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美しいバラを夢見て 華麗に咲かせるための育て方

美しいバラを夢見て 華麗に咲かせるための育て方

私が初めてイングリッシュローズを育てたのは25年前のことです。品種は‘ヘリテージ’で、とても愛らしくやさしいピンク色をしていて、香りのよいバラです。12月にお気に入りの鉢に植え付けてから花が咲くまでの間は、とても長く感じました。5月17日の朝、起きると一輪の花が咲き始めていて、時間を忘れて見入っていたことを覚えています。それ以来、イングリッシュローズに魅力を感じ、いつも庭の傍らに植えて楽しんでいます。
イングリッシュローズは、幻想的な雰囲気がすてきです。周りの植物にも自然になじんで、やわらかく包み込むような効果を生みます。最近のナチュラルガーデンは、草花(一年草と多年草)、花木、そしてバラの組み合わせが多くなっています。バラが植えられることで優雅な美しさがそこに醸し出され、さらに香りも加わって、五感で癒やされる空間ができあがるのです。そんなエレガントなイングリッシュローズを、ぜひ植えて育ててみてください。

  • 鮮やかな赤い花を咲かせる‘L.D.ブレスウェイト’。
  • ラティスをバックに満開の花を咲かせる ‘クラウン・プリンセス・マルガリータ’。
  • 強いミルラ香が特長の‘セプタード・アイル’。

よい苗の特長

店頭に並ぶイングリッシュローズの苗は、そのほとんどが2年生です。2年生とは接ぎ木されてから1年半から2年育てられた苗のことで、大苗とも呼ばれています。苗は、国内で生産された国産苗と海外からの輸入苗とがあります。
輸入苗の台木にロサ・カニナやロサ・ラクサなどが使われているのに対し、国産苗には、多くの場合、日本の風土によくなじんで育てやすい、ロサ・ムルティフローラが使われています。また、輸入苗は掘り上げて土を洗い落とした後に、輸送と検疫に長い時間を要し、根に傷ができる可能性もあることから、私は国産苗をおすすめしています。輸入苗を植える場合には、根を寒さにあてないようにする、水はけのよい土に植える、などの注意が必要です。中には夏の暑さに弱いものもありますが、そんな場合は、少し深植えにするという対処法があります。いずれにせよ、枝や根に傷やしおれのない苗を選ぶことが大切なのは、イングリッシュローズの苗選びに限ったことではありませんね。

苗の植え付け

バラは、日当たり・水はけ・風通しのよい所が大好きなので、そのような場所を選んで植え付けてください。すべての条件が揃わない場合でも、できるだけ理想に近づくように手入れしてやれば、きっとバラたちは応えてくれるはずです。また、鉢植えで育てるのも1つの方法です。

大苗地植えのポイント

 1 苗を準備する

水ゴケを取り除いたり、ポットから取り出した大苗の根を3cmほどカットし、30分ほど水につけておきます。

 2 植え穴を掘る

直径、深さともに50cmぐらいの植え穴を掘ります。ほかの株との間隔は80〜100cmが適当です。植え付けに掘りあげた土を使う場合には、堆肥、腐葉土などの有機質を混ぜておきます(土と堆肥の割合は6:4ぐらい)。輸入苗は雑菌への抵抗力が弱いことが多いため、もともとの土はできるだけ使用せず、新しい土(赤玉土6:腐葉土4)を用いて植え付けましょう。かたくて掘りきれない場合は、できるだけ深く広く耕します。この場合、3.の肥料は底に入れず、根から20cmほど離して周囲に埋め込みます。水はけが悪い土地では、下に根腐れ防止剤を入れておきましょう。

 3 堆肥と元肥を入れる

堆肥、腐葉土などの有機質に乾燥牛ふんを加えたものを5〜8L、油かす200g、焼成骨粉100gと緩効性化成肥料適量を、植え穴に入れます。

 4 半分ほど土を戻す

元肥が根に触れないように堆肥を混ぜた土を20cm以上かぶせ、真ん中を盛り上げます。

 5 土を入れながら、苗を植え込む

苗の接ぎ口が地表面から出るくらいに植え込み、根を広げて土が密着するように入れていきます。根が埋まったら軽く踏みつけて落ち着かせます。深植えになりすぎないように注意しましょう。地面が凍るような寒冷地では、接ぎ口を出さずに深植えしてください。

 6 たっぷりと水やり

水をたっぷりと与えて、根と土をなじませます。水やりが済んだら、不足している分の土を補充します。

 7 支柱立てと名札つけ

植え付けたばかりの苗は、風などに揺られて根を傷めてしまうことがないように支柱を立て、しっかりと固定します。名札(タグ)もつけておきましょう。

大苗鉢植えのポイント

 1 苗を準備する

水ゴケを取り除いた大苗の根を3cmほどカットし、30分ほど水につけておきます。

 2 鉢を準備する

素焼き鉢でもプラ鉢でもかまいません(6〜8号鉢)。鉢底穴は、ネットでふさぎます。

 3 土を作る

赤玉土(小粒)5:腐葉土3:パーライト1:ピートモス1(輸入苗の場合は赤玉土小粒6:腐葉土2:パーライト1:ピートモス1)を混ぜ合わせて培養土を作り、緩効性化成肥料(6号鉢で50〜70g)を入れて、よくかき混ぜます。

 4 鉢に植え付ける

鉢底石を鉢穴が見えなくなる程度に敷き、その上に培養土を中心が盛り上がるようにして半分ほど入れます。苗を入れてみて、接ぎ口が土から出るように調整しながら植え込みます。

 5 水やり、支柱立て、名札つけ

地植えと同じですが、水は一度引いた後、再度与えておきましょう。

肥料

■地植えの場合

株の大きさや品種にもよりますが、1年間にバラに与える肥料の目安は、チッソ(N)50g・リンサン(P)120g・カリ(K)50g程度で、植え付け時に緩効性化成肥料300gを元肥として与え、様子を見ながら追肥で不足分を補います。

■鉢植えの場合

1年に1回、鉢を植え替える際に緩効性化成肥料を土に混ぜておきます。3月ごろに置き肥をし、その後は葉色を見ながら月一回くらいを目安に与えてください。

剪定の仕方

‘グラハム・トーマス’のようなつる性に近いタイプは、仕立て方次第で多様な演出が楽しめる。

日本におけるイングリッシュローズの剪定は「つるバラ」「シュラブ」「ブッシュ(木バラ)」のタイプ別に考えるとよいでしょう。つるタイプとシュラブタイプは、暖地と寒冷地ではすごく差が現れ、暖地ではつるタイプと同じようにシュラブタイプが伸びてきます。よって、それぞれ樹形が違いますが、狭い日本の庭では、その場に合わせた剪定が必要です。その際、バラの樹形に合わせるというよりも、バラを庭のスペースに合わせる方が病気になりづらく、花もつきやすくなります。
例えば、日本ではつるバラのように伸びる‘グラハム・トーマス’でも、仕立て方によっては鉢植えで楽しめるブッシュタイプにもできます。少し長めに切るとフェンスにも誘引できますし、直立するシュートをそのまま伸ばすと2階の窓に達するくらいに伸びて、壁面に誘引することもできるのです。もちろん、花も秋まで楽しめます。樹形別の剪定よりも簡単で、場所を選ばず楽しめますので、ぜひおすすめです。
このように、暖地では思うままに咲かせられるイングリッシュローズですが、背が高くならないイングリッシュローズは少なく、草丈が1.5〜2.5mになる品種ならほとんどがつるバラ扱いにできます。樹高を低く保ちたい時は、一度主幹を短く切って、太くしっかりと仕上げていくと、倒れずにボリュームのある株に仕上がります。
ここで忘れてならないのは、イングリッシュローズのしなやかさです。あまりギッチリした株にしてしまうと、せっかくの雰囲気が壊れてしまうので、遊びの部分が多くなっても気にする必要はありません。ゆったりと風に揺れ、うつむきかげんに咲く美しいバラの風景を、たっぷりと楽しんでください。

鉢仕立て(例:グラハム・トーマス)/フェンス仕立て(例:グラハム・トーマス)
ウォール仕立て(例:グラハム・トーマス)

病害虫の防除

バラを栽培していて一番やっかいなのが病害虫の防除です。イングリッシュローズも例外ではありません。

日ごろの手入れ

株元に近く、日当りの悪い葉や不要な内枝は取り除くなど、バラの生育環境を整えてやることが病害虫防除の第一歩です。伸びすぎ、混みすぎのまわりに植えた植物なども、適宜手入れしてやりましょう。これだけで病害虫の発生は想像以上に少なくなるものです。

予防としての消毒

消毒のポイントは、病気にかからないように、病気になっても広がらないように予防をしておくことと、自分の庭を害虫の繁殖地にしないこと、そして害虫の天敵まで退治してしまわないことです。
薬剤を用いて予防するには、ダコニール1000を軸に、高温時には薬害の出にくいオーソサイド水和剤80を使うのが一般的です。1週間に一度、かけむらのないように散布します。銅剤あるいはハダニの抑制効果を併せ持つイオウ剤にパラフィン系展着剤を加えて散布するのも効果的ですが、高温時の薬害には注意が必要です。これらの農薬は、治療効果こそほとんど期待できないものの、幅広い病気に対する予防効果が大きく、耐性菌の出現がほとんどないのが大きな特長です。病気が発生してしまったら、治療薬を使わざるを得ませんが、治まったら再び予防薬に切り替えます。

防虫のポイント

バラの樹液を吸ったり葉を食害する害虫だけを選別して防除したいので、バラの木に毒性を持たせる方法をとります。浸透移行性殺虫剤の粒剤(土にまくタイプ)を使えば、散布するより簡単で効果的な防除が行えるだけでなく、この効果は長期間持続します。また、害虫の天敵になるクモやカマキリ、マルハナバチなどにはほとんど影響を与えません。有機リン系農薬など、すべての虫たちを殺してしまう殺虫剤を使う場合は、できるだけ限られた範囲に一度だけ…、といった使い方に留めましょう。

後藤 みどり
後藤 みどり山梨県出身 (有)コマツガーデン代表
20年前から、オールドローズを中心に減農薬有機栽培でつくる丈夫なバラ苗を研究開発。農業生産法人として自社ブランドの苗を確立し、現在生産者の立場から消費者へのアドバイザーとして、バラの教室「コマツ ローズクラブ」を主宰。著書に「大地に薫るバラ」、「オールドローズ ギャラリー」「薔薇大図鑑」監修(すべて草土出版)など。