コンパクトな花木

春は1年のうちで最も多くの花が見られる季節。長く寒い冬を経た待ち遠しさも手伝って、木々の芽吹きと色とりどりの花々に、生の喜びや世界と自然のすばらしさを再確認できる季節でもあります。気温の高まりとともに、かたかった芽が膨らみ、やがてほころび展開して、日々みるみるうちに姿を変える様子が観察できて「植物もやっぱり生きている!」ということを実感できます。
そんな春の植物の中でも、比較的丈夫で育てやすく、花が楽しめる花木は、暮らしの彩りに最適。樹形をコンパクトに維持することで、限定された庭の空間にも調和した景観を保つことが可能です。
樹木のコンパクトな樹形維持に欠かせないのが剪定作業。毎年少しずつ手を入れてあげることで、樹勢の衰えを招く植物へのストレスを最小限に抑えることができます。逆に、何年も放置して伸び放題になった枝葉を大きく切り戻すと、無理な大枝の剪定などで樹形のバランスを崩したり、花つきのよい枝を失ってしまったりするので注意が必要です。
どのような場合でも、剪定の基本は不良枝を取り除くことです。そのうえで樹木の全体の姿や花の観賞に最適な枝振りを形作るための剪定を施します。
春に開花を楽しむためには花芽まで剪定してしまわないことが重要です。そのためには、それぞれの樹木がいつ花芽をつけるかを知っておきましょう。春に今年伸びた枝に花芽をつけるのか、前年の花後に花芽形成するのかは樹木により異なるからです。冬に枝を切る花木については、多くの場合すでに花芽がついている枝を切ることになるので、できるだけ花芽を残すよう気をつけましょう。
それぞれの樹木が開花する時期に、周囲の景色がどうなっているかをよく考えて配置するのもポイントです。庭の中での印象が大きく変わってくるので細かな植栽位置も検討します。樹木の背景はどうなっているのか、また足下にはどんな植物があるのかといったこともふまえ、バランスをみて剪定時の枝振りを決めましょう。
草本とは違い、花木は一度植栽してしまえば長くおつきあいすることになります。ぜひ吟味してお気に入りを手に入れてください。
中国原産の広葉樹で、早春で最も早くに満開となります。蝋細工のようなつややかで厚みのある黄色の花弁と、甘い芳香が特徴です。ほとんど花のない季節に愛らしい花を咲かせてくれるので、1本だけでも庭園の目立つ場所に植栽するとポイントとして映えます。
花弁が開き切らずに丸く咲くマンゲツロウバイや、通常赤紫の花芯が多い中、花芯まで黄色のソシンロウバイなどの栽培品種があります。

- 特に場所を選ばずよく育ちます。日当たりがあまりよくない半日陰のような場所でも生育しますが、花つきがよくないので、できるだけ日当たりのよい場所の方が多く花を楽しめます。
- 12月から翌年2月ごろの落葉期。透水性と保水性のよい客土をして、やや高植えにすると元気に育ちます。活着するまでは十分な水やりが必要です。
- 特に心配な病害、虫害はありません。
- 花後の6月中旬に、花芽に気をつけながら剪定します。
勢いよく伸びた徒長枝は、花数が少なくなるので切り詰めます。
株の内側に向かって伸びる枝なども樹形維持のため剪定します。年数が経ち古く大きくなった幹と若い幹を更新するとコンパクトに維持できます。


ほかの春の花に先がけて真っ先に咲くことから「まず咲く」が転じてマンサクという和名となったとされます。黄色で縮れたひも状の花弁の花が株いっぱいに咲く姿は、早春の景色の中でよく目立ちます。
トキワマンサクはマンサクとは別属種で、花期は4〜5月の常緑性で、紅花や斑入り葉など多くの品種も作出されています。非常に強健な性質で、刈り込むことでコンパクトにできます。


- 日当たりがよい場所から半日陰まで適します。あまり暗いと花つきがよくありません。乾燥や寒風の当たる場所は避けます。トキワマンサクは寒さに弱く、関東以北では露地植えは厳しいでしょう。
- 肥沃で湿潤な土壌環境が適します。乾燥する土壌では保水性を高める改良を施すとよいでしょう。落葉性のマンサクは12月から翌年2月、常緑性のトキワマンサクは4月中旬〜5月中旬が適期。
- マンサクには春に葉が変色して枯死する病害があります。防除対策としては樹勢を健全に保つことが肝要です。
- 自然樹形でまとまった形になりますが、よりコンパクトに作るためには花の終わりかけから花後すぐに剪定します。花芽は新梢の節につきます。トキワマンサクはより萌芽力が強く刈り込みにも耐えるため、生垣やトピアリーとしての利用もできます。
日本の自然を代表する花木の一つで、非常に古くから園芸植物として親しまれてきました。野生種としては本州、四国、九州、南西諸島や朝鮮半島に自生する「ヤブツバキ」、本州の日本海側で雪の多い地方に自生する「ユキツバキ」があり、さらに両種の分布する境界付近には互いの特徴を併せもつ「ユキバタツバキ」が自生しています。
これら野生種をもとにして古くから栽培品種が育成され、その後、西欧でも人気となり多くの品種改良が行われました。定期的に剪定すると、家庭でもコンパクトに維持することができます。

- 日陰に強い樹木で、かなり暗いところでも育ちます。寒風や乾燥を嫌うので気をつけましょう。
- 気温が十分に上がってきた4〜5月が適期。水もちがよく乾燥しない環境を保ちます。
- 触れると非常にひどいかゆみをともなうチャドクガが4月下旬と7月下旬の2回発生します。若齢幼虫期に注意して捕殺するか、必要な場合は薬剤散布で対処します。
- 今年伸びた当年枝の先が7〜8月に花芽に変わるので、開花後の剪定を基本とします。放置すると枝葉が大きくなり込みあうので、高さや枝張りを切り詰める剪定を行います。さらに風通しが悪いとケムシの被害も出やすくなるため、枝すかし剪定も必要です。
両種ともマンサク科トサミズキ属の落葉低木で、レンギョウやマンサクとともに江戸時代から園芸植物として親しまれてきました。小さな黄色の鈴が重なったような花の形が特徴で、トサミズキは大きめで7〜8個、ヒュウガミズキは小さめで2〜3個ずつの塊で咲きます。旺盛な花つきの植物ですが、派手で華やかというよりは、野趣を味わうといった雰囲気の樹木なので、雑木の根じめや寄せ植えの一つといった使い方があいます。両種を比べると、ヒュウガミズキの方がよりコンパクトに仕立てやすいです。

- 半日陰のような場所でも問題なく育ちますが、日当たりのよい方が花を多く楽しめます。
- 12月から翌年2月ごろの落葉期が適期。透水性と保水性のよい客土をして、やや高植えにすると元気に育ちます。活着するまでは十分な水やりが必要です。
列植えや生垣として複数株を植え、ボリュームを出してもよいでしょう。
- 枝が込みすぎると、うどんこ病が発生することがあります。ふところの込み枝を剪定して風通しと採光をよくすることで予防します。目立った虫害はありません。
- 花芽形成は夏なので、花を多く楽しむための剪定は花後の5〜6月にします。数年に1回、株全体をコンパクトに仕立て直す剪定は、休眠している落葉期に行うとよいでしょう。また、全体を刈り込んで仕立てることもできます。
立春を過ぎたころ、小さな宝珠のような形の蕾が膨らみだし、サクラと入れ替わるようにゴールデンウィークごろに咲き始める人気の花木。日本からアメリカに送られたサクラの返礼として、明治時代に渡来した落葉高木です。
花びらに見える部位は総包片といい、本当の花は中央部に集まって粒々と見える塊です。この粒々の一つひとつが小さな花で、近づいてよく観察すると4枚の花びら、4本の雄しべ、1本の雌しべがあります。秋には真っ赤に実る果実や紅葉も見事。季節ごとに楽しめる樹木で、庭園のシンボルツリーとしても適しています。赤花、白花など多様な品種があります。

- 日当たりがよく、水はけと保水性のよい場所を好みます。西日が直射すると幹焼けや乾燥害が出ることがあるので、午前中に日当たりのよい場所が適します。
- 12月から翌年2月が適期。毎年植え替えれば5〜6号鉢でも花を咲かせることができます。
- うどんこ病が発生しやすい樹種です。初夏に薬剤散布で防除し、秋の病落葉は焼却処分します。
- 主幹を切り詰め、横枝を張らせる樹冠を作るとコンパクトな樹形で花を楽しめます。落葉期の12月〜翌年2月ごろには丸い花芽が確認できるので、花芽のついていない徒長枝や樹形を乱す不良枝をよく見極め、剪定します。
近縁のハナミズキとよく似た花木ですが、少し落ち着いた雰囲気で品のある花を咲かせます。花期はハナミズキより2週間ほど遅く、花弁に見える総包片の先端が尖ることが大きな違いです。
ヤマボウシという和名は、花びらに見立てた4枚の包が、法師の被る頭巾に似ることからつきました。サッカーボールのような模様にも見える実は秋に赤く熟し、生食のほかジャムや果実酒としても利用されます。どちらかというと和風の庭園によくあう景色を演出します。

- 日当たりがよく、水はけと保水性のよい場所を好みます。乾燥を嫌うので西日が直射する所は避けます。
- 植え付け適期は12月から翌年2月。
- まれにうどんこ病が発生します。対処はハナミズキに準じます。
- 基本的には自然樹形できれいにまとまる樹種ですが、込みすぎたふところ枝や徒長枝は除去します。剪定は、落葉期に花芽を残して行います。また樹形が大きくなりすぎた場合は、数年に1回主幹を切り詰めることでコンパクトに維持できます。

1970年滋賀県生まれ。大正13年開園の京都府立植物園で、樹林地の維持管理を担当する樹木係に所属。樹木医。RLA登録ランドスケープアーキテクト。