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可能性広がるシェードガーデン

可能性広がるシェードガーデン可能性広がるシェードガーデン

美しい庭をつくるには“日なた”は必須条件?いえ、そんなことはありません。
日陰でもちゃんと育つ魅力的な植物はたくさんあります。
今回は人気のガーデナー、ポール・スミザーさんにリーフプランツをメインにした日陰の庭づくりの極意を教えていただきました。

“日陰”はデメリットではない植物にも人間にも心地よい場所

「うちは日陰なので何を植えてもダメなんです」。設計を頼まれた時、よく聞くのがこの言葉です。日陰を悪者扱いしている人が多いのには本当に驚きますが、実際に庭を見ると、その場所に合う植物をちゃんと選んでいないケースがほとんどです。日陰はデメリットと思われがちですが、実はこれからのガーデニングを考えると、むしろ日陰はメリットだと私は考えます。一昨年、昨年と続いた猛暑やスコールのような強い雨をもたらす気候の変化を思い出してください。日なたというのは何も遮るものがないため、暑さや強い雨、風が植物へ直接影響します。ところが木や壁などに遮られた日陰では、天候の影響も日なたほど強く受けません。つまり植物にとって安全な場所ともいえるのです。やわらかな木漏れ日が差し込む場所は人間だけでなく、植物にとっても心地よい場所なのです。
 庭に花をたくさん咲かせたい、と望んでいる方には、確かに日陰という環境は厳しいものがありますが、花が咲くのはごく限られた期間。むしろ花のない時期をどう美しく見せるかが庭づくりのテーマだと思います。色や形が美しいリーフプランツには日陰の環境を好むものがたくさんあります。それらの葉は、直射日光が当たる場所より、日陰のほうがみずみずしく美しい葉色を楽しめます。リーフプランツを上手に利用して、一年中美しく、しかもローメンテナンス(手入れが少ない)のシェードガーデンをつくってみてはいかがでしょう。

“日陰”はデメリットではない植物にも人間にも心地よい場所

日陰にも種類があるその日陰に適した植物を選ぶことが大切

一口に日陰といっても、その明るさはさまざまです。日陰で上手に植物を育てるには、まず、日陰の程度を見極め、その環境に適した植物を選ぶことが何より大切です。私は経験から日陰を次の5種類に分類しています。

それぞれの詳細は上記の通りですが、一番広く植物選びができるのが、ライトシェードです。これはぜひ積極的に庭に取り入れたい日陰です。落葉樹を1本植え込んでみてください。冬から春は葉がなくて根元に日差しが差し込み、夏は葉を茂らせて日差しを遮ってくれます。トサミズキやジューンベリーなどあまり高くならない種類がおすすめです。その根元は、春に咲く球根植物にとって格好のすみかになります。
逆に最も厳しい環境はドライシェード。乾燥を無視して水分を好むホスタなどを植え込んで失敗するケースが多く見られます。軒下などは建物の基礎に石を埋め込んでいるため、雨が降ってもすぐにしみ込み乾燥しがちです。そんな環境に花壇をつくっても水やりばかりしなくてはならないので、あえて別の利用法(デッキや小径など)を考え、植物を植えないのもよいと思います。

ライトシェード 木陰
ハーフシェード 半日陰
ディープシェード 濃い日陰
ダンプシェード 湿った日陰
ドライシェード 乾いた日陰

日陰の種類を見分けよう!

一つの庭に異なる種類の日陰が混在する!

一つの庭でも、よく見ると異なる種類の日陰が混在しているケースがあります。また、木が生長すれば木陰の範囲も広がるなど、年月で日陰の庭も変化します。庭をじっくり観察して、ここはライトシェード、ここはディープシェード、などと日陰の種類をちゃんと見分けることが、美しいシェードガーデンをつくるポイントです。

木陰

木の葉で陰が生じるようなやさしい日陰。落葉樹、または低木が広い間隔で植わっていて、時折、木漏れ日が差し込むような、ちょうど里山みたいな環境で、人にも植物にも心地よい場所。リーフプランツのほとんどがよく育つ場所だが、特に葉色の浅い種類や斑入りの品種を美しく維持するのに適している。冬の間は葉を落として日差しを通し、初夏以降は葉を茂らせて陰を生む落葉樹の下は春に花咲く球根植物を植え込むのにも適している。

木陰おすすめの植物

おすすめの植物

リーフプランツ

・ホスタ全般(特に黄葉、金葉の品種) ・ヒューケラ ・カレックス・ニューサイラン ・フウチソウ ・シダの仲間全般 ・ラミウム

花も楽しめる植物

・アジュガ ・ティアレラ ・ヒヨドリバナ・キョウガノコ ・シモツケ ・ミヤマオダマキ・セイヨウオダマキ ・サラシナショウマ ・クリスマスローズ

球根植物

・アガパンサス ・ヤマユリ ・ムスカリ・エリスロニウム ・シラー

半日陰

1日のうち、限られた時間だけ日差しが当たり、それ以外は日陰となる環境で、街中や密集した住宅地でよく見かける。日中の2〜3時間でも日光が当たる所、壁際や生け垣の陰、建物がつくる日陰もハーフシェード。日差しの当たる長さで、適した植物を選ぶようにする。リビングにいて感じる日差しと、庭での日差しはかなり異なるので、必ず庭に出て、"植物の視線"で日差しを観察することが大切。

半日陰おすすめの植物

おすすめの植物

リーフプランツ

・ホスタ全般(特に斑入りの品種) ・ヒューケラ・カレックス ・ニューサイラン ・フウチソウ・ヤブラン ・シダの仲間全般 ・アルケミラ・モーリス ・ラミウム

花も楽しめる植物

・アジュガ ・ティアレラ ・キョウガノコ ・ベルゲニア ・ミヤマオダマキ ・セイヨウオダマキ・クリスマスローズ

球根植物

・アガパンサス ・ムスカリ ・シラー

濃い日陰

建物の北側や壁に囲まれた庭など、直射日光がほとんど当たらないような日陰。自然の中でいえば、"常緑樹の深い森"のイメージに近い場所。ライトシェードを好む植物をディープシェードに入れると、しばらくは葉を出すが、花芽は出ず、何年かすると消えてしまうことが多い。適した植物は少なめだが、形状の異なるものを組み合わせることで、変化のあるデザインにするのがおすすめ。

濃い日陰おすすめの植物

おすすめの植物

リーフプランツ

・ホスタ(青葉、濃い緑葉の品種) ・ヤブラン・クジャクシダ ・オシダ ・ラミウム

花も楽しめる植物

・ツワブキ

湿った日陰

日陰にある池のほとりのような明確な湿地以外に、屋根から落ちる雨が1カ所に集まるような所、勾配の下なども日差しが当たらなければダンプシェードといえる。ダンプシェードは広範囲に広がるのではなく、部分的にあることが多い。水が集まりやすくても、水はけのよい土壌であれば、植え込める植物の種類も多い。水はけが悪くても小さなスペースなら、そこだけ沼地の植物を植えて楽しむのもよい。私の経験からダンプシェードでも水はけのよい土壌に植え込めると感じた植物には以下のようなものがある。

湿った日陰おすすめの植物

おすすめの植物

リーフプランツ

・ホスタ全般 ・リョウメンシダ ・クサソテツ・カレックス「ペンデュラ」 ・セキショウ

花も楽しめる植物

・キョウガノコ ・ユキノシタ

乾いた日陰

日陰というとじめじめした印象があるが、日陰でも乾燥しているケースは意外に多い。水の好きな日陰を好む植物をここに植えると失敗するので、土の乾き具合を手で触って確認することが大切。ドライシェードに強いのは、葉の質がかたい種類の植物。ハーフシェードくらいの明るさがあれば、斑入りのスゲやハナアロエはちゃんと育ってくれる。また、春咲きの球根でも乾燥に強いものなら、開花前の時期だけ水やりすればよい。

おすすめの植物

リーフプランツ

カレックス「レンタ」 ・ニューサイラン

花も楽しめる植物

・ハナアロエ(ブルビネ・フルテスケンス)

球根植物

・チオノドクサ ・オーニソガラム ・ゼフィランサス

ホスタはシェードガーデンの主役!

葉色に合わせて適した日陰の種類を見分ける

大きくてみずみずしい葉を広げるホスタ(ギボウシ)は、日陰を明るく、美しく演出してくれるシェードガーデンに欠かせない植物です。葉色も品種によりいろいろありますが、ホスタの葉色をより美しく見せるためには、葉色にあった日陰の種類を知ることが大切です。黄葉や金葉の品種は、ディープシェードに植えると、葉色が徐々に濃く変化してしまうので、ライトシェードに植えるのがおすすめです。また、斑入りの品種もディープシェードだと美しい斑が消えてしまいがちなので、ライト〜ハーフシェードに植え込みます。逆に青葉の品種はライトシェードでは冴えた青が出ず、色あせてしまうので、ディープシェードに植えるとよいでしょう。
もし、株がすぐに育たない場合もあきらめず、一度別の環境に移動させてみてください。大型種なら3年、中小型種なら1〜2年は株の様子を見てから植え替えるとよいでしょう。

葉色に合わせて適した日陰の種類を見分ける

大、中、小のサイズを効果的に使い分ける

ホスタには、大型種、中型種、小型種があります。大型種で私がよく使うのは「ビッグダディ」です。これは立派な株に育つので、花壇の中央に1株を植え込み、フォーカルポイント(焦点)として利用するのがおすすめです。少し小さめの中大型種も同様の使い方ができます。中型種や小型種は、グラウンドカバー的に利用するのもおすすめです。株分けして地面を覆うようにすれば、草抜きの手間が少なくなり、管理も楽になります。
ホスタは品種が豊富なので、つい、あれこれ集めたくなりますが、品種が多すぎると見本市のような花壇になってしまいます。植え込む品種は、2〜3種に絞ったほうがまとまりよく見えます。また、新品種が出ると飛びつきたくなるものですが、ホスタはずっと長く栽培できる植物なので、私はあえて、信頼のおける定番種を使うようにしています。

ホスタの株分けの方法

落ち葉をていねいに手でかき分け、芽の位置、株の広がり具合を確認する。

落ち葉をていねいに手でかき分け、芽の位置、株の広がり具合を確認する。

株の周りにスコップを差し込み、根をできるだけ切らないように注意しながら掘り上げる。掘り上げた株

株の周りにスコップを差し込み、根をできるだけ切らないように注意しながら掘り上げる。

バケツに水をたっぷり入れ、掘り上げた株を入れて、余分な土やゴミなどを取り除く。水洗い後の株

バケツに水をたっぷり入れ、掘り上げた株を入れて、余分な土やゴミなどを取り除く。

芽と芽の間にハサミを入れ、芽が3〜4個くらいで1株になるよう、ていねいに切り分ける。切り分けた株

芽と芽の間にハサミを入れ、芽が3〜4個くらいで1株になるよう、ていねいに切り分ける。

切り分けた後は、根が乾かないうちに植え付ける。

切り分けた後は、根が乾かないうちに植え付ける。直径、深さともに約30pの穴を掘り、腐葉土などをたっぷりすき込んでから、切り分けた株の根を広げるように植え付ける。根が長い場合は、折りたたまないですむ深さまで穴を掘る。芽が隠れる程度に覆土する。

ポール・スミザー

ポール・スミザー

イギリス、バークシャー州生まれ。英国王立園芸協会ウィズリーガーデン、およびアメリカのロングウッドガーデンズで園芸学とデザインを学ぶ。日本原産の植物に興味をもち来日。1997年、山梨県の八ヶ岳山麓に有限会社ガーデンルームスを設立。宿根草類を使ったナチュラルな庭づくりに定評がある。著書に「日陰でよかった!ポール・スミザーのシェードガーデン」などがある。来年秋に鳥取で開催される「全国都市緑化とっとりフェア」ではガーデンのプロデュースを担当。目下その準備に奔走中の日々。
※ガーデンルームスのホームページでは、株分けや剪定などの作業をポールさんが実際に行いながら解説する動画なども見られます。
http://www.gardenrooms.jp/