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リンゴの植え付け~収穫までをプロセス別に解説!

庭先で育てるおいしい果樹

リンゴを育てよう

落葉果樹の中で最も寒さに強いリンゴは、あまり暑くならず、雨が少ない環境を好みます。上手に夏を乗り切って、栄養たっぷりの果実を味わいましょう。

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冷涼な気候を好むリンゴ
矮化(わいか)栽培が管理しやすい

リンゴは中央アジアが原産地です。日本へは1871年に、75品種が導入されました。それらの品種の中には、現在でも細々ながら栽培が続けられている「祝」(American Summer pearmain)「旭」(McIntosh)「紅玉」(Jonathan)「国光」(Roll’s Janett)も含まれており、これらを交雑して、現在日本で最も多く栽培されている「ふじ」が作出されました。

リンゴの原産地の気候はブナやミズナラなどを中心とする冷温帯落葉樹林帯です。主に北半球の温帯北部で、年平均気温が7~12℃と比較的冷涼で年内降水量が300~1000㎜の地域です。これは日本の北半分の地域に該当します。

リンゴは、生食、ジャム、ゼリー、ソース、ジュースに利用されるほか、シードルのようなアルコール飲料もつくられます。また、機能性食品としての物質が多く含まれており、ヨーロッパでは古くから「毎日リンゴを食べていれば、病気にならず医者がいらない」ということわざもあるくらいです。

古くから栽培されてきた品種

アメリカ原産の早生の青リンゴ。大きさは180~200g、酸味が少なく、甘みがある。未熟でも食べられるので、早熟地帯では7月下旬から収穫。
あかね
早生種で、果実の大きさは180~200g。品質は「紅玉」に似ているが、味はやや淡白。貯蔵性はあまりない。
つがる
果実の大きさは270~320g。肉質は緻密で果汁が多い。甘みが強く、酸味が少なく食味がいい。貯蔵性はあまりない。
紅玉
アメリカ原産の中玉品種。肉質は緻密で芳香がある。酸味はやや強いものの、食味がよい。加工、料理用に好適。
スターキング・デリシャス
果実の大きさは270~320g。肉質よく、果汁豊富で甘みも強い。酸味は少なく芳香があり、食味がよい。寒地で作られたものは、特に貯蔵性がある。
千秋
果実の大きさは約280g。肉質よく果汁豊富。糖度が高く酸味もあっておいしい。
ゴールデン・デリシャス
果実の大きさは約300gの黄リンゴ。
ジョナ・ゴールド
「ゴールデン・デリシャス」に「紅玉」を交配して育成された品種。甘み、酸味のバランスがよく、味がいい。
王林
黄リンゴ。芳香があって独特の風味。貯蔵性がある。
ふじ
現在最も人気がある、「国光」と「デリシャス」の交配種。果実の大きさは約300g。甘みが強く、果汁も多い。

つがるつがる

ジョナ・ゴールドジョナ・ゴールド

王林王林

ふじふじ

特殊な台木を利用する矮化栽培

古くからのリンゴ栽培では、台木にマルバカイドウ、ミツバカイドウなどを使用していたので、樹高が高いのが一般的でした。しかし、今では木を小型化する系統の台木を使った栽培法に変わりつつあります。この場合、樹高が3mくらいにしかならないので、作業を効率的に行えるようになり、しかも結実までの年数がこれまでの栽培よりも1年以上短縮できるようになりました。台木はこれまでは「M26」または「M9」というイギリスで育成された品種を使っていましたが、最近では日本で育種開発された「JM」系という台木が利用されています。

おいしい果実を収穫する
リンゴの上手な育て方

リンゴの樹形

一般的な台木を用いた苗木の場合は、主幹形または開心形といった仕立て方にしますが、矮性台木を用いた栽培では、クリスマスツリーのような形になる主幹形(紡錘形)で育てます。その主幹や側枝から短い枝や細い枝が発生し、それらに多くの花芽をつけ結実させます。

土づくり・植え付け

秋の落葉後から春の発芽前までに植え付けます。植え穴は直径1m、深さ80㎝掘り、その中に堆肥などの有機物と石灰、熔リンを混ぜて埋め戻します。植え穴はその時多少盛り上げておくようにします。この作業はできれば植え付け3週間以上前に行っておきましょう。

植える時には、苗木の根を乾燥させないようにし、植え穴の盛り土を少し崩して根を広げ、根の先端が下を向くようにして土をかけます。この時、深植えにすると新根の発生が悪くなるので、接ぎ木部位が地表に出るくらいの高さで植えます。植え終えたら水を与え、乾燥防止用にわらを敷いて支柱を立てます。

土づくり

植え付け

植え付け後の摘芯と誘引

1年生の苗木を入手した場合は、植え付けたらすぐにまっすぐに伸びた幹になる枝(主幹)の先を切除し、40~50㎝にします。発芽前にこれを忘れず行うことで、切除した部分の近くから新しい枝が2~3本発生します。落葉期まで主幹となる枝を1本だけまっすぐに伸ばし、その下から発生する側枝はすべて残しておきます。残した側枝で長めで先がやや上向きのものは、できるだけ誘引して水平になるようにします。

側枝が何本かついているような2年生以上の苗木を入手した場合、その中で幹と同じくらい太い枝は元から切除し、細い枝だけを残します。

植え付け後の摘芯と誘引-側枝がついていない1年生の苗木

植え付け後の摘芯と誘引-側枝が何本かついている2年生以上の苗木

2年目以降

発芽する前に剪定を行います。前年に水平に誘引した側枝から出て上に向かってまっすぐに伸びた枝は元から切除します。また、前年に切り返した主幹の先から発生した3本ほどの側枝は、まっすぐに近い伸びをしている1本だけ残して、残りは切除します。この夏に残した水平の側枝から再度、上に伸びる枝が多く出てきたら切除します。側枝を切り返す時は、必ず基部の3~4㎝を残して切ると、新梢が発生しやすくなります。3年目の5月上旬ごろには、側枝や主幹の5~20㎝程度の長さの枝の頂芽にたくさんの花が咲き、秋には収穫することができるでしょう。

2年目以降の整枝

リンゴは、5月が開花のシーズン。

施肥

●元肥(寒肥)腐葉土や堆肥などと一緒に油かすと骨粉の混ざったぼかし肥を樹冠1㎡当たり150~200gを与えます。

●追肥新梢や葉の生長を促すために、3~5月にかけて、樹冠1㎡当たりIB化成を20g程度施します。

開花

リンゴの花芽は前年度に伸長した枝の頂芽に作られます(頂芽花芽)。頂芽は混合花芽で、春になり頂芽が発芽すると、茎頂部に花序を作り、わき芽として葉芽をつけます。一つの花そうで4~6花をつけますが、一番初めに開花する頂部の花を中心花といいます。

自家不和合性(自家不結実性)

リンゴのほとんどの品種は、同一品種同士の花では花粉を受粉させても受精しません。また、たとえ異なった品種でも、お互いに親和性が低い場合もあり、これを自家不和合性または自家不結実性と呼んでいます。「陸奥」「ジョナ・ゴールド」「北斗」などの品種は普通品種が二倍体であるのに対して三倍体品種なので、これに普通品種を受粉させても、また三倍体同士であっても結実率はかなり低くなります。また、二倍体同士でも「きざし」と「ゴールデン・デリシャス」、「ひめかみ」と「ゴールデン・デリシャス」の組みあわせでは不結実性が認められます。

人工授粉

「祝」や「あかね」「つがる」「アルプス乙女」などは開花期が早く結実がしやすいので、受粉用の品種として好適です。また、花粉の発芽能力は室温では5日間くらいは有効ですが、それ以上管理する場合にはシリカゲルブルーなどの乾燥剤と一緒に密閉容器に入れれば、冷蔵庫で保存できます。

人工授粉

摘花と摘果

果物屋の店先で販売されているような大玉で、高品質な果実を作るためには、開花したものすべてに、自然に任せて着果させ、すべて収穫するのではなく、中心花を一つ残します。そのほかの側花は花のうちから摘みとるか、結実後の5月下旬ごろに幼果を1個だけ残し、それ以外は摘果します。満開後30日以内に一通り行い、60日くらいに再度仕上げの摘果を行います。リンゴでは成葉数50~60枚が1個の果実を生長させるために必要とされているので、摘果の際の判断として覚えておくとよいでしょう。

摘花

摘果

袋かけ

果皮の着色をよくすることと病害虫防除のために、袋かけを行うと大変効果があります。特に、シンクイムシ、さび病、黒点病や斑点落葉病といったリンゴにとって難敵といえるものから防ぐことが可能になります。袋をかける時期は、仕上げ摘果が終わった後の6月下旬~7月上旬です。袋を外す時期は「つがる」のような早生品種であれば収穫の10~15日前、「ふじ」のような晩生品種の場合は、収穫の20~30日前を目安に行います。果皮がやけるのを防ぐため、曇りの日を選びましょう。

袋かけ

収穫

リンゴの栽培では品種によって収穫の1カ月前に落果が多く発生することがあります。これは木の体内のホルモンバランスが崩れることによって起こる生理症状ですが、ひどい場合はストッポールやマデックといった合成オーキシン系の薬剤を、収穫の3週間程度前に散布します。また、果肉組織の細胞内に糖アルコールの一種であるソルビトールなどの水溶液がたまった状態になる、一種の生理障害が起こることがありますが、これがおいしいリンゴの証といわれている「蜜入りリンゴ」の正体です。原因ははっきりしませんが、成熟期の何らかの気象要因の影響によって起こるものといわれています。蜜入りの部分は収穫が遅くなるほど多く発生します。

収穫適期は、それぞれの品種特有の風味が生じてきた完熟期に収穫します。判断しにくい時は、木から数個の果実をとって食べて判断するのが無難です。また、高温で雨の少ない年は熟期が早まり、低温で雨の多い年には熟期が遅れます。

貯蔵

リンゴは管理さえうまく行えば、果樹の中でも長期の貯蔵に耐えられる果実です。家庭ではなかなか難しいですが、0~マイナス1℃で湿度85~90%の条件下であれば1年くらいは貯蔵できます。

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大森 直樹

大森おおもり 直樹なおき
1958年生まれ。岡山大学自然科学研究科修士課程修了。岡山県赤磐市にて果樹種苗会社を営むかたわら、家庭園芸としての果樹栽培の研究を行っている。
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