基礎から覚える 果樹の受粉マニュアル
「果樹を植えたのに、なかなか実がつかない…」。果樹の栽培で一番の悩みといえば、これでしょう。栽培環境によっては、虫や風など花粉を運ぶ媒体が少なく、自然受粉がうまくできなくて結実しないことも考えられます。ひと手間かけても受粉作業をするのが、確実に収穫を得る最良の手段。基礎知識から頭に入れて、受粉についてしっかりマスターしましょう。
まず、受粉のメカニズムを知る
花の構造は、大きく分類して雌ずいと雄ずい、それに花弁やがく片から成り立っています。雌ずいの先端部分にある柱頭に花粉が付着することを受粉と呼び、その柱頭に付着した花粉から花粉管が伸びて胚珠の穴(珠口)から胚のうに達し、胚珠内で受精し、そこから種子が生長を始めます。その種子の生長に合わせて、ジベレリンやサイトカイニンなどの生長ホルモンが子房を生長させて幼果となり、最後は種子が完成して収穫を迎えます。
ほとんどの果樹で結実には受粉が不可欠
花が咲かなければ果実が実らないのは当たり前ですが、雌ずい先端の柱頭に花粉を付着させること、つまり受粉なしには果物の収穫は基本的にありえません。ただし、これには例外もあり、ブドウの一部品種や、カキの,平核無,、温州ミカン、イチジクなどは、不受精であっても落果せずに結実します。このような性質を「単為結果性」といいます。ブドウのホルモン処理による無核ブドウづくりも人工的に単為結果を引き起こしているものですが、これらは例外であり、ほとんどの果樹では、結実には受粉が不可欠であり、それがしっかりと行われるためには、栽培する果樹の品種や花卉の特性を理解しておく必要があります。
[受粉→受精のメカニズム]
果樹によって異なる受粉の性質を理解しよう
どうしたらうまく受粉→受精と進ませることができるのか、受粉完成のためのハードルとして次の3点があげられます。
とに関しては、植物体の性質によるものですが、 については植物体以外に原因があり、これを乗り越えることがすなわち受粉成功となるわけです。ただし、花粉を柱頭に運ぶことだけ考えていても結実が安定しないので、とについてもここでは考えていきたいと思います。
雄性器官が不完全な場合とは、雌器は完全であっても、雄器の花粉が不完全な場合、受粉しても結実しません。例えばモモは品種によって雄性器官が完全なものと不完全なものとに分類されます。特に、白桃のように古くからある品種にはこのような不完全な雄器を持ったものが多く、受粉樹との混植が必要ですが、比較的新しく、白鳳系の血の強い品種は完全雄器を持つものが多く、混植が不要となります。
器官機能のはっきりした雄ずいでできた花粉であるならば、通常、風や虫によって柱頭先端部に花粉が着生すれば、花粉管の伸長が始まります。しかし、気温、天候条件などにより、花粉が柱頭に着生しない場合は結実しません。
受粉しても花粉が発芽しなかったり、発芽しても花粉管の伸長が停止したり、また伸長して子房に入っても受精しない場合は、親和性を欠くといいます。もちろんこのような場合、結実はしません。同じ品種の花粉で受精結実する性質を自家結実性(自家親和性)があるといいます。また結実しないものは自家不結実性(自家不親和性)といいます。自家不結実性のものが他の品種の花粉で結実することを交配親和性(他家親和性)があるといい、ないものを交配不親和性(他家不親和性)といいます。このような場合には、受粉樹の選択には気をつける必要があります。
以上のように、受粉といっても、そこには多くの課題があり、果樹の種類によって、また品種によって違うハードルを見事に切り抜けることで、最終的に結実、収穫へと導かれます。花が咲けば結実すると思って栽培を始めたのでは果樹栽培はうまくいきません。しかし、品種の組み合わせを間違わず、しっかりとした樹を育て、しっかりとした花を咲かせることによって、頭の中で難しく考えなくても、樹が勝手に受粉作業してくれる場合がほとんどです。少し多めに受粉樹となる品種を植えることこそが、受粉、受精、そして結実への大きなステップにつながります。
[受粉方法のいろいろ]
自然受粉
風の力を借りて受粉が行われる風媒受粉や、ミツバチなど昆虫が蜜を吸いにきた時に受粉する虫媒受粉などがあります。どちらも、受粉樹を近くに置いて、受粉しやすい環境にします。
受粉樹が離れた場所にある時は、着花したての枝を数本カットし、口を切り取ったペットボトルなどに水を入れて挿し、受粉させたい木の枝につるしておく。着花枝は4〜5日で新しいものに取り替える。
特定の受粉樹から受粉させたい時は、そばに植えておくとよい。鉢植えの場合も受粉樹を近くに置いておく。
人工授粉
人の手による受粉で、より確実に受粉できます。マンションの高い階のベランダなど、虫媒受粉が期待できない場所では、人工授粉をしたほうがいいでしょう。果樹の栽培農家では、前もって集めた花粉を使いますが、家庭栽培なら、花粉のある花を摘み取り、開花している花の雌ずいにこすりつけたり、筆を使ってこすりつける方法で十分です。
葯が開いて花粉が出ている花を選んで受粉する
やわらかな毛筆用の筆や綿棒などに花粉を含ませ、開花した花の雌ずいに軽くこすりつける。
花粉のよくついた花を選んで摘み取り、開花した花の雌ずいに軽くこすりつける。
Point
受粉は満開の時期に何度か繰り返し行います。雨天では花粉が流れてしまうので、晴れた日を選び、朝8〜10時くらいに行うのがおすすめです。