇天日や雨天日はできるだけ灌水を行わないようにするとよいでしょう。ただし、曇天日や雨天日が3日以上続く場合には、状況によって灌水を行います。

灌水制御の効果を高めるための3つの工夫

プロでもなかなか難しい灌水制御ですから、その効果を最大限に引き出す工夫をすることも大切です。家庭菜園でも実行しやすい3つの方法をご紹介しますので、できれば3つとも同時に行うようにしてください。なお、土壌中の塩分を高めると、浸透圧の関係でトマトが水分を吸収しにくくなります。よく「塩トマト」などと呼ばれている栽培法ですが、この方法は家庭菜園では実現しにくく、おすすめはできません。

工夫その1水はけのよい土壌にする

トマトは地中深くまで根を伸ばし、栄養や水分を一生懸命吸い上げようとするため、土壌に水分が残っていると、灌水を制御しても意味はありません。灌水制御の効果を得るためには、まず、水はけがよい土壌で栽培することが必要です。「高糖度トマト」の栽培に砂地がよく利用されますが、それは水がすぐ抜けるため土壌の水分量を管理しやすくなるからです。家庭菜園でも水はけが悪い土壌には有機質や砂を混ぜておくとよいでしょう。

工夫その2遮根シートで根域を制限

遮根シート(防根透水シート)を使って根域を制限するのもおすすめです。また、袋栽培も根域を制限できるので、灌水制御の効果を高めることが可能です。

遮根シート栽培の畝のつくり方

袋栽培なら手軽にトマトの糖度アップを試すことができる。ベランダや軒下で栽培すれば雨よけもできて、灌水制御がしやすくなる。写真はトマト専用の培土を使用した袋栽培「そのまんまトマト畑」。

工夫その3雨よけをして水分を制御する

雨よけをすると水分制御が比較的楽に行えます。少量多回数灌水で、きめ細かな水分管理を行うようにしてください。テンションメーターの数値を見ながら、土壌や気象環境などの栽培条件により調整するとよいでしょう。もし家庭用のビニールハウスの設置ができれば非常に有効と考えます。ビニールハウスは雨水を防げるため、灌水制御がよりしやすくなるからです。ビニールハウスにおける栽培管理は、一般の雨よけ栽培と同様に行います。

家庭菜園用のビニールハウスなら設置も簡単!
菜園ハウス 雨&虫ダブルガード

雨よけフィルムと1o目合いの防虫網をセットにした「菜園ハウス 雨&虫ダブルガード」。チャック開閉式の出入り口が4カ所にあり便利。

アーチ菜園雨よけワイド

手軽に組み立てできる家庭菜園向けの雨よけ栽培ハウス「アーチ菜園雨よけワイド」。地際部分はサビに強く丈夫な樹脂被膜パイプを使用。

その他の栽培管理ポイント

施肥は糖度アップに関係する?

施肥は元肥のほかに、草勢を見ながら追肥を行います。追肥は想定する収穫期間の中間に、灌水と同時に液肥で与えます。遮根シート栽培では、施肥量を2倍にしたとしても糖度や収量は変わらず、トマトの生育や収量、果実品質に及ぼす影響は、施肥量よりも灌水量の方が大きいです。したがって、元肥、追肥の成分量などは一般的なトマト栽培と同様でかまいません。

トマト栽培の
一般的な元肥成分量

(タキイデータによる)
1u当たり

チッソ
12g
リン酸
20g
カリ
20g

光合成を抑えないように栽培する

トマトの夏秋栽培では高温対策も必要になり、尻腐れ果や裂果、日焼け果などの障害果の対策として一般的に遮光を行います。ただし、「高糖度トマト」を作るためには光合成を抑えないように栽培することも大切です。遮光率30%程度の被覆資材であれば、無被覆に比べてトマト果実の表面温度および葉面温度が下がり、可販収量が多く、秀品率が向上することもあります。

定植後の管理は通常と同じ?

定植後の栽培管理は、灌水以外は通常の作業と同様です。支柱誘引、わき芽取り、1段花房の花を確実に着果させるためのホルモン処理などを通常通り行ってください。ただし、灌水制御を行うと、尻腐れ果が発生しやすいため、状況に応じてカルシウム剤を散布するなどの尻腐れ果対策を行う必要があります。また「高糖度トマト」の栽培では、長段栽培は特に難しく、家庭菜園では6〜8段花房程度まで着果させられれば上出来だと思います。収穫の花房段位を決めたら、その花房の上位葉2葉を残して摘芯し、栽培に集中するとよいと思います。

収穫適期の判断は?

収穫適期の判断も通常のトマト栽培と変わりありません。ただ、糖度アップが成功しているかどうか、糖度測定器でちゃんと計測してみることをおすすめします。目指す糖度、8以上の数値が出れば大成功!

ポケット糖度計 PAL-1

手のひらサイズで手軽に使える「ポケット糖度計 PAL-1」。果実糖度(Brix%)0.0〜53.0%まで計測できる。防水仕様のため丸洗いも可能。

元木 悟(もとき さとる)

元木 悟(もとき さとる)

長野県生まれ。明治大学農学部准教授。現在、明治大学生田キャンパスの圃場で学生と共にトマトの新しい栽培法「ソバージュ栽培」(露地放任栽培)を実践中。省力的なトマト栽培による高収入モデルの実証研究を行っている。トマトのソバージュ栽培のほか、アスパラガスの新栽培法「採りっきり栽培」などの研究成果を発表する明治大学フィールドデーは人気が高く、農業関係者や市場関係者、家庭菜園の愛好家などが多く集う。