夏の果菜が終わったら畝ごとに緑肥でリフレッシュ!
夏野菜の収穫シーズンもそろそろ終わり。秋冬野菜へ切り替える時期が近づいています。
家庭菜園では、一気に全面を切り替えるのではなく、野菜ごとに順番に進めていきましょう。
それには緑肥が強い味方になります。
秋冬野菜のために土壌をリセット
順々に畑を準備し労力をうまく分散
8月中旬から下旬にかけては、春先に植えた大玉トマトやキュウリは収穫のピークを過ぎ、暑さや乾燥で樹勢も衰えてきます。ナスやピーマン、ミニトマトはまだまだ元気、秋口まで大丈夫かも知れません。エダマメやスイートコーンはすでに収穫が終わって、空き畑になっているでしょう。
この時期は春夏野菜を片づけ、秋冬野菜へ切り替える適期です。
一般的には、片づけた畑に堆肥を入れて肥料をまき耕す、といった土づくりを行いますが、この方法は畑全体を一度に切り替えるにはよいものの、家庭菜園のような畝ごとに違った野菜を作り、それぞれの栽培期間が異なる場合には、ちょっと無理がありますね。
秋冬野菜の準備作業は、同時に行う必要はありません。家庭菜園では、むしろ、それぞれの野菜に合わせた時期に、順々に切り替えをしていく方が、後作の適期作付け、裸地のすき間をつくらないといった点や、労力を分散させるうえでも好ましいと思います。
残存肥料に要注意!土中に害虫や病原菌が
この時期の果菜類は、すでに収穫が終わっているエダマメやスイートコーン、そろそろ切り上げ時期がきている大玉トマト、キュウリ、そして秋口まで収穫が続くナス、ピーマン、ミニトマト、オクラなどがあります。
これを秋冬作に切り替える時の注意点は、
@適期に後作を開始するタイミングを計る
A畝を裸地にしない
B残存肥料を考慮し輪作を考える
の3点です。特にBは重要です。
前作となる果菜類は栄養生長に加えて生殖生長まで行うことや、栽培期間が長いので与える肥料も多く、また、果実は病害虫の格好のエサであるため、害虫や病原菌も多く集まった状態で栽培が終了します。
畑がこのような状況であるのに、秋冬作のため新たに肥料を施すことは、これらの状況を助長することにもなりかねません。そこで、おすすめなのが緑肥を利用するリフレッシュ法です。
春夏野菜の栽培後は緑肥の利用がおすすめ
緑肥は、土にすき込んで肥料分にしたり、土壌改良に役立てたりするための作物ですが、肥料はゆっくりと効いてきます。また、緑肥作物の根には野菜とは違った微生物が集まってきて、病害虫を抑止するなど野菜にとってよい結果をもたらすことも多いのです。
緑肥作物を栽培することで、野菜に障害を起こしやすい状況の土壌を一度リセットすることになり、その次に栽培する野菜に対してもよい結果をもたらします。
イネ科とマメ科の緑肥いろいろ
緑肥の代表的なものは、イネ科とマメ科の作物です。
イネ科では夏作にはソルゴー、秋冬作にはライムギ、エンバク、コムギなどが使われます。イネ科の作物は地中深くまで太い根が伸び、地表近くは細かい根が張るため、土壌の団粒化が促進されて、通気性や排水性がよくなります。また、多くの有機物が土壌に入ることで腐植の形成が促進され、栄養分が豊かな土壌になります。
マメ科の緑肥には、夏にまくクロタラリア、セスバニア、エビスグサ、秋冬はヘアリーベッチ、レンゲ、クリムソンクローバーなどがあります。いずれも根や茎葉の量が多いので、マルチにしたりすき込むことで堆肥を施用するのと同様の物理性の改善や肥料効果が期待できます。
マメ科植物は根に根粒菌が共生するため、空気中のチッソを固定して植物や土壌に供給してくれることがよく知られていますが、イネ科の緑肥でも、根に近い所に生息する根圏微生物の中には非共生でチッソを固定する微生物が集まります。
また、イネ科にもマメ科にも共生する、土壌中のリン酸を有効利用できる菌根菌の一種が、作物の根から栄養や水分を与えてくれて、育ちをよくしてくれます。菌根菌は、いろいろな植物の根に着生するので、多様な作物が畑にあることは有利です。
緑肥を栽培することによって、肥料としての効果のほかにも、土壌微生物の多様化が進み、病原菌の発生が抑制され、作物が栄養分を得やすくなるなど、多くのメリットが期待できます。特にイネ科の緑肥はネコブセンチュウを、マメ科の緑肥にはそれに加えネグサレセンチュウを抑制するものもあります。
マメ科のヘアリーベッチ
イネ科のエンバクとライムギ(奥)
緑肥の使い方と注意点
刈り取りの基本は十分に生長させてから
緑肥は、根と茎葉をより多く得ることが効果を高めることにつながるので、イネ科では穂が出始めるころ、マメ科では花が咲き始めるころまで、十分に育ててから刈り取ります。
刈り取りが遅くなると、茎葉がかたくなるため刈り取りが難しく、また土中での分解も遅くなるので、最終的な刈り取り時期は重要です。
後作の作付計画に合わせて生育途中で刈ってしまうことも可能です。この場合は、次の作付けまでに間がある時はすき込みますが、刈った地上部をそのまま「敷き草」にしたり、枯らして「敷きわら」として使うこともできます。
複数年の作付計画に組み込むのが理想
また、畝があいたら「とりあえず緑肥」として、手軽にタネをまいておくという手もあります。ただし、マメ科の緑肥とマメ科の野菜、イネ科の緑肥とイネ科の野菜が連続しないように注意します。緑肥は、複数年にわたる作付計画のもとに利用すると、より効果的です。
緑肥をすき込んだらタネまきは約2週間後
多くの緑肥には、ほかの植物の発芽を抑制するアレロパシー効果があり、雑草を生えにくくします。これは、野菜のタネの発芽にも影響するので、緑肥をすき込んだ後のタネまきは、2週間程度あける必要があります。
野菜との同時栽培では緑肥の草丈を考える
緑肥を野菜との混植や畝間で同時に栽培する場合は、野菜の株元から30p程度離して栽培します。また、両方の草丈を考えて緑肥の種類を選択し、緑肥によって野菜の日当たりが悪くならないようにします。
ライムギとリーフレタスの混植
夏から秋…そして春への緑肥の利用法
秋作に間に合う緑肥
春まきの野菜栽培が早めに終わる場合は、後作としてニンジンなどの夏まきの野菜がよく栽培されます。しかし、夏作用の緑肥の中から生育が早いものを選ぶと、秋作の前に緑肥を栽培することが可能です。
暖地や中間地では、ソルゴーは5〜8月のタネまきで栽培期間は約3カ月なので、草丈が低い極早生のソルゴーが栽培できます。ただし、秋作の開始までの時間的余裕が必要です。タネまき時期に合わせて緑肥の刈り取りを早めてもかまいません。畑は、土づくりの観点からも、空地よりは野菜か緑肥が作付けされる状態が理想的であり、ニッチ(すき間)をねらった緑肥の栽培は効果的です。
ソルガム・やわらか矮性ソルゴー
次作の春夏作に合わせて
初秋まで栽培が続く畝では、後作の秋作までの間に緑肥を栽培する時間的余裕がありません。このような畝では、次の春夏作に効果が期待できる緑肥を栽培するか、あるいは長期的な土づくりの視点で、通路も含めて畝全体に緑肥を栽培するとよいでしょう。
冬越しさせて緑肥を使う場合には、土を肥沃にするならばヘアリーベッチ、晩秋にまくなら耐寒性のあるライムギ、ダイコンなどの根菜類にネグサレセンチュウの被害がある畑は、エンバクの野生種を使います。
このような畝を毎年、菜園の1〜2割、順繰りに場所を変えて数年かけて1回転するように計画するのもよいと思います。緑肥の刈り取りは春夏作の開始に合わせて行い、すき込み、敷き草、敷きわらとして利用します。畝の天面だけ刈って両側を残しておくと春先の防風、防寒、害虫飛来除けに役立ちます。その後は暑さで枯れるので、そのまま通路の敷きわらにします。
晩秋から冬の畑での栽培になるので、寒さに強い緑肥が適します。イネ科のライムギ、コムギ、オオムギは、10月末から11月がタネまきの適期です。マメ科のヘアリーベッチやクリムソンクローバーは、9月から10月にタネまきができるならば使えます。また、エンバクの野生種も10月中にタネまきします。
秋冬作との混作で利用
8月の盛夏まで前作で利用する畝では、9〜10月ごろ秋冬作の作付けと同時期に、通路に緑肥のタネをまいて混作ができます。秋冬野菜の収穫が終了した後、畝が春夏作に切り替わった後まで緑肥をそのまま残しておくことが可能です。マメ科はヘアリーベッチ、クリムソンクローバー、イネ科はムギ類を使います(晩秋以降にタネをまく場合は、耐寒性のあるライムギを)。
ムギ類は春に草丈が伸びて、防風、防寒、害虫飛来除けに役立ちます。その後は刈り倒し通路の敷きわらにします。ヘアリーベッチはつる性で地表を這って伸び、緑肥の中でも特に雑草を抑制する効果が高いので、通路の抑草として役立ちます。6月には枯れますが、畑にすき込まなくても、地表に置いておくだけで分解され土になじみます。
マメ科、イネ科のいずれも、春夏野菜と競合するようになれば、その時に刈り取り、野菜の生育の邪魔にならないようにします。
イネ科のライムギ
耐寒性のあるライムギ
冬のヘアリーベッチ
緑肥の栽培方法
タネまきの方法
まき溝は三角ホーの先端などを利用して、深さ1〜2pの溝をつくる。条間は20〜30pに。タネは2〜3p離れる程度で、溝の中にバラバラと落とす。やや密植させた方が初期生育がよく、刈り取って土にすき込む際に裁断やすき込みがしやすくなり、分解も早まる。
タネまき後に覆土し、クワか三角ホーで地面をしっかりと鎮圧する。
刈り取りの方法
刈り取り後、すぐに土にすき込んで分解させる場合は、作物を倒す前に柄の長い植木バサミなどを使い、上の方からなるべく細かく裁断する。マメ科の場合は枯れてからすき込んでも大丈夫。
緑肥の混植(一例)
通路に緑肥を育て途中で刈り取って秋冬野菜の敷き草として使う。
※エンバクは11月にまくと冬の間は伸びないが、10月にまけば初秋には草丈が伸びる。
佐倉 朗夫(さくら あきお)
明治大学黒川農場特任教授。研究分野は園芸学、有機農業。神奈川県農業総合研究所や民間企業等で有機栽培の研究、普及に取り組む。著書は『家庭菜園 やさしい有機栽培入門』(NHK出版)ほか。