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葉根菜のトウ立ちはなぜ起こる?

葉根菜のトウ立ちはなぜ起こる?葉根菜のトウ立ちはなぜ起こる?

春にダイコンやホウレンソウなどを栽培すると、収穫前にトウ立ちしてしまうことがあります(写真1、2)。
トウ立ちすると根が太らなくなったり、株が大きくならなかったりして、せっかく育てた野菜を利用できず、それまでの苦労が無駄になってしまいます。そこで今回は、葉根菜のトウ立ちが起きる原因とそれを防ぐための品種選びや栽培のポイントを詳しく解説します。

(写真1)トウ立ちしたダイコン。

(写真2)トウ立ちしたホウレンソウ。

そもそもトウ立ちって何?

植物は温度や日長など、ある一定の条件が揃うと、生長点(茎頂分裂組織)に花芽ができ(花芽分化)、その後、花芽が発育してトウ立ちし、開花へと進みます。この花芽分化が栄養生長から生殖生長への転換点となります。花芽分化を引き起こす要因は野菜の種類によってさまざまですが(表1)、花芽分化した後は高温・長日下でトウ立ちが進みます(図1)。
いったん生長点に花芽が形成されると、新たな葉ができなくなります。生育初期に花芽分化してトウ立ちすると、キャベツをはじめとする結球野菜はうまく丸まらなかったり、ダイコンのような根菜類では根が太らなくなるため、収穫前にトウ立ちさせないための品種選びや栽培管理が必要です。

図1 トウ立ちの条件

注)キャベツのような緑植物春化植物では、一定の大きさになって(成熟期)になってから低温感応するようになり、その前の幼若期には低温にさらされても花芽分化しない。

表1 野菜類の主な花芽分化要因

表1 野菜類の主な花芽分化要因

注)花芽分化要因を栄養とした中性植物で、成長が進み、体内の窒素と炭素の比率(C/N)比が高くなってくると、温度や日長に関係なく花芽分化する。

トウ立ちはどんなメカニズムで起きるの?

花芽分化には、温度と日長、体内チッソ濃度(栄養状態)、発育段階などが相互に関係しますが、野菜の多くは温度の影響を強く受けます。
レタス(写真3)のように高温で花芽分化する野菜もありますが、葉菜類や根菜類の多くは、ある程度の低温に一定期間おかれると花芽分化します。低温によって花芽ができることを春化(バーナリゼーション)といいます。

春化をする植物には二つのグループがある

春化が起こるタイミングの違いから、植物は二つのグループに分けられます。
一つは、タネが吸水し、芽が動き出した段階から低温に感応するもので、「種子春化型」といいます。ダイコンやハクサイなどがこのタイプで、タネをまく時から低温にあわせないことが重要です。
生育が進み、一定の大きさになってから低温に感応するものを「緑植物春化型」といいます。キャベツやタマネギなどが一例で、小さな株の状態で越冬させて、気温が高まる春に大きく育つことにより、トウ立ちを防ぐことができます。
春化に働く温度は15℃以下で、もっとも効果が高い温度帯は種子春化型が0〜5℃、緑植物春化型が5〜10℃とされます。

日中の高温は夜間の低温の影響を打ち消す

春化に及ぼす低温の影響は、高温によって打ち消され、この現象を「脱春化」といいます。脱春化は20℃以上で起きますが、効果的な温度は25〜30℃程度。高温時間が長いほどその効果は高くなります。
冬から春にタネをまくダイコン(写真4)やニンジン、ネギなどのトンネル栽培では、保温による夜間の低温の緩和と、昼間の温度上昇による脱春化を組みあわせてトウ立ちを防いでいます。

(写真3)トウ立ちしたレタス。高温・長日下で急速にトウ立ちが進む。

(写真3)トウ立ちしたレタス。高温・長日下で急速にトウ立ちが進む。

(写真4)「脱春化」作用を利用したダイコンのトンネル栽培。トンネルで日中の温度を上げ、トウ立ちを抑える。

(写真4)「脱春化」作用を利用したダイコンのトンネル栽培。トンネルで日中の温度を上げ、トウ立ちを抑える。

POINT日の長さも花芽分化に影響する

ホウレンソウのように日が長くなると花芽分化するものを「長日植物」、シソ(写真5)のように日が短くなると花芽分化するものを「短日植物」、トマトのように発育すると日長に関係なく花芽ができるものを「中性植物」といいます。春化には低温が長期間続くことが必要ですが、日長の影響は数日で現れます。

POINT日長は暗い時間で決まる

光の影響は明るい時間の長さではなく、連続した暗い状態の長さで決まり、夜間に途中で光を当てると暗黒期間が中断されます。この仕組みを利用し、白熱灯などを夜間に点灯して短日植物のシソ(写真5)のトウ立ちを抑える栽培法もあります。一方、夜間の街灯の光が影響してホウレンソウなどの長日植物がトウ立ちすることもあります。

(写真5)短日で花芽分化するシソ。

(写真5)短日で花芽分化するシソ。

トウ立ちさせないための工夫は?

晩抽性、春まき対応種子などの品種を選ぶ

花芽分化するのに必要な低温や高温の期間、日長には、同じ野菜でも品種によって差があります。花芽分化するのにより長い低温期間、長い日長を必要とする品種を「晩抽性品種」といいます。トウ立ちしやすい時期にタネをまく場合、晩抽性品種を使用することが必須です。

タネまき、定植時期を守り定植苗の大きさに注意する

種子春化型の野菜では、タネまき時期の温度(低温)に注意を払いましょう。タマネギなどの緑植物春化型野菜の秋まき栽培では、花芽分化が起きない小さな株の状態で越冬させられるように、適切な時期にタネまき(または定植)をすることが重要です。

トンネルなどの資材で保温しながら育てる

低温で花芽分化する野菜は、寒い時期にトンネルやベタかけをすれば、日中の高温が夜間の低温の影響を打ち消す(脱春化)ため、トウ立ちを防ぐことができます。

トウ立ちして花が咲く前に収穫する

春から夏にタネをまくニンジンやゴボウなどは、畑で越冬する間に花芽ができ、春になるとトウ立ちします。こうなると根にスが入ったり、スカスカになって食味が落ちるので、トウ立ちする前に収穫を終えるようにします(写真6)。

(写真6)3月下旬にトウ立ちした夏まきの越冬ニンジン。内部にスが入り、スカスカになるので、トウ立ち前に収穫する。

(写真6)3月下旬にトウ立ちした夏まきの越冬ニンジン。内部にスが入り、スカスカになるので、トウ立ち前に収穫する。

POINT肥料切れもトウ立ちの原因に

植物体内のチッソが減少する、すなわち肥切れ状態になると花芽分化しやすくなります。このため、秋まきタマネギでは花芽が分化するのを防止するため、1〜2月に追肥を行います。

意外なおいしさ! トウ立ち菜を収穫して食べよう

早春の香りを届けるナバナ(写真7)は、トウ立ちした茎葉と蕾を食べるもので、ほのかな苦さと甘みが食欲をそそります。夏から秋にタネをまいたハクサイ(写真8)やコマツナ、チンゲンサイなども、畑で越冬させると2〜3月にトウ立ちしてきます。これらの花茎も、ナバナと同じように食べることができます。ハクサイの場合、結球が開き、中から出てくる花茎はやわらかくて淡白な味で、ぜひ試していただきたいおいしさです。ネギ坊主(写真9)やニラのトウも油で炒めておいしく食べることができます。いずれも、蕾のうちに摘みとってください。

春から作るダイコン栽培春から作るダイコン栽培

タネまき時期と準備

関東以西の中間地で3月下旬ごろ(マルチとベタかけを併用する場合は3月上中旬)にタネまきします。タネまきの1〜2週間前に元肥として1m2当たり肥料成分としてチッソ、リン酸、カリを各10〜15g施用してよく耕し、土となじませておきます。幅70〜75cm、高さ10〜20cmの畝をつくり、株間25〜27cm、条間40〜45cm、2条タイプの穴あきマルチ(透明または黒色)を張ります。

タネまきと保温

深さ2cmのまき穴をつくり、1穴当たり5〜6粒のタネをまいて覆土します。ベタかけをする場合は、タネまき後に不織布をかぶせ、すそをピンなどで留めます。

間引き

本葉2〜3枚で生育のよい株を2本残して間引き、6〜7枚で1本に間引きます。

資材の除去

6〜7葉期を過ぎ、最低気温が5〜6℃を超えたらベタかけ資材を取り外します。

収穫

地上部の根の直径が7〜8cmになったら引き抜いて収穫します。

春から作るホウレンソウ栽培

春から作るホウレンソウ栽培タネまき時期と準備

温暖地では3月、寒冷地では4月から露地栽培が可能です。タネまきの1カ月前に1m2当たり苦土石灰を100g、堆肥を2kg施用して耕し、土となじませておきます。タネまきの1週間前に元肥として1m2当たり肥料成分でチッソ、リン酸、カリを各15g施用してよく耕します。畝幅70cm、高さ10〜20cm程度の畝をつくり、表面を平らにならします。

タネまき

条間15〜20cmで、幅2cm、深さ1〜1.5cm程度のまき溝をつくり、1〜2cm間隔でタネをまき、均一に覆土をした後、鎮圧し、たっぷり潅水します。

間引き

子葉が開いたら2〜3cmに間引き、2〜3葉期に株間7〜8cm(1m2当たり100〜120株を目安)に間引きます。

収穫

草丈が25cmほどになったら収穫できますが、35cm程度まで大きくすると甘みが増します。

川城 英夫(かわしろ ひでお)

川城 かわしろ 英夫 ひでお

千葉県農林総合研究センター育種研究所長などを経て現在、JA全農主席技術主管。農学博士。主な著書に「いまさらきけない野菜づくりQ&A」、「野菜づくり畑の教科書」(家の光協会)、「新野菜つくりの実際」(農文協)など多数。